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【コミック4巻発売】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです  作者: 魚虎・瀧岡くるじ
第四章 let's enjoy killing festival

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第107話 俺とお前が手を組めば……

「僕と手を組めオウガ。アイツを倒すぞ」


ずっと勝ちたいと思っていた、目標だった男が、手を組もうと言っている。


一体どんな心境の変化があったのだろうか。オウガにはわからない。


もしかしたら何か企んでいるのでは? なんて考えは、オウガには浮かばなかった。


ただただ。


嬉しかった。


「おう……! 助かるぜ」


 Yesのボタンを押す。これにより、オウガとクロスはパーティメンバーとなった。違うギルド同士ではあるが、これで互いの攻撃で互いを傷つけることはなくなった。


「ほほう……所謂リア友というやつですな~。しかしオウガくん。低レベルが一人増えても、状況は何も変わらないですぞ~?」


「やってみなければわからないだろう――【パワーアロー】!!」


 クロスは上空から強撃スキルによって矢を放つ。だが、ガルドモールは避けない。盾を構えることすらせず、分厚い胸板で矢を受ける。


 クロスのもつユニーク装備【ゴッドレイジ】は複数のスキルを持つ強力な弓だ。【ゴッドヘイロー】によって使用者に飛翔能力を与え、さらに飛翔中に放った矢で与えるダメージを5倍にする。


「ははは! 昨日教えたはずですぞ~。いくらダメージが5倍になっても、元のダメージが低ければ意味がないと。しかも今のダメージは0。0にいくつかけても0。0、0、ゼロォ~! わかりますかなぁ~?」


「フッ。わかっているさ。ただ、確認したかったのさ」


「ほほう。確認ですかな~?」


「ああ。そして理解した。貴方は僕より強い!」


「は? いや、コイツ頭がおかしいですぞ~? 頭おかしい少年が浮かんでますぞ~」


不敵に笑うクロスを見て、登場したときの頼もしさはどこへいったのかと不安になるオウガ。


「いやクロス……どうしちまったんだお前」


「別に。ただ、相手がこの僕より強いのだと確認しただけさ。だが、僕たちが手を組めば、勝てない相手ではない……そうは思わないかオウガ?」


「……っ!? ああ! 俺とお前が手を組めば、無敵だ」


「フッ。それになオウガ。メニューを見てくれ。お前なら、僕の狙いに気づいてくれるだろう?」


「メニュー……? ああ」


オウガはメニューを見て驚いて、そして納得した。理解した。クロスの狙いを。


そして、伊達や酔狂で、ましてや自分に対する嫌がらせでここに来たのではないということを理解する。ちゃんとした勝ち筋を用意している。


助けに来てくれたのは、やはり自分が勝ちたいと切望した、あの天才少年だった。


「敵だったときは憎たらしかったのに……不思議だな。今はお前と組めて、凄くわくわくしてるぜ」


「僕もだよ。ああ、思えば僕はあの時から……君とこうして肩を並べて戦いたかったのかもしれないね」


「あの時……?」


「なんでもない。さぁ行くぞ!」


「おう!」


「作戦タイムは終わりですかな~?」


ガルドモールが剣を振るう。放たれた斬戟が二人を襲う。だがオウガはぐるんと倒れ回避。クロスは上空へと飛翔した。


「貴方の動きを封じさせてもらう――神の裁き!!」


 神の裁き・ジャッジメントアローは第一層のボス、クワガイガーを初見かつ単独で撃破すると入手できる弓使い専用スキル。


 矢なしで強力な電撃を放てると共に、耐性が無ければ確定で【スタン】の弱体状態を与える強力なスキルである。MP消費なし、さらにクールタイムも5秒と破格の性能ではあるが、もちろんデメリットも存在する。


 一発撃つ度に【雷鉱石】という素材がストレージから消費される。かなり貴重な素材アイテムだ。そのデメリットが嫌で、クロスが今までこのスキルを使うことはなかった。


 だが、オウガと共に戦う上で、その思いを捨てた。目の前の敵を認め、共に戦う仲間と勝利を掴むため、全力を出す。当たり前のことではあるが、そんな当たり前のことができるようになった。クロスがあの敗北から、精神的に成長した証だった。


迫り来る雷の一撃を、しかしガルドモールは、避けない。


「はっ。いくら強力な攻撃でも、使用者が低レベルでは意味がありませんぞ~?」


直撃の衝撃こそ受けているようだったが、スタンをすることもなく、平気そうな顔をする敵。


「ダメージ6……5倍で30ですぞ~。いや~痛い痛い。痛いですぞ~」


「ふざけていられるのも今のうちだ――【ガードブレイク】!!」


「おおっ!?」


雷に気を取られていたガルドモールの背後から、オウガが斬りかかる。背中にガードブレイクがヒットしたことで、次の攻撃に【防御力貫通】効果が付与される。


「続けて――ファイナルセイバー!!」


「ぐおおおおおおっ!?」


黄金に輝く刀身をそのまま敵に叩きつけた。だが。


「んん~420ダメージ。いい攻撃でしたぞ~。もう少しバフを重ねていれば、ガッツぐらいは使わされていたかもしれませんぞ~。んん~危なかったですぞ~」


 倒せてはいなかった。さらに、ガルドモールはダメージ回復のエフェクトを纏う。どうやらなんらかのスキルでHPを回復したようだ。


「く、オウガ!」


 そして、敵はそのまま剣をオウガに叩きつける。クロスは慌てて【アキレウスの矢】をオウガに命中させる。これにより、一回だけ敵の攻撃を無敵で耐えることができる。


それによりガルドモールのカウンターを阻止したオウガは、急いで距離をとった。


「ダメージ回復完了ですぞ。少年達、無駄な攻撃でしたな~」


ガルドモールは、オウガたちをあざ笑う。


「フッ」

「ははっ」


だが、そんなガルドモールを、今度はオウガたちが笑い返した。それに不快感を覚えたのか、少し苛ついた様子のガルドモール。


「ああ? 何笑ってんだ糞ガキ共……いらつきますぞ~」


「思わず笑ってしまったことは謝罪しよう。だがしょうがないというものさ。何せ、全てが僕の計画通りに進行しているのでね」


「計画ぅ?」


「ああ。後ろを見てごらん」


ガルドモールが後ろを振り返る。そこには、3人の少年少女が立っていた。


「ゾーマ、ユウヤ、パンチョ。よく来てくれた」


「みんな……!」


オウガも、皆が到着してくれたことにほっとする。そう、オウガは彼らも来てくれていることに気が付いていた。


メニューを見ろと言われ、パーティメンバーの欄にクロス以外に、ゾーマたちの名前もあったことに気が付いたのだ。

おそらく飛べるクロスだけが先に来たのだろう。


だから、後は彼らが追いつくまで、ガルドモールを足止めするだけだった。


「助けに来たぜオウガ!」

「ギルドのみんな来なくて暇なんだ、遊ぼうよ」

「フッ。最強の敵か。腕がなるなぁオイ!」


合流した3人も威勢良く戦闘モードへ突入。


「ははは。何と思えば雑魚が増えただけですぞ~! そんなんで最強ギルドの最果ての剣のロイヤルナンバーズ、このガルドモールに勝てると思っているのかぁ!」


3人に向かって攻撃を放とうとするガルドモール。だが、その脳天に雷が落ちる。


「フッ。神の裁き。なかなかいいスキルだ。貴方にダメージは与えられなくとも。弱体状態は与えられなくとも、攻撃をキャンセルさせるくらいはできるようだな」


「さっきから……その攻撃、ちとうざったいですぞ~。死ねやぁあクソガキャ!」


 ダメージがないとは言え、神の裁きによる衝撃はよほど凄まじいのか、目に怒りの色を浮かべて、上空のクロスに向かって盾を構え、攻撃しようとするガルドモール。


 だが、クロスをターゲットにすることはできなかった。盾から放たれたビーム攻撃は、地上のユウヤが受け止める。持っている盾でデコイを発動させ、敵の攻撃対象を自分に集中させ、クロスを守ったのだ。


6本の腕全てに盾を装備した異様な姿で、してやったとドヤ顔を敵に向けている。


「ははは! 盾あと5個あるから! まだまだみんなの盾になれるよ!」


「次は俺の番だな! ――スキルロック!!」


 ゾーマの手のひらから、赤い光弾が放たれた。相変わらずそよ風に吹かれたシャボン玉のような弾速だったが、敵に近い距離から放たれたため、回避はし難そうだ。

 それに、狙ってか狙わずか、ギリギリ剣で切れなそうな、絶妙な位置取りである。しかし、敵は敢えて避ける動作をしない。そこには何か彼なりのポリシーがあるのかもしれない。


「スキルロック……おやおや~効きませんぞぉ~?」


「ええぇ!? ちゃんと当たったのにぃ!?」


「僕の攻撃も効かなかった。どうやら彼は、弱体状態を無力化するスキルを持っているのかもしれないね」


「はは、じゃあ次は俺の番だ!」


動きやすいように装備を外し、ユニークスキル【気合玉】を地面に置いたパンチョが叫んだ。


「ほほう。そういえば君たち、セカンドステージのメンバーでしたな~? 通りで弱いわけですぞ~」


「俺にそんな安っぽい挑発は通用しねぇぜ! 俺はどんなことを言われたって、冷静にシュートが打てるストライカーだ」


「女の癖にそんな言葉使いじゃ彼氏ができませんぞぉ~? 脳みそも色気も圧倒的に足りませんな~?」


「ドタマかち割ってコロス。うぉおらあああああああああ!」


「全然冷静じゃねぇ!?」


怒りの赴くまま放たれたシュートは、しかしカーブを描きつつ、正確にガルドモール目掛けて飛んでいく。


職業:破壊者用のユニークスキル【気合玉】。敵に命中することで、その者の防具を全て【破壊状態】にすることができる強力なスキルである。


【破壊状態】にされた防具はログアウトするか、生産職に治して貰えるまでは装備から外され、使用することはできない。


「避けんなよ? 避けねぇよなぁ? それがお前のポリシーなんだろ?」


「はて、何のことですぞ~? やっぱり馬鹿ですかな~? 私、そんなこと一言も言ってないですぞ~?」


ひょいっと上半身を傾けると、ガルドモールは気合玉を回避した。


「ふははは! こういう時のために、しょぼい攻撃は避けないでおくのですぞ~? 当たると思ってた攻撃が避けられた。お? お? どんな気持ちですぞ~?」


ここぞとばかりに煽るガルドモール。だが。パンチョは全く悔しがってはいなかった。


「……むぅ。それはどんな表情ですぞ~?」


 パンチョの表情を見てみる。先ほどまでの中性的な少年のようだった表情とは打って変わり、恋する少女のような表情。憧れの人を見つめる、熱い視線だった。それはもちろんガルドモールに向けたものではなく、その斜め上後方。


「……っ!?」


殺気を感じて振り返るガルドモール。だが遅かった。


「現実じゃここまで飛べないんだが……流石ゲームだ!」


 高く飛び上がったオウガは、所謂オーバーヘッドキックの体勢を取っていた。ボールはもちろん、敵が回避した、パンチョの気合玉だ。


「「「行けぇオウガああ!!」」」

「シュートォオオ!!」


そして、見事にインステップで気合玉をとらえると、そのままガルドモールにたたき込む。


「ぐ、うおおおおおおおお」


「ナイスシュートだぜオウガ!」

「キーパーよりストライカーやれ!」

「はは、ガルドモールざまぁ!」


気合玉の直撃を受けたガルドモールの重装甲の鎧はバリバリと音を立てて崩れていく。


「くっ……私が……こんな糞ガキ共に……映すな……映すなあああ」


装備を全て破壊されインナー姿になったガルドモールは、中継を気にしているのか恥ずかしそうに体を隠すような仕草をした。


「おや、鎧の中は案外ヒョロいんだね」


そして上空には、アウルヴァンディルの矢を装填し、弓を構えたクロスが居た。


「流石に防具なしではノーダメージとは行かないだろう? ま、避けたければ避けてくれて構わないよ――パワーアロー!!」


「くっ……こんなところで……私だけこんなところで負ける訳にはっ」


クロスの放った矢を、必死で避けたガルドモール。だが、矢は方向を変え、再びガルドモールを襲う。


「避けられたと思ったかい? 残念。【必中】を付与させてもらった。僕の攻撃を今まで舐め続けてくれてありがとう。お陰でここまで【必中】を温存できたよ」


「ぐっ……ぐおおおおおおおお!?」


 ガルドモールの体にアウルヴァンディルの矢が命中。あらゆるスキルの発動を許さないまま、5倍のダメージを与える脅威のコンボ攻撃により、今度こそ、ガルドモールのHPをゼロにすることができた。


相手を格上と認め、それでも全力を尽くすことを学んだクロスたち。


最後まで相手を格下として見下し続けたガルドモールとの戦いは、こうして幕を閉じた。


「ふぅ……」


緊張感が解けたクロスは、少し休むために地上に降りてきた。そこへ、オウガが駆け寄ってくる。その表情は嬉しそうに、ニコニコしていた。


「な、何だよオウガ。笑うな気持ち悪い。僕がみんなと手を組んだのが、そんなにおかしいのかい?」

「いいや、別に。ただ一つ聞きたいんだ」

「ほう、僕に質問か。なんでも聞いてくれ」


「楽しいかクロス。このゲーム、楽しいか?」


オウガの質問に一瞬面くらい、しかし迷うことなく、クロスは答えた。


「ああ、君たちと一緒に遊べて……最高に楽しいよ」

「それは良かった。ありがとうな、助けてくれて。滅茶苦茶嬉しかったぜクロス」

「当然だ。オウガ、君は僕に勝ったのだから。僕以外に負けてもらっては困るよ」


そう言って笑い合って。少し照れくさそうに。二人は初めての握手を交わすのだった。


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[良い点] クロスくん良い子で良かった 王道サイコー 恋は進まないんだろうな
[一言] 少年たちの友情・努力・勝利はやはり王道(ウンウン
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