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第95話 うろたえるな!

不幸にも竜の雛のギルドホームと隣合わせに配置されてしまったギルド・開眼Bowsは、エンジョイ勢やガチ勢とも違う、所謂テーマギルドである。


 なりきりやロールプレイと言った方がわかりやすいか。このギルドに所属する彼らは寺の坊主になりきり、日々のレベル上げや素材集めの周回作業を【修行】と呼び、ボスモンスターとの戦いを除霊と呼び楽しんでいる。寺や坊主というものを勘違いしているが、それでも彼ら自身が楽しんでいるので、問題はない。


 荘厳な寺のようなBowsのギルドホームを、罰当たりにも荒らす侵入者を、ボウズ頭に僧のような格好をしたギルドメンバーたちが総出で止めに入る。


「この不届きものめが……破ああああああ!」


 赤いスーツを着たピエロメイクの男目掛けて、一人のボウズが魔法を放つ。


「あらぁ? 効かないわよ☆」


 だがピエロ男はその攻撃を自らの機動力にて回避。攻撃を放ったボウズの背後に回り込むと、ボウズの首を掴んで握りつぶした。


「はい、お疲れ様☆」

「アーメン……ガクリ」


「くっ、ならばこっちの男を……破あああああ!!」


ピエロがダメならばと、アイドル衣装に身を包む変態を攻撃するボウズ。


「おっと、その攻撃は通りませんよ――ゲイボルグ!!」


 だがボウズの魔法攻撃を、槍使い最強攻撃スキル【ゲイボルグ】にて迎撃する変態。槍から放たれたビームは魔法を貫通すると、そのままボウズの体を貫いた。


「あっーっ!!」


 消滅したボウズを見て、残ったボウズの群れがどよめく。侵入者ことドナルド・スマイルの圧倒的な戦闘力に、煙条Pの無難な強さに、開眼Bowsの面々は苦戦しているのだ。


 何よりも辛いのが、彼らの暴力的なビジュアル面。


 彼らの酷いビジュアルは、見ただけで逃げ出したくなる。それは意思や志などでは覆せない、もっと生物の根源的な、生き物が生き残るために獲得した生存本能からの「逃げろ」というメッセージ。


 例えBowsの面々が、本当に修行を積んだ除霊のプロ坊主だったとしても、ドナルドたちと相対したら、足の震えを抑えるのが精一杯だっただろう。


 もしこれが現実世界での出来事ならば、心の弱い者から自らの目を抉り、視界を奪う事で瞬間の安寧を得る。それ程の怪物と敵対しているのだ。


 言わば精神攻撃。精神的デバフ。これを抑えるシステムは、残念ながらGOOには存在しない。


「くっ……教えてくれ。どうして俺たちはこんな目に遭っている?」

「おかしいよな……昨日までは楽しくゲームをしていたってのに……」

「しかも目の前の化け物二人を倒したとしても、その後ろには……」

「まったく、これが絶望ってやつか」


 ボウズたちはちらりと、変態二人の後方をみやる。そこには漆黒の鎧カオスアポカリプスを纏ったヨハンが居る。連れ歩きのヒナドラを頭上に乗せ、召喚したバスタービートルに跨がっている。積極的にこちらを攻めてくることはないが、ちょくちょく前衛の二人を援護するように攻撃を繰り出してくるので、油断できない存在だ。


 いや寧ろ、前衛二人を倒したとしても次は……という絶望感が、ボウズたちの気力を奪っていた。


「俺たち……ここまでかな」

「ああ……」

「来世はフサフサに生まれたい」


 ボウズたちの間に、諦めムードが漂う。いや、お通夜か。だがその時、悲惨な空気を一変させる渇が響く。


「うろたえるな小僧共!!」


 全ボウズが声のした方を振り返る。本堂の方から姿を現したのは、黒い法衣に身を包んだ背の低い少女だった。


和尚おしょう……?」

「和尚ちゃんだ!」

「みんな、和尚ちゃんが来たぞ!」


 まるでアイドルのようにボウズたちに崇められる彼女こそ、この開眼・Bowsのギルドマスター。

 

 プレイヤー名を【和尚】。ボウズ頭であることが義務付けられたこのギルドにおいて、唯一長髪を許された、黒髪の少女である。


「騒ぐな小僧ども。侵入者よ。儂が相手になってやる」


「あらあら? そんな枝みたいな手足で、ワタシたちに勝てるとでも?☆」


「いや勝てんよ。儂ではお前たち三人……特に後ろのヨハンには到底敵わん。じゃが……」


 言いながら、和尚は数枚の札を取り出した。


「勝ち負けだけが勝負ではなかろうて……ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ…………」


 和尚はその札に祈るように何かをぶつぶつと言い始めた。


「何するかわかんないケド☆」

「ええ、何かヤバい気がしますね」

「妨害した方がいい?」

「もっきゅ!」


 和尚の様子に何か異様なものを感じたのか、再び戦闘態勢に入るドナルドたち。しかし、それを遮ったのは、先ほどまで戦意を喪失していたボウズたち。


 自分たちのアイドル兼リーダー和尚の喝により戦う気を取り戻したボウズたちが捨て身でドナルドたちに襲いかかる。もちろんそれでやられるドナルドたちでは無かったが、彼らの攻撃は和尚には届かない。


 そして数十秒の末に和尚の準備が完了する。


「滅!」


 そう叫ぶと、ヨハン、ドナルド、煙条Pの足下に、大きな黒い穴が開く。そして3人の体は、ずんずんと穴に飲み込まれていく。その過程で、ヨハンが跨がっていたバスタービートルは消滅した。


「あれ……これヤバいやつですか!?」

「そうねぇ……体が動かないわ……☆」

「まさか、我々に酷いことをする気では?」

「ヒナドラ逃げられる?」

「もっ(無理ぽい)」

「あらあら。どうなってしまうのかしら」


 色々と脱出を試みたヨハンたちだったが、和尚の謎の技の前に為す術なく敗北。完全に闇の中に飲まれ、その姿を消した。


 ヨハンたちを飲み込むと、黒い穴は閉じて消滅。寺には無事、平穏が戻るのだった。


「和尚ちゃん……このお札は?」

「ふむ。これは空海の時代よりこの初恋寺はつこいでらに伝わる伝説の秘宝【別れの札】じゃよ」


 別れの札はギルドホーム専用のアイテムである。各20の大型ギルドホームにはそれぞれ特色がある。例えばヨハンたちの持つ闇の城が【防衛召喚獣500体配置可能】のような。


 そして和尚たちのギルドホーム【初恋寺】専用の能力がこの【別れの札】なのだ。再使用に5時間を要するが、鉄壁の守りを実現している。


「和尚ちゃん。吸い込まれた彼らは、どうなったのでしょう?」


「ふむ。救われぬあの者達の魂は、永遠に現世とあの世の狭間を彷徨い続ける……と言いたい所じゃが。実際はイベントエリアのどこかへ、ランダムにワープさせられただけじゃよ。下手したらすぐに戻ってくるじゃろうて」


「そんな……」

「もうあんな化け物たち相手にしたくありませんよ……」

「和尚ちゃん……我々はどうしたら?」


「ふむ。まぁあれじゃ……みんなで神にでも祈っとこうか?」


 神でも仏でもなんでもいい。「もうアイツら来ないで!」と祈ることしか、彼らに出来ることはなかった。


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