第2話 チュートリアル
「まず、改めて自己紹介させていただきます。メリア・ノンと申します。
私はこの世界、ターミナルの管理者です。
ターミナルには、あなたのような人達を無数の世界にもう一度転生させるか、または出来損ない
——この世から消えてもらうべき存在——
かを判断する組織があります。それが
私が所属する
『冒険者ギルド』
です。
まず、手続きのためにクエストカウンターに移動しましょうか!」
ベッドを降り、薄暗い部屋を出て、階段を降りる。今にも底が抜けていきそうな床、一階には二枚びらきの扉があった。
メリアが扉を開け、俺は外へ一歩を踏み出す。そこには、一本道に沿って数百戸いやそれ以上建物が横に並んでいる。
空は闇に覆われている、でも、俺には宿舎・防具屋・武器屋の薄暗い灯が輝いて見えている。その光景は、海外での屋台・祭などを想像させる。
五分ぐらいたったかな?
そんな風に思った時だ。目の前には、今まで歩いてきた中で見たことの無いほど大きく高級ホテルのような高貴さを持った建物の入り口。1、2、3、4、5…10枚にも及ぶ扉の数。広すぎる横幅。
ターミナルのシンボル、地球で言うなれば『太陽』とでも言えよう。何故か胸の鼓動が一歩踏み出すほどに増していく
一歩一歩と進んでいき、メリアが扉を開けるとそこには大量の人がいた。
俺と同じ人間、人間界での出来損ない。死ぬ時期を見誤った者たちが。
メリアがギルドカウンターに入り、俺を呼ぶ。
「どうぞこちらへ!」
前を進む他、選択肢はない。
これがこの瞬間が、俺の人生のターニングポイントだと思うから。否、それは真実だから。
「あ、はい」
「この世界はターミナルつまり一時的な『終着点』と呼ばれております。ターミナルでの冒険者名は何になさいますか?」
メリアは、慣れたように話を進める。
「俺の名前は
『ルアン』
で良いかな」
無意識に降りてきたこの名、なぜかはまだ分からない。いつかわかる。俺は根拠のない自信がある。
「分かりました『ルアン』さん。
次は、職種決めとなります。ターミナルでは魔力・スピード・攻撃力・体力などはレベルアップの際にスキルポイントを自分好みに振り分け、自分で上げていくことになります。
多少初期値に差はありますが、気にならない程度です。だから、お好きな職種を選んでそれに合わせていけば良いと思います」
ターミナルつまりこの世界は俺を勇者にすること。や、俺様最強〜!! なんて言わせてくれないみたいだ。
でも、スタートはみんな一緒ということを証明する言葉でもある。
だから、ターミナルは、才能よりも
『努力と運でどうとでもなる世界』
ということだ。
ある意味俺にとっては好都合だったかもしれない。なぜなら、俺は努力から逃げてきた人生だったその人生からようやく変われる機会を与えられたということだからだ。
「職種は、派生型となっています。初めは初級剣士と初級魔導士
レベル十五で大剣、片手剣使い、サポーター、中級魔導師、ヒーラーなどと選択していく事になります」
俺は決めていた。どのゲームでも魔導士つまり魔法を使うキャラを使い続けていた。現実離れしていたからということもある。だが、魔法では仲間を回復できる。隙あれば攻撃もできる。仲間を殺さなくていい、見殺しにしなくていい。
だから、今回も
『魔導士でいく』
その瞬間、彼の体は淡い光に包まれる。
全身になにかが装着されているような感覚がする。
それと同時に過去の俺の記憶が薄くなっていく、学校のこと、政治の事、昨日のニュースのことが消えていく
俺は、転生時、メリアに会った時、そして今、三度に渡り記憶を消した。
残ったのは、人間界での常識。例えば、「一日は朝と夜がある事、学校という場所で色々学ぶ事。消えたのは「思い出」が全てだ。
「記憶を取り戻しこの世界を出る方法は二つあります。
一つは、ダンジョン最上階で、最難関クエストをクリアする事。記憶はもちろん、次の世界への明るい道。つまり明るい未来を私たちが保証します。
二つ目は、死ぬ時、つまりこの世から存在を消す時、思い出は数分間だけ戻り、意識と共に消えていきます。
今日からあなたは
『ゼロからのスタートを踏み出します』
頑張って明るい未来を勝ち取ってください!」
その表情は悲しさを抑えるかのように微笑んでいた。俺にはそう見えた。彼女の心に何があるのか俺にはわからなかった。
「おう、頑張らないとな」
これから第三の人生の為の第二の人生ってか。笑みがこぼれた。
「まず、チュートリアルで実践してみましょ!」
「チュートリアルか、パスできない?」
「駄目ですよ! ご自身の命がかかってるのわかってるんですか!!」
ゲームのお約束、チュートリアルの時にskipって必ずあるんだけどなぁ。仕方ない。
「わかった、わかったやるよ」
「メリアが仲良くやってるなんて、めずらしいですね。いつもあんな顔して素っ気ない感じ出してるのに……」
「その言い方はなに? もー」
「ちょっと待って、もしや妹のナナ?」
「はい! 申し遅れました。ナナ・ノンです。よろしくお願いします」
顔は無駄に可愛い……幼さが残る感じと親しみやすさがあり。歳は一つか二つぐらい下だろうか。
「こいつら親どうなったんだ?
姉妹揃って可愛すぎんだろ」
「何か言いました?」
やばい、心の声が出て来るなんて人生初だよ、多分。まぁさっきので記憶ないんだけどな。
「な、なんでもないよ」
家族ってこんな感じなのかな、あったかい。
「では、クエスト受注お願いします! 初めのクエストは
『チュートリアル』
です! パーティーメンバーが一人必須ですので、誰か誘ってください!」
え、クエスト名そのままかよ。それもパーティー組めって言ってもよー。こうするしかないか。
『あのー!! クエストっ!!手伝ってくれませんかーー?』
緊張で声が裏返り、それに対して、ビア(ビール)を吹き出した奴が数人いただろうか。いや、確実にいた。が気にしない、堂々と、堂々とするんだ。そう言い聞かせる。
「あ、あのー......」
こんな青ざめた顔に話しかけてくれるなんて優しい人だ! イケメンか可愛い子だ! 俺は確信した。
でも、その声はどこかで聞いたことのある声だった。