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第23話 夜の語らい

先程、初レビューを頂きました。とても熱い内容で、僕自身も力を貰いました。ありがとうございます!

一日目夜。


 星の広がる空の元、小高い丘の上に見つけたテラスのような場所で、ヨハン達は集めた食料アイテムを食べていた。食料アイテムとは、このイベント中の限定アイテムのようで、冷凍食品のようなパックを開くと、中に食料が入っているという便利なものだった。


「もう、変な連中に絡まれたせいで全然探索が進みませんでしたねー」


 カレーに食らいつきながら、悔しそうな顔をうかべるゼッカ。

 ヨハンの三連【ゲート・オブ・ヘブンズ】によって大多数の敵は始末出来たものの、その後も生き残り達によってゲリラ戦を仕掛けられ、あの森の中に長いこと足止めを食らってしまった。


「まぁまぁゼッカちゃん。レアなアイテムは全然だったけど、換金用のアイテムは沢山手に入ったんだし」

「……ボクは楽しかったけどね」


 ヨハンとレンマはそれぞれ装備を外し、パスタを頬張っている。このイベント、装備の変更は不可能だが、着脱は自由なようだ。


「……数日を跨ぐイベントって、ボク初めてだから……リアルでもゲームでも」

「はぁ、修学旅行とかあるじゃないで……むぐんんご」


 言いかけたゼッカの口を塞ぐヨハン。レンマのログイン時間は、かなり長い。平日の昼間から夜遅くまで。普通の中学生なら考えられない事である。


 だからヨハンは何も言わなかった。それは詮索するべき事ではないし、言いたくなった時。言ってもいいと、レンマが自分たちを認めてくれた時に話してくれればそれでいいと考えたのだ。


「私もちょっとワクワクしてるわ。だって貴方達みたいな、凄い年下の子達と一緒に泊まりがけで遊ぶなんて、初めてだもの」


 少し前のヨハンには、考えられない事だった。25歳くらいまでは、大学時代の友人達と旅行に行くこともあった。だが、結婚や出産、その他諸々で、次第にそういう機会は減っていく。


(私も……いつまでこうして遊んでいられるのかしらね)


そんな事を考えてしまう。


「ヨハンさん! 私、バーチャルモンスターズ観ましたよ」


 ゼッカはヨハンがさみしそうな目をしたことを、見逃さなかった。何か話しかけなければ、どこか遠くへ行ってしまいそうな気がして。思わず声を掛けたのだ。


「あら、そうなの」


ヨハンの声の調子が上がる。


「まだ6話くらいですけど。動画配信サービスで。早く寝なくちゃいけないのに、ついつい続きを見ちゃって。あと1話……あと1話だけ……って」

「……いいな、ボクも観たい……前にググったんだけど、エテザルってキャラクターがボクの中で激アツだった」

「あれ、敵よ」

「……え? あああ……で、でも、無理すれば行ける! お姉ちゃんの大好きなアニメ、ボクも観てみたい」

「ありがとう。でも、若い子には退屈かもよ? 20年前のとっても古いアニメだから」


 冗談めかして笑うヨハンに、ゼッカとレンマはきょとんとする。


「いやいやヨハンさん。名作に新しい古いは関係ないですよ」

「……うん。新しい駄作もあれば古い名作もある。面白い面白くないに、時代は関係ない」


「は、はぁ……」


ヨハンは二人の熱の入りように、気圧される。


「もしかして……二人ともアニメとか好きなの?」

「「大好き!!」」


 二人は一瞬の迷いもなく、そう言い切った。


「そ、そう……でもゼッカちゃん、高校生でしょ?」

「年齢なんて関係ないですよ! 好きなモノは好きなんです!」

「……ボクも。どんな大人になるか、わからないけどさ。きっとアニメが大好きで、毎週わくわくしながら観ている……そんな大人になっていると思うよ」

「同感ですねー」


『いつまでこんな幼稚なモノを……お前もう高学年だろう?』


父の言葉が、耳に蘇る。ヨハンはしばらく、なんと言っていいのかわからない感情に支配される。


あの頃。

小学生だった圭の周りには、アニメが大好きだ! なんて大人は、誰も居なかった。だからゲームやアニメというものは、大人になるにつれて、卒業しなくてはいけないものなんだと考えていた。

 それでも、バーチャルモンスターズが好きという気持ちが拭えなかった自分は、どこかおかしい人間なのだと。欠陥を抱えているのだと、好きな気持ちをひた隠しにして生きてきた。


でもこの子達は違う。ヨハンには、それがとても嬉しかった。


(そう。この気持ちは、喜びだわ)


時代が変わった。好きな物を好きでいて何が悪い! そう高らかに叫ぶことが出来る子供達が、育っていた。


「ねぇ、二人の好きなアニメ、教えてよ。私、知りたいな」


ヨハンはそう口を開いた。二人がどんな物語を好きになって育ってきたのか、聞いてみたくなったのだ。言った途端、ゼッカとレンマの二人は頬を紅潮させながら、我先にとヨハンに迫った。


「え、私の好きなアニメですか!? もちろん私はVRMMO物が大好物です! 特に好きなのは、少し古い作品なんですけど、ゲームの世界からログアウト出来なくなって命がけのデスゲームが始まるという作品でタイトルは……」

「……待ってゼッカ。ここはボクが先攻。……ボクの好きなアニメは映画なんだけど、隅っこで暮らしている不思議な生き物たちが……」

「ええい黙ってくださいレンマちゃん。ヨハンさんが私の事に興味を持つなんて、こんな珍しい機会、滅多にないんですから!」

「……それはボクだって同じ」


「まぁまぁ二人とも。時間は十分にあるんだから……」


その夜。自分の大好きなアニメの話を楽しそうに語る二人の姿を、ヨハンは嬉しそうに眺めていた。




三人の絆が深まった。次回、最強の召喚獣登場。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり初代デジモンの視聴者のかたでしたか、僕が小説を書くようになった切っ掛けの一つが初代デジモンの二次創作を書き始めた事だったので、思い出深いですね、その当初はtomoyukiと言うユーザ…
[一言] あー抑圧開放やね、幼少期に好きなものを無理やり取り上げられるとその部分の時が止まって一生動かなくなる心の傷 完治報告は聞いたことないなぁ
[一言] そう。この気持ちは、喜びだわ←なんかエヴァンゲリオンにこんな子いた気がする
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