説明を求めてくる奴に限って、言い訳はするなと怒鳴ってくる
この物語は一話完結です。
途中からでも楽しんで頂けます。
ここは都内にあるごく普通の公園。
いや、普通の公園だったというのが正しい言い方だろう。
何せ、この公園には普通とは言い難い物……人間の胴体が転がっているのだから。
今、現場には複数の警察官が集まっている。
その中に一人、警察官でない男が佇んでいるのだが「何故関係のない男が現場に来ているんだ」などと文句を言う者はいない。
男の名は田児朗。原翔也警部が呼んだ私立探偵だ。
警察は縦社会も縦社会。上司の言うことには絶対服従。部外者が現場に入り込んでも文句など言えるわけがない。
「被害者は目の前にいるというのに、それが誰かもわからないなんて……」
そう言い終えた原警部が歯ぎしりをする。
このような残虐な行いを平然とやってのける犯人に……そして何より、被害者を目の前にして何の手掛かりも掴めぬ自分自身に対して激しい怒りがこみ上げていた。
そんな警部を煽るかのように田児が呟く。
「これは、警察への挑戦状だよ」
「挑戦状?」
「何故犯人はバラバラにした遺体の胴体部分のみ晒すような真似をしたのか……
顔がないからそれが誰なのか認識出来ない。手足がないから指紋もとれない。それどころか下半身もないから男なのか女なのかさえ分からない……犯人はこう言っているんだよ。
『手がかりは残してやった。捕まえられるものなら捕まえてみせろ』と」
それを聞いた原警部の顔が先ほどまでと比べものにならないほど紅潮する。
「な、なんて奴だ!許せん!一刻も早く犯人を─
『捕まえてやる』
そう続くはずの言葉を田児が制しする。
「それこそ犯人の思うツボだ。冷静になりたまえ。我々が成すべきことはただ一つ……」
「そ、それは一体!?」
「待つことだ。君も少しは休みたまえ」
被害者の特定方法は至ってシンプル。
検視の結果、遺体は死後1日から2日経過していることが分かっている。
つまり、一昨日以降に行方不明になった人物から該当する者を探せばいい。
その作業は今、部下たちがやってくれている。
現場に来ても何も得るものはなかったのだから、田児の言うように大人しく部下の報告を待つのが正しい判断なのだろう。いや。それ以前に正しいもなにも、選択肢はそれ以外にない。それ以外にない、のだが……本当にそれでいいのだろうか?
焦りが表情に出ていたのだろう。その様子に気づいた田児がつかつかと警部の元まで近づいてきた。
「てめぇ!僕の話を聞いてなかったのか!?休めっつってんだよ!!」
「ぶべらッ!?」
原警部が素っ頓狂な声を上げる。それもその筈。田児朗が右手で警部の頬をビンタしたのだ。
彼だって本当はこんなことしたくなかったはず。殴った手だって痛い。
それでもやらなければならなかった。
疲弊している警部を無理矢理にでも休ませるために。
田児の熱い思いが通じたのだろう。原警部はベンチにゆっくりと腰を下ろし、頬に手を当て休憩に入った。
座り込むこと数分。原警部のもとに電話がかかってきた。
「何!?本当か!?……うん、うん、そうか……分かった。すぐそちらに向かう」
通話が終わるとすくと立ち上がり、田児のもとへ駆け寄った。
「田児さん、被害者の身元が判明致しました!」
「何!?もう分かったのか!?日本の年間行方不明者数は8万人を超える……平均して一日およそ220人の行方不明者がでていることになる。つまり、2日で440人。それをこの短時間にもう調べ上げたというのか!?」
「あ、いえ、調べていたのは都内の行方不明者だけでして……」
「ア!?てめぇ!被害者は都外から運び込まれてきたって可能性は考えなかったのか!!この、ダボが!!」
事件を解決するには、あらゆる可能性を考えていく必要がある。
無論、早く解決するに越したことはないがそれで重要な手がかりを見落としてしまっては意味がない。
急いては事を仕損じる。
田児探偵の主張は最も。誰がどう見たって名探偵の言っていることが100%正しい。そんな田児が原警部を叱責するのは警部を思うがゆえなのだ。愛ある叱責なのだ。
……なのだが、原警部はあまり悪びれる様子がない。
「すいません……というかですね、被害者は行方不明者から特定したわけではないといいますか」
「は?」
「被害者の頭部が発見されて、歯型を調べたら被害者が分かったそうです。行方不明届けは出されてすらいませんでした」
被害者の身元が判明したというのに、田児は怪訝そうな顔をしている。自身の推理が外れたから拗ねているわけではない。
原警部が言い訳をしだしたからだ。
自分をことを棚に上げ、結果論で全てを語るのは愚か者以外の何者でもない。
「……で?被害者は?」
「金田樹35歳。外科医で、都内の一軒家に妻と二人暮らしをしています。では、被害者宅へ参りましょう」
張り切ってパトカーに乗り込んだは良いが、参るも何も5分で着いた。道路が混んでいなければもっと早く着いていたことだろう。この調子なら、歩いて行った方が早かったかもしれない。
呼び鈴を鳴らすと、若く美人そうな女性が出てきた。
何故「美人」と断定しないのか?
突然の訪問のためかメイクはしておらず、髪もぼさぼさ。目は落ち窪み、疲弊しきった表情をしていたからだ。
「はい、どちら様でしょうか?」
「警察です。ご主人が遺体で発見されました」
「あ、あぁ……ごめんなさい。ごめんなさいぃぃッ!!」
警部はまだ何にも言っていないのだが、女は勝手に全てを自供した。
日頃から夫からのDVに悩んでいた妻は花瓶で夫を撲殺した。
事件の発覚を恐れ、遺体を処理しようとしたが女1人の力ではどうしようもない。悩んだ末、夫を少しずつ運ぶことにしたのだ。
「車の免許も持っていないから徒歩で運ぶしかない。だが、それにも限界があった……だから、切断された遺体はこの家の周辺に置かれていたというわけか」
「……はい」
「力のない女性が遺体をバラバラにして処理してしまうというのはよくある話しだ。だから、今回も当然その可能性が高いと思っていた。これで一件落着だな」
田児探偵がにこやかに微笑む。彼の発言に口を挟む者は誰一人としていない。
事件は無事に解決された。終わりよければ全てよいのだ。
この物語はフィクションです。
警察を殴ってはいけません。




