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JADE  作者: シュリンプ
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沼地の泥の怪物

最初の集落についた我々は早速村長の家を訪ねることにした。アマゾンの半魚人伝説を巡る探検は数十回経験したが、今回は今までに無いほど大規模に行う。真実に迫り、半魚人を捕獲したいと思っている。そのためには情報収集だ。

冷泉がそんちの家にお辞儀をしてはいる。隊員達が後に続く。

「私は半魚人伝説を調査しに来たんですが、この辺りで人間のような魚を見た人はいますか?痕跡も残っているでしょうか?」

冷泉が問う。すると村長は川を見つめたあとゆっくりと話し出した。

「半魚人はこのジャングルではとても恐れられています。半魚人を神と崇める村もありますが、我々は恐怖の対象です。子供が食べられてしまうという事件がありました。川で洗濯をしていると川に引きずり込まれるということも。ものすごい力です。更には夜な夜な村に上がってきては村を襲撃したこともあります。昔の話ですが。」

村長は思い出すようにいった。その表情には畏れがあると冷泉は感じ取った。

「村長、半魚人はかなりの種類がいるようですが、この辺りではどのような特徴が?」

冷泉は疑問を聞いた。今まで半魚人を探してきたが、地域によって呼び名は様々。更に今回は初めてくる地域だ。呼び名を把握しておかなければならない。

「この辺りではヴィゴートと呼ばれています。彼らは水の守り神でもありますが、川を犯すものには罰を与えるという伝承があり、恐れられています。もっと上流の部族の集落にいけば詳しい話が聞けるでしょう。」

村長は思い起こすように話した。それを聞いて冷泉は考え込んだ。

「ヴィゴートは初めて聞く名だ。一体どんな姿をしているんですか?」

「ヴィゴートは魚のウロコを持った大男の姿をしています。筋肉質で3メールの体格持ち、頬にはエラが付いています。手足には水掻きがあります。凄まじい怪力で木々を簡単になぎ倒してしまうのです。また、手には鋭い鉤爪がついているため迂闊に近づくと攻撃される恐れがあります。腕力からして直撃すれば即死でしょう。」

村長の恐ろしい説明を聞いた隊員達は胸を踊らせた。彼らも未知の存在に興奮していた。

「凄い生物だ…」

「怪力と爪には要注意だな」

「一体本物はどのような姿をしているのか」

口々に半魚人について意見する。冷泉は村長に言った。

「ありがとうございます。半魚人なんですがこの周辺ではどこが一番目撃されているんでしょうか?」

冷泉が肝心な部分を聞く。

「この辺りでは、川の奥地、通称ブラックラグーンで目撃情報が多発しています。ですがあそこはアマゾンでも危険なジャングルです。足を踏み入れるものは極限られています。」

冷泉はそれを聞いて満足した。地獄でも私にとっては天国だ。地獄が地国なら天国は天獄といったところか。

「ありがとうございます。貴重な話を聞けました。明日にでも出発しようと思います。」

村長は念を押した。

「あそこは動植物も不明な点が多い。決して気は抜けません。」

「忠告どうも」

「折角来ていただいたので今日は村のご馳走を食べていただきたい。アマゾンで無事に生きられるようにこの村に伝わる食事です。貴女方の探検が成功しますように」

村長は村の男達に食事の支度をするようにいった。

「では食べさせていただきます。色々と助かります。」

冷泉は隊員達と深くお辞儀をすると村の中央広場に向かった。広場では村人達が食事の準備に取りかかっていた。鍋には大量の肉や魚が入れられていた。畑でとれた野菜も次々に入れられる。熱帯特有の巨大なフルーツはナタで真っ二つに切られ皿に並べられていく。村で作った酒も用意してくれた。鍋は肉、魚、野菜のスープだ。栄養バランスが取られている。メインの食材はオオナマズだ。巨大な肉が見事に煮えている。冷泉が大好きな魚料理であった。しばらくの後、料理がテーブルに並べられた。隊員達が喜びの声をあげる。「すごいボリューム」

「日本では食べられない食材もあるわね」

「これは映えるかも!」

「ばかだな」

「ナマズ好きだから嬉しい!」

各々それぞれにスマホて写真を撮影するとかぶりついた。冷泉は感嘆しながらナマズをかじった。肉の厚みと食感が心地よい。酒もフルーツも最高だった。

「ナマズは栄養が高いからな。これは美味しい。ありがとう」

冷泉は再びナマズを食べ、あっという間に平らげた。その夜は村をあげて歓迎してくれた。


次の日冷泉は村人に別れを告げて歩き出した。村長が言う、ヴィゴートの伝承はより上流の集落に行けば詳しくわかるという。だがアマゾンではその移動すら困難なのだ。いつ何がおこるがわからない。今は目的地ブラックラグーンを目指すべきだ。アマゾン川流域でも恐れられている魔の地帯に冷泉は向かう。そこにある真実を見るために。

「皆ナマズの力で前進してくれ!」

「はい!」

隊員達はナマズを食べて気力に満ち溢れていた。冷泉は体力が全て回復したかのような元気だ。

「ボートはおいて歩っていこう、川よりはジャングルの方が早いかもしれん」

冷泉はボートをロープで固定すると、ジャングルに分け入った。村長の話では奥地のインディオは川を辿るよりも徒歩のほうが見つけやすいと言う。それは彼らが狩猟を仕事としているからだった。ジャングルにいたほうが接触する機会が多い。

「いいか、慎重にな」

冷泉は先頭を歩く。そこは今までとは違う様相を呈していた。ジャングルの作付が密接している。葉っぱが集まり視界も儘ならない。まるで緑の迷宮だ。ここを歩くのはかなり難しい。

「しっかり前を見て歩け。足元にも用心しろよ」

「でも隊長、こう緑が深いと何が出るかわかりませんよ」

「虎のような模様はジャングルでは非常に発見しづらいそうです。」

「野性動物が我々が手こずっている間に狙っているかもしれません。」

その時だった。密集した木と葉のどこかから物音がした。ハッとして全員が息を飲む。

「今のは?」

「かなり大きいぞ」

「これは…」

冷泉は隊員達のザワメキを聞きながら左側の葉の間を見た。間違いない。

「ジャガーだ!」

冷泉は叫んだ!それは密林の緑に潜伏した非常な暗殺者ジャガーだった。飢えた目がこちらを見ている。生気を奪われる気分だ。

「隊長、どうします?」

「私がやる。お前達は下がっていろ。」

冷泉は銃を取り出した。麻酔銃だ。強力な麻酔弾を撃つことができる。これでジャガーには眠っていてもらいたい。冷泉はジャガーを殺す気は全くない。神聖な縄張りを犯したのはこちらなのだから。冷泉がジャガーだったならば同じように葉に隠れ隙をついて皆殺しにしているだろう。冷泉はジャガーの気持ちがわかった。

「いいか、ここにいろ」

「隊長気を付けて」

「隊長ならやってくれる」

「射撃のプロだからな、隊長は」

冷泉は銃を手に持ち、葉の間に隠れた。ジャガーの模様と言うのは緑に紛れると本当にわかりづらいものだ。まるでステルス迷彩だ。冷泉は匍匐の状態になり、緑に消えていった。待つ隊員達が武運を祈った。

「しばらく眠ってくれるだけで良いんだ」

冷泉はジャガーと戦う。これはお互いの本能での戦いでもある。気を抜いたほうがやられる。ジャガーも位置を変えているのがわかる。音もなく動くその技は感嘆する限りだ。だがこちらも技術は負けていない。冷泉はアマゾンで培った部族ぎ使用する狩猟術を用いる。音を全く消し去る高度な技だ。冷泉は最初にジャガーを発見したポイントから右斜めに移動した。匍匐した姿勢から見るこのジャングルはもはや何も見えないほど葉が集まっている。絡み合う蔦を取ると、こちらの位置を探るジャガーが見えた。こままでは狩られる。冷泉は一旦右に移動することにし、丁度空いていた窪みに体を埋めた。息を潜める。五、六分が経過しただろうか。冷泉は再び左側に移動する。すると、背を向けているジャガーがいた。一瞬消えたように見せたため、見失ったようだ。まだこちらを見つけていない。そして私を探しているのだ。

「ジャガーよ。私の前から消えてくれ。いい夢をな。」

そう言って麻酔銃の引き金を引いた。鈍い音がしてジャガーが倒れる。一発だった。冷泉は勝ったのだ。

「やった!」

「さすが隊長だ!」

隊員達が歓声をあげる。冷泉は汗を拭いて立ち上がる。ジャガーは深い眠りについている。またな、と心で声をかけ、冷泉は隊員の元に向かった。隊員達が駆け寄る。

「さすがの腕ですね。」

「俺も射撃がうまくなりてぇ!」

「騒ぐな。まだジャングルの中だぞ。あまり浮かれるのはよくない。早くここを立ち去るんだ。」

冷泉は銃をバッグに仕舞うとジャガーが眠っている間に素早く入り組んだジャングルを抜け出す。このは危険だ。別のジャガーが出るかもしれない。リスクは避けた方がいい。危険があった以上同じ危険も考えられる。逃げるに越したことはない。冷泉達は足早にこの地を後にした。

「銃は大切だ」

冷泉はジャングルの木陰に腰を下ろし隊員達にアドバイスをしていた。銃の使用は探検では日常茶飯事だ。日常生活でいうとスマホやタブレット、パソコンを使うくらい日常だろう。銃、剣やナイフは探検の必需品だ。先程のように強力な動物に襲われた際、素手ではあまりにも無力だ。冷泉探険隊は銃の訓練に力をいれてきた。戦闘訓練は軍隊と同じ内容だ。つまり隊員達も相当鍛え上げられている。冷泉にはまだまだ敵わないが。

「銃は拳銃、ライフル、ショットガンが良い。剣はサーベルか。ナイフはサバイバルナイフだ。色々機能があるからな。」

「隊長の講義が出たぞ」

「俺も銃の点検しようかな」

「私はナイフが合っているのよねね」 

「俺はマグナムが一番だぜ」

「スナイパーライフルはジャングルでは無敵だ」

皆それぞれにあった武器がある。それを伸ばしてきたのだ。扱いはプロ並みだ。探険隊は一つの軍隊のようだ。部隊ごとに分かれて行動することもある。冷泉が好きな銃はライフルだ。ボルトアクションライフルも好きだがアサルトライフルが特に好みだ。スペイン製の銃が良かった。肩に掛けていたアサルトライフルに弾を装填すると、冷泉はレバーを引いた。これならいつでも撃てる。ジャングルではゲリラなど武装勢力との戦闘もあり得る。一時も気は抜けないのだ。それからしばらく休むと冷泉と隊員達は北側に移動した。川をショートカットして行ける道だ。こちらの方が早く着く。川と川を挟む沼地を抜ければ大幅に時間短縮が可能だ。危険な場所からは早く立ち去るのが一番。ジャガーの住み処からは早く遠ざかりたかった。冷泉は沼地に到達した。だが、ここも異様な雰囲気を放っていた。何故ならここは泥が堆積した沼で霧が発生し、何かが地中を蠢いているのが見て取れたからだ。冷泉は沼地は好きだったが、ここには言い知れぬ胸騒ぎを感じた。何時か会った平家の落武者達が現れた時と同じ雰囲気がする。まるで何かの存在が這い出てくるように。

「これは、何かがいるな」

冷泉は気を集中し、沼を見た。見れば見るほど気味の悪い沼だ。良く見ると水気の多い場所と泥まみれのブロックが分かれた攻略しづらい沼地だった。

「隊長、俺が先に入って様子を見ます。」

「任せて良いか」

「はい」

隊員が名乗りをあげた。彼は梶本健隊員。沼地などの悪路を踏破してきた豪傑だ。彼を信じよう。

「頼んだぞ!」

冷泉の期待を受け彼は沼に足を入れていく。思ったより泥が粘り深い。慎重に水と泥の境界線を探る。間違えば填まってしまうかもしれない。ここは水と泥の集合体だ。厄介な沼地なのだ。梶本は足元を確認し人が渡れるかどうかを見極めていく。すると沼地の中程で何かが足に当たった。それはいきなり掴み掛かってきた。梶本はビックリした。それは人の手のような形をしたものだったのである。

「隊長、沼から手が!」

「何!梶本、今行くぞ!」

冷泉は沼に飛び込み、梶本の所へ向かう。梶本は手と格闘していた。他の隊員達も沼に入っていく。

「手だと!何だ?」

「梶本、待ってろ!」

「信じられないわ」

冷泉は梶本の地点まで着いた。その手は人間の手ではない。しかも、半魚人の物でもない。泥を纏った怪物の手だった。良く見ると足を掴む手は大柄な胴体と繋がっている。その身体はこの沼に沈んでいる。これは…

「気を付けろ、これは生き物だぞ!梶本、足から手をどけろ!」

「すごい力なんです!」

「お前達、この手をどけるんだ!」

駆けつけた隊員達に冷泉が指示を飛ばす。これは相当の力だ。まるで動かない。しかも、手を触ると泥で抜かっているため滑ってしまうのだ。不気味な沼地で冷泉探険隊と泥の怪物との死闘が始まった。


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