第26話 目覚める海賊王
イベント最終日。
ヨハン達三人は、レアアイテムを求めて森から森へと移動していたところ、第一層の端、海岸線のエリアまで到達してしまった。
海岸線にはめぼしいイベントはなく、とうとうヨハン達はユニークアイテムを手に入れることは出来なかった。
「まぁ、現実はこんなもんだよね」と三人は開き直る。そして、海岸から、海に沈む夕日を眺める。
「いやーユニーク装備は手に入らなかったですね」
「ええ、ちょっと残念ね。でも……」
「「「楽しかった」」」
三人の声が重なった。それがとてもくすぐったくて、照れを隠すように笑い合う。
「なんか『ここまでの冒険がなによりの宝物だ』って感じですね!」
「ふふ、何よそれ」
「……でも、ボクもそう思う。だってこの三日間、凄く楽しかったから。……お姉ちゃんとゼッカが……ボクの何よりの宝物」
(何この子……可愛い。ゴリラの着ぐるみ脱がしてお持ち帰りしたい)
「何でしょうヨハンさん。私今、胸がきゅんとしているんですが……病気でしょうかね?」
「奇遇ねゼッカちゃん。実は私もよ」
「……え、どうしたの二人とも。……目が怖いよ?」
「「ふふ、気のせいよ」」
一線を越えないように歯を食いしばって、自分を押さえつけるお姉様二人。
『緊急クエストー!!』
その時だった。突如空から声が聞こえ、全員の目の前にメッセージが表示される。タップすると、音声によるアナウンスが流れた。
『楽しかったイベントも残り6時間。みんなどうでしたー? ユニークアイテムいっぱいバラ撒いておいたけど、ゲットできたかなー?』
「もっと大事な物をゲットしたんでー! そんな煽りは効きませーん!」
「うふふ」
空に向かってゼッカが叫ぶ。テンションが高い。
『さて、ここで非常事態発生です。皆様がレアアイテムを沢山ゲットしたせいで、第一層に封じ込められていた最強のボスが、怒りで目を覚ましてしまいました』
「え? 私たちのせい?」
とヨハンが首を傾げると「そういうストーリーなんだと思いますよ」とゼッカがささやく。
『その名も【海賊王バンデット】。なんとGOO史上最強最悪のボスなのです! コイツを倒すには、皆さんの協力が不可欠。さぁ、みんなで海賊王をやっつけましょうー!』
「海賊王……間違いなく新ボスですね……まさかここでこんなサプライズをぶち込んでくるなんて。先に散っていった人達は、さぞ悔しいでしょう」
アナウンスに少し遅れて、各プレイヤーに最終クエストの概要が送られてきた。
最終クエスト【怒りの海賊王】レイドバトル
開催場所:海賊の入り江
クリア報酬:海賊王の持つ全てのアイテム
「私たちついてる! 海賊の入り江はこのすぐ近くですよ!」
「どうする? 行ってみましょうか?」
「……うん、興味ある」
ゼッカの案内で海賊の入り江に移動すると、そこには魔法陣が輝いていた。ゼッカ曰く、前は無かった物らしい。
「おそらく、これに乗るとボスのいるエリアに転送されるんでしょうね」
「なるほどね……」
そして、すぐには魔法陣に乗らず、誰か他のプレイヤーが来ないかどうか待つことにした。レイドバトルとは、多くのプレイヤーが協力して戦うイベントで、出現するボスも、多くのプレイヤーの相手をする事前提の能力値にしている可能性が高い。
そして待つこと三時間。未だに一人もプレイヤーが来ない。
「もう残り時間もないですし、私たちだけで行っちゃいますか?」
「……そうだね。最悪勝てなくても、お姉ちゃんが終了時間まで耐えてくれれば、アイテムは失わなくて済むし」
「それもそうね」
念のため、このイベントで得た換金アイテムをヨハンのストレージに移す。そして、三人は同時に魔法陣を起動した。
***
転移させられたのは、地底湖のような場所だった。東京ドームくらいの、地下空洞。地底湖の中央の浮島となっている場所が、バトルフィールドなのだろう。ゴツゴツとした岩が散乱するフィールドは、見通しが悪い。
「げはははははは。良く来た。我が宝に群がるハエ共よ」
そして中央に陣取っていたのは、一体のモンスター。肉体は既に朽ち果てていて、骨だけになっているものの、その骨は金色に輝いている。海賊帽と船長服を身に纏っていて、まさしく宝への執着で蘇ったアンデッドといった風貌だ。
「あれが海賊王バンデット。大きさは普通ですね」
「げはははははは。貴様ら、俺の宝をかなりため込んでいるようだな……返して貰うぞ」
その時。三人の目の前に、メッセージが表示された。
『海賊王バンデットのシステムスキル【この世全ての財は俺の物】が発動されました。プレイヤー【ゼッカ】【ヨハン】【レンマ】のアイテムストレージ内の全てのアイテムが海賊王バンデットのアイテムストレージに移動しました』
「「「は?」」」
三人の声が重なる。全員が、今メッセージで伝えられた事を理解できないでいた。
「ど……どうしようみんな……本当に無いわ。全部……」
ストレージを確認したヨハンが絶望的な声を上げる。ストレージからは本当に全てのアイテムが消えていた。
「全部って……もしかして!?」
「そうなの……召喚石も無くなってる……」
「そんな……」
「これじゃあ私、戦えないわ」
全ての召喚獣の所有権を奪われたことで、カオスアポカリプスの持つ【暗黒の遺伝子】がその意味を失う。
「げははははは! この世界に存在する宝は全て俺の物! それを返して貰ったまでよ」
『大変! みんなが一生懸命集めたアイテムが、海賊王に奪われちゃった! 取り返す方法は二つ。一つは海賊王を倒すこと。そうすれば海賊王に奪われた宝は全部帰ってくるのです。二つ目は、海賊王のHPを一定値削って【略奪者の末路】を発動させること。このスキルを発動させる度に海賊王のストレージからアイテムがドロップしまーす。でも、負けちゃったら今まで集めたアイテムが全部無駄になっちゃう! 頑張って倒してね!』
「ふざけんなっ!!」
本当にふざけているアナウンスに対し、ゼッカが叫んだ。
「……本当にふざけてる。こんな理不尽な状況じゃ、召喚師は戦えない」
「ヨハンさんは下がっててください。私が【略奪者の末路】とやらで、ヨハンさんの大事なバチモンを全て取り返してきます」
ゼッカはデッド・オア・アライブを構えると、敵に向かって走り出す。
「うらあああああ」
気合と共に白い刀身で斬りかかる。だが、海賊王もサーベルにて応戦。高いレベルに設定されているのであろう剣技は、ゼッカの攻撃を全く受けつけない。
「げはははははは」
それどころか、敵の攻撃にゼッカの方が押され気味だ。
「スピードアップ!!」
補助魔法でゼッカを強化するレンマ。だが、その時。海賊王の顔がレンマの方を向いた。海賊王はゼッカから距離を取る。そして。
「げはは……その宝、気に入った……【オールスティール】」
そしてレンマに向かって敵が手を翳すと、レンマの足下から竜巻のようなエフェクトが現れる。すると、レンマはゴリラアーマーではなく、普通の少女の姿となっていた。
『【ゴリラアーマー】が海賊王バンデットのアイテムストレージに移動しました』
「そ……そんな……ボクのゴリラアーマーが……」
ショックのあまり、その場に座り込んでしまうレンマ。ゼッカは舌打ちすると、レンマに追撃が行かないよう、海賊王に連続攻撃をたたき込む。だが。
「くっ……こんな事が」
ゼッカの攻撃は全て躱される。海賊王は骨の身体をバラバラにすると、そのまま移動しゼッカの攻撃を回避、レンマの背後で再び組み上がる。そしてサーベルを振り上げた。
「レンマちゃん!」
ヨハンはレンマを抱えて逃げようとするが、右足に攻撃が当たってしまう。
(く……ちょっと掠っただけなのに、HPが半分以下に)
メタルスライムの守りがなくなったことを改めて実感する。そしてさらなる絶望が。
「げはは……その宝、気に入った。【オールスティール】」
ヨハンの足下から、竜巻のエフェクトが発生する。そして次の瞬間、ヨハンは装備を剥がされ、無装備の服を着た状態となっていた。
「げはは……げはははははははははは」
『【カオスアポカリプス】【マジックリングZ】が海賊王バンデットのアイテムストレージに移動しました』
「くっ……鎧まで……そんな」
今までにない、圧倒的な絶望感が、三人を支配していた。
本日、この小説の総合評価が一万を突破しました。これも全て応援してくれた皆さまのお陰でございます。
お礼という訳ではありませんが、今日はお祝いとして、ストーリーの切りの良いところまで進めようと思います。作者のライフが0になるまで続けます。暇があるときにお付き合い頂ければ幸いです。