第63話 暗黒の因子
次の日の夜。
仕事を終えてログインしたヨハンは第二層・北のエリア【フリーズアイランド】へと向かった。
一面氷の床と壁に包まれたフリーズアイランドの入り口にやってくると、そこにはすでにギルドメンバーのオウガ、メイが到着していた。
「ど、どーもです、ヨハンさまじゃなかった……さん」
「ちわーっす」
「私が最後? ごめんなさい待たせてしまって」
「いえいえ。お仕事お疲れ様ですヨハンさん!」
メイが笑顔でパタパタと駆け寄ってくる。その様子を見て、ヨハンの顔が緩む。
「今日も可愛いわねメイちゃん、うふふ。ホント、妹にしたいくらいだわ」
「そ、そんな妹だなんて……って、ヨハンさん、実際に妹さんがいらっしゃるんですよね?」
「ええ、いるけどなんて言うか、あの子は妹と言うより……守護者?」
ヨハンの妹である真澄は可愛い守ってあげたい妹というよりは、姉に害するものを蹴散らす番犬のような存在だった。今でこそ結婚し落ち着いているものの、昔は姉であるヨハン以外には懐かない狂犬のような人物だった。
「『お姉に手ぇ出したら殺す』が口癖のヤンキーでね。髪も染めてたし金属バットも携帯していたし」
「格好良いですねー。え、バット? 野球をやられてたんですか?」
「いいえ。でも玉を潰すのは得意とかなんとか言っていたような……」
「なぁこの話やめねーか? さっさと行こうぜ」
なにやら気まずそうな顔をしたオウガがそう口にする。確かにそうだと、ヨハンとメイもオウガの後に続き、フリーズアイランドへと足を踏み入れた。
フリーズアイランド。第二層の中でもかなり強いモンスターが出現するエリアだ。特に中部に出現するアイスデーモンは倒した後、再出現までの時間が早く、経験値効率がおいしい、ドナルドイチオシの狩場だという。
『下手な周回より効率いいわよ☆』とのこと。
「そうだ。フリーズアイランドに入る前に、コレを」
ヨハンはストレージからとあるアイテムを取り出すと、それをオウガとメイに手渡した。それを受け取った二人の顔が引き攣った。
「えっと……ヨハンさん?」
「うげぇ……なんだよコレ?」
そうなるのも無理はない。ヨハンが手渡したのは黒い禍々しいオーラに包まれた卵型玩具の形をした召喚石。
「まぁ気持ちはわかるけど、それをストレージに仕舞って、スキルを確認してみて」
ヨハンに言われるがままアイテムを収納した二人はステータス画面を見て驚きの声をあげる。
「え、スキルが増えてる!?」
「本当だ……【もの拾い】と【ガッツ】……こんなスキル取った覚えはないぜ……」
「うふふ、驚いたようね」
ヨハンは兜の奥でドヤ顔をキメる。
「これが私の新しいスキル【暗黒の因子】の能力よ。どう、凄いでしょう?」
先日、襲撃イベントで得た素材報酬を使い、煙条Pの手によって強化されたヨハンのユニーク装備【カオスアポカリプス】。この強化によって新しいスキル【暗黒の因子】が解放されていたのだ。
【暗黒の因子】
自身の召喚可能な召喚石をカオス化させる。カオス化した召喚石は召喚不可。カオス化させた召喚石は他のプレイヤーに貸すことができる。カオス化した召喚石を持つプレイヤーはカオス化している召喚獣のスキルを発動させる事が出来る。
※他プレイヤーが所持できるカオス化召喚石は1つまで。
※召喚石のカオス化は24時間で解除され、元の持ち主のストレージに戻る。
言うなれば、ヨハンが普段使用している【暗黒の遺伝子】を、一つ限定で仲間に貸し与えるスキルである。
「それで、貴方達にはカオス化させたイヌコロの召喚石を手渡したってわけ」
「凄い……それで私たちにもイヌコロのスキルが使えるようになったんだ」
「ガッツがあればもしもの時も安心だ」
「フリーズアイランドには換金アイテムが沢山落ちてるらしいから。みんなで探しながら行きましょう」
そしてアイテムを拾いながら進むこと数分。
「凄い……高価な素材アイテムがじゃんじゃん手に入るよ!」
見つけたアイテムを拾い上げながら、メイが興奮した様子で言った。イヌコロの持つ【もの拾い】のスキルの効力が早速現れたようだ。
「ああ……今までの探索はなんだったんだってくらい、ザクザクだな」
「でも、一番凄いのはヨハンさんだよね……」
「あの人、召喚石持ってる分だけスキル効果が重複してるらしいからな。【もの拾い】×8……単純に俺たちの8倍アイテムを見つけられるんだ」
「あ、また何か見つけたみたい……それにしても楽しそうね、ステキ」
「いやあの魔王みたいな鎧ではしゃいでるの軽くホラーだろ」
先行するヨハンの背を見つめながら、オウガはため息をついた。オウガの頭にはまだ先日の戦いでの恐怖が残っているようだった。
「けど、いいのかな……?」
「何が?」
メイが不安げに呟いた。
「このバチモンの召喚石は、ヨハンさんの大切なもののはずでしょう? それを私たちみたいな新入りに預けて……いいのかな」
「……よくわかんねーけど。信頼されてるってことじゃねぇかな」
オウガは自分で言って恥ずかしくなったのか、照れ隠しのように頬を掻いている。そんなオウガの様子を見て、メイはくすくすと笑う。
「そっか……なんか嬉しいな。ねぇオウガ! 私はヨハンさんの……ううん、ギルドのみんなの期待に応えたい!」
「俺もだ。そのためにもまずはレベルだ。レベル40にならなくちゃ、スタートラインにも立てないぜ」
「そうだね……頑張ろう!」
「あらっ!」
その時、ヨハンが大声をあげた。
「ヨハンさん、またアイテムですか?」
「いいえ、モンスターを発見したわ。倒すわよ!」
ヨハンはソードエンジェルを召喚すると、モンスターが居るという方向へ走っていく。
「私たちも!」
「ああ、早くしねーと、ギルマスに全部倒されちまうぜ」
二人で頷き合うと、ヨハンの後に続く。
現在のレベル
ヨハン Lv:25
オウガ Lv:28
メイ Lv:21