広がった世界の弊害
遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。
新世界暦1年9月20日 日本国東京都小笠原村 海上自衛隊硫黄島航空基地
火山活動の停止により、大規模な港湾整備と飛行場拡張が行われている硫黄島だが、飛行場拡張の方はせっせと地中探索して壕が見つかれば遺骨収集、という繰り返しなので思うように進んでいなかった。
港湾の方は、とりあえず仮設桟橋が設置されたので、重機や資材輸送をおおすみ型輸送艦に頼る必要がなくなり作業ペースの向上が期待されていた。
そんなわけで、特に飛行場設備自体は今のところ従来と差はないのだが、常駐戦力として海上自衛隊のP-1対潜哨戒機が12機、航空自衛隊のF-2戦闘機が16機とE-2D早期警戒機が4機配置されていた。
今のところあくまでもローテーションで各部隊の持ち回りだが、今後の自衛隊の戦力増強で新設される飛行隊が置かれることになっている。
本来ならこんな離島に大規模部隊は置きたくないのだが、日米航路の警備に使える基地がここくらいしかないのである。
南鳥島にも滑走路はあるが、700mしかないので発着できる機体の制約が厳しく、島も狭いので拡張がきかず、連絡任務もかねて捜索救難用にUS-2が配置されたりされなかったりという程度の利用に留まっていた。
もっとも、隠れた理由としては世界樹島を脅かすいかなる事態にも対応できるように、という意味もあるのだが。
こんな感じの配置転換は日本中で(海外派遣も含めて)起こっているので、予算が増えるとはいえ、実際にまだ実働部隊が増えたり、装備が増えたわけではない現場はヒーヒー言いながら対応しているのだった。
新世界暦1年9月20日 ジブチ共和国ジブチ国際空港 ジブチ共和国における自衛隊拠点
「どうしてこうなった」
訓練のため離陸していくイギリス空軍のタイフーンを眺めながら、新たに再編された自衛隊ジブチ派遣統合任務部隊の司令は呟いた。
もともと、ジブチの防衛は防衛協定に基づきフランス軍が担っていたのだが、世界転移の影響で従来よりかなり距離が離れてしまったので、(フランスが一方的に)駐留戦力を縮小し、防空を担っていた戦闘機も引き上げさせてしまったのである。
これで困ったのはご近所さんになっている日本とイギリスである。
ただでさえジブチの横にはソマリアという問題児がいるので、これ以上この地域に混沌とされると困るのである。
結果、もともと恒久的な基地をジブチ国際空港に設けていた日米と、ソマリアを挟んで一番近所になってしまったイギリスでどうにかするしかなくなったのだが、今の状況でアメリカが積極的に動いてくれるわけもなく、自衛隊は基地警備の名目で派遣していた陸自部隊を増強、イギリスも渋々戦闘機を派遣してジブチ防空を担うことになったのである。
ちなみに、もともと駐留フランス軍を上回る規模の人民解放軍もいたのだが、本土のほうがきな臭いとかで要塞のようになっている自軍基地の管理部隊を除いて、駐留継続を求めるジブチ政府の要請を無視してさっさと引き上げていた。
他国の軍隊を駐留させることで自国の安全を守る戦略をとっていたジブチだが、世界環境の(想定をはるかに超える)激変は、その欠点をもろに露呈させる結果になったわけである。
たまたま日英が(近所で今以上にゴタゴタされても困るので)手を差し伸べたが、自衛出来てこそ独立国家というのは全ての国が肝に銘じなければならない基本事項だと改めて考えさせられた状況だった。
ぶっちゃけ日本としても、そんなことより自国でやるべきことが山積しているのだが、近所になってしまったし、恒久的な基地を設けていた以上、無視するわけにもいかなかったのである。
なお、アズガルドの領土であるドラスト大陸への牽制に使えるかもしれない、という思惑もあったのだが、飛行開発実験団までドラスト大陸で好き勝手している現状では今更である。
「とはいえ、アフリカがこれ以上カオスになっても困るしな・・・」
やれやれとため息を吐きながら、司令は市内パトロールに出ていく軽装甲機動車の車列を眺めるのだった。
新世界暦1年9月20日 日本国東京都 防衛省
「「フネが足りない・・・」」
海上保安庁と防衛省の間で行われた省庁間協議。
議題は航路警備における分担である。
今までのところ民間船が襲われる事案は発生していないが、世界情勢を考えると地球国家はないだろうが、未知の勢力から襲撃を受ける可能性は十分にあった。
そのため船団護衛までは行かなくとも、航路警備を実施しているのだが、多島海内は英国をはじめ、他国も警備を行っているし、勢力の把握も終わっているので問題ないのだが、日米航路はともかく、ユーラシアとの航路を再開しようという段になり、あんな遠くなったのにどうすんだよ、という話になっていた。
すでに海上保安庁は日米航路の警備に「しきしま」「あきつしま」「れいめい」「しゅんこう」「みずほ」「りゅうきゅう」「だいせん」と大型のPLHをほぼ全力投入している状況であり、そのほかに「ひだ」「あかいし」「はくさん」「いわみ」「まつしま」と尖閣警備の負担が無くなったとはいえ、海保の業務にかなりの負荷がかかっていた。
さらに、「しきしま」以外が対空レーダーを持たず、そもそも海保に対潜能力はないのでそのフォローに海自が護衛艦を6隻出している。
米海軍も航路警備を行っているのに過剰ではないか、という意見もあるが、日米航路に何かあるのは経済的にも政治的にも非常にまずいのでこの態勢に落ち着いていた。この上でユーラシア航路なんて話になったので、省庁間協議となったのだが・・・
「いや、ムリでしょ」
「ですよね」
「というか、おたくは大幅に予算増えたからいいじゃないですか。うちなんて下手したら尖閣警備や他国の違法操業漁船が無くなったからって予算減らされかねないんですよ?」
「予算が増えたからって急に人が増えるわけじゃないんですよ?」
そして互いに顔を見合わせて、はぁとため息を吐く。
ちなみに、意外と知られていないが、海上保安庁は海上治安機関としては世界でも最大規模である。
まぁ、その理由としては他国では基本的に海軍のおまけ機関であることが多いのと、島国で世界8位の200カイリ海域を持つ日本の政治事情の特殊性によるものである。
「そもそも、距離が長すぎますよ。航路警備なんて無理ですから、船団護衛でしょうが、無寄港でとなると護衛艦をだすなら補給艦必須です」
「うちだと”しきしま”だけじゃないですかねぇ・・・。あきつしま以降はプルトニウム輸送を考慮してないのでそれに合わせてスペックダウンしてますし・・・」
うごごご、と頭を抱える担当者たちだったが、特に名案が浮かぶはずもなく、とりあえず仮にユーラシア航路を再開するのなら護送船団で、ということで決着したが、船足が全く異なるタンカーやばら積み船などと、コンテナ船や自動車運搬船などをどうするのか、という問題は先送りされたのだった。
新世界暦1年9月20日 日本国東京都 国土交通省
外局の海上保安庁が頭を悩ませているころ、その所管省庁の国土交通省では全く別の問題に直面していた。
「横田空域の返還で羽田と成田の飛行経路を見直せば発着回数を増やせるが・・・」
「その割り振りが問題だな」
国内航空会社への割り振りは適当にやってどこに飛ばすかは各社に考えさせればいいが、国外航空会社への割り振りが問題である。
例えオープンスカイ協定を結んでいても、空港の発着枠の割り振りは別の話であり、これである程度便数をコントロールすることが可能なのである。
各航空会社も民間企業である以上、需要のあるところに飛ばしたいので、必然的に国外の航空会社が日本に就航するなら羽田を希望することになるが、ただでさえいっぱいいっぱいの空港である。
じゃあ、羽田の枠をとれないから、と成田にしたところで過密空港であることに違いはなく、現在C滑走路の拡張工事が進められているが、供用開始はまだ先の話である。
「北米路線・・・北米って呼び方もいつまで使うんだろうな?」
「さぁ?とはいえ、アメリカは南北が入れ替わっちまったせいでややこしいことこの上ないな」
「まぁいいや、北米の航空会社への割り振りはいいとして、他はどこだろう?」
「需要が急拡大してるのはイギリスですね。あとはアズガルドの需要が一時的なものなのか、どうなのか・・・」
「だがアズガルドに日本に就航可能な旅客機持ってる航空会社はないだろ?」
日本の、というか一般的に定期航路の国際線で飛行する機材はアメリカ連邦航空局か欧州航空安全機関の型式証明と耐空証明(もしくはそのいずれかと相互運用の協定を結んだ国のもの)を受ける必要があるので、当然アズガルドにはそんな機材はない。
「なんでも機材購入にいろいろ動き回ってるらしいよ。国内でも大規模空港の建設をはじめてるみたいだし、案外ばけるかもよ」
「中東の例もあるし、金にものを言わせるのならバカにはできんか・・・」
金にものを言わせてバカげた設備と機材をそろえた巨大航空会社を思い出し、案外土地の確保が容易で資源もあるアズガルドは航空会社の立地としてバカにできないかもしれないと思いいたる。
「世界がでかくなりすぎたせいで、また昔みたいに給油寄港とかが必要になりそうだし、今度こそちゃんと空港行政考えないと、日本の空港は軒並みスポークになっちまうかもよ」
「笑えねーよ。それより、今こそ超音速旅客機って話が出てるな」
「ぶっちゃけ、20時間フライトが当たり前になってきそうではあるから、必然的にそうなるわな」
本来なら大規模空港を国内に1つ定めてそこに集中投資するほうがいいのだが、成田のC滑走路は建設中だし、関空と中部も滑走路を増やすなどと言い出し、結局収集がつかなくなって混乱するいつもの通りの空港行政だった。
気づいたら年越して1週間過ぎてた。
とりあえず今年は週一更新を目標に頑張りますので、よろしくお付き合いのほどよろしくお願いします。




