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犯人は死者

短編。途中からでも問題なく読めます。

足りない突っ込みは皆さんの脳内で補完してください。

昨今、超常現象の話題を耳にすることが少なくなってきた。

科学の進歩によりその謎が解明されてきているからだ。

心霊写真は手ぶれや現像ミス、オーブは水滴や埃による光の乱反射、ミステリサークルは人の悪戯(いたずら)であることが分かっている。

時代錯誤遺物(オーパーツ)に関しては諸説あるが、そのほとんどが捏造されたものや現代人の誤解によるものだと言われている。


今は科学の時代。超常現象の話題を耳にすることが少なくなってきた……が、この手の話題が完全になくならないのは何故か?

馬鹿にするため?謎が解明される瞬間が面白いから?それとも……



─ここは都内にある某ファミリーレストラン。

ファミリーレストランとは、家族連れを対象に店舗構成をしている外食産業のことである。

家族連れ、すなわち老若男女を対象にした豊富な料理が格安で提供されるている。

であるから、「ファミリー」と銘打っていても家族(ファミリー)以外の者たちが来店するのも至極当然のことと言えた。

警察と探偵が来店していても至極当然のことと言えた。


「私はモッツァレラピザとオニオンソースハンバーグ、ライス大で」


「僕はマルゲリータとカルボナーラとシーフードグラタン。それから、ドリンクバー2人分ね」


注文を受けた店員が側を離れたところで、原翔也警部が口を開いた。


「被害者は佐藤俊夫(としお)52歳。死因は首を絞められたことによる─

「あぁ、ちょっと待ちたまえ!待ちたまえよ警部!まさか食事時に事件の話をするつもりか!?」


「え!?田児さん……そういうの気にするタイプですか?」


それを聞いた私立探偵の田児(たご)(あきら)はヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめた。


「性・食・攻撃の中枢は隣接し、互いに影響を及ぼしやすいんだ。

人間は知恵がついて幾分か賢くなったとはいえ、根っこはただの動物に過ぎないからね。異性にもてるためには同族より強くならなきゃいけないし、食事をするためには狩りをしなければいけない。そして、狩りを成功させるには他種族よりも強くなければいけない。空腹時にイライラするのはその時(狩猟時代)の名残なんて言われているね。

このように、本能的行動が容易に波及しあう現象を[欲動放散]と呼ぶわけだが……

食事時に、よりにもよって殺人事件の話をするだなんて!今後、食事と殺人が結びついて食事の喜びイコール人を殺す喜びになること待ったなしだよ!

君はアレだな……快楽殺人者だな!快楽殺人者の素質があるよ!」


「???……すいません」


『事件について相談がある』と、食事時に呼んだのだから事件の話をするに決まっているのに……

それなのに何故、自分が快楽殺人者呼ばわりされなければならないのか原警部は理解出来ずにいた。


だが、原警部は知っている。

よくわからん理由で怒られている時は、よくわからんけどとりあえず謝っておいたら、よくわからんけど相手の怒りがおさまる場合が多いことを。



「お待たせ致しました。こちら、モッツァレラピザとマルゲリータピザになります」


原警部のもとにモッツァレラが、田児のもとにマルゲリータが届いた。

……が、田児はピザカッターを持ったままジッとしている。


「原警部、僕は常々(つねづね)疑問に思っていたのだがね?」


田児のいつになく真剣な表情に、原警部は襟を正さずにはいられなかった。


「はい、何でしょう?」


「大阪人はお好み焼きを格子状に切るんだ。我々都民のように放射状に切ろうもんなら100%の確立で『お前!それピザの切り方やないか!』と突っ込まれてしまう」


「……はぁ」


「であれば、大阪人はピザを切るとき格子状に切ることはないのだろうか?」


「切るわけないでしょ!素手で食べるんですから、そんな切り方したら手ぇべったべたになりますよ……くだらないこと考えてないで早く食べてください」


「……ふむ。原警部もたまにはいい意見を言うんだな」


そういうと、田児は自身が注文したマルゲリータピザの1/4を原警部の皿にべちゃりと置いた。

質問に答えてくれたお礼品かと思いきや、今度は警部のモッツァレラを1/4奪い取った。どうやら、ただ食べ比べをしたかっただけのようだ。


「うん……やっぱマルゲリータの方が旨いな。交換するんじゃなかったよ」


「…………」


それから間もなく、残りの料理も全て運ばれてきた。

ほどなくして、何やら奇怪な音がしてきたので原警部は恐る恐る音のする方へと顔を向けた。

そして、その姿を見て思わず声を荒げる。


「ちょ、ちょっと田児さん!何ちゅう食い方してるんですか!?」


事もあろうに田児はカルボナーラを箸で啜って食べていたのだ。


「何って、見ての通りだよ」


あきらかなマナー違反だと言うのに、悪びれる素振りが一切ない。

もっとも、悪いと思っているのならそもそもからしてそんな食べ方などしないのだろうが。


「いいかい、原警部。外国人はラーメンを食べるとき、箸ではなくフォークを使うだろ?で、あれば我々日本人がスパゲッティを食べるときにフォークではなく箸を使ったとしても何ら問題はなかろう?」


「あ、はい。そうですね」


原警部は知っている。

田児がよくわからん屁理屈をこねている時は、よくわからんけどとりあえず『そうですね』と言っておけば、よくわからんけど相手が満足する場合が多いことを。



─料理も食べ終え、一段落したところで原警部が口を開く。


「田児さん、そろそろ事件について話をしてもよろしいですか?」


「あー、うん。いいとも」


食事が終わったとは言え、直後では胃に食物が残ったまま。これでは食事中と大差ない。

田児は露骨に嫌そうな顔をしていた。


「はぁ……分かりました。では、被害状況に関しては端折(はしょ)るとしましょう」


「え!?端折っていいの!?」


「えぇ……まぁ。それはいいんです。被害状況は犯人を特定するのに重要な情報のわけですが、今回はすでに犯人の特定ができていますので。

西田光一という奴なんですがね、こいつが犯人だということは分かっているのに絶対に捕まえることができないんですよ」


「ははあ。なるほど。証拠が何ひとつ残されていないというわけか」


「いいえ。それに関しては、被害者の爪の中から採取された犯人のDNAがあるので問題ありません。西田もそこから割り出したわけですし」


「ふむ……では、西田の潜伏場所を捜してほしいというわけか」


原警部は顔をしかめ、言いにくそうに答える。


「いいえ。西田がどこにいるかはもう分かっているんです。西田光一は……4年も前に他界しているんです!」


現場から採取した犯人のものと思われるDNA。しかし、その人物は既に亡くなっているという。

原警部の話を聞いた田児は、くだらんと言わんばかりに嘲笑する。


だがそれは、原警部があり得ない話をしてきたからではない。警部ともあろうお方がこの程度の謎も解き明かせなかったからだ。


「原警部、君は少々……いや。かなり頭が固いようだな。『撰集抄(せんじゅうしょう)』を読んだことはあるかね?」


「いえ……読んだことも、聞いたこともありません」


「その中に『西行高野の奥に於いて人を造る事』という話があるのだが……要するにだ。高野山で暇を持て余した西行法師は山に落ちてる人骨を集めて死者を蘇らせた、というお話だ」


今は科学の時代。超常現象の話題を耳にすることが少なくなってきた……が、この手の話題が完全になくならないのは何故か?

馬鹿にするため?謎が解明される瞬間が面白いから?……否。

この世には科学では説明出来ない未知の力が存在するからだ。


とは言え、人を蘇らせるのは禁忌中の禁忌。人の(ことわり)、世の(ことわり)に反している。

田児は警部の無知を嘲笑していたが、このような外法の術が世に知られていないことは当然といえた。よしんば、知っていたとしても使う者などいようはずが()()()()


「つ、つまり西田光一を蘇らせ、被害者を殺害するよう仕向けた真犯人がいるということですか!?」


「あぁ……そして、そんなことが出来るのは西田光一の人骨を手に入れられる人物に他ならない。

 西田光一の親族を徹底的に洗いだせ!」



─後日

名探偵田児朗の推理通り、西田光一の親族が……

光一の双子の弟、西田光次(こうじ)が逮捕された。

しかし、彼は一貫して兄光一を蘇らせた容疑を否認している。

 

とは言え、今は科学の時代。

[現場に残されたDNAが西田光次のものと一致した]という(てい)で逮捕に踏み切ったのだ。

DNAは他人のものと一致することがない、と言われているが例外はある。

1つの受精卵から分裂して生まれる一卵性双生児はお互い同じDNA型を持つのだ。


名探偵田児の推理が間違っているわけがないのだから、光次は光一を蘇らせたに決まっている。

光次はそのことを否認しているが、警察としてもそちらの方が都合がいい。裁判になり、犯行の手口すなわち、死者を蘇らせる外法の術の存在が露呈してしまえば世界中がパニックになる。


真実を隠して逮捕に踏み切ったことは心苦しいが、この世には知らないほうがいいことも……いや。知ってはいけないこともあるのだ。


この物語は一部フィクションです。

死者を蘇らせてはいけません。

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