探検の掟
我々のボートは河川の中央に漂流物を発見した。黒っぽい。ゴツゴツしていて不気味だ。木ではないようだ。生き物か?一体…それはすぐわかった。
「あれはワニだ」
翡翠は大声をあげた。ワニは油断ならない。一tを越える顎の力は並大抵な物ではない。襲われたら人溜まりもない。
「ただのワニではない。あれは人間を食べた経験があるワニだぞ!」
ここ一帯は有数の人食いワニの生息地でもある。翡翠は長い探検を通じてワニが人の味を知っているかいないかわかるようになっていた。あの恐ろしい血に飢えた瞳は人を地獄に誘うのだ。だがそれでも人間よりはワニが好きな翡翠だ。危険性は知っていても人間嫌いの翡翠はワニの方を好む。たとえそれが人間を食べる悪魔であろうと。ここは上手く回避したい。
「人食いワニ…やはり凄い迫力だ…」
「もし襲われたら…恐ろしい」
「何とかして意識をそらさないと…」
隊員達が口々に叫ぶ。
「肉無いか肉!」
翡翠が肉を探す。
「鳥の肉ならあります。」
「それを渡せ。これで…」
翡翠は鶏肉の塊を受けとると勢いよく川に投げ入れた。ワニが素早く飛びかかる。デスクロールだ。地獄が広がっていく。千切れた肉が辺りに散乱する。他のワニも集まってきた。
「もっと肉を持ってこい!」
隊員が翡翠隊長に大きな肉を手渡す。
「次はそっちだ」
隣のワニに向かって肉を放り投げる。水しぶきが上がり肉が沈む。
「今の内にここから離れろ」
ボートがゆっくりと進む。肉を引き裂くワニの怪力が川面に響く。何とも不気味だ。これ以上ここに長居は無用。早く離れた方がいい。翡翠はワニから十分離れるとボートを全速で進ませるよう指示した。ワニとはおさらば出来た。
人食いワニ地獄から抜け出すと、待たしても信じがたい光景があった。これは…蛇だ。
「アナコンダだ!凄くデカイ。気を付けろ!」
巨大なアナコンダが水面から顔を見せていた。不気味な瞳が黒く光る。このままではまずい。
「ボートを止めろ。私が気を引く。」
翡翠は棒をつかみ。水面を叩いた。バシャバシャと音が響き渡る。アナコンダがこちらを捉える。
「良し良いぞ、そのままこっちに来い…」
アナコンダがゆっくりと近づく。「もっと動物的な動きだ。」
今度は棒を水にいれ揺らす。引き付けたところで翡翠は棒を川縁に投げた。バッシャーンという音と大蛇が飛びかかる音が同時に轟く。なんという早さだ。
「危なかった。」
「危機一髪でしたね。」
「死ぬかと思った…」
「アナコンダは締め上げる地からと巻き上げるスピードが異常に強い。巻き付かれたらおしまいだ。」
ボートは大蛇地帯から素早く抜け出した。探検には常に野性動物の気配が付きまとう。だが彼らの世界に勝手に足を踏み入れたのは我々だ。翡翠はいつも人間はおろかだというが自然は賢いという。まさにその通りでこの世界では人間の常識は通用しない。通用するのは力と残虐性だ。そして賢さ。これがないと過酷な自然ではまず生きていけない。出だしから恐ろしい探検だ。隊員達の表情も野性動物のようだ。原始の時代に返っている。しばらく進むと集落が見えてきた。
「部族の村だな。ようやくついた。」
翡翠は船を原型を留めていない桟橋につけた。岩を踏み鳴らし崖を登り村に上る。その村は比較的文明が入っているようだ。皆洋服を着ている。近代化されてはいるようだ。村の女が我々に気づいて話しかけてきた。どうやら白人を見たことがあるようだ。ならば話は早い。我々は半魚人を事を聞くためにこの村に宿泊することにした。
「丁度良い。休ませてもらおう。これからは横になるのも困難が地形が待っているからな。」
「はい」
隊員達は荷物を広場に置き、まずは村長の家に向かった。
そこで我々は半魚人伝説の実態を聞くことになる。