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第117話 ゲーム初心者OLさん、ラスボスと呼ばれる

「スキル発動――最終王者!!」


 ロランドの体が、黄金の闘気に満ちていく。そして、あふれ出した魔力が可視化され、稲妻のように体にまとわりついた。


「な、なんか滅茶苦茶強そうになってる!?」

「……これヤバいんじゃないお姉ちゃん」


「スキル効果発動。30秒間、俺の全ステータス数値を3倍にする!」


「……3倍!?」

「で、でも、それならまだ全然、ヒナドラの方が強い」


「まだだ! さらにその数値とスキルの制限時間に、俺がランキングに1位として君臨し続けたシーズンの数を掛ける!」


「はあああ!?」


 ロランドが1位となってからランキングイベントが行われた回数は20回。つまり、制限時間とステータスが20倍される。



HP:500×3→1500×20→30000


MP:140×3→420×20→8400


筋力:295×3→885×20→17700


防御:165×3→495×20→9900


魔力:70×3→210×20→4200


敏捷:225×3→675×20→13500


器用:30×3→90×20→1800



「これで俺のステータスが貴方たちを上回った」


「そのようね。ここからが本当の戦いだわ。ヒナドラ!」


「もっきゅー!」


 ヒナドラは先ほどと同じように、ロランド目掛けて突進する。それをロランドが剣で受け止める。


「も!?」

「はあああああ!」


 今度は力負けすることなく、さながら野球の様にヒナドラを打ち返す。そして、地面を蹴るとヒナドラに追撃を加える。


「もっきゅ!?」


「……どうして? いくらロランドさんとはいえ、ステータスが何十倍にもなったら、お姉ちゃんみたいにまともに操作できなくなるんじゃ?」

「多分だけど、ロランドさん、隠れて練習してたと思う」

「……ええ!?」


「ヨハンさん。このままじゃマズいです。最終王者の制限時間は10分。でもヒナドラじゃ、あと1分も保たない……」


 ステータスを超えられ、ヒナドラ優位は完全に崩れ去った。流石に次の召喚獣を準備する時間は、くれないだろう。


 だがヨハンは冷静だった。ステータスを追い抜かれたというのなら……。


「抜かれたら抜き返せばいいのよ――【増殖】!」


 ソウルコンバートの効果でロランドを直接攻撃はできないヨハンだが、しかし、ヒナドラの手助けはできる。終焉の星の効果でパワーアップした増殖は、一度に20体、ヨハンの分身を生み出した。


「……お姉ちゃんが、20人!?」

「1体欲しい!」

「……ゼッカ」


「分身を大勢増やしたところで、貴方にまともに操作できるとは思いませんが……いや、そんなまさか……」


 ヨハンの真の狙いに気が付いたロランドの顔が青ざめる。


「そう、そのまさかよ。全員でスキル発動――【ソウルコンバート】! 受け取ってヒナドラ、私たちの力よ!」


「もっきゅー!!」


 生み出された20人のヨハンのステータスがヒナドラに流れ込む。


 筋力値だけで見ても、15020が20人分で、300400のパワーアップである。


「どうかしらロランドさん。これが召喚師と召喚獣の絆の力よ」


 プレイヤースキルの差をキャラ性能でゴリ押しする。当初から変わらないヨハンの戦闘スタイルである。


「召喚獣のパワー不足を召喚師が補い、召喚師のプレイヤースキル不足を召喚獣が補う……ふっ。どうやら貴方たちは、最高のコンビのようだ」


 それを聞いたヨハンは、嬉しそうに笑う。そして。


「もっきゅ!」


 ヒナドラは究極威力の【ブラックフレイム】を発動。ヒナドラの魔力上昇により技のサイズも、最早回避不能なほどに巨大となっている。


「見事。最後にヨハンさん、一つよろしいでしょうか?」


 清々しい表情をして、ロランドは訪ねた。ヨハンは「なに?」と先を促す。


「また、いつか。貴方に挑戦してもよいでしょうか?」


「ええ、楽しみに待っているわ。それまでにもうちょっと、腕を上げて……ね」


「ふっ……全力を出して尚、届かない相手がいる。それがこんなにも悔しいとは……知りませんでしたよ」


 こうして最強の戦士は、黒き炎の中に満足そうに消えていった。


***


***


***


 ヒナドラ最後の一撃によって半壊し、壁が殆どなくなってしまった王座の間。魔力を使い果たしたヒナドラの消滅を見送ってから、ようやくヨハンは順位表を見る。



1位【最果ての剣】1080Pt

クリスタル消滅


2位【竜の雛】865Pt


3位【セカンドステージ】570Pt

クリスタル消滅


4位【神聖エリュシオン教団】552Pt

クリスタル消滅



「最果ての剣に抜かれているわ!?」


「……エリュシオン教団も、クリスタルを守りきれなかったんだ」


「最果ての剣の別部隊がポイントを荒稼ぎしたみたいですね……」


 竜の雛は守りに徹していたことに加え、攻め入ってきたのが6人だったため、殆どポイントを稼げていなかった。

 一方、竜の雛以外を攻めていた部隊が稼いだポイントによって、再び首位に返り咲いた最果ての剣。


「ど、どうしましょう」


「ふふ、心配いりませんよ。外を見てください」


「えっと……なかなかカオスな状態になっているわね」


 ゼッカに促されて庭を覗いてみると、入り口の方で掲示板の民が様々なギルドと戦闘を行っている。

 そして庭中央では、オウガとその友達グループが戦闘を。


 さらにコンとメイがロランドと全く同じ装備をした6人と戦っていた。


 その6人は、最果ての剣ロイヤルナンバーズの裏の6人。量産型ロランドと言われる、ロランドの戦闘技術をコピーしたような戦闘スタイルを持つ6人である。


 コピーとは言われているがその実力は確かで、ランキングでは4位~9位をキープ。神聖エリュシオン教団を壊滅させ、その後この闇の城を攻めに来たのである。


 コンとメイがゼッカたちの応援に駆けつけられなかったのは、何を隠そう彼らがやってきたからだったのだ。


 それくらいとんでもない連中が攻めてきているのだが、全く絶望感を抱いていないゼッカが、彼を指差して言う。


「とりあえず、回収できるところからポイントを回収しちゃいましょう」


***


***


***


 イベント開始から約6時間半。長い時間、門の付近で戦い続けてきた打倒ヨハンの会のメンバーであるが、とうとう限界を迎えようとしていた。


「はぁはぁ。なぁ、我々は一体、何のために戦ってきたのだ」


「はぁはぁ。哲学ですか……?」


「いや、泣き言だ」


「なんだ……でもまぁ気持ちはわかります。しんどいですよね」


 この三日間。


 彼らはまだ一度もお目当てのヨハンと戦えてすらいなかったのだ。モチベーションが下がるのも、無理はない。


「はぁ、せめてもう一度、姿を見られればよいのだが……」


「あ、アベンジャーマスオさん……あれあれ!」


「む?」


 アベンジャーマスオが周囲を見回すと、皆戦いを中断し、上を見上げていた。彼が仲間の指さす方、闇の城の最上階を見てみると、そこには黒いドレス姿の美しい女性が、こちらを見下ろしていた。


「マスオさん……あれの姿は……」

「うむ。我らがヨハンは、どうやらまた何か、とんでもない進化をしたようだな」


 掲示板の民たちの顔に生気が戻る。


「美しい」

「なんか強そうだ」

「だが、ただ一つ言えることは」

「ああ」


「「「俺たちと戦えーーー!!」」」


 最早我慢の限界だった。目の前の敵を放り出し、剣を構え、槍を担ぎ、彼らは一目散にヨハンの元へと走り出す。

 そんな彼らの気持ちを知ってか知らずか、ヨハンは空に手を掲げる。すると、巨大な門が出現し、ゆっくりと、その扉を開く。


「あれは全体即死スキル【ゲート・オブ・ヘブンズ】か」


「馬鹿め、以前の俺たちと一緒にされちゃ困るぜ」


「こちとら即死耐性を得られる御守りを買い込んであるのさ!」


「新生ヨハン、恐れるに足りずー!!」


 だが。


 即死耐性を持っているはずの彼らの体が、浮いた。


 掲示板の民だけではない。他のギルドの連中も。最果ての剣のカオスナンバーズの6人も。


 オウガとパーティを組んでいた小学生組以外のプレイヤー全ての体が宙に浮かび、天空の門へと吸運ばれていく。


「ば、そんな!?」

「ななななななんででで!?」

「落ち着け」

「即死耐性を持っているんだぞ!?」

「それが何故!?」


「今ログを見てみたんだが、即死耐性を無視して即死効果を受けたらしい」

「は?」

「まるで意味がわからんぞ」


「おい、見てみろよ……」


 掲示板の民の一人が指を指すと、闇の城から少し離れた位置で様子見していた別のギルドのプレイヤーたちも宙に浮いて、吸い込まれているようだ。


「……」

「事実であって欲しくないんだが」

「いいよ。言ってごらん」

「ゲート・オブ・ヘブンズの効果射程範囲が10倍くらいに増えてる」

「……ひょ?」

「……え?」

「……は」

「……悪夢か?」

「……いやありえないだろ! フィールド10個分の効果範囲に耐性を無視して即死!? ヨハンは神にでも進化したのか!?」

「いや、天使エンジェルだ」

「ふぁーww」

「ふーん。ヨハンは天使でも悪魔でもない……」

「ほう……」

「では、なんなのかね?」


「ヤツはこのゲームのラスボスだ」ドヤッ


 強いプレイヤー、弱いプレイヤー。ガチ勢、エンジョイ勢。ベテラン、初心者。


 あらゆるプレイヤーがヨハンの前で、等しく平等で、無力であった。


 この日、ヨハンは各地へ移動して、ゲート・オブ・ヘブンズによってプレイヤーを抹殺。そして7度目の門が開いたとき、竜の雛とその味方以外のプレイヤーは全滅。


竜の雛の優勝が確定した。


そして。


この日、一人の無名のプレイヤーが放った「ラスボス」という呼び名は、ヨハンを指す言葉として、全プレイヤーの間に広まった。


***


***


***


[メッセージ]GOO公式より


プレイヤーの皆さま。第一回【殺し合い祭】お疲れさまでした。


早速ですが、下記のスキルについての効果、及びテキストの修正を行いました。本日22:00より適用されます。


【繭化】

自身を繭で覆い、6時間後、状況を打開する存在へと進化する。


※召喚獣【ワーム】のみ使用可能 (プレイヤーはいかなる場合も使用不可)


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