第41話 デュエルで決着をつけよう
ヨハン達がギルドホームを購入した次の日の土曜日。他のプレイヤー達も、自分たちのギルドの雰囲気や規模に見合ったギルドを購入した。
ミーティングルームや共通の金庫。そしてメンバーごとの個室など、新しく追加された機能を確かめている内、皆気が付いた。
召喚獣が必要な事に。
召喚師が絶滅危惧種の現在、召喚石を持っているプレイヤーは少ない。NPCショップで手に入る召喚石はスターターセットのみ。
ならばトレード掲示板で好きな召喚獣を購入しよう! と掲示板を覗いたプレイヤー達は、次のようなメッセージを目にした。
《召喚獣売ります!!》
相場
上級レア……1億ゴールド
上級 ……500万ゴールド
中級 ……100万ゴールド
初級100体まとめ売り……100万ゴールド
その他、各種レア素材と交換致します!
場所:アスカシティ中央広場
時間:日曜8:00~
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「デュフ……ダークエルフちゃんを3つとメイドラグーンちゃんを3つ」
「まいどおおきに~。600万ゴールドになります」
日曜の正午。召喚石は飛ぶように売れていく。午前中の売り上げだけで、ヨハンとコンが使った総額19億ゴールドを回収することが出来た。つまり午後からの売り上げが、そのまま利益という事になる。
「面白いくらい売れていきますね」
ゼッカが意外そうに口を開いた。
「ギルドホームがあれば召喚師じゃなくても召喚獣を楽しめるんだもの」
「そら売れるわ」
強い上級も結構売れるが、それよりも可愛い美少女系のモンスターの売れ行きが凄まじい。
ダークエルフやメイドラグーンなどは、大したスキルは持っていないが、ビジュアルが可愛らしい。こうした召喚獣は売れまくり、すでに在庫が尽き掛けている(無論、ヨハンやコンが使う分は別に確保してある)のである。
「エッチな事は当然できひんけど、何かさせとけば揺れるしな、胸が」
「胸……胸ですか」
ゼッカが微妙そうな顔をする。その時。
「久しぶりね、ゼッカ」
ヨハン達の前に、眩い黄金の鎧を纏った少女が仁王立ちしていた。
ピンク色の髪と勝ち気そうな目をした少女のプレイヤー名はギルティア。現最強ギルド【最果ての剣】のギルドマスターである。そしてその後ろには、現ランキングトップのロランドが立っている。
「あらら、最強ギルドのツートップがお揃いで、どないしたん?」
ギルティアはコンの言葉を無視し、しばらくゼッカを睨んでいたが、気が済んだのか、本題に入る。
「召喚獣を買いに来たわ」
「おおきに」
「ロイヤルガードを100体。そして天帝ゼルネシアを3体。いくらになる?」
ロイヤルガードは中級召喚獣だ。能力としては【増殖】の無いスケープゴートと言ったところか。それほど強力な性能をしている訳では無い。だが見た目は銀色の鎧を纏った騎士そのもので、白亜の城をギルドホームにしたと言われている【最果ての剣】が従える召喚獣としては最適かもしれない。
そして天帝ゼルネシア。上級の中でも入手難易度が高い召喚獣。ロイヤルガードの長とも言える存在で、自身のスキルで複数のロイヤルガードを呼び出し、強化したりすることが出来る。召喚師のような召喚獣である。
「全部で4億ゴールドやね」
「ほう、意外と安いですね……」
「ええ。もっと吹っかけられるかと思ってたわ」
想定よりも安かったらしく、ギルティアとロランドはゴールドの準備を始める。しかしその時、コンは誰かからメッセージを受け取ったようだ。わざとらしく声を上げる。
「どうしたのコンちゃん?」
「あ、ちょっと待って。ああ……残念やわ~」
「何が残念なの?」
ギルティアが訝しげにコンを睨んだ。
「いやね、おたくが欲しい言うてはる召喚石、売れへんようになったんよ」
「はぁ? 何よいきなり。こっちは4億払えるわよ」
「申し訳ないんやけど、今別のお客さんから連絡があってな? 同じロイヤルガード100体、天帝ゼルネシア3体の注文が入ったんどす」
「はぁ!? 全く同じ注文!? ちょー嘘くさいんですけど」
「申し訳ないが先約はこちらです。断って頂いても?」
ギルティアとロランドがコンに詰め寄る。
「それがね。向こうはんは倍の8億出すって言うてはるんよ?」
「……」
「……」
二人は絶句する。あからさまな吹っかけに心底引いている。そもそも4億でもかなり割高な値段なのだ。だが呆れつつもギルティアとロランドは顔を見合わせて。
「一応聞くけど予備の在庫は……」
「あらへん。どっちかにしか売れへん。あー残念やわー」
「……屑が。わかったわ。こっちは10億出す。これで文句ないでしょ。こっちに売りなさい」
「ちょっと待ってねー……あー向こうは20億出す言うてはるわー困ったわぁ」
「ふざっけんなこの女狐!!」
ギルティアがキレた。無理もないと言ったところか。今にもコンに掴みかかろうとするギルティアを、ロランドが抑える。
「あらあら。最強ギルドのギルマス様が弱小ギルドに暴力はあきまへんよ。このやり取り、全部録画しとるからね?」
「このおおおおおおお!」
「コンさん……挑発し過ぎです。売る気がないならさっさと断りましょう」
流石に不味いと思ったのか、ゼッカが止めに入る。
「売る気はあるんよ。ただ、うちは高いお金出してくれる方と取引したい。それだけなんどす」
コンは意地悪く笑う。そして、今まで黙っていたロランドが口を開いた。
「我々が元々用意していた金額は15億。これで譲って頂けないでしょうか? 差し出がましいですが、我々【最果ての剣】は現在のGOOで最強のギルドです」
「まぁ、知っとるよ」
「我々に譲って頂けるなら、来月のギルド対抗イベントであなた方【竜の雛】と同盟を結ぶことを約束します」
「ち、ちょっとお兄ちゃん!?」
ロランドの提案にギルティアが驚く。そして、ギルド対抗イベントが来月に開催される事を知らなかったヨハンとゼッカも驚く。
「お兄ちゃん……こんな奴らから買うこと無いよ」
「私もそう思います。ですがギルマス。貴方がギルメン達に、必ず召喚獣を買って帰ると大見得を切ってしまった以上、こうするしかないでしょう」
「うぅ……確かに……恥は晒せないわね」
「どうですかコンさん? 悪い話ではないと思いますが」
ロランドは真っ直ぐにコンを見つめている。対してコンはロランドとは目を合わせず、メニューを操作しながら口を開いた。
「今向こうさんにも相談したんやけど……」
もう向こうの客なんて存在しないことはこの場の全員が理解しているのだが、それでも芝居を止めない、タフなコンだった。
「ロランドはん、デュエルで決着を付けへん?」
「デュエルで……この私と?」
「確かにロランドはんの言う事も正しい。先に声を掛けてくれたんはそっちや。けど向こうはもっとお金を出してくれる言いはる。ここまで抉れたらもう、デュエルで決着をつけるしかあらへん」
「いいじゃない、やりましょう。ぶっ潰してやるわ女狐」
「ほな。2VS2のタッグマッチや。そっちが勝ったら10億で召喚石売ったる。でもこっちが勝ったら向こうに20億で召喚石を売り、同盟も組んでもらう。もちろんそっちが下や。おもろいやろ?」