犯人視点の田児朗~ヤバい奴にヤバい奴と思われる探偵~
短編集。
途中からでも問題なく読めます。
ぼくらは仲良し3人組。遊びの誘いはいつも必ずぼくからする。3人のリーダーみたいなもんだ……
そう、思っていた。
ある日、ぼくは2人が……ぼくをはぶいて2人だけが遊んでいるところを目撃した。
それは1度や2度だけのことではなかった。
3人で無駄話をしていたある日、仲間内の中でよく言えばさばさば。悪く言えば空気の読めない加藤が
「そういやさ、昨日の映画マジ面白かったよな」
となんともなしに言った。もう一人の友人、草加の顔がこわばった。
ぼくに聞こえないように、「今その話はちょっと……」と耳打ちするのが聞こえた。
その様子を見て、鈍感なぼくでも流石に悟った。悟らざる終えなかった。
毎回、遊びの誘いをぼくからしているのはぼくが3人のリーダーみたいに思われてからだとばかり思っていた。
けど、それは大きな勘違いだった。単に、ぼくを誘ってくれる人がいなかっただけの話だ。
ぼくはリーダーどころか3人組の中にすら含まれていなかった。
2人の中に無理やり割り込んでくる邪魔者に過ぎなかったわけだ。
そう……わかった……わかったよ……おまえらがそういう態度をとるんならぼくにだって考えがある。
そんなにぼくが邪魔なら、そんなに2人で遊びたいのなら、そんなに2人きりがいいのなら、ぼくが手伝ってあげるよ……
─とある中学校にて─
「あの2人、大丈夫かな……もう3日だぜ?」
「何もなきゃいいんだけどな」
「3日も行方不明で何もねぇわけねぇだろ」
「バカ!声のボリューム下げろ!……聞こえるぞ」
みんながあいつらの噂をしている。みんながぼくの方を見てくる。
でも、直接ぼくに話しかけてくる人はいない。まるで、腫れ物でも扱うかのよう。
当然か。ぼくの友人だった2人が突然行方不明になったんだから。
けどそんな中、佐竹が睨みを利かせながらぼくの方にずかずかと寄ってきた。
「おい、坂田!お前あいつらのこと何か知ってんじゃねぇのか?」
正直言ってぼくは佐竹のことが嫌いだ。
どういうわけか、こいつはいつも喧嘩腰で話してくる。
中学生にもなってガキ大将でも気取っているんだろうか?
ぼくは、佐竹を一瞥すると無視を決め込んだ。
それが彼の怒りに触れたのだろう。ぼくの胸倉を掴んで急に怒鳴りだした。
「無視してんじゃねぇよ!あの2人と最後に会ったのお前じゃねぇのかよ!?お前があいつらに何かしたんじゃねぇか?!」
「……黙れ」
「あ!?おめぇ今なんて言った?」
確かにぼくは呟くほどの小さな声で言った。けど、これだけの至近距離で聞こえてないはずがない。
でも、そんなにもう一回言ってほしいんなら言ってやるよ。
「黙れ……殺すぞ」
周りの空気が凍り付くのを感じた。
さっきまで粋がっていた佐竹の顔も引きつっている。
「こんな時によくそんなセリフ言えるな……おまえ、まじでやべぇわ」
佐竹はそう吐き捨てると、ぼくの胸元からドンと手を突き放し自分の席へと戻って行った。
それからというもの、教室で無駄話をする人や、ぼくの方をチラチラと見てくる人は誰も現れなくなった。
中学生なんだから、「死ね」とか「殺す」って言葉を使うのは普通のことだと思うんだけど、さすがにこのタイミングで使うのは不謹慎だと思われちゃったかな?
放課後。
一人寂しく校門を出ようとしたとき、ふと見知らぬスーツ姿の男が視界に入ってきた。
誰だろう?こんなとこで何してんだろう?
そんなことを考えながら男の様子を観察していると、迂闊にも向こうに気付かれてしまったようだ。
男はぼくの方を見て口角をあげる。
ぼくは思わずぎょっとする。
別に、男が凶悪な顔をしているとかグロテスクな顔をしているとかそういうわけじゃない。
これといった特徴もない[平均]を絵にかいたような顔。けど、それがかえって男の不気味さを演出していた。
ぼくは足早で家へと帰った。校門を振り返ることはしなかったが、最後まであの薄気味悪い視線を感じずにはいられなかった。
─翌日─
昨日の出来事があってか、ぼくのクラスはお通夜みたいな雰囲気になっていた。
無駄話をする連中も、わざわざ廊下に出てだべっている。
昨日までさんざんイキっていたあの佐竹でさえも教室から出ていった。
みんな、『教室にいたくない』というよりもぼくと同じ空間にいたくないのだろう。
この嫌な空気を払拭したいけれど、ぼくが何かアクションを起こせばさらに妙な空気になってしまう気がする。
そもそも、自分から何か行動を起こせるような勇気はなんてなかった。
結局、放課後になっても暗い雰囲気が変わることはなかった。
でもまぁ、明日明後日は休みだし、週が明ければ皆忘れるでしょ。
そんなことを考えながら下駄箱へと向かうと、昨日校門前で佇んでいたあの不気味な男が視界に入った。
かなりびっくりしたけど、幸いこっちに気付いている様子はない。
何とも言えない恐怖はあるけど、男は一体ここへ何をしにきたというのか。好奇心の方が上回る。
ぼくはこっそりと男のあとをつけた。
男は勝田木実先生とともに応接室へと入っていった。
勝田先生は行方不明になった奴らの担任だから、男は何か事件について聞きに来たというわけか。
もしかして、あいつらの父親?だから昨日ぼくを見かけて笑いかけてきたとか?
男の年齢が何歳なのか見当もつかない……見当もつかないから中学生の子をもつ親だとしてもおかしくはないのかもしれない。
男があいつらの親であろうがなかろうが、勝田先生と何の話をするのかは気になる。
聞き耳を立てたいけれど、廊下でずっとそんなことをしていたら他の先生に見つかって怒られてしまうに決まっている……どうすればいい?
そうだ!スマホを通話状態にして盗聴すればいいんだ!
複数台持っててよかった!
ぼくは応接室の床の窓をそっと開いてスマホを置くと、その場からさっと離れトイレの個室へと駆け込んだ。
『それで、話ってなんですか?』
かなり音が小さいけど、耳に神経を集中させれば何とか聞き取れる。
『行方不明になった2人が誰かに恨みを買われるようなことはなかったか?』
『何か嫌がらせを受けていた、とかそういう報告を受けたことはありません。2人ともまじめな生徒ですし』
『親御さんも同じようなことを言っていたよ。「ウチの子に限ってそんなことはありません」って』
「親御さん」?ということはこの男は親じゃない?
だとすれば……警察!?どうしよう、なんか無性に緊張してきた。
『僕もそう思うよ。中学生が、それも2人同時に誰かに殺されるほどの恨みを買っていたとは到底思えない……これはおそらく誘拐だ』
くくく……誘拐だってさ!日本の警察ってのも案外大したことないもんだね!
これじゃあ、さっきまで焦っていたのが馬鹿みたいじゃないか!
『誘拐、ですか?でも犯人からは何も連絡はきてないんですよね?』
そりゃそうだよ。だって誘拐じゃないんだもん。
『あぁ……つまりこれは営利目的の誘拐じゃないってことさ。これは性的行為を目的とした誘拐だ!』
『???……2人とも、ですか?』
『あぁ。日本じゃ珍しいかもしれないが、世界的に見たら複数人を監禁することは珍しいことじゃない。だが、ここで1つ問題が生じる……まだ子供とはいえ、中学男子の力というのは中々侮れないものだ。しかも、1人ではなく2人同時に相手取るのは至難の業だ』
『えぇ、そうですね』
『だからね、僕はさっきから[略取]ではなく[誘拐]という言葉を使っているんだ』
『その違いってなんかあるんですか?』
『ざっくり言うと、略取は腕ずく。誘拐は誘惑。
だが、中学生が見ず知らずの人間に誘惑されるとは考えにくい。おそらく、これは顔見知りによる犯行だ』
『顔見知り!?そ、そんな……』
先生が動揺するのも無理ないよ。だって、クラスメイト2人の顔見知り=「あなたのクラスメイトの親が犯人です」って言われてるようなもんだもん。
実際は全然違うけど。
『2人の顔見知りで、警戒されない女性……そう!つまり犯人は……
お前じゃヴォケえぇぇぇぇ!!!!』
!?……うるさ。耳おかしくなるかと思った。
ぼくは、電話口から聞こえてくる突然の大声に驚いて思わずスマホを耳から離した。
さっきまで男の推理を笑いながら聞いていたけど、ここまでヤバいやつだと流石に笑えなくなってきたな。
『な、なんですかいきなり!?そんなわけないじゃないですか!!』
『はっ!そうやってムキになるところがますます怪しいぜ!!このショタコン教師が!!』
『もう、いい加減にしてください!警察呼びますよ!』
『おうおうおう!呼んでもらおうじゃねぇか!』
え!?こいつ警察じゃなかったの!?
こいつマジでなんなの!?
いや、そんなことより警察を呼ばれるのはマズい!!
下手したらぼくの置いたスマホに気付かれるおそれがある!!
『もう!知りません!!』
先生の怒号が聞こえるや否や、扉が勢いよく開く音が聞こえてきた。
どうやら怒った先生が部屋から出てったみたいだ。
『っはぁ~……冗談の通じん奴だ……』
冗談かよ!!
まぁ、何はともあれ警察を呼ばれなくてよかった……
早いとこスマホを回収して家に帰るとしよう。
─翌日─
ここ最近、何かと精神的負担のかかることが多かったからか。
休みということもあり、ぐっすりと眠っていた。
けど、12時を迎えるとさすがにしびれを切らしたのか。母さんに起こされた。
「浦雄!いつまで寝てるの!」
「おはよう……」
「『おはよう』じゃないでしょ!もう12時よ!お昼ご飯できてるから、早く着替えてリビングにきなさい!」
今日は休みだし、出かける用事なんてないんだからパジャマ姿のままでもいいんだけどな。
でも、それだと母さんがうるさいし黙って従うことにしよう。
リビングに降りると2人分の食事が用意されていた。
「あれ?父さんは?」
「釣りに出掛けたわよ」
「ふぅ~ん……」
そういえば昨日そんなこと言ってたっけ?
飽きもせずよく行くよなぁー。一度だけ連れてってもらったことあるけど、何が面白いのか全然わかんなかったんだよなぁー。
運要素が強くて、自分の思い通りにいかないことだらけなのにさ。
そんなことを考えながら昼飯を食べ終えたぼくは、自分の部屋に戻って宿題を始めた。
いや、始めようとしていた。机に向かったはいいものの、いかんせんやる気がでない。
椅子を前後にぐらぐらと揺らしながらいたずらに時が過ぎた。
ようやくやる気が出かかったところで、インターホンが鳴った。
誰だろう?
宿題をやる気になってはいたけど、気になってしまったものはしょうがない。
2階の窓からそっと来客の姿を確認する。
そして、来客の姿を見て激しく動揺した。
一昨日から学校で目撃しているあのヤバい男だ……
なんで?何しに来たんだ?
……え!?おいおい!!嘘だろ!?何で家の中に入ってくんだよ!!
ぼくは階段の上からそっと様子をうかがった。
どういうわけか、男がリビングに招き入れられる姿が見えたのでこっそりとドアの隣まで移動し、聞き耳を立てる。
「今、お茶をお出ししますね」
「あぁ……結構」
「そうですか?」
「あぁ。コーヒーで結構」
「……インスタントでもよければ」
「しょ~がねぇなぁ~!」
くそ図々しいな!!
「ところで、今息子さんは?自分の部屋かい?」
「えぇ、そうですけど……どうしてそれを?」
「なに、玄関に靴が置いてあったからそう思っただけのことさ。
けど、案外部屋の中ではなく、この近くでこっそりと盗み聞きしてたりしてな!アハハハハハ!!」
ゲッ!!感の鋭い奴!!
けど、高笑いしてる辺り、冗談として言ってるんだよな?
……多分。
「その息子さんのことだがね?先週の土曜、彼は加藤・草加と遊びにでかけた。そして、加藤と草加だけが行方不明になった。
おかしくないか?
2人の家が近くにあって、帰り道に事件に遭ったというのならわかるが、2人の家は反対方向だ。
何故2人だけが襲われたんだ?何故浦雄は無事だったんだ?上手く逃げ延びたのだとして、友人が2人も行方不明になっているというのに何も情報提供してこないのは何故だ?」
ま、まさか……最初からぼくは疑われていた?
「そ、それは……」
「それは?」
「違います。息子は遊びに行っていません」
「は?」
は?
「確かにあの日、息子はその2人と遊ぶ約束をしていました。ですが、当日になって風邪をひいてしまって……だから遊びには行けなくなったんです」
……え?なんで?どうして母さんがそんな嘘つくの?
「息子さんは一日中家にいた、と?」
「はい」
「それを証明できる人間は?」
「私です」
「他には?」
「いません」
「旦那さんは?」
「釣りにでかけていました」
「なるほどねぇ。なるほどなるほど……証明できる人間はいない、と。それはつまり……
貴様の無実を証明できる人間もいないということだ!!
これすなわち、貴様が犯人だということに相違ない!!!!」
相違あるよ!こいつマジで何言いだすの!?
「中学生が、それも2人同時に誰かに殺されるほどの恨みを買っていたとは到底思えない。これはおそらく誘拐だ」
その話、昨日聞いた。
「まだ子供とはいえ、中学男子の力というものは中々侮れないものだ。しかも、1人ではなく2人同時に相手取るのは至難の業だ。
だから、僕はさっきから[略取]ではなく[誘拐]という言葉を使っているんだ」
腕ずくで攫うか、誘惑して攫うかの違いだろ?
その話も昨日聞いたよ。
「だが、中学生が見ず知らずの人間に誘惑されるとは考えにくい。おそらく、これは顔見知りによる犯行だ。そして、犯人から金銭の要求がないところをみると、性的行為を目的にしているとみて間違いない」
こいつは同じことしか言えないのか?
……なんか嫌な予感する。耳ふさいどこ。
「2人の顔見知りで、警戒されない女性……そう!つまり犯人は……
お前じゃヴォケえぇぇぇぇ!!!!」
やっぱそうくるか……
母さんも早く何か言ってくれ!!
そして早くこいつを帰らせてくれ!!
「はい、私がやりました……」
そうそう!もっと言ってや……は?
え?今、なんて言った!?なんで?何言ってんの!?
「ふっ……やはりな。今2人はどこにいる!!」
「言うことを聞かないので殺害して海に沈めました」
な、なんでそんなこと知ってんだよ!
まさか……スマホのGPS?
母さんは最初からぼくの仕業だって気づいてたの?
「よし、じゃあ今から警察署に行くか……」
「……はい」
「ちょっと待ってよ!!」
「浦雄!!」
自分でも何をしているのか分からなかった。
何がしたいのかも分からなかった。気づいたときには体が勝手に動いてしまっていた。
突然のぼくの登場にリビングにいた2人、そして何よりぼく自身が驚いた。
「違う……違う違う違う!全部違う!!母さんは関係ない!!
ぼくだ!!全部ぼくがやったことなんだ!!」
口が勝手に動く。でも、それをやめようとは思わない。
やめてはいけない。
「浦雄!あんたは黙ってなさい!」
「なんでだよ……なんでこうなるんだよ……なんでこういうことするんだよ!おかしいだろ!こんなの絶対おかしいだろ!」
気づいたら目から大量の涙が出ていた。
ぼくも母さんもワンワンと泣いた。
その傍で、やばい男は呆気にとられた様子で棒立ちしていた。
「浦雄君、本当に君がやったのか?」
「はい……これが証拠です」
ぼくはズボンのポケットからスマホを2台取り出し、男に渡した。
殺害後にくすねた2人のスマホを。
「あの、最後に質問していいですか?」
「……なんだ?」
「あなたは一体何者なんですか?」
「田児朗、探偵さ」
向いてねぇから探偵辞めちまえ。
この物語はフィクションです。
盗聴をしてはいけません。