第89話 最果ての剣の様子
ギルド対抗イベントの一日目が終了し、運営から順位とポイント、そして明日の各ギルドホームの配置が発表された。
白亜の城のミーティングルームでは、現在2位の【最果ての剣】の幹部たちによる会議が行われていた。
13個の椅子がある円卓には、6人。ギルドマスターのギルティアとランキング王者ロランド、そして残る4名が腰掛けている。
最果ての剣はギルティアをトップとした13人からなる【ロイヤルナンバーズ】を幹部としてギルドを運営している。現在円卓に座る人数は6人。半分も集まっていないことになるが、これでもギルド対抗イベントということで、参加率は良い方なのだ。
そして、黄金の鎧を纏ったギルドマスター・ギルティアの横には中学生くらいのプレイヤー5人が集まっている。ロランドやオウガと同じミスティックシリーズを装備した少女たち。
彼女らはギルティアの指示で、初日開始と同時にアイテムで自害。観戦エリアに移動し、めぼしいギルドやプレイヤーたちの戦いを監視していたのだ。
そして、その結果と情報をまとめ、ギルティアに報告を終えたところである。
「ありがとう助かったわ。ゴメンね? 退屈な役回りを押しつけちゃって」
「い、いえとんでもないです!」
「ギルドの為ですから」
「そう言って貰えるとありがたいわ。約束通り、明日は兄のロランドと一緒に防衛に回って頂戴」
ギルティアの言葉を聞いた少女たちは「やった!」と小さくガッツポーズした。どうやらロランドのファンのようである。そして、何度もお辞儀をしながら退出した。
「警戒していた【セカンドステージ】の化けの皮が剥がれましたね」
「ああ。あれはユニーク装備を手に入れただけの素人だ」
提出された映像を見て、ロイヤルナンバーズの面々が呟く。それに関しては、ギルティアも同意見だった。
最低レベル50、そしてロイヤルナンバーズが行う実技試験を突破しなければ所属できない最果ての剣のメンバーのプレイヤースキルはかなり高い。初見ならまだしも、ユニークスキルのネタバレがされた今では、負ける方が難しいだろうとギルティアは考える。
「どうしますかギルマス。セカンドステージのギルドホームはすぐ近くに配置されましたが?」
「開始から速攻を仕掛けて潰すわ。60人全員殺すわよ」
「流石です。で、攻め入るメンバーは?」
「まずリーダーのアタシ! 後はガルドモールくんとグレイスくんとで三人。これで十分でしょ」
「あの、私もそろそろ外に出たいのですが」
今日一日、城の奥で待ち構えていたロランドが寂しそうな顔で手を上げた。整った容姿に憂いを帯びた表情。普通の女子ならば思わずなんでも言うことを聞いてあげてしまいそうな破壊力だった。
だが妹故か、その言葉を切り捨てるギルティア。
「ダメよ。兄貴はさっきの女の子たちとお留守番」
「くっ……流石に留守番は飽きました」
ロランドは顔をしかめた。何せ、今日は一戦も行っていないのだから。ロランドが配置されていたのはギルドクリスタルの前。つまり城の最上階。フィールド的には一番奥である。
だが当然ギルドホームを守っているのはロランドだけではない。今日、白亜の城に侵入してきたプレイヤーは全員、庭の守りを担当する【クリスター】というプレイヤーによって殺された。なので、誰一人ロランドの元へたどり着いたプレイヤーが居なかったのだ。
「クリスターさん。もっと私を信頼して、敢えて守りを抜かせても良いのですよ?」
「ご心配なくロランドさん。明日も一人も通しません」
クリスターはにっこりと笑う。
「ほらギルマス。見てくださいこのクリスターさんの自信に満ちた顔を! 彼女なら安心だ。決して侵入者を通すことは無いでしょう。だから私も外へ!」
妹に詰め寄るロランド。そんなロランドに、ギルティアは最後の手段を講ずる。上目遣いと涙目のコンボ攻撃を仕掛けたのだ。
「お願い……お兄ちゃん」
「お兄ちゃん頑張る!!」
ロランドは妹には甘かった。
そんな兄妹のいつものやり取りを皆が微笑ましく見守っていると、ミーティングルームの扉が大きな音を立てて開かれた。全員の視線がそちらに向かう。
「アンタは……」
ギルティアが入ってきた人物を睨む。
入ってきたのは、長身の金髪の男だった。まるで貴族のような白いスーツを着こなしたその男はずいずいと円卓に近づくと、ロランドの隣の席に腰掛けた。
「久しぶりだなロランド」
「カイ!」
カイの登場に、ロランドの顔が綻んだ。
カイはランキング2位のプレイヤーで、ロランドのライバルである。
通称【ドラゴン使いのカイ】。
だが4月頃から本格化してきた就職活動に専念するため、一時的にログインを控えていたのだ。
「ログインしたということは、就職先が決まったということですか」
「おめでとう!」
「おめでとうございます」
と、他のメンバーから祝いの言葉が送られる。だが。
「いや、別に決まっていない!」
「え」
「え?」
「もう六月だよね……結構ヤバいんじゃ?」
「ゲームしてる場合と違うのでは?」
「ゲームより将来の方が大事だよ」
「ふん。私に合った仕事がない以上、仕方があるまい。それに仕事とは妥協して選ぶものでもないだろう? ま、気長にやるさ。それに少々鬱憤が溜まっているのでな」
そしてカイは、ギルドマスターのギルティアへ目線を送る。
「妹。セカンドステージの殲滅戦、私も参加するぞ」
「妹じゃなくてギルマス。はぁ……アンタが来ても過剰戦力よ。鬱憤晴らしならソロでアスカシティにでも行ってポイント稼いでて頂戴」
「はっ。噂で聞いたが、セカンドステージというのはエンジョイ勢をPKしてそれを配信しているそうじゃないか。しかもそんな動画が小学生の間では結構流行しているとか」
「まぁ……ルール違反じゃないけど。確かに気持ちのいいもんじゃないわね」
「ああよくない。よくないぞそれは。そいつらはこのゲームの楽しみ方を間違えている。だから私が教えてやろうというのだ。このゲームの本当の面白さをな」
「……(ああ、やっぱコイツ苦手だわ)」
と心の中で呟くギルティア。「このゲームの面白さを教えてやる」と口では言っているものの、その口元は猟奇的に歪んでいる。
就活のストレス解消か、それとも非道な行いが勘に障ったのか。或いは両方か。
ともかくこんな状態のカイと戦わなくてはならなくなったセカンドステージの小学生たちに同情しつつ、ギルティアは深くため息をついたのだった。