第6話 紅の魔物
オンラインRPGゲームの攻略上大事なことは三つあると思う。
一つ目は、武器・防具を強いもの、適正度の高いものを使う。
二つ目は、相手の行動パターンを知り、回避か、攻撃か、などを決めること。
三つ目に、仲間と協力すること。
俺は武器最弱・防具最弱・相手は初見・仲間は……
そうだ、今は、仲間がいる。でも、彼女たちとパーティーを組むのは初めて。それどころか、この世界に来てからは、あいつ以外パーティーを組んだことがない。メリアとナナはパーティーすら組んだことがないと聞いたことがある。風の噂というやつだ。
仲間と協力するってことは役割を決める必要がある。よくある四人パーティーは、タンク・剣士・魔導師・サポーター又はヒーラー。
タンクが攻撃を防ぎ、剣士が近接攻撃、魔導師が遠距離攻撃、でダメージを与え、サポーター・ヒーラーが回復、ステータスブーストを行う。
この状況でどう戦えるか、どういう戦術を取るべきか……。
俺は魔導師、でも魔力不足は否めない。剣士なら、魔力の心配はないから、剣士役に回るのが無難だ。
メリアは風魔法が使える、でも、彼女の得意魔法は回復だ。街でケガした冒険者がは皆
「エリア様、どうか回復を…… お願いします」
なんて言ってるのを何度も見ていればわかる。後はナナだ。
ナナは、闇魔法を極めている。と、あの『ダークアローズ』を見たら明らかだ。
その他の要素は
敵の大量のスライムたちは全て倒したが、またすぐどこかから出てくるのは明らかだろう。それに厄介なのは、氷魔法だ。氷槍・フリーズ、身動きが取れなければ、攻撃も回避もできない。魔力はこの氷を溶かすために使おう。
そしてもう一つ、スライムの柔らかすぎる肉質。剣で切っても、魔法を撃っても、全ての攻撃が表面を軽く削るだけ。その奥にある核を破壊する。それしか勝つ方法はなかった。
「メリアは回復と氷槍の破壊を頼む」
「わかりました」
「ナナは小さい方のスライムを俺に近づかないように援護頼む」
「了解っ!」
俺は長い剣で核をひと突きしてやりますか……
「ナナ、剣持ってない?」
「剣? 短剣なら持ってるけど、あいつには歯も立たないんじゃない?」
「いいんだ、貸してくれ」
ナナから短剣を受け取る。
「あれ? 俺の魔力上がった?」
「その短剣のスキルだよ。前のルアンの倍の魔力にはなってると思うよ。
後、ブーストかけるからじっとしててね」
「なにそれ、なんか勝てる気がしてきた!」
ナナは目を閉じ微かに聞こえる声で何かを唱える。
全身が、熱いんだけど、これ大丈夫か? まあ、やるっきゃない
「てことで、いっちょかましますか!」
「はい!」「やってやるぜ!」
俺は両手に短剣を持ちハデスの元に飛びかかった。
メリアは両手を合わせ、飛んでくる氷槍に風の力だけで破壊する。
ナナは両手を前に出して唱えた。
『ダークアローズ・シャワー』
闇の結晶の矢が天に打ち上げられ、次々出てくるスライムたちを倒していく。
※
「なぁ、もう何時間だよ」
「壊しても壊してもあの槍出てきますよ。魔力量おかしいですよ」
「ミニスラ達も多いな」
みんなもう息を切らしかけていた。
何か、思い付け、って、あっ。
足元の氷を溶かすのに撃った『ファイボ』によって足元が溶けて転んでしまった。
「これ使える」
とっさに思いついた。短剣の刃の部分を水につけ、唱える。
『フリーズ』
「これで、氷剣の完成ってよ」
その名も
『棒アイス・大作戦!!!』
高校に通っててよかった。テレビいっぱい見ててよかった。
そして、思い出せないけど。「——君ソーダ」っていう、かき氷のやつ。ありがとう! 色が似てたから思いついたよ!
両手に刃先二メートル程ある氷剣を持ちハデスの核を狙う。
「メリア、核はどこだ」
「目と目の間のずっと奥です」
「ナナ、あいつを削れる分削って少しでも、刃が届くようにしてくれ」
「言われなくても、やるつもりだよ!」
深く地面の氷を抉り、飛ぶ。氷槍が飛んでくる。
『ウォルウィンダーズ』
メリア、ありがとう。一瞬にして、その槍は、イオンと化した。
後、ちょっと。その時、ハデスの頭の上から、氷塊が飛んできた。威力は前の数倍。いや、数十倍と言える程だ。まともに当たったら即死だ。逆にいうと
「当たらなきゃいいってことだろ」
そう言って、氷塊を踏み台にして、ルアンは逆にスピードを上げていく。
「ナナ、頼んだ」
ナナは全魔力を使い闇の結晶を小さく圧迫していく。
『ダーク・ウェーブ』
レーザーのように速いその波動はハデス・レッドキングスライムの目の間を吹き飛ばす。氷剣の先を二本重ね、核めがけて突き刺す。残る魔力は全て使う。
『ファイアーブレス』
それは、中級魔法、剣先から炎が吹き出る。
バリンッ
核が割れるのと同時に短剣の刃は二本とも折れた。
「あああァァァァァァァーーーーーーー」
その咆哮はルアン、メリア、ナナを吹き飛ばした。
【クエストclear】
レッドキングスライムの子分と思われる。スライム(ミニスラ)とともにハデスは消えていった。
俺のレベルは十四から二十になっていた。
「あの魔法は中級魔法ですよね? ルアンさんは初級魔術師なのに」
メリアは驚いていた。
「ミニスラのおかげでレベルが上がってたみたい
紅の魔女こと中級魔術師ルアンだ よろしく」
俺は、レッドキングスライム・ハデスを倒したらしい。
そして、称号として「紅の魔女」を手に入れた。
「助けられるのは二回目ですね!」
ナナは少し嬉しそうに微笑んでいた。そして何か目の奥に決意があるようにも思えた。
「戻りましょうか」
落ち着いた口調でナナは言った。
で、戻ってきたわけだが、
「メリアさん。お話というのはなんですか?」
「レベル二十達成と称号獲得おめでとうございます。
そこで、中級魔術師へ昇格の手続きと、少しお礼をさせてください。今回は、逃がしませんからね。
まず、二つ名は【紅の魔女】でよろしいですか」
「おう。魔女ってのが気になるけど、かっこいいし、いいよ」
「かしこまりました。次に、使う武器の種類についてです。杖で魔法を唱えるか、剣で魔法を撃つか、どうしますか?」
「それって釣り合ってるのか? どう考えても、剣の方が良い気がするが……」
「ご説明します。杖を用いた方が魔法の威力、魔力量ともに三割増になります。剣の場合魔法の威力は劣りますが、全属性の魔法が撃てるようになります。発動時間も大幅に早くなります。何より、魔力切れでも戦える。というのがいちばんの利点でしょうか」
なるほど、今までの俺なら迷うことなく杖を選んでいただろう。だが、パワーと体力にスキルポイントをふったせいで、俺の魔力量は極めて少ない。初期魔法十発撃つと八割使ってしまうほどだ、それに、あの時の二刀流地味に様になっていたように思う。
「じゃあ、剣使うことにする。二刀流で。前代未聞だろ?」
「初めてですね。フフっ」
初めて見たその表情は、繕った笑顔ではなく、心からの笑顔だった。と思う。
「手続きはこれで終了です。お疲れ様でした。
お礼の話は、レストラン『いま何時?』でしましょう。ナナも言いたいことがあるようですし。」
「わかった。じゃあ、ちょっと寄りたいところあるから、『いま何時?』で待ち合わせでいいか?」
「はいっ」
ボスを倒したルアン!
新しい、冒険が始まる!