第11話 VSランク1位のプレイヤー
戦闘開始と同時にクワガイガーを召喚したヨハンは、最終フェーズに集まった猛者たちを蹂躙していた。
「クワガイガー、【放電】!!」
「ギチィイイイイイ」ビリビリ
「「「ぎゃああああああ」」」
ジェネシス・オメガ・オンラインでは今現在、スタンを付与する雷属性の攻撃はプレイヤー側は基本持っていない(ユニーク装備、ユニークスキルを除く)。なので対人イベントでわざわざスタン対策を行なっているプレイヤーはほぼ居ない。
そんな中、スタンを主体とするクワガイガーの出現は、プレイヤーたちにとって脅威となった。
その優位性を持って、ヨハンは着々と敵を葬り去っていた。
だが、フィールド内の敵プレイヤーも残りわずかとなった時。
「え、ちょっ……何アレ!?」
遠くから、一人のプレイヤーが剣を振るったのが見えた。そこから金色のビームが発射され、一直線にクワガイガー目掛けて飛んでくる。
クワガイガーの上に乗っていたヨハンは急いで飛び降りる。その間に、クワガイガーはビームの直撃を受けて消滅してしまった。
「痛たた……」
尻を擦りながら立ち上がるヨハン。攻撃のあった方向を見ると、ビームを放った白銀の鎧を身につけた剣士がジグザグに蛇行しながらこちらに迫っている。そして白銀の鎧の騎士は通りすがりに他のプレイヤーたちを一撃二撃で葬り去っていく。
「ロランド……レベル50……あの人、間違いなく強い」
銀色の騎士の頭上に表示された名前を読み取る。このままでは確実にやられると感じたヨハンは透明化を発動するが……。
(速っ!? もうここまで)
「逃がしませんよ――【ガードブレイク】!!」
透明になったものの、ロランドに追いつかれたヨハンは目にもとまらぬ攻撃を受ける。
『スキル【ガッツ】を発動しました』
そのダメージをガッツでなんとか耐える。
(ガッツの無敵時間は10秒……この間に何か召喚獣を……え?)
ガッツ後の無敵時間を利用して新しい召喚獣を呼び出そうとしたヨハンだったが、ロランドは構わず剣を振り下ろしてきた。そして、再びダメージが入り、召喚しようとしていた行動がキャンセルされてしまう。
『スキル【ガッツ】を発動しました』
(な、なんで!? 無敵のはずなのに)
ヨハンはまだ知らないが、このゲームには自身の攻撃に無敵貫通能力を付与する装飾品やスキルが存在する。ロランドは前者を装備した一人だった。
『スキル【ガッツ】を発動しました』
さらに追撃を受け、三度目のガッツが発動する。そこで初めて、ロランドの攻撃が止まる。
「おや……三度目のガッツですか。新しいユニークスキルでしょうか? それともその見たことないユニーク装備の効果でしょうか?」
顔を覆う兜によりその表情はわからない。だがヨハンの装備がユニーク装備であることを見抜いた。その冷静さがヨハンに言い知れぬ恐怖を感じさせる。
「く――【放電】!!」
「ぐ――!?」
ヨハンは自分で【放電】を発動させる。これにはさすがのロランドも驚いた声を上げる。だが剣で弾くように防御すると、一瞬で態勢を立て直し追撃を打ち込んできた。
『スキル【ガッツ】を発動しました』
胴体に光る赤いダメージエフェクト。これで四度目のガッツ発動である。相手プレイヤーのあまりの強さに驚くヨハンだが、同時に敵であるロランドも驚いている。
いったい何度ガッツが発動するのか。運営が用意した負けイベントなのではないか? そんなことがロランドの頭を巡る。
「見たことのない鎧。4度のガッツ、階層ボスであるクワガイガーの召喚、さらにそのクワガイガーのスキルを使うプレイヤー。聞いたこともない。貴方はいったいなんなのですか?」
ヨハンには答えようがなかった。
「そ、そんな事言われても……初心者なりに頑張ったとしか……」
「ははは、初心者とは。とんだお戯れ……をっ」
ヨハンの発言を一笑に付し、さらに一太刀。敏捷ステータスの差か、それとも元々の肉体スペックの差か、ロランドの攻撃に一切反応できないまま5度目のガッツが発動。
「くっ……いったい何をしたら倒れるんだ貴方は……」
焦るロランド。
(まずいわ……なんとか対策をしないと、一方的に負ける……スケープゴートを召喚して時間を稼ぎたいけれど、そんな時間をくれる相手じゃない……あ、そうだ)
ヨハンは考えを巡らせていたが、とある方法を思いつく。スケープゴートの増殖とデコイで時間を稼ごうと思っていたが、それ自分でもできるのでは? と。
「今度こそトドメ!」
ロランドが斬りかかってくる。だがその瞬間。
「させない――【増殖】!!」
ヨハン自身が増殖を発動。ロランドの攻撃を回避しつつ、二体の分身を生み出す。
「く……本当にどうなっているんだ貴方は!?」
驚愕しつつもめざとく本体を狙ってくるロランド。だが、あまりの事態に動揺していたためか、この攻撃にさっきまでのスピードはなかった。それが隙となり、ヨハンにスキル発動の時間を与える。
「【デコイ】!!」
ロランドの攻撃はその切っ先を分身へと変える。そして分身の一体を葬り去った……と思ったが。
『スキル【ガッツ】を発動しました』
「馬鹿な!?」
なんと分身もガッツを発動。HPを1残し消滅を免れた。そしてそれは、ヨハンにとって初めて訪れたチャンスだった。
「今よ! ――ブラックフレイム!!」
「ぐっ……滅茶苦茶だ貴方は……だが面白い」
ロランドのHPは一撃で0になるかと思われたが、1残る。どうやらロランドもガッツのスキルを持っていたようだ。ヨハンに無敵貫通能力はない。それを理解したロランドは10秒の無敵時間を利用して距離を取る。
「ヨハンさん、今宵は楽しい戦いでした。機会があれば是非、お手合わせを」
そして離れたロランドは爽やかにそう言うと、剣を仕舞う。
「ちょっと待って、まだ勝負は……」
『はーいそこまででーす。お疲れ様でしたー』
その時、最終フェーズ終了を告げるアナウンスが流れた。どうやら時間が来たようである。
「え、ああそうか、もう終わりか」
ヨハンがまだ夢心地で目をぱちくりさせていると、兜を外したロランドが笑顔を浮かべながらこちらに歩いてくる。彫りの深い顔立ちの黒髪ロングの美形男子だった。彼が握手を求めてきたので、面食いの妹が見たらさぞ喜ぶだろうな~と思いながらそれに応える。
ちなみにヨハンは装備を解いていないので、漆黒のラスボススタイルのままである。鎧からロランドを覗く眼光は毒々しい紫色に輝いており、何も知らない人が見れば今にも相手を射抜かんとしているように見えるだろう。
並みのプレイヤーならば怖気づいてしまいそうなその眼光を、しかしロランドは気にも留めない。
「ヨハンさん。貴方の名前、覚えさせていただきました」
「え、なして!?」
「ここ最近のGOOは上位メンバーが固定され、強いとされる戦術が固まってしまっていました。ですが、今日の貴方との戦いは驚きに満ちていました。一撃、一撃と剣を振り下ろす度、貴方の底知れぬ強さに私は感動しておりました。今過ぎ去った時間の圧倒的な楽しさに、私は寂しさを感じております。ああ、なんと甘美で刺激的な時間だったのか。どうでしょう。私達のギルド【最果ての剣】に入りませんか?」
「ギルド?」
「ええギルドです。私はもっと貴方と戦っていたい。貴方とお話ししたい。もっと親密になりたい。ギルドに不安があるというのならまずはフレンド登録からでも『はーいそれではプレイヤーのみなさんを元の場所に戻しまーす』そんな!?」
ロランドの熱烈な勧誘はアナウンスに遮られ終わる。ヨハンの目の前からロランドの姿は消え、ヨハン自身も元いた広場に転送される。広場に戻ったヨハンはそのままログアウトすると、現実の世界で目を覚ます。
「う~んせっかく格好良いのに、なんか怖いわね、あの子。でも強かったわ」
んーと伸びをして自分の肩を軽く揉むと、圭は立ち上がる。
「上には上がいるものね。まぁ、もう会うこともなさそうだけど」
と、イベントの余韻に浸りながら風呂へと向かった。
「ところで……ギルドってなんなのかしら?」
残念ながらヨハンはギルドを知らなかった。