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第5話 ユニーク装備

 それから一週間。仕事終わりの貴重な時間を使い、圭はバーチャルモンスターズのコラボイベントを楽しんでいた。いやむしろ、コラボイベントしかやっていないと言ったほうが正しいだろう。


 だが。


「あれ、ヨハンさんどうしたんですか? こんなところで」


 はじまりの街の広場でぼーっと立っているヨハンの姿を見て、ゼッカが不思議そうに話しかける。ヨハンはまるで狐につままれたような顔をしていた。


「ああ、こんにちはゼッカちゃん」

「こんにちは!」

「困ったことになったのよ。いつものようにバチモンのイベントを楽しんでいたんだけど……急にこの広場に戻されてしまったのよ!」


 ヨハンの叫びを聞いて、ゼッカは「あー」と言葉を漏らす。そして言い辛そうに口を開いた。


「ヨハンさん、悲しいお知らせです」

「え?」

「バチモンのコラボイベント、今日の12時でおしまいです」

「そ、そんなー!?」


 バチモンコラボイベントは期間限定のイベントである。その期間が終了したため、イベント限定エリアから強制的にはじまりの街まで戻されたのだ。


「え、じゃあもう遊べないの?」

「残念ながら……」

「そう……」


 ここ数日、仕事の疲れをこのゲームで癒やしていたヨハンはこの世の終わりのような顔をする。


「あ、でも、ヨハンさんずっとイベントを周回してたんですよね? だったら限定召喚獣、コンプリートできたんじゃないですか?」

「ええ、それはもう完璧よ」


 ヨハンはドヤると、メニュー画面を開き、大してアイテムの入っていないストレージをゼッカに見せる。


「【クロノドラゴン】1個、【メタルブラックドラゴン】1個、【ワーフェンリル】7個、【ソードエンジェル】3個、【バスタービートル】1個、【メテオバード】5個、【イヌコロ】6個、【ヒナドラ】7個……え、ヨハンさんいったい何周してたんですか?」

「平日はあまり遊べなかったから、まだ30周くらいかしら」

「えぇ……」


 ゼッカはコラボイベントのスキップ不能かつ、まぁまぁ長いイベントムービーを思い出し、ぞっとする。


「アニメを再現しながら遊んでいたから、余計に時間が掛かってしまったわ」

「再現……?」

「ええ、敵を倒す順番とか、トドメの技とか。ほら、再現してると、アニメの台詞を当時の声優さんが言ってくれるじゃない?」

「知らなかったですその機能」

「だからね、頑張って再現してたのよ!」


 難なく答えるヨハンに軽い狂気を感じ、ゼッカの顔が引きつった。バチモンイベントは召喚獣を後ろから指示するだけのイベントなので、プレイヤーのレベルが絡まないクエストだ。だがその分、クリアするのには時間がかかる。それを30周。できなくはないだろうが、自分は絶対嫌だなと思うゼッカだった。


「ところでゼッカちゃん、質問なんだけど」

「はい、なんですか? なんでも聞いてください!」

「うん。【ヒナドラ】と【イヌコロ】は召喚できるんだけど、それ以外のモンスターが召喚できないのよね。何がいけないのかしら?」

「ああ、それはですね」


 ゼッカはこのゲームにおける召喚獣の仕組みを教えてくれる。


 召喚獣には強さによって【初級】【中級】【上級】に分かれている。そして、ヨハンの持つ召喚師の初期スキル【初級召喚術】で召喚出来るのは、【初級】のヒナドラとイヌコロまでなのだ。

 【中級】を呼び出したければ【中級召喚術】を。【上級】を呼び出したければ【上級召喚術】をそれぞれ獲得しなければならない。


「そういうことだったのね」

「ええ、だからまず、ヨハンさんは【中級召喚術】を取ることを目指すべきです。そのためには、第二層へ行って、ランキングイベントへの参加権を得ないといけません」


 ゼッカの話をまとめると、中級召喚術を取得するまでの流れはこうなる。


1、【虫のダンジョン】を攻略し、第二層へと進む。

2、第二層に進むことで、月に1、2回開催されるランキングイベントに参加できる。

3、ランキングイベントでポイントを稼ぎ、それを使って【中級召喚術】を取得する。


「み、道は長そうね……」

「大丈夫です。大体の人は一ヶ月くらいで二層まで行けますから!」


 もちろんゼッカのこの発言はゲーム慣れした人間の感覚によるものである。ゲーム慣れしていないヨハンにとっては茨の道だった。不安そうなヨハンの顔色を察したのか、ゼッカは申し訳なさそうに口を開いた。


「本当は手伝ってあげたいんですけど、次の階層へ行くためのダンジョンは一度クリアすると入れなくなっちゃって」

「あはは、いいのよ気にしないで。気楽に楽しむから。むしろ色々教えてくれてありがとう。本当に助かっているわ」


 ヨハンの言葉にぱっと顔を明るくするゼッカ。


「あ、そうだ! これ良かったら使ってください。私は使わないので」


 ゼッカはストレージから三つの石を取り出した。透明な石の中央には人形のようなモンスターが閉じ込められている。これが本来の召喚獣のクリスタルなのだろうと理解し、ヨハンは尋ねた。


「いいの?」

「いいんです。私は使えないですし。これ、召喚師スターターセットです。攻撃、守備、搦め手の3種のモンスターが揃ってます。バチモンだけじゃ攻略は難しそうですから、役立ててください」

「ありがたいわ。遠慮無く頂くわね」


 ヨハンは受け取った召喚獣クリスタルをストレージに入れる。ゼッカはその後しばらく新しい召喚獣の使い方をヨハンに説明し、それじゃあ用事があるからと、ログアウトしていった。


「さて、早速その虫のダンジョンに向かおうかしら……あら?」


 初心者のヨハンが無謀なことを言っていると、プレゼントボックスに何やら送られてきている。ログインボーナスはちゃんと受け取ったので、新しく何かが送られてきたようである。それを「何かしら?」とタップする。すると、送られてきたのは装備品のようだった。


《ユニーク装備》

ゲーム内において設定された特殊な条件を満たした者に贈られる特典。


【カオスアポカリプスシリーズ】頭・胴・右腕・左腕・足


防御+50 譲渡不可・破壊不可・売却不可


装備スキル:暗黒の遺伝子

○装備したプレイヤーが所持している召喚可能な召喚獣のスキルを全て発動することができるようになる。


《入手条件》

期間限定コラボイベント:バーチャルモンスターズにおいて、原作再現状態でのクリア回数がもっとも多いプレイヤーに贈られます。バーチャルモンスターズを好きでいてくれてありがとうございました。



 とあった。装備名となっているカオスアポカリプスとは、アニメ版バーチャルモンスターズのラスボスで、全てのバチモンの技や能力が使えるという最強の敵の名前だ。このコラボイベントでも4戦目で戦わされる相手である。

 そのラスボスをモチーフとした鎧というわけであるが、ヨハンは少し複雑だ。


「何故ラスボスの装備を作ったの? 普通主役で作らない?」


 と、もっともな感想を抱いた。だがせっかく貰ったのだからと、一度装備して、姿を確認してみることにした。



名前:ヨハン Lv:1


職業:召喚師サモナー


HP:30/30

MP:50/50


筋力:20

防御:20(+50)

魔力:20

敏捷:20

器用:20


【装備】

頭 :カオスアポカリプス

胴 :カオスアポカリプス

右手:カオスアポカリプス

左手:カオスアポカリプス

足 :カオスアポカリプス

装飾:

装飾:

装飾:


スキル

【初級召喚術】



 鎧は全身黒のフルプレートで、顔も覆い隠されている。全体的に刺々しい意匠は大元のカオスアポカリプスを意識していると言えるだろう。そしてアクセントのように金、メタリックレッド、そして兜の目に当たる部分は紫色に禍々しく発光している。

 さらに女性であるヨハンが装備したためか胸やくびれの目立つ女性的なデザインとなり、肩からはマントが垂れ下がっている。


「これ、どう見ても悪役よね……しかも最後のほうに出てくるやつ」


 ヨハンの脳内には、先日妹の息子、甥っ子と見ていた特撮ライダー番組の敵キャラが浮かび上がる。だが、本当にそんな見た目である。


「可愛くないなぁ……強いのはわかるんだけど。一気に防御力50も上がったし」


 と、ヨハンはラスボスのような格好で一通り悩んだ後。


「まぁ可愛い装備は後でもいいでしょう。まずは中級召喚術を取らないとね」


 そう結論を出す。そして、まずは様子見よね! と大した準備もせずに虫のダンジョンへと向かった。



ブックマーク評価ありがとうございます。また誤字報告ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] "好きでいてくれてありがとう'、作り手の愛を感じさせる素敵な言葉ですね
[気になる点] 今時、おもちゃ卒業できないからっておもちゃ壊す親なんていないよ?気になるのでその点踏まえて話を見たいです。 ということでまずは、☆3
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