第97話 美味しそうな男の子 ※挿絵注意
「君が聖女ジャンヌ・ダルク? でも君、男の子じゃない?」
ヨハンの当然かつ素朴な疑問が、逆に神聖エリュシオン教団の面々に火をつけた。
「当然の疑問!」
「だが逆に問おう!」
「【聖女】が女の子しかなれないと誰が決めたのか?」
「……」
教団の面々のあまりの熱意に絶句するヨハン。そんなヨハンに、助け船とばかりにドナルドが耳打ちする。
「【聖女】のスキルを使うと、メンズでもちゃんと女の子の服装になるのよ☆」
「あ~」
ドナルドの言葉を聞いて、得心がいったように頷くヨハン。そして、聖女ダルクと、自陣の煙条Pを見比べる。
「待って。凄く待って。何か凄く失礼な納得をしていないか? 違うから! 僕はそこに居る変態とは違うから」
煙条Pと同類扱いされたことに憤る聖女ダルク。そして彼の憤りは仲間にも伝わる。
「そうだ! そこの変態と聖女を比べるなんて、失礼にも程がある!」
「聖女ダルク。ここは貴方も【聖女】を発動し、変態との格の違いを見せつけるべきでは?」
「そ、そうだね。このまま変態と同じ扱いは僕も許せない所だよ! ……よし、【聖女】発動!」
ダルクが聖女のスキルを発動させる。途端、彼の体が虹色に包まれ、無骨だった鎧から、女児アニメの戦うヒロインのような、鎧とドレスを組み合わせた服装に変化する。同時に短髪灰色だった髪は腰の辺りまで伸び、キラキラとパーティクルを放ちながら、独特のカーブを描いて纏まった。
そして、変身シーンの締めは可愛いピースとウィンクだった。
「おー!」パチパチ
「もっ!」パチパチ
その変身シーンに素直に感心したヨハンと、そのヨハンにつられたヒナドラがパチパチと拍手する。
「フッ。どうだ? これがホンモノってヤツさ……って違う違う違う!」
聖女ダルク、ここでようやく正気に戻る。どうやらまた乗せられたことに気が付いたようだ。
「ああ、またやってしまった……自己嫌悪だぁ……恥ずかしい」
「あら、そんなに悲観することないわよ。とっても可愛いわ」
「いやそれ、僕にとっては全く褒め言葉じゃないからね!?」
ヨハンの褒め言葉も、今のダルクには逆効果だった。顔を真っ赤に染めて、今にも逃げ出しそうである。
「う~ん可愛いのに勿体ないわね。ドナルドさんはどう思う?」
「ええ、最高よ。彼、とっても美味しそう~☆」ジュルリ
「ひいいいいい!?」
頬を赤らめながら舌なめずりするドナルドに悲鳴を上げるダルク。思わず後ろで静かにしていたエリュシオン教団の仲間に助けを求めた。
だが。
「いや、我々は今忙しいので」
「助けるのはまた今度ということで」
「お、お前ら……」
なんとエリュシオン教団は、仲間であるダルクを助けることを拒否。
彼らは全員地面スレスレの位置まで頭部を下げると、聖女ダルクをローアングルから覗くことに必死になっていた。
「あらあら……また変な人たちに出会ってしまったわね」
「「「「それがっ! 神聖エリュシオン教団っ!」」」」
「フッ。アンタたち、相当な上級者なのねぇ☆」
「「「「それがっ! 神聖エリュシオン教団っ!」」」」
「もっきゅ……」ドン引き
「「「「それがっ! 神聖エリュシオン教団っ!」」」」
「あああああ……やめてくれやめてくれぇ」
頭を抱える聖女ダルク。そんな彼の肩にぽんと手を置いたのは、煙条P。
「嘆くことはありません。彼らをああさせたのは、貴方の魅力です」
「何のフォローにもなってないんだけどぉ!?」
「ダルクくん。君はGOOのアイドルになれる!」
「頭沸いてんのかっ!!」
波乱のファーストコンタクトは、何故か戦いには発展しないまま、幕を閉じた。
***
***
***
「なるほどね。アンタたちは、白亜の城に攻め込んで、失敗したと☆」
落ち着いたところで「今から戦うのもなんかねぇ」という空気になった両者。無理もない。
なので、お互いに何故この場所に来たかを話してみたところ、エリュシオン教団の面々が、白亜の城の攻略に失敗したという。
なんとか逃げてきたものの、相手のHPを削る役割を持つアタッカーがほぼ不足。再び攻めるのは困難といった状況らしい。
「よかったら、我らと組んで、白亜の城を攻めませんか?」
神聖エリュシオン教団のギルマス、ライルはヨハンたちにそう提案してきた。
白亜の城の主であるギルド最果ての剣。二日目スタート時点では1位だったセカンドステージを下し、現在1位の座に君臨しているギルドである。
ヨハン陣営からすると、メンバーであるゼッカ、そして少なからずコンと因縁のあるギルドだ。特にゼッカがこの場に居たのなら、迷うことなくその提案を飲んだであろう。
「う~む」
しかし、ヨハンの反応は鈍かった。
理由は二つある。
ひとつ目はゼッカだ。ゼッカ抜きで、果たして彼女との因縁のギルドに攻め入って良いのか? という思いがあった。
ふたつ目は、単純にこのメンバーで攻め落とせるのか? という問題だ。
ドナルド曰く。
「最果ての剣は他のギルドとはレベルが違うわよ☆」とのこと。
「レベルが違う?」とヨハンが訪ねると、ドナルドは「そう☆」とウィンクした。
「彼らは全員が全員、本気でランキングトップを狙う、対人戦のエキスパートたち。戦略、立ち回り、駆け引き……対人戦の経験値がワタシたちとは圧倒的に違うのよ☆」
「ええ。今までのような、ヨハンさんやドナルドさんの火力によるゴリ押しはまず通用しないと考えて良いでしょう」
煙条Pまでもが、ドナルドの考えに同意した。
普段は狂人ぶっているが、彼らの一歩引いた冷静で客観的な分析は、ヨハンも信頼を置いている。その二人が即座にゴーサインを出さなかったという意味を、ヨハンは重く受け止めているのだ。
「何を弱気な!」
「圧倒的な火力を持つ魔王軍と鉄壁の我らが聖女が組めば、あのような連中楽勝でしょうが!」
「あんたらが組んでくれるなら、今度は僕も迷いなく聖女を使うよ。最果ての剣に勝ちたいという気持ちは本物だからね」
というのが神聖エリュシオン教団の意見。
ヨハンとしても、彼らの意見に賛成だ。クロノドラゴンさえ居れば半永久的に火力を出せる自分と、無敵の防御力を誇る【聖女】を持つダルクが組めば、負けはないのでは? と思う。
だがドナルドと煙条Pが乗り気ではないことが、単なる弱腰とも思えなかった。
「うーん。どうしよっかヒナドラ?」
「もっきゅ!」
「そう? わかったわ」
頭部に鎮座するヒナドラの意見も聞いて、ヨハンは結論を出した。
「いやわかったって……その魚なんて言ったの? もっとしか鳴いてないけど」
「シッ。魚なんて言ったのバレたら○されるわよ☆」
「ひぃ……やっぱ見た目通り怖い人なんだぁ……」
ドナルドにからかわれるダルクに、ヨハンが振り向いた。
「決めたわ。私たち三人は、貴方たちエリュシオン教団と手を組むわ!」
「おお!」とどよめきが起きる。そして、ドナルドと煙条Pは、念押しとばかりにヨハンに訪ねた。
「いいんですか?」
「死ぬかもしれないわよ☆」
「構わないわ。まだ二日目だし。それにね。もしクリスタルが破壊できたら……あのギルドマスターは必ず闇の城を攻めてくると思うの」
ヨハンはかつて出会ったゼッカの親友、ギルティアを思い浮かべる。
「そうすれば、ゼッカちゃんもあの子と戦えると思って」
「良い考えだけど大変そう。ケド、乗ったわ☆」
「ええ。丁度、大物と手合わせしたいと思っていたところです」
「そういう訳で、ギルド竜の雛は貴方たち神聖エリュシオン教団と共闘するわ」
「おお、これは心強い! よろしく頼むよ!」
その後、二日目中、お互いに攻め込まないなどの、諸々の取り決めをして、持っている敵の情報を共有。早速、白亜の城へ攻める手はずとなった。
「ところでダルクくん」
「はい?」
「魚って、何のことかな……?」
「ひぃ……!?」
次回、最強ギルドに殴り込み!
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