第5話 再会
あの時から一ヶ月くらい経った。
その間、俺は片っ端から可愛い女子に声をかけた。
「あのー、パーティー組みません?」
「ごめんなさい。私、強い人じゃないと信用できなくて」
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「こんにちは! クエスト手伝ってくれませんか?」
「レベル何か教えて貰っていいですか?」
「十四レベルです。君は?」
「ごめんなさい」
走り去っていく。
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俺は考えた。俺が使える魔法はなんんだっけ?
『ファイアボール』
『フリーズ』
『サンダー・ボルト』
初級魔術師が使える魔法三点セット。
俺は気がついた。
弱い、俺って弱い。
ここ最近のクエストを思い出そう。
ランタンカボチャの収穫
【あれはまさに、ハロウィンのときのカボチャだった】
ゴブリンのツノを折れ
【その名の通り、ツノが生えた特殊個体の討伐】
ニジ色に輝く、マス
【半日程度で五匹……であった】
レストラン『いま何時?』
【皿洗いだった。因みに、ここはずっと夜だ】
ろくなクエスト受けて来なかったな。
ソロでいけるクエストはこのくらいだったし仕方ないよな。
でも、
「これじゃ、誰も助けらないじゃねーかよ。
弱すぎて」
武器も防具も新調して、ダンジョン探索ってのもやんなきゃな。
とりあえず、ギルド行くか。
あの時以来、メリアにもナナにも会っていないかった。否、本当は会ってはいた。
ギルドで見かけたりしたら、とりあえず逃げる、隠れる。
を何度かしたぐらいだが。
「あの、レベル上がりそうなクエストありますか? あ、ソロでいけるやつで」
「またソロなんですか?
もういい加減、仲間を見つけてはいかがですか?
まぁ、一応ありますよ。先ほど入ったばかりのものでもいいですか?」
「もちろん。で、なんてクエストだ?」
「えーと、これです。
『緊急クエスト・救助要請スライムの長』
スライムの長? 初耳ですね」
「まぁ緊急ってことはいますぐか?」
「はい! 急いでください!!」
魔法陣の展開できるところまで走る。
あの、草原だ。
「急ぎでいきますね」
すごい速さで魔法陣を作る。
このギルドのお姉さんは優秀みたいだな。
どっかの殺されかけるドジな人より。
このテレポートの感じも慣れたもんだ。
ここは、五階層だな。
レベルの割に九階層まで行ったことがあった。
久しぶりの五階層だし、こんなとこに凶悪なモンスターなんていたっけ?
なんて思ってる場合じゃなさそうだな。
「マップ表示」
視界の右上にマップとクエスト対象エリアが表示された。
二人いる?
赤いアイコンが二つあったのだ。
これは、人間?
確か人間は赤く出るってルールブックに書いてあったから、この人たちを助ければ良いんだな。
前、来た時と印象変わった気がする。
俺はこの階層をダンジョンとは思えなかった。
魔物が一切いない、気配すらないのだ。
考えられないほどの静寂の中、滴り落ちる雫の音波が漂い、底流が響き渡っていた。
一歩を踏み出すと、岩と履き慣れない金属音が聞こえる。
それらは、耳だけでなく肌で感じるほどだ。
洞窟の中ではあるが、景色はこの世のものとは思えなかった。
複数の魔鉱石が淡い紺碧の光を発する。
水たまりの水は、その光を吸い込み、翡翠色の光をやさしく霧となり自ら漂わせる。
まさに「神秘的」と言えるその光景に、夢か現実か、全くわからない。
本能というものは凄いものだ。
感動してもいいこの状況下で恐怖を感じている。
この光景は、異様すぎた。
俺は、左手に短剣を握る。
目を耳を、研ぎ澄ます。
「あと少しだな、このエリアのどっかに二人がいるはずなんだけど……」
「たす、けて……」
微かにに聞こた。そう遠くない距離から聞こえた。辺りを見渡す。
「ん? 何か光った?」
足音を見る。エメラルドのついた左のピアスがあった。
近くに、いるってわけか。目を閉じ、聴覚に全てを託した。
——パリッ
上から何かが落ちてきたのか?
目を開け見ると、エメラルドのついた右のピアス。
更にはヒビの入った氷の床。
周りを見ると、入り口も出口も氷に覆われている、それどころか、ドーム状に高く伸びた天井に、吊るされた二人。
俺は目を疑った。
「困った奴らだな、いつぶりだ?
一週間ぐらい?
いやもっとだよな。こんな再会の仕方になるなんて、俺ら結ばれてんじゃね?」
そこには、下から見てもわかる印象的な人物。
「ってパンツ見えるって、なんで、探検にスカートなんて履いて来てんだよ」
そこには、メリアとナナがいたのだ。
もう、最高だ。
じゃなくて、早く助けなければ。
「ちょっと暑いかもだけどいいか?」
それにしても返事がない。ちょっとまずいな、
『ファイボ』
俺は呪文省略を習得していた。
これは面倒くさがりのスキルかなんかだろう。
炎の塊が二人を吊るしていた氷の柱に当たった。
氷は溶けていく、ゆっくりゆっくりと。
溶けたはいいけど、どうしよう。
一人で二人受け取るのは厳しいな。
天井からは雫が滝のように落ちて来てるし、俺が使えるのは三種類の呪文のみ。
考えろ、考えろ。
「あっ、俺天才かも。閃いた」
でも時間がない、急がないと。
二、三メートル後ろに飛び、
『ファイボ 二連発』
床に二発のファイアーボールを撃った。
その氷は溶け、溶け、床全面溶けた。
二発はちょっと多かったか。まあ、ここは俺の腕の見せ所だな。
「見てろよ、この妙技!」
『フリーズ・ミニ 十連発』
メリアたちが落ちるであろう場所を推測し、そこだけ凍らないようにして
『自然のプール』
この技をそう命名しよう。
バッシャーん
二人が落ちて来た。駆けつけ、引っ張り上げる。
「おいっ、しっかりしろよ!」
「ん、ル、アン?」
「ルア、ん……」
必死に、回復ポーションを飲ませた。
残るポーションはあと二つ、だが、助けたい。
だから、
「もういい、使っちゃえ」
できる分の回復はした。後は、火をたいて暖めてあげよう。
今日は、やけに寒い、さっき溶けていたプールももう凍っていた。
『手のひら ファイボ 二分割』
両手にそれを持ち、二人を温めた。
『死なないで』
それしか考えられなかった。
何分いや、何時間経ったのだろうか。
早く起きてくんないかな。
「ん。んっ」
「ん。んっ」
起きるときも息ぴったりだった。
姉妹っていいな、なんて思う。
生きててよかったとも思った。
「助けてくれたのですか」
「久しぶりだな、こんな感じで会うとは思ってなかったよ」
「それより、あの魔物は、どこに行ったのですか。倒したんですか?」
「魔物?
まだ一回も見かけてないけど」
「ええー」「ええー」
なんか嫌な予感がするなぁ。
確かこのクエストってスライム討伐だったよな。
それにしてはおかしいな。
この二人がスライムにここまでやられるとは思えない。
それに、あの氷の魔法。強力だった。
魔法が使える魔物は初めてだ。
その魔物はここに戻ってくるだろうな、吊るして終わりなんて優しい奴な訳ないしな。
「そいつってスライムだったか?」
「スライムと言えばスライムだけど、大きくて、赤かったんですよ! それが」
「もしかして目が……」
「目だけじゃない、全身が、真っ赤で大量のスライムを連れていて......
後はもう記憶がなくて、ごめんなさい」
「いや、生きていてくれてただけで十分だ」
ナナ、メリアとはあのとき以来だ。
今日のナナ、やけに静かだな。やっぱ前のこと気にしてたりするのかな。
もう冒険者のこと嫌いになるよな。
しょうがない、よな……
※
「助けてくれて、ありがと……」
ナナは泣きながら、必死に言っていた。涙が、何粒も何粒も落ちている。
「怖かったんだな、
もう大丈夫、この俺がいる。
ナナの命は俺が守る」
その瞬間、叫び声とともに巨大な氷槍が飛んでくる。
『ファイボ』
ってあれ?
出てこない、なんでだ?
魔力ゲージ一割の残ってないってマジかよ。
氷槍は勢いを増し飛んでくる。その奥には、赤い悪魔、レッドキングスライムがいた。
轟音がなる。
俺終わった。
そう思った。
「次は私たちの番ですよ」
「はいっ。もちろんです!」
ノン姉妹は呪文を唱えることなく魔法を撃った。
メリアの風属性魔法とナナの闇属性魔法が混ざり合い、円盤状の盾を一時的に生成、氷槍は粉々に消えた。
危機一髪、助けられた。
「今回は、不意打ちとは行きませんよ」
「さっきのお返し、してあげる。」
『ウォルウィンダーズ』
『ダークアローズ』
六つの竜巻が闇の魔力の結晶となった槍を何十、何百とかき乱す。
風が吹き荒れ、光を闇の結晶が吸い込み、暗黒に包まれた。
この上級魔法により、周りにいたスライムたちは全て消えた。
だが、その暗黒の中に
「目が、赤く光ってる……」
「目が、赤く光ってる……」
「目が、赤く光ってる……」
三人とも、いやパーティーメンバーみんなが口を揃えて言った。
そこには、赤い悪魔がいた。
「俺の名前、
『ハデス』
レッドキングスライムだ」
その銅鑼のような声は低く、響き、地面が軋む音まで聞こえた。
俺、こいつ倒すの……。
きつくね?