第1話 始まりの欠片
俺は普通の高校生だ。
友達にはよく、『ただの普通の優しい人』なんて言われている。
毎日学校には行きたくなかった。否、時々行かないことはあった。
あれは、いつの話だっただろうか。
俺は自分の名前がわからない、忘れたんだ。殺されたあの瞬間から家族の名も友も思い出せない。
だが、覚えていることもある。自称進学校に通っていたこと、RPGゲームにハマったこと。
そこで攻略サイトにも載っていないNPCとは違う、人の心を持ったものに出会ったことを。
それはバグとも言い難い。
何故なら彼女には完全さの中に、一つだけ不完全が残っていたからだ。
あの美しい純白で透き通っていた髪色、編み込まれた髪の中に輝く翡翠色の髪留め、人間離れしたあの顔、心が暖かくなる声質。
そして、あの悲しそうな表情を……。
何が彼女を苦しめるのか。彼女は、どこにいるのか。
会いたい、話したい、救いたい......
確か、彼女の名前は
『メリア』
と言った。
メリアは突然として姿を消した。
ゲームのストーリーには全く関係なく、心惹かれる要素はなに一つなかっただろう。でも、胸の奥には刺の刺さった感覚が残っていた。あれは何だったんだろうそう思っていた。
思い出したくないことも覚えている。それは学校帰りに、くだらないこと。具体的には、早く家に帰りたい。そんなことを考えていた時だと思う。
「きゃー、逃げてー」
「はァ、はァ、はァ、はァ……」
その瞬間、俺は意識を失った。
そう殺されたのだ。
この程度しか覚えていない。
俺は今暗闇の中にいる、だが、不思議だ。
急に一つの光が俺の目に映る。
全力で追いかける、近づくにつれ徐々に、全身が光に包まれていく感覚がある。
——起きて! 起きて! 早く起きて——
その瞬間、俺は意識を取り戻した。
「ここ、どこ? ってメリア?」
「ここにいては危険です!」
あたり一面、炎で焼き尽くされている。刺された時の熱さとは違う、全身を包み込むような熱さ。
「テレポートッ!!」
また、光が俺を包んでいく。感じたことがない感覚だ。
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「起きてください、起きてください」
「ん、んー。
あなたメリア、さんですよね?」
「はい。お久しぶりです」
あの美しさそしてあの表情。俺は安心した。心が暖かくなった。初めての感触だ。
「ってちょっと! 大丈夫ですか、意識が!」
あれ、眠い。メリア、メリあ、めり□、□り□、□□□……
メリアの存在が消えていくと同時に、俺の意識も遠くなっていく。
※
「ん、」
俺が居るのは古民家のようで八畳くらいの部屋、薄暗い光に照らされて起きる。右手には誰かの温もりを感じる。
「大丈夫ですか?
もー、ほんと心配かけないでくださいよ。
メリア、です。
覚えて、ますか?」
「ちょっと、待ってくれ。色々説明してくれ。ここは、これはなんなんだ?」
メリアといった彼女は微笑みながら言った
「それが先ですよね......
わかりました。簡単に説明させていただきます。
『あなたは死にました。
ここはあなたのような予定外の死人を救済するための場所です。ですが、転生前に私は助けて欲しくて…… ではなく、観光していた時にあなたに会いました。
その時、あなたは私と何故か結ばれてしまったようです。だから、今、付き添っている。お世話をしているということです。
あなたが転生された時、私はダンジョン五十階層『豪炎の間』というクエストの救助に行っておりまして、ちょうど、そこに転送されてしまいました。そこであなたは熱さによって意識を失ってしまった』
と、いうわけです」
「なんとなくわかった。でも、君のことを思い出せない。こんなに可愛い子忘れるはずないと思うんだけど……
メリア、俺の記憶にそんな人いないんだよ」
彼女が何をいっているのか、理解が追いつかない。でも、まだ天国で楽しく、なんて行かないことはよく分かった。死んでもまだなお、試練がある。とそれだけは察した。
どこかでメリアに会ったことある気がするのは確かだ。
それは、『メリア』その言葉を聞くと俺の胸は苦しくなるから。
「とりあえずあなたの名前と職種を決めましょう!
この感じ、あなたのいた世界と私達を繋ぐRPGゲームとやらに似てますね、大きくひとつ違うとしたら。
——ここでの死は永遠の死——
です」
次回:チュートリアル