神の火を放たないために
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
「こんな状況で核なんか使えるわけないだるぉぉぉぉぉ!」
執務室で絶叫しているのは勿論(?)、家主である。
「「「「「ですよねー」」」」」
彼らの前には現在の戦況を示すディスプレイがあるが、そこにはサンアントニオ駅にまだ残っている避難民の情報と、郊外の現地作戦司令部があった空軍基地を放棄して、アラモ砦を最終防衛線に設定し、後退しながら戦闘する州軍の様子が示されていた。
もっとも、そこに表示されていない、つまり中央軍で把握していない戦力として、テキサスレンジャーや市警のSWAT、個人所有を銃を片手に駆け付けた退役兵達などもいるのだが。
「アラモで戦ってる友軍見捨てて核なんか使ったら、それこそ俺のクビだけじゃ済まなくなるでしょうが!?」
下手すればそれこそ文字通りのテキサス独立戦争まで起こりかねない。
「とはいえ、どうしましょうねぇ」
「避難民の輸送はあと2便で完了、とはいえそれまでこのままではもたないでしょうねぇ」
なんせ数が違いすぎる上に、装備も不足である。
「とはいえ、増援を送ろうにも各国の部隊は核攻撃を行わない確約がないと市街には入ってくれないでしょう。さすがに」
アメリカ人はいなくなったからと核を落とすんじゃねぇのかと他の国に思われているということだが、割と否定できないところが問題である。
「とはいえ、障壁がある限り通常攻撃での殲滅は難しいだろ」
「それについて、日本から面白い提案がありました」
日本から?なんで?という空気に室内がなったが、とりあえず提案を聞いてみるか、ということになった。
新世界暦1年9月9日 日本国東京都小笠原支庁ユグドラシル村世界樹島 (独)世界樹島管理機構
「あのさぁ、私は事実を”知ることができる”だけであって、別に未来予知が出来る神様とか預言者じゃないんだよ?」
北条が東京からの無茶振りを伝えると、ウルズは口をとがらせてぶー垂れた。
美人だとそんな態度も絵になるな、とかくだらないことを考えながら北条はどうやって説得するか頭を巡らせる。
「いや、とにかく敵中枢と大規模障壁の無効化方法、敵が保有する核兵器の位置がわかればあとのことはこっちでどうにかしますから」
頼んます、という感じで拝み倒す北条。
結局、策も何もなく素直にお願いするのが一番いいというのが、北条がこれまでに学んだことである。
「しょうがないなぁ、北条君は」
なぜかウルズが某青狸を彷彿とさせる声色で応えたが、実は「お願い」を聞いてもらえるのは北条だけだということに、当の北条は気付いていなかったりする。
ちなみに、相方は気付いているので、最近はウルズの対応は全て北条に丸投げである。
「敵の中枢はもちろんコレ。こいつが大型障壁の発生源だし、総司令官もここにいる」
ウルズは無人偵察機によって撮影された写真を指差しながら説明を始める。
「んで、これに後続してる小型のこいつに残りの核爆弾5発が載ってる。発射機構はないただの運搬船みたい」
「発射機は?」
「メキシコシティで米空軍が発射直後に撃沈した1隻だけみたいね」
敵の戦力情報が筒抜けなのだからやはりウルズはズルい。
「ん?じゃあどうやって核爆弾使うんだ?」
「そんなの適当なのに積んで突っ込ませるんじゃないの?」
身も蓋もない話である。
「大型障壁はこいつの動力炉を停止させれば止まるね。あ、この飛行艇の機関部とは別というか無関係だからそこは注意ね」
「この船の機関を止めても船が墜ちるだけで、障壁はそのままってことですね」
ふむふむと北条はメモを取る。
「重要なのは総司令官と核爆弾を切り離すことかなぁ。総司令官は追い込んだら多分自爆するよ」
「厄介ですね。けどこの2隻を同時に襲撃すればどうにかなるのでは?」
「総司令官の命令が伝わらないようにすることが重要かなぁ。総司令官が自爆を命令したら、核兵器の管理者たちは多分躊躇いなく自爆する」
人の未来の行動になると「多分」とか急にふわっとするのは、ウルズが知れるのはあくまでも判明している事実だけで、未来予知が出来るわけではないから、その人物の過去の行動や現在の思想信条から推測した結果でしかないからである。
まぁ、その過去の行動や現在の思想信条は間違いが無いので、プロファイリングなどよりは遥かに精度は高いのだが、それでも読み切れないのが人である。
「ありがとうございます!」
「ご褒美は北条ちゃんを一晩好きにする権利でいいよ」
え?とか言っている北条をぱぱっと送り出したウルズは溜息を吐く。
「脈が無いわけではないけど、鈍いよねぇ北条ちゃん」
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
そんなこんなで、アメリカに日本から作戦が提案されたわけである。
「日本が特殊部隊を突入させて障壁を無効化して核爆弾を押さえるからその後総攻撃か」
「単純かつ分かりやすい話ですが、それが確実に可能かどうか確証がない以上、失敗した場合の保険が必要です」
「やるだけやらせてみればいいんじゃないか?ダメなら元の作戦通り核攻撃でいいわけだし」
やらせてみて出来ればラッキー、ダメなら元の作戦通り核で全て吹っ飛ばす、それでいいんじゃないか、と室内にいるメンバーの意見は固まる。
「日本側に作戦を許可するが失敗した場合は、退避を確認せずに元の作戦通り核を撃ち込むと伝えろ」
「元々日本側はその条件を見越してますよ。カミカゼが好きなのは変わらないんですかね?」
肩を竦めるように国務長官は言ったが、それに異を唱える人間が1人いた。
「仮に成功した場合、全ての栄誉は日本の特殊部隊が持って行くことになります。アメリカからも出すべきです」
アメリカ特殊作戦軍の司令官である。
「味方の核に焼かれるかもしれないんだぞ?」
「参加は志願者のみに絞ります。それに今のままだと我が軍は何もせずにアラモ砦に核をぶち込むだけになりますよ?」
国内での核兵器使用を回避する方策を何ら取らずに、アラモ砦で戦う友軍の頭上に核を撃ち込んだ、なんていう不名誉を回避する言い訳には出来る。
特殊作戦軍司令官は暗にそう言っていた。
「わかった。許可しよう」
「直ちに準備にかかります」
そういうと司令官は部屋を出て行った。
「そういえばなんで日本はあんな不確かな作戦を単独でもやろうという気になったんだ?」
「我々と似たようなモノでしょう。自軍がいる戦場で何の策も取らずに核兵器に頼るというのを避けたかったんじゃないですか?心情的にも世論的にも」
ウルズの存在を知らない彼らは、なぜ日本がこんな不確かな作戦に懸ける気になったのか、という理由を被爆国であり核兵器アレルギーの世論に求めた。
どちらにせよ、大統領個人としては、作戦成功の望みに縋りたい、という心情は大いにあるのだが、「敵の核兵器の所在が不明」という状況が元々特殊部隊による急襲作戦に踏み切れなかった根本原因なので、不安感ばかりが増すのだった。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ上空 英空軍輸送機C-17
「傾注!」
機内の広大な貨物室は薄暗く、赤色灯にいくつもの影が浮かんでいるのがわかるだけである。
「これより我々は人類史上最も危険な降下作戦に挑むことになる。だが、諸君らはそれを成し遂げるだけの技術と経験を持っていると私は確信している」
そこで一端言葉を切り、全ての隊員を見渡す。
「我々の任務は、敵旗艦への強襲降下。対空砲火も予想されるし、そもそも旗艦に取り付いても入口がどこにあるのかは不明だ。危険と困難しかない任務だが、今も地上では満足な装備も無い友軍が、一般市民を逃がすために戦っている!我々の降下に先立ち、ヘリコプターと鹵獲兵器を使用して日米の特殊部隊が別ルートで潜入を図っている!敵核兵器の確保と大型障壁の解除、どちらも優先順位は同列だ!どこにあるのかもわからない、どれだけあるのかもわからない!まるでそびえ立つクソみたいな作戦だ!いや、作戦ですらない!だが、やらねば我々も逃げ遅れた一般市民も、味方の核に焼かれることになる!もう十分死んだだろう!これ以上死ぬ必要は無い!これで終わらせようじゃないか!」
「「「「危険を冒す者が勝利する!」」」」
降下開始の合図と共に、第22SAS連隊の精鋭は次々に戦場へと飛び降りて行った。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ 市街中心部高層ビル非常階段
「ふざっけんなよ・・・」
ぜえぜえと、息も絶え絶えになりながら非常階段を駆け上がっている防護服に身を包んだ男たち。
言うまでもなく、核弾頭を設置した工兵部隊である。
核弾頭の起爆中止命令に伴い、時限信管の解除のためにわざわざ戻ってきたのだが、敵が近付いてきたのでヘリコプターは危険ということで、車両班だけが引き返してきたのである。
結果、屋上に設置した弾頭の解除のために、非常階段を駆け上がる羽目になっていた。
「というか、一旦解除コード入力して待機、って爆弾の前で待つの?」
誰かが言ったその言葉で、一瞬皆の足が止まりかけたが、その後無言で再び登り始めたのだった。
次は水曜日かな?




