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2-3.邂逅

 

「この国は、どこまで行っても地味な風景しかないわ。」


 キャスは、眠そうな目で車窓の景色を見ていた。

 茶と緑の緩やかな丘が交互に広がる、隆起のすくない平野。その中を、ロンドンから北へ向かう列車が走る。


「そお?私は好きだけどな。」


「この国には、色が三色しかないのよ。

 茶色と緑と、それから灰色。

 それが悪いって言ってるつもりはないの。

 マホガニーや新緑は素敵な色だもん。

 茶色や緑に非はないわ。

 ようは、濃淡と配色の問題。

 ニッポンはどう?かの国は美しいでしょ?」


 さっきとは打って変わって、青い瞳を輝かせながら楽しそうに私を見る。彼女の中で、未知の国ニッポンの印象はかなり好意的。確かに、私の父が生まれ育った国は、美の国と呼ばれているけれど。


「日本だって、田舎に行けば同じようなもんだよ。

 この景色と同じくらい地味だし。」


 私からすれば、波打つ大地が織りなす線は、織物のように美しい。いわゆる日本の風景は、奥行きがあっていいけれど、中途半端な高さの稜線のせいで閉鎖的な感じもする。

 どんな絶景も、毎日見ていればありがたみも感動も薄れてつまらなくなる。

 窓の外を眺めながら、そんなことを考えた。


「だとしても、こんな間延びしたつまらない景色じゃないと思う。

 決めた。」


 ガタンッ


「え?ちょっと、何する気?」


「私、行くわ。」


 キャスは言いながら、開くはずのない窓をこじ開けた。

 この列車の窓は嵌め殺しのはずだけど。なんで開く?


「じゃあね、ララ。」


 吹き込む風に長い髪をなびかせ、キャスはニコリと微笑んで窓枠に片足をかけた。


「じゃぁね、じゃないよ!何してるのっ?」


 その態勢はまさか、ここから飛び下りるつもり?

 動く列車から飛び下りたって、行けるのは確実にあの世だけ。


「大丈夫よ!またすぐに会える!」


 会えないよ!会えるわけがない!死んだら、もう会えないでしょっ!


「だめよ、キャスっ。」


 ドサッ


「ひゃっ。」


 何かが足の上に落ち、身体がビクリと震えて目が覚めた。


「夢…。」


 誰もいない車両に、列車が動く音だけが響いていた。

 私はほっとして、足元に落ちたかばんを拾い上げた。いつの間にか、眠ってしまったらしい。


 今朝から、立て続けにキャスの夢を見る。それも、消えるとか飛び降りるとか、私の前からどこかに行ってしまう夢ばかり。

 私たちはいずれ別々の人生を歩むことになる。それは理解していたけれど、いつもそばにいた友だちが思いがけない形で消えてしまうのは、想像していたよりもずっと寂しい。


 私はぼんやりと、今度こそ本物の車窓の外を見た。景色は、いつの間にか山から平野に変わっている。

 列車は、もうすぐウィッスルの街に到着する。その前に、リビエラのメモを確認しておこう。

 寂しさで落ち込みそうな気分を奮い起こし、かばんを開けた。

 そして束になったメモを一枚ずつ確認して、啞然とする。


(何これ…。全然読めないんですけど。)


 自称偉大な魔法使いオルランドの魔法が、解けてしまったのだと思った。

 近くにある車内の文字を探して、確認する。


(えーっと、『お得なウィッスル回数券及びゴアティエパス、絶賛販売中!』ちゃんと読めるわ。)


 魔法は解けてない。とすると、これはリビエラの悪筆。

 その走り書きはあまりにも雑で、手元のメモはどれも解読不能だった。店の所在は、辛うじて川の近くにあることが読み取れる。


(川沿いをずっと歩けってことかな?だいたい、どっちが北でどこが駅なのよ?)


 川がウィッスルの町全体を囲んでいるから、どこを起点に見ればいいのかさっぱりわからない。


 いい加減な返事をしてちゃんと確認しなかった私も悪いけれど、これには悶絶する。

 そうこうしているうちに、列車は大きな二本の河を従える街、ウィッスルに到着した。


 仕方なく、まずは駅構内の案内所へ向かう。

 当たり前だけど、この世界はスマホが使えない。リビエラが書いてくれたものが紙くず同然となった今、案内所で聞く事くらいしか思いつかなかった。

 慣れた様子の係員に、ウィッスルの概要を教えてもらう。この辺りでは一番大きな街なので、訪れる人も多いらしい。


 街の雰囲気はイーリーよりもずっと近代的で、石材で作られた背の高い建物が立ち並ぶ。

 大通りの道は広く、歩行者の路は白くてなめらかなタイル調の石が敷き詰められている。乗り物が通る道には、私たちの世界でいうトラムのようなものが走っていた。


 新しい街っていうのは、いつだってわくわくする。

 案内所で貰った地図を片手に、颯爽と足を踏み出したところでふと、灰色の空にゆっくりと旋回する黒い鳥を見つけた。

 なんだか、嫌な予感がする。黒い鳥に襲われる古いサスペンス映画を思い出して、身震いした。


「落ちましたよ、お嬢さん。大事なものだ。」


 声に振り向くと、キラキラと揺れるキーホルダーをつまんで立っている男性がいた。


「あ。ありがとうございます。」


 それは今朝、リビエラにカバンにつけておけと言われた物。


「どういたしまして。」


 会釈して立ち去る、抜群にスタイルの良いその人を視界にかすめながら、私はしばし悶々とした。

 大きなタータンチェック柄の薄茶のスーツ、頭には布製のカンカン帽。


(なんだろう…?)


 彼の印象に、妙な既視感が残る。


(思い出せない…。)


 私は諦めて、キーホルダーをカバンにつけた。

 それはアクアマリン色の細長いクリスタルの形をしていて、中に紋章が見える。


 出発前のリビエラは、色々なことを早口でまくし立てていたから、正直途中から情報量についていけなかった。

 肝心なところが抜け落ちていて「カバンにつけておけ」の部分しか記憶がリプレイできない。

 再び地図に目を落とす。

 ここから目的のチョコレート店までそう遠くない。…はずだった。


 ------------------------



「また同じところ…。」


 あれから二時間。同じようなところをぐるぐる巡っていた。

 最初は気のせいかと思ったけれど、いくらなんでもおかしい。


 もう五回ぐらい、三叉路の角にある派手なサンドイッチ屋を違う角度から見た。

 大通りに戻ってやり直した時は、道を渡ってもいないのに反対側に出たし、建物の角を曲がると同じ角に出る。歩いても歩いても、進んでいる感覚がない。


「どうなってるの…。」


 私は地図が読める。負け惜しみじゃない。

 地図を見て迷ったことはないし、キャスと出かける時だって、これは私の役目。

 地図ごときに、こんなに情けない気持ちにはなったことはなかった。


 どこで何がおかしくなったのか見当もつかない。いつもの調子で心が折れそうになるけれど、リアフェスに来て二日のうちに、私は自分がおかしくなったんじゃないかという弱気な考え方は、ここではするべきじゃないと学んだ。

 だから目の前で起きている現象を冷静に考えれば、私じゃなくこの街がおかしい。


 だがしかし、この状況をどう打破すればいいかわからなかった。

 ただでさえ性能の悪い頭なのに、酷使したせいでぼーっとする。

 そろそろ糖分を補給しないと、テンタシオンにたどり着く前に行き倒れてしまいそう。


(ん…。)


 ふと、目の前にあるカフェに目がとまる。


(なんだ、こんなところにカフェがあるんじゃない。)


 少し休憩しよう。温かくておいしい飲み物を飲んで休めば、元気になれる。

 リビエラがくれたウィスキーボンボンの代金を支払ったって、飲み物を飲むくらいの余剰はある。


 どこを焦点とするわけでもなくガラスの壁を見ていると、向こうにいる客と視線が合った。

 相手は私の生ぬるい視線に、当然のごとく少し驚いた顔をした。


 薄茶色のスーツに大柄のタータン。

 あの印象的な装いの男が、同じ街に二人もいるわけがない。(ウィッスル男子の間でそんな恰好が流行ってるなら別だけど)

 優雅に椅子に腰かけていたのは、キーホルダーを拾ってくれたあの人だった。


 一度ならず二度までも。いや、厳密には三度。

 案内所の前で、私は彼にすれ違いざまに肩をぶつけた。さっきの既視感は、あの時の記憶。

 相手も私に気づき、口を動かして身振りをしている。そして立ち上がると、店の入り口まで出てきた。


「やぁ。

 良かったら、一緒にお茶でもどう?」


 それは、思いがけない救いの一言だった。

 相手が何者なのか疑うよりも、迷宮地獄から救い出されたことにほっとした。


「驚いたな。

 さっきも会ったよね。」


 ハルよりいくつか年上な印象の彼は、私を席に案内するなり言った。

 ウィッスルは大きな街。ただ歩いているだけで同じ人に何度も会うなんて、偶然を通り越して奇跡に近い。


「僕はギル。君は?」


「ララ。

 さっきはありがとう。

 また助けてもらっちゃった。」


「助ける?いやいや、大げさだよ。」


 お茶に誘ったくらいで『助ける』は大袈裟だと思われるかもしれないけれど、私は内心、飛びついてキスの雨を降らせたいほど感謝していた。実際はそんなことできないけれど、キャスなら絶対にしてる。


「でも、すごく困ってたの。」


「確かに、ちょっと困り顔…だったかな。

 どうかしたの?」


 控えめに言ってくれているけれど、ガラス越しの私はどしゃ降りの雨に捨てられた子犬のように惨めだった。


「実は、道に迷っちゃって。

 かれこれ二時間ぐらい、行きたい店にたどり着けない。」


「二時間?一体どこに行きたいの?」


「テンタシオンっていうチョコレートの店。」


「あぁ、あの店。

 有名だよね。

 連れて行ってあげるよ。

 僕、ちょうど用事も済んで暇だから。」


 ギルは、隣の家に行くみたいにさっくり言った。


「え?ううん、大丈夫。

 次はちゃんと行ける!…はずだから。」


 連れて行って欲しいと言っているように聞こえたかな?私は恥ずかしくなった。


「また迷ったら、次は本当に泣いちゃうんじゃない?

 こういう時は、素直に甘えたほうがいいよ。」


 ギルのウィンクはいやらしさがなく、自然な仕草だった。これはかなりのモテ男かもしれない。

 確かに、あれ以上行き詰まったら号泣必死。キャスがもとに戻るまで泣かないと決めているのに、自分に課した誓いをさっそく破ってしまいそうな嫌な予感。


「ところでララ、君はスクレピアダイの学生だよね?」


「スクレピアダイ?なにそれ。」


「違うの?それ、スクレピアダイの校章でしょ?」


 ギルは、私のカバンについているアクアマリンのキーホルダーを指した。


「えっと、これは友だちの物。かばんに付けておけって言われて…。」


「なるほど。それの意味も知らずに、持ってたんだ?

 スクレピアダイっていうのは、ウィッスルにある医学学校だよ。

 それを付けていると、この街の公共施設や乗り物が全て無料になるんだ。

 フリーパスってやつだね。」


「そうなの?」


 それならケチって歩かずに、最初からトラムに乗れば良かった!こういう時、貧乏性があだになる。


「その色は何年生かな。

 スクレピアダイは六年制で、色で学年がわかるんだ。

 あの学校は一流だけど、厳しいことでも有名でね。

 留年はざらだって聞いたな。」


「へぇ。」


 リビエラが医学生。ウィッスルの学生だとは言っていたけれど、そっちの方が私には「へぇ」ポイントだわ。どうして医者の卵が、ウィザードの助手みたいなことをしているんだろう?勉強しているようにも見えないし、留年しまくって諦めたのかな…。


「由緒ある学校だよ。なんせ、あのディアンが創立者だからね。」


「ディアン?」


「ん?知らない?」


 私の反応に、ギルは少し意外な表情をした。


「医術の魔女ディアン。

 死さえも彼女から逃げると言われた、リアフェス史上最も有名な魔女の一人。」


「へぇ!」


 死が逃げるって凄い。私たちが決して逃れることができない、万人に等しく訪れる終焉。その死が自ら逃げていくなんて。比喩だとわかっていても、とてつもない魔女なんだってことがわかる。

 私の純粋な驚きに、ギルはクスリと笑った。


「君、面白いね。

 それじゃ、この街のもう一人の有名人、フィアルーは知ってる?」


「フィアルー?

 その人もウィザードなの?」


「当時はウィザードという職業がなかったから、厳密には違うかな。

 フィアルーは、智略の魔女。

 ディアンよりも古い時代の人だけど、彼女がいなかったらこのリアフェスは消滅していただろうとまで言われている。ねぇ、ララ。」


「なに?」


「君は、どこから来たの?」


 ギルの柔らかい瞳の奥が、一瞬鈍く光った。


「この二人は、有名だからさ。」


 彼は遠回しに、私をこの辺りの人間じゃないと言っていた。この問いがどのくらい重みのあることなのか、わかっているつもり。


 私は、日本人の父と英国人の母を持つ。日本にいる時は英国人、英国にいる時は日本人。私は常に、どちらにも属せない社会の狭間に置かれる。どちらにも属せない人間は、どちらからも受け入れてもらえない。別の社会ではなく、別の世界から来たなんてぶっ飛んだことを言ったら、どんな扱いをされるかわかったもんじゃない。物珍しさにちやほやされるのは、最初だけなんだから。


「ここからずっと離れたところにある島…かな。」


 取り敢えず、嘘はついていない。ここ、大事。


「シマ?聞いたことがない名前だな。リアフェスのどの国にあるの?」


「ど、どの国?」


(リアフェスって国の名前じゃないの??)


 もう少し、リアフェスの情報を聞いてから来ればよかった。頭の中がぐるぐる回って、言葉に詰まる。唯一私が知っている場所といえば、クレアモント卿の屋敷があるところぐらい。この際、島ではなくシマっていう町の名前にしてしまおう。


「く、クレアモント領の端っこ。」


「クレアモント?それは国じゃないけど、聞き覚えあるな。

 そうだ、せっかくだから、チョコレートついでにウィッスルを案内するよ。」


 彼のもえぎ色の髪が、さらりと揺れた。有無を言わせない、それでいて余裕のある爽やかな微笑みは、免疫のない私には眩しすぎる。リビエラといいギルといい、リアフェスの男の人は優しい。

 ハルは…きっとすごく特殊だ。


 ------------------------


 ギルの案内で、私は無事にグリンザムへの貢ぎ物を買うことができた。

 ご指名のウィスキーボンボン五箱に、皆へのお土産を一箱。

 お土産を買うなんていかにも気が利いている感じだけれど、本当は私が食べたいだけ。

 切株にくっついていたザムのお尻が跳ねるくらい美味しいチョコなら、一度賞味してみたい。

 リビエラの悪筆のせいで回りくどいことになっちゃったんだから、このくらいバチは当たらないと思う。

 と強気だったものの、実は今、少し後悔している。


「重い…。」


 チョコレート六箱がこんなに重いなんて。これを持って観光なんてすでに気が萎える。


「ははっ。本当に重そうだ。

 ちょっと、貸してごらん。」


 ギルは私から勝手に荷物を取り上げると、被っていた帽子の中にヒョイと入れた。


「わぉ。」


「帰るまで、僕の帽子の中で預かるよ。」


「ありがとう!」


 ギルの帽子は、四次元のポケットならぬ四次元帽子だった。この中に色んなものを入れていて、いつでもどこでも取り出せるのだという。身軽でうらやましい。


「それにしても。」


「なに?ララ。」


「どうしてアリ地獄みたいな迷い方したんだろう?ちゃんと地図を見てたのに。」


 私は本当に不思議だった。もちろん、今でも私が悪いなんてこれっぽっちも思ってない。


「どの地図を見てたの?」


「これ。駅の案内所で貰ったやつ。」


「どれどれ…。ん?だってこれ、ララ。」


 ギルは私が見せた地図を覗き込んだ。一瞬、何かを思い出したような顔をする。


「なに?」


「ん?あ、ああ。

 これはね、目的地と呪文を唱えなきゃならないやつだよ。

 ほら、ここに注意書きがある。」


「呪文?」


 なんと、私が駅でもらった地図は、呪文を唱えて目的地を示すと誘導してくれる、アプリのような地図だった。


「唱え間違えると、トンでも地図になっちゃうからね。

 目的地には、永遠にたどり着けない。」


「間違えるどころか、呪文唱えるなんて知らなかった…。」


 まったく、ただの地図にそのような使途不明の機能が必要なんだろうか。

 リビエラも言っていたけれど、リアフェスでは初等教育で魔法の基礎を学ぶ。

 呪文が全く使えないというのは無教養に等しいのだと、ギルと話しているうちに理解した。


「そうは言っても、簡単な魔法ならすぐに覚えられるはずさ。

 エトラじゃないんだから。」


「エトラ?それって異界の…?」


 避けていた言葉が、ギルの口から出るとは思わなかった。


「そう、異界から迷い込んでくる生物の総称。

 ウィザードにとっては貴重な材料としてしか語られないけどね。」


「材料?」


 エトラが材料になる?自称偉大な魔法使いオルランドは『客人』だと言っていたけれど。


「単純にコレクションにしたがる人もいるけれど、内臓や毛、角、皮…それから眼球とか、身体の一部を術の材料に使うんだ。」


「えぇっ??」


「彼らは特殊な能力を持っているといわれていて、その力をいただくんだよ。」


「と、特殊な能力って?」


 私の心臓は、急にドクドクと心拍数を上げた。今日は、心臓がいくつあっても足りない。


「うーん、僕もよく知らないけど、エトラによって違う。

 異界から渡って来るって、それだけで普通じゃないでしょ。

 他者が知り得ない術を得ることは、ウィザードの価値を高める。

 だから皆欲しがるんだよ。」


「そうだよね…。

 異界から来るなんて、普通じゃない。」


 エトラは魔術の材料。顔から血の気が引いた。同時に、ハルのことが頭をよぎる。

 彼はウィザード。

 ハルは、私がエトラだと知っているだろうか。自称偉大な魔法使いオルランドから何か聞いていても不思議ではないけれど…。


「あ、怖がらせちゃったかな?」


 つい考え込む私に、ギルは少し申し訳なさそうだ。


「そりゃ、内臓とか身体の一部とか言われるとちょっとグロテスクで…。」


 本当は別の理由だけれど。


「そうだよね、ごめんごめん。

 エトラを神聖なものと捉える地域もあるから、今言った取引はあくまで裏の世界の話だよ。」


 裏の世界?

 そういえば、今朝ハルとリビエラは早々に出かけた。あれが、私を売りさばく商談だったらどうしよう。リビエラはともかく、ハルは何を考えているかわからないところがある。


「普通の生活をしている僕たちには、関係ない話なんだ。

 だから、怖がらないで。

 さあさあ、ララ、次は旧市街に行くよ。

 あまり遠くないから、散歩がてら歩こう。」


 ギルは明るい声で励ましてくれたけれど、私の心には小さな引っ掛かりが残ったままだった。


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