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10-4.記憶

 

 マリエラ…マリエラ…。求める先のどこにも、その人はいなかった。

 私は嵐と感情の渦に翻弄された。


 リビエラは、まるで壊れた機械仕掛けのように徘徊する。受け止める人のいない言葉を繰り返しては、過ぎ去った過去を呼び戻そうとしているかのように。


「僕はここにいる」と。


 雷鳴が轟くたびに、慟哭は雨にのまれる。哀痛の叫びは、否応なく私の心を揺さぶる。この世界は、リビエラの狂気を弄んでいる。そうとしか思えない。

 だけどなんで?早く、終わらせなきゃ…。


「止まって、リビエラ、お願い!」


 私は走りながら言った。だけどあの虚ろな瞳に、この声はきっと届いてはいない。

 佇まいその全てが美しかった背中に彼女の姿はもうかけらもなくて、映るのは悲しみの淵を歩く少女のような危うさ。

 深淵に引きずり込もうとする黒い影がちらついて、私の不安を駆り立てる。


(お願いっ!)


「止まっ…てっ、よっ!」


 どんっ


 地面にたたきつける音と、水が跳ねる音と、うめき声が同時に起こった。

 私は、ありったけの力で彼女にタックルした。力ずくだけど、こうでもしなきゃ止められない。


「ったた、ごめん、リ…。」


 リビエラから、嗚咽が聞こえた。


「どこにいるの、マリエラ…どうして僕は…どうして…。」


 リビエラが、泣いている。

 うずくまる体が、雛のように震えていた。


 明朗闊達、私を照らす太陽。大胆不敵な博愛主義者。それが、私が知っているリビエラ。彼女を別人のように変えてしまった幻の人マリエラは何者?

 私は震えるリビエラの背にそっと手を添えた。指先に悲しみの振動が伝わって、切ない。


「もぅやだ…なんでこんなに悲しいの…?」


 私は弱音を吐いた。

 どうすれば、悲嘆にくれる友達の笑顔を取り戻せる?

 どうすれば、マリエラを見つけられる?

 私は何もできず、リビエラの側に座り込んだ。



 ---------



 小振りになった雨音に、シュワシュワと雑音の紛れる気配がする。


 シュワシュワ…


「マリエラ…?」


 リビエラが顔を上げる。この不快な音に、反応しているみたいだ。


 シュワシュワ…シュワシュワ…


「…僕はここに…。」


 私は彼女の視線の先に、揺れる影柱を見た。小さな黒い点々が寄り集まって、何かを形成している。


「何あれ…?」


 禍々しさは全開。私の中の何かが、「近づいちゃいけない」と警告した。ううん、きっと誰が見てもそう感じるに違いなかった。


(嫌な音…。)


「木から降りたよ、あんなバカげたことはもうしない、だから…出てきて。」


 リビエラが、よくわからない独り言を呟いた。その声に呼応するように、小さな羽虫のような集合体は濃くなり、音量が増していく。

 私は不快さに耐えかねて顔を歪めた。


『私は…マリエラ…ここに…私を探している…のね。』


 雑音が言葉になった瞬間、身構えた。この口に砂利を含んだようなざらざらとした悪声は、魔性のものだ。


「ああ、良かった。

 そんなところにいたの…無事で、よかった。」


「あれに話してる?リビエラ?」


「そうだよ、もっと早く降りるべきだったんだ…待ってて、そこにいて、すぐ行くから。」


 リビエラは立ち上がりながら、嬉しそうに言った。


「だめよ、リビエラ!行っちゃダメ!あれは…!」


 私はゾッとして彼女のシャツをつかんだ。


『リビエラ…おいで、こちらに…のリビエラ…。』


「うん…らしくないな、こんなところで転んじゃったんだ。

 でも平気さ。」


 ぬれたリビエラの表情が神々しく輝いたとたん、黒く揺らめく柱は美しい女性の姿に変わった。


 リビエラがもう一人現れた!と私は思った。

 長い髪は青に近い翡翠色、微笑む優しい瞳は琥珀色に煌めいて、鏡を見ているかのように瓜二つだった。

 私はぼうっと見とれて、その美しい人から目が離せなくなってしまった。再びあの耳障りな声を聞くまでは。


『おいで、リビエラ…。』


 耳にざらつく不快な声。聞こえるのは人間の言葉だけれど、発しているソレは人間の形をした人間以外のなにかだった。

 よく見れば色白で華奢な体つきは、リビエラより一回りは小さい。それに、彼女よりもずっと柔らかく控えめな印象がある。もしかして、あれがマリエラの姿?


「あぁマリエラ、雷が轟いてる。

 そこにいちゃ危険なんだ。」


 リビエラが私の手を振りほどき、腕を伸ばした時だった。


 バキバキバキッ


 さっきから何度も聞こえていた木の折れるような音がした。すると稲光が一直線に走り、閃光を放ってマリエラを引き裂いた。


 一瞬にして時が止まり、一瞬にして数百年も過ぎたような衝撃が走り、その間全ての音が聞こえなくなった。

 リビエラは乾ききったクレイみたいに両膝から崩れ落ちて、地面に突っ伏して動かなくなった。


「リ、リビエラ?!」


 我に返った私は、リビエラを揺り起こした。

 すると彼女は動き始め、呪いの言葉を吐きながら這いつくばってマリエラ―それらは散り散りになった黒い霧のような影で、また一つになろうと寄り集まっている―に近づこうとした。


「やめて、リビエラ!あれはマリエラじゃない!取り込まれちゃう!」


 私は彼女を地面から引き離そうと、首にしがみついた。

 あの柱は、サウィーンの夜に徘徊していたアレと同じだ。刻の水底で私を襲ってきたアレと同じ。捕まれば、彼らの世界に引きずり込まれてしまう。


「ちがう…ちがう…。」


 泥の大地に指を食い込ませながら、リビエラが唸った。

 私が冷静になるほど、彼女の狂気は増していく。


「これは悪い夢よ、目を覚まして、リビエラ!」


『リビエラ…おいで…こちらに…。』


 二つに割れたマリエラは、再びその姿を構築した。


「あっちに行って!あなたはマリエラじゃない!リビエラを呼ばないで!」


 私はズルズルとリビエラに引きずられながら、マリエラに向かって必死に叫んだ。


『おいで…。』


「ダメ!」


「マリエラ、姉さん…。」


「姉さんっ?!あれがお姉さん??」


 私の声には耳も貸さないリビエラが、魔性のささやきに反応する。なんであのおぞましい声が姉さんの声なのか、いったい何が彼女を惑わせているのか、何をどう断ち切ればいいのかわからない。


「っなわけないでしょうっ!いいかげんに、目を覚ましなさいよっ!!」


 私はリビエラの前に回り込み、立ち上がろうとする彼女の襟を掴んだ。穏やかに揺れるマリエラはもうすぐそこにいて、手を伸ばせば触れてしまう。

 私が琥珀色の目を真正面から睨みつけると、リビエラが言った。


「どけよ、ヘカテ。

 僕の邪魔をするな。」


「私は、ヘカテじゃ、ないっ。」


 ぱぁんっ


 私は、持っていたサンダルでリビエラの頬をひっぱたいた。募っていた苛立ちが、耐え切れずここで爆発した。


「私はララよ!あんたの友達のララ!なんで忘れちゃったの?無視しないでよ、悲しいじゃない!なんで私のことだけわからないのっ?」


 私は息を荒らげ、リビエラは顔をそむけたまま反論しなかった。

 口の中を切ったのか、彼女は小さく血の混ざった唾を吐き出した。


「…。」


 私は、手元のサンダルにリビエラの視線を感じた。


「あっ、これは…途中で拾って、なぜかそのまま持ってて…その、ごめん、痛かったよね、えっと…。」


 冷静を取り戻した途端、この上もなく気まずくなった。「痛いよね」なんて愚問でしかない。こんなものでひっぱたいたら、痛いに決まってるのに。私は、どんな仕返しをされても仕方がないと覚悟した。


「僕のだ。」


 怒りを含んだ、冷たい声だった。


「?えっと、子供サイズだけど…。」


「僕のサンダル…なぜ君が持ってるの?」


「なぜって、だから途中で拾って…。」


「どこで。」


「そ、そこの坂道。」


「だれ…?」


「え、私?」


「君は誰。」


 彼女はゆっくりと顔を上げ、私は逃げるように視線をそらした。


「君は…。」


「わ、私は、あの…。」


「…ララ?」


 リビエラがポツリと言った。

 私は顔をあげた。その時、一体どんな顔をしていたのか。ただ、私の目に映るリビエラが私を見ていたことが嬉しくて、涙がこぼれそうになった。


「う…ララだよぅ。」


 雨がやんでいた。

 リビエラは「そうか…。」と短く答えると、黙って私を腕の中に包み込んだ。


「帰ろう、リビエラ…ハルのところに。」


「そうだね…。」


『おいで…リビエラ…。』


 私の背後で、微笑む美しい人マリエラが言った。


「だめっ!だめよ、リビエラ!あの人の声を聞いちゃダメ!」


 私はあわててリビエラの耳を塞いだ。でも、遅かった。


「マリエラ…。」


 リビエラの視線は、またマリエラにくぎ付けになってしまった。


『リビエラ…優しい…子…おいで…。』


「行かないでリビエラ、お願い!これは嘘の世界、私たちは悪い夢の世界にいるだけなんだよ!」


 私はリビエラにしがみつき、彼女は両手で私に触れた。


「…ごめんね。」


 私は驚いてリビエラを見た。


『おいで…リビエラ。』


「…ごめんね、マリエラ。

 ずっと謝りたかった…。」


『ゆる…さない…。』


 冷酷な言葉を返すマリエラの表情は、雲間に射す陽光のように穏やかで、温かい。


「大嫌いだなんて言って、ごめん…。」


 私の頬に、雫が一つ落ちた。


(雨?)


 それは、琥珀色の瞳からあふれる涙だった。


「姉さんの人生を…奪ってごめん…。

 ごめんなさい…マリエラ…。」


『ゆるさない…ゆるさない…おいで…リビエラ…。』


「ずっと…それだけを…。」


『ゆる…さない…おいで…。』


「嫌いになったことなんか、一度もないんだ。

 大好きなんだよ、マリエラ…。」


『ゆるさない…ゆる…さないリヴ…だい。』


 ヒュンっ バシッ


 銀色の細長い棒がマリエラを貫いた。それは灰色の空から降ってきて、一瞬で彼女を黒い霧に変えた。


「ハルっ!!」


 見覚えがある、あの銀色はハルのものだ。


「わわっ!」


 私は悲鳴を上げてよろめいた。見るとリビエラが意識をもうろうとさせながら、私に身体を預けている。


「ああ、良かった、ララ…。

 君は、無事だね。」


「ぶっ、無事だけど…重っ、そのセリフ、そっくりそのまま返してもいい?

 しっかり、リビエラ!…え、ええっ?」


 地面がぐらりと揺れて、周囲の景色がぼやけ始めた。私はリビエラを抱えるようにして抱き留めていたのだけれど、片方の手首に、まるで誰かに握られているような熱を感じた。


「わっ、ちょっ、待って待って!」


 足元から地面が消え、全てが瓦解するようにボロボロと落ちていく。頭上から岩や枝が落ちてきて、私は「危ない!」と叫びながら意識を失った。



 ---------



 目を開けると、あたりは騒然としていた。甲高い声を上げる生物が周囲を飛び回り、ハルがそれらと戦っているのが見えた。そして岩の斜面に伏していた私は、かろうじて繋がれた一本の腕によって落下を免れていた。お互いの手首をしっかりと握り、そこを補強するように木の根が絡みついている。私を繋ぎとめていた傷だらけの腕は、気を失ったリビエラのものだった。


「リビエラ!ハル!」


 私は恐ろしくなって叫んだ。声を上げると身体が揺れて、腕が軋む。


「いったたた。

 なにこれ、今度は何が起きてるの!」


「目を覚ましたか!待っていろ、もうすぐ助ける!」


 ハルが叫んだ。彼はリビエラに群がろうとする敵を一掃すると、岩の上から私を振り向いた。岩をからめとっている大木は幹の半分が破壊されていて、残っている枝がさらに集まろうとする敵を撃退していた。

 灰色の空から聞こえていた木の折れる音は、あの大木だったんだと、私は理解した。

 私たちがいたはずの浮島の名残は、ほとんどない。


「その変な生き物は何?!」


「狂暴化した春風だ!ベールをかぶれ!近づけるなよ!」


「うそでしょ?!」


「冗談を言っている状況だと思うか?早くベールを被るんだ!今度はお前自身の記憶に引き込まれるぞ!」


「私の記憶?!冗談じゃない!あんなのはもうこりごりよ!!」


 キュイーキュルキュル!


 私の気配に気づいた春風が突っ込んでくる。


(ひゃぁぁっ!!)


 素早くベールを纏った私は、間一髪のところで免れた。


(本当にこれが、あの春風??)


 その変貌ぶりに、私は驚愕した。ベール越しに見える鋭い眼は爬虫類のようにぎらついていて、私に触れようとした骨ばった指には、水かきの膜が付いていた。春風は悔しそうに牙をむいて威嚇すると、ハルの方に向かって飛んだ。


「ハル、腕に絡めた根っこを外してくれない?これじゃ逃げられないよ!」


「だめだ、今は外せばお前たちが同時に落ちてしまう。

 この状況では二人を一度に助けることはできない!」


「危ないっ、ハル!」


「散れ、雑魚が!」


 ハルは下から上ってくる二人を銀色の剣でなぎ倒し、右から襲ってくる三人を吹き飛ばした。そして別の方向からリビエラに近づこうとする春風を、飛ばした大木の枝で射貫いた。彼は全方向から飛んでくる烏合の春風と対峙しながら、私とリビエラを守り続けていた。


「この浮島は沈みつつある、もう少しでバランスが崩れるはずだ!」


「それで、どうするの!?」


「オレが合図したら、お前は宙に跳ね上がる。

 そうしたら箒を出して森へ逃げろ。

 こいつらは森に入れない!」


「わかった!」


「いいか、絶対に流れに逆らうな!身を任せるんだ!」


「わかった!!」


「絶対だぞ!!」


 ハルは何度も念押しすると、私を厳しく睨んだ。よっぽど私を信じていないのだ。


「大丈夫よ!敵に集中して!!」


「ちっ!」


 浮島に大きな衝撃が走って、一部が崩れ落ちた。ハルの言う通り、島が揺れながら沈下する。すると今度は大木の一部がバキバキと音を立てた。弾けた枝と幹の一部が勢いよく飛んで、春風を狙い撃ちする。

 ハルの凄まじい魔力が、この浮島を破壊しているみたいだった。


 ぐらり…


 大木が大きく傾いて、下にある岩が押し上げられるよう浮いた。


「わ、わ、わ!!」


 動揺した私は、もう一つの腕で岩にしがみついた。バランスが崩れるって、こういうこと?

 まるでテコの原理で振り上げられるように、少しずつ勢いがついて、木と岩が逆転していく。私は自分の身体が大きくねじれるのを感じた。


「わ、わ、わ!!」


「飛べ、ララ!」


 腕を縛っていた木の根が外れ、私は高く大きく宙に投げ出された。


「だめ、リビエラの手が!」


 私たち三人は、一塊になって飛んでいた。箒を出して飛ぼうにも、私の手首を固く握っていたリビエラの手が石膏のようにくっついて離れない。


「引きはがせ!」


 私たちは死んだようにうなだれた彼女の指を一本ずつ、夢中ではぎ取った。

 下からは、春風が甲高い声を上げて追ってくる。放り上げられた私たちの勢いはやがて減速し、下降し始めた。


「外れた!」


「箒!森へ飛べ!」


「うん!」


 ハルはリビエラを抱えると、すぐさま箒に乗って急上昇した。そして私は、


「きゃっ!」


 箒を取り出したものの、突き上げてくる春風に体当たりされ、箒もろとも吹き飛んでしまった。


「ララ!」


 叫ぶハルの声が聞こえた。


(ほ、箒!!)


 仰向けになっていた私が手を伸ばすと、春風に弾かれた箒は急旋回して私のもとへ飛んできた。


 キュイーキュルキュル!


 春風が襲ってくる。私は落下しながら、勢いのついた箒をそのまま体当たりさせて春風を薙ぎ払った。


「掴まれ!」


 ハルが叫ぶと同時に、逆さになって浮いていた木の根が、勢い良く伸びてきた。下降する私を追いかけて一直線に伸びてくる。私はそれに向かって大きく手を伸ばした。

 とその時、視界に一つの花輪が飛び込んできた。


(ああ、そうだった!一番肝心なもの!!まだこれを手に入れていない!!)


 私は大きく伸ばした手を傾けた。


 人生は選択の連続である。そう言ったのは誰だったっけ?

 優劣をつけねばならぬ時がある。そう言い切った氷の女王の顔が、走馬灯のようにちらついた。


(これは優劣じゃない、当然の一択。)


 私の選択は、揺るがなかった。


「よせ、ララ!」


 ほんの一瞬見上げたハルの瞳が、バイオレットではなく紅蓮に光ったように見えた。

 誰に止められようが、この機会を逃すわけにはいかない。

 私は方向転換すると、花輪に突き進んだ。その横を、伸びる根が勢いよく過ぎる。私は掴み取った花輪を握ったまま、まるでフリーダイビングのように滝に向かって落下した。

 迎え撃つ青い水面が、真下に見える。その水底にぐらりと大きな黒い影が浮かび上がった。


(何かいる!)


 恐怖に襲われたけれど、私はもう、この降下の勢いに身を任せるしかなかった。


(箒!早く!)


 大きくさざ波が立ち、長いひげを貯えた怪魚が唸り声をあげて現れた。それは南の国ウルスターのヌシよりも何倍も大きく、飛び跳ねてぱっくりと開いたがま口は、ヌシを一口で平らげてしまいそうなほど巨大だった。


(食べられる!)


 覚悟して真っ黒な胃袋に吸い込まれそうになったその時、私の視界を黒い何かがかっさらった。


 どんっ


「げほっっ。」


 落下の衝撃で、私は胸を強く打った。


「なんっ…苦し…。」


 私は寝返りを打った。もうろうとする意識の中、そこはふかふかの毛におおわれて温かい。

 霞の空が見え、旋回しながら上昇する。


 キュイーキュルキュル!


 春風の声が聞こえる。私が青い焔に包まれると、甲高い奇声は遠のいていった。


「あおい…ほむら…。

 あなたなの…?まさかね…。」



 ---------


 ドサッ


 私は草の上に下ろされた。

 温かい鼻先が私を転がし、仰向けになる。

 ぼんやりとした意識のまま、私は何も言わないその鼻先を優しく撫でた。


 ”ありがとう…。”


 私が心の中で彼に話しかけると、燃える練炭のような二つの眼が私を見たような気がした。


「ちょっと、休憩…うん…。」


 彼に触れていた私の手は、力なく地面に投げ出された。

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