終わりと始まり、そして犠牲
新世界暦1年9月11日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ アラモ伝道所
戦禍がそのまま残るサンアントニオの市街地に、軍楽隊が演奏するスーザの星条 旗よ永遠なれが響き渡り、歓声の中を戦闘を終えたばかりの部隊が行進する。
もっとも、参加している装甲車両のほとんどが自衛隊や英軍のものだというのが、絵面としては締まらないが、米軍主力は敗残兵掃討のためこの後メキシコまで突っ走るので仕方がない。
市街地には擱座した敵旗艦や、撃破された敵戦車の残骸、果ては死骸まで、まだまだそのままだったが、今はとにかく、一つの戦役の終わりを皆で喜び、祝っていた。
敵主力の粉砕は成ったとはいえ、一番面倒な敗残兵の掃討や中米諸国の解放が残っているのだが、明日のことは明日考えればいい、と皆今の空気に酔うのだった。
新世界暦1年9月11日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
「なんとかなったな」
「なんとかなったな、ではありませんよ!」
気が抜けたように言った大統領にCIA長官が噛み付いた。
「敵の核が奪取した5発で全てだったから良かったものの、本当にそうだという確証はどこにもなかったんですよ!?」
ウルズの存在は日本でも数名しか知らないので、今のところアメリカにも漏れてはいない。
まぁ、なんか日本の諜報能力上がってね?みたいな疑惑は持っているが。
「まぁまぁ、上手くいったんだから今は喜ぼうじゃないか。そんな怒ってばっかだと禿げるよ」
「これ以上どう禿げるんだよ!?訴えるぞこのヤロウ!」
すっかり髪が無くなってしまっている頭を真っ赤にしてCIA長官は怒り狂う。
大統領補佐官はそれを横から、怒ってる奴を更に怒らせてどうするんだよ、と呆れたように眺めている。
「しかし、この日付が勝利の記念日というのは微妙だな。祝うのか、追悼するのか」
「まぁ、どの時点で勝ったかなんて曖昧ですから、昨日でもいいでしょう。そんなことは今はどうでもいいですが」
問題は山ほどあるんだぞ、と補佐官は大統領を睨む。
「わかってるよ。少しくらい勝利の余韻に浸っていてもいいじゃないか」
「国民が勝利に酔っている時に後始末をするのがあなたの仕事でしょう?」
どさっと部屋にいた何人かが大統領の執務机に書類の束を置く。
「まず敗残兵の掃討ですが、敵航空戦力は殲滅に成功しました。ただ、問題はその墜とした大型飛行艇の残骸の処分のほうですね。何隻かは降伏したので鹵獲しています」
「現在のところ、サンアントニオ付近で放射能漏れは確認されていません。動力炉自身とそれが設置されている部屋が不必要に頑丈に作られていたおかげでしょうね。捕虜の話では、動力炉は搭載する飛行艇が退役しても取り外して使いまわしていたそうなので、そのせいでしょう」
衣食住を保証してやると協力的になった一部を除き、元々反抗的だった捕虜も様々な説得の結果、協力的になったので様々な情報が集まっていた。
その中でわかったのは、飛行艇の運用寿命は意外と短いということだった。
大量生産のために造りが雑で構造強度が弱いのではないか?というのが実物を調査しているDARPAの見立てだった。
つまり、AMRAAMの攻撃に耐えて、一見するとタフに見えたのは、障壁のおかげと、単純にデカいから小規模なダメージの蓄積では重要区画への影響が少ないせいであって、長期的に見れば修理しても寿命は大幅に縮んでいたか、そのまま廃棄という可能性が高い、という調査結果が出て、「放射能漏れのリスク増やすだけで対艦ミサイルとか撃ち込む意味なかったじゃん!?」と驚愕することになった。
要するに、XASM-3を対空ミサイル化したXAAM-6とか完全なオーバーキルである。
まぁ、重要区画が無事なら飛び続けるので、やはり即時無力化には大型ミサイルを撃ち込む必要があったのだが。
「中米で放射能汚染が深刻な地域は?」
「メキシコシティは勿論ですが、実はそれよりもベリーズシティのほうが深刻です」
「メキシコシティのほうは、言っても爆弾ですから、直に深刻なほどではなくなりますよ。ベリーズシティの方はかなり大型の飛行艇が自爆した結果、動力炉が自壊しましたので、中身が野ざらしです」
「うおおおい!?」
敵が使っているよく分からん動力炉は、ものによっては原発並の量の濃縮ウランが入っているとの情報である。
「まぁ、敵が使ってた障壁の放射線遮蔽効果が何気に優秀なので、これを利用して処理方法を考えるしかないですね」
エネルギー長官が気が長い話になりそうですね、肩を竦めた。
「それ以外の地域は特に汚染はありませんので、敵の掃討を進めますが、これは我が国主体でやるべきでしょうね」
「非常時なので各国に頼りましたが、急ぐ理由も無くなったわけですし、陸軍を再建しながら我が国でやって避難民をさっさと送り返すのが順当でしょうね」
「他国にやらせると、アメリカは何もしないのに避難民を追い出すのか、とかわけのわからないことを言いだすのがいるでしょうしね」
頭が痛い話だ、と最大の難問は去ったにもかかわらず、大統領は頭を抱えた。
新世界暦1年9月11日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸
「いやー、終わった終わった。これで自衛隊も撤収できるね」
いつも通りにのんきに言った首相に、官房長官がジト目で言い放った。
「その自衛隊に戦死者が出た件について」
「・・・」
郊外で戦車戦をしている限りは、動き続けながら敵の射程外から一方的に命中弾を出し続けるという、同行していた米軍将校の顎が外れっぱなしのワンサイドゲームをしていたのだが、市街地の掃討戦ではそういうわけにもいかなかった。
メキシコシティで米軍も散々悩まされた、1人でも取りこぼせば自爆、という敵の徹底抗戦に巻き添え被害が多発した。
敵が使用する爆弾自体は破片効果のない単純な炸薬のみと言えるとはいえ、そう何度も巻き込まれていては、現場の状況次第では周囲の物が破片効果を持つし、炸薬の爆発だけでも、重傷者はでるし、死者も出る。
結果、戦死者6名、重傷者32名という、アズガルドとの交戦では出なかった戦死者を出していた。
もっとも、枝幸への艦砲射撃で一般市民に犠牲者が出ているので今更だが、他国の戦争に派遣しての戦死なので、その意味は大きく異なる。
「終わったことをあれやこれや言っても仕方ない。亡くなった者たちは残念だが、流した血に見合うだけの利益を国にもたらすのが我々政治家の仕事だ」
「まさに人でなしですな」
「そうでなければ政治家なんぞにならんよ。人の命を踏み台にして国益を守るのが政治家の仕事だ」
そう言って首相は背もたれに身を預け、大きく息を吐いた。
「とはいえ、防衛大臣だけの詰め腹ではすまんかな」
「全ては世論次第、ですか」
なんとなく、官房長官は首相は辞めるつもりだろうな、と察した。
「それは逃げではないですか?」
なので、官房長官は率直な意見を述べてみた。
「政治家の責任なんて、それでしか取れんし、それが民主主義というものだろう?」
首相の答えは簡潔だったが、それを聞いた官房長官が思ったのは、「それ要するに世論的に辞めなくてよさそうならやめないってことじゃねぇかこのクソ狸」ということである。
「まぁ、いずれにせよ仕事は山積しとる。真面目に働かんと死んだ者に申し訳が立たんしな」
「とりあえず私の仕事は次の勝ち馬を見極めて派閥のかじ取りをすることですね」
では、と言って退室しようとする官房長官を涙目で引き留める首相だった。
新世界暦1年9月12日 アメリカ合衆国テキサス州 ロバート・グレイ空軍基地
アメリカ合衆国最大の陸軍拠点であるフォート・フッドに文字通り隣接する、空軍が元々陸軍航空隊だったことを感じさせる立地の空軍基地。
そこの巨大な駐機場、もっとも陸軍のために存在する空軍基地なので普段はガラガラなのだが、そこに米空軍のC-17が2機駐機されていた。
並べられた2機の前に、礼装に身を包んだ多数の兵士が整列し、軍楽隊や捧げ銃の兵士の列もある。
そして、捧げ銃の列によって作られた通路を、二列になった棺の列が進む。
片方の列には英国旗、もう一方の列には日本国旗が掛けられている。
他国を守るために戦い、物言わぬ帰国となった兵士たちは、守った国の大勢の兵士に見送られて帰国の途に就いた。
次回も1週間以内には・・・。




