突然の切り替え
冷泉は湿地の怪物を思って瞑想しながら安西の答えを待った。安西は視線の先にある場所を指差した。そこは微かに泡が出ている。
「ここが地下に続いているのか…何故こんな場所が」
「わかりません。行ってみましょう」
「数人ついてこい。残りはここで待機。」
「はい」
冷泉の指示で隊員達が動き出す。湿地に詳しい隊員達が同行した。
「ここは深いな」
「俺が潜ってみます」
「用心しろ」
泥や砂に潜るのが得意な伊丹隊員が名乗り出た。彼ならやれると冷泉は信じている。
「スーツを用意してきてよかった、おそらくここは地下の空洞に繋がる道なんですよ」
そう言って伊丹隊員は矢継ぎ早に装備を整えていく。
「特殊スーツは五人分あります。私が合図したら着いてきてください。」
「頼んだぞ!」
「はい!」
返事と共に伊丹が飛び込んだ。ザブンという音の後は沈黙。
「ここは怪奇な地形をしているな。あの怪物といい、ここは不気味だ。」
「得たいの知れない沼ですよ」
冷泉の言葉に安西も続いた。ここは恐ろしい雰囲気も放っている。この下に何があると言うのか。
「まるで魔宮への道だ」
冷泉は魔の世界を見た。この下には恐ろしい光景が待っているに違いない。
「伊丹の合図ですよ!」
伊丹隊員の腕が沼から出てきて冷泉に状況確認の合図をする。
「行くぞ、安西」
「はい!」
冷泉と安西隊員は伊丹隊員の後に続いて沼の巨大な穴に飛び込んだ。一面の泥をひたすらにもぐって進む。伊丹隊員の信頼のおける高い技術のおかげでスムーズに進むことができた。この穴は相当深い。パッと感じただけでも上下左右広大な広さを持っているようだ。こんなところで迷ったらもう這い上がれまい。その時、急に泥が無くなり広い洞窟のような空間に出た。ここは鍾乳洞のようだ。
「ここですよ、私が見たのは」
「信じられませんよ、こんな空間が沼の下にあるなんて。あの怪物もここから…」
「先にいってみるか」
冷泉はこの先にあるものを目指して前に進んだ。ここは大小様々な道が続く洞窟だった。
「天然か人工か不明だな。ここはなんなんだ」
「崩落してできたようにも、人工的に掘ったようにも思えます。」
冷泉は警戒をしていた。天然物にも人工物にも見えるその洞窟は内部に入り組んでいる。このまま進むのは危険だと判断した冷泉は安西隊員に指示を出した。
「明かりをつけろ、伊丹はみんなを呼べ。一人一着特殊スーツは持ってきてるだろう」
「わかりました」
ここは他の隊員達と進んだ方が良さそうだ。どこに繋がるかわからない。置いていくよりは一緒にいた方がいい。
「照明はあるだけ照らせ」
冷泉の指示で着々と準備が進められていく。
「隊長、できました。照明、可能です」
「よくやった。全体を照らしてみろ」
「はい!」
照明器具を点灯させると洞窟の内部は地底世界だった。
「ここは一体何なんだ」
摩訶不思議な空間であった。半魚人を追って迷い混んだ沼地。沼の謎の怪物を見つけて奥地に来てみればこんな空間が広がっていたとは。冷泉は興奮に震えていた。地底洞窟はロマンがある。
「上に残してきた隊員もこっちに呼べ。作戦変更だ。これより沼の地下を探検する!」
「スマホでメールを送ります」
安西隊員のLINEで続々と隊員達が集結した。
「装備の点検をしてから行くぞ」
ライトなど道具が必要だ。暗く、深い洞窟は魔物の口のようだが、怯えて入られない。
「点検したら進むぞ!」
「わかりました」
冷泉隊長達は隊員を引き連れて前へ進んだ。