第82話 その強さはクワガイガーの1000%
「はあああああああ!!」
「うおおおおおおお!!」
【永遠の夏休み】のギルドホーム世界樹の最深部へたどり着いたゼッカは、【キング】を託されたプレイヤーと戦闘をしていた。
キングを持つプレイヤーはギルドホーム内においてのみ、全ステータスが5倍になる。そして敵は槍使いという、機動力に優れた職業。
壁や天井すら足場とし、縦横無尽に三次元的な攻撃を仕掛けてくる。一発でも当たれば致命傷。
今までのゼッカならば苦戦していた相手だろう。だが。
ここ数日、オウガと共に最強プレイヤーの元で特訓したゼッカは、新しいスキルをいくつも習得していた。
その内のひとつを発動する。
「――ソードディメンジョン!!」
ゼッカの周囲に6本の剣が浮かぶ。それはストレージに埋もれていた、使わない片手剣。それらは隊列を組み、くるくるとゼッカを守るように浮かびながら、指示を待っている。
「――敵を攻撃」
ゼッカの指示で、6本の剣の切っ先が敵の槍使いを向く。そして、それぞれがバラバラに動いて、槍使いに突撃する。
この剣の操作はAIが行っているので、実は決められたパターンがある。しかし、それを初見で見破るのは不可能だろう。
相手が剣の攻撃に慣れないよう、ゼッカ自身も攻撃に加わる。そして。
こっそりと。相手に気付かれないように、召喚した剣の1本のみを、手動操作に切り替える。
(6本全部はムリでも、一本だけなら手動で操作できるんですよ)
そして、自分と5本の剣で敵を引き付けながら……。
「しまった、お前の狙いはそっちか!!」
敵の槍使いがゼッカの狙いに気が付く。だがもう遅い。剣は敵のギルドクリスタルを貫き、破壊した。これにより、殺し合い祭りでの【永遠の夏休み】のポイントは永続的に半分となる。
「くそ……やってくれたな……ここから生きては帰さんぞ」
「さて。どうしましょうかねぇ」
ここで苦労してこの相手を倒したところで1ポイントしか入らない。ゼッカがどうやって目の前の敵から逃げだそうか考えていると、1件のメッセージが届いた。
(メッセ……ヨハンさんかな? 確認は……今は無理そうね)
血走った目で槍を振るう目の前の敵を見ながら、ゼッカは軽く舌打ちするのだった。
***
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あれから一時間後。
約束通り、全ての侵入者達を始末したヨハンはモスらーと共に、繭が羽化するのを今か今かと待っていた。
そして、繭が光輝くと、ようやく究極変態が始まる。
「キター!!」
カチ……カチ……と繭にヒビが入り、中から、巨大な昆虫型のモンスターが出現した。
怪獣のような前傾姿勢の昆虫で、頭部はコーカサスオオカブトとオオクワガタを合成したような、五本の角が生えている。
そしてカマキリのブレードや蛾の羽など、強力な昆虫のパーツが見て取れる。
非常にキメラ感溢れるビジュアルだが、全身を覆う甲殻が金色一色に染まっており、不思議と統一感がある。
「これがワームが究極変態した姿……キングビートル!!」
「究極変態キングビートル」
「凄いステータスだあははは。これならあのロランドにだって負けないよ! 6時間待った甲斐があったわ!」
キングビートルのステータスを確認し、はしゃぐモスらー。そして、ニヤリと笑うと、ヨハンの方を振り返る。
「お待たせしましたヨハンさん。ようやく究極のモンスターが誕生しましたので……貴方はもう用済みです! 行けキングビートル! そいつを焼き払え!」
「……」
「え? どうしたのキングビートル? さあアイツだよ、あの魔王を倒して……あれ? 動け……動けよ……なんでよ……動けこのポンコツ召喚獣!」
動かないキングビートルに苛立ったのか、モスらーはキングビートルを蹴る。そして反射ダメージを貰ったのか、足を抑えて蹲った。
「うふふ。駄目よモスらーちゃん。強い召喚獣を出したら、コントロール転移対策をちゃんと行わないと」
「コントロール転移……? まさか……!?」
「そう。そのまさかよ。その子が生まれた瞬間、私はスキル【テンプテーションアイ】を使って、その子のコントロールを奪ったの」
上級召喚獣モノリスが持つテンプテーションアイ。それは相手の召喚獣のコントロールを召喚者から奪い取るという強力なスキルである。
この凶悪なスキルを持つモノリスは召喚師同士の戦いにおいてはまず警戒される存在だ。その危険性はもちろんモスらーも心得ているし、対策もある。もし目の前のヨハンがモノリスを召喚していれば、即座に対策を講じただろう。
しかし、召喚師が直接スキルを発動するのは流石に予想外だったのだ。
「お前、初めからそれが狙いで……」
「そういう事。それじゃあ借りていくわね。キングビートル――ゴールデンレーザー!」
キングビートルの口から強力なエネルギー波が放たれ、壁をブチ破る。ヨハンはキングビートルの背に乗ると、そこから外へと飛び出し、そのまま飛翔。ゼッカの戦っている最上部へと飛び立つ。
背中にモスらーの「鬼! 悪魔! 年増ああああ!!」という罵倒が聞こえたが、無視した。
「あら、ゼッカちゃんが戦ってる……ピンチそうね……キングビートル、もう一発」
ヨハンの指示を受けたキングビートルは、ゼッカと戦う槍使いに対して黄金のエネルギー波ゴールデンレーザーを発射。
「むっ……モスらーのヤツ成功したのか……いや違う……ぎゃあああああああ」
槍使いは光に飲まれ、消滅した。
「ヨハンさーん!」
手を振るゼッカの元へキングビートルと共に着地。
「これが究極変態ですか?」
「ええ。ステータスを見てみたんだけど、クワガイガーやクリスタルレオ以上の強さだわ」
「へぇ、眉唾でしたけど本当に強いんですね。ていうか、奪ったんですね」
「ええ、ちょっと考えがあってね。かわいそうだけどコントロールを奪わせてもらったわ」
感心していたゼッカだったが「そういえば」と手を叩く。
「さっき、メイちゃんからメッセージが届いてたんだ」
「メッセージ? 何かしら?」
「開いてみます」
ゼッカがメッセージを開く。すると、そこには驚くべき内容が書かれていた。
『至急戻ってください。今、セカンドステージの襲撃を受けています メイ』