執念の復讐者
新世界暦1年8月15日 メキシコシティ近郊 神聖タスマン教国遠征部隊駐屯地
ここに止まってじっと動かずに3ヶ月が経過している。
基本的に莫大な量の補給物資を積み上げるのがお得意な神聖タスマン教国の遠征部隊でも、数十万のこの規模の部隊では物資の底も見えてきていた。
下っ端は信仰とか神の言葉がどうとか、適当に言っておけばありがたがってお祈りしているので特に苦労は無いのだが、上層部はそれをいいことに権力争いに明け暮れていた。
なんせ本国との連絡が途絶したうえに、本国の状況確認に直接出向いた聖女も戻らなかったのである。
遠征部隊の統括指揮官は聖女だったが、次席は司令部には置かれていなかったのがそもそもの混乱の原因である。
聖女の下に、教皇直轄艦隊の3つの騎士団長と各梯団長(軍団長、師団長相当)が直接配置される指揮系統だったため、聖女がいなくなると集団指導体制に移行・・・するはずがなく、まず教皇直轄艦隊とその他梯団の間で主導権争いが発生。
そして各梯団も一枚岩では当然ないので、ここでも主導権争いが発生。
要するに内ゲバでガタガタになっていたので全く身動きが取れなかったのである。
それに距離を置いていた一部の幹部達も、物資が無くなってくれば勝手に治まるだろうと思っていたのが、一向に終息する気配が見えず、焦って首を突っ込み始めたので余計に収拾がつかなくなっていた。
それが7月末時点での状況だったのだが、8月初旬にとある小規模な占領地域教化部隊が合流してきたことで、事態は一変し、司令部に粛清の嵐が吹き荒れた。
「さあ、時は来ました!聖者の導きを否定する背教者共に報いを受けさせるのです!」
左足と右腕を失くし、顔も縫い痕でボロボロになっていて、かつての神々しさすらあった整った顔立ちは影も形も無いが、執念だけで聖女は旗艦に立っていた。
復讐の狂気に包まれた部隊は、3ヶ月ぶりの前進を開始する。
5発の核爆弾と共に。
新世界暦1年8月15日 アメリカ合衆国バージニア州アーリントン郡 国防総省
「敵部隊が前進を開始」
「いよいよ来たか・・・」
国防長官が見つめるモニターには、RQ-4からリアルタイムで送られてきている赤外線映像が映し出されていた。
地上戦力の再建は、ようやく戦車製造ラインの準備が整った段階である。
新兵だけは全土で膨大な数の志願者が集まっていたので困っていないが、それを教育する部隊が足りないのである。
「航空攻撃と曲射火力だけでどれだけ抑えられるか・・・」
「正面を押さえる機甲戦力はどう試算しても足りませんが、航空戦力は過剰なほどです」
「いや、ちっとも安心できる要素が・・・」
いいからお前は安心して座っとけよ、という威圧を感じ国防長官は口を噤む。
「問題は連中の核兵器ですね」
「メキシコシティがあれだけ膠着するまで使わなかったことを思えば、そうポンポン使うほどの数があるとも思えないが」
「偵察衛星の情報や空間線量、敵施設の規模などから、国家安全保障局は敵の保有数を10発以内ではないかと推測しているようです」
「イギリスは15発程度と予想しているようです。日本は5発と予想してますが」
ちなみに、日本が正解なのはもちろんウルズ情報である。
「というか、それ全部ただの当てモノになってないか?」
「敵核施設の詳しい稼働期間の情報が無い上に、メキシコシティの部隊がどれだけ持ち出したのかもわかりませんからね。敵の今の保有数は5発から10発、もしくは15発程度までかそれ以上、ってことです」
それなんもわからないってことだろ、と思ったが誰も突っ込まなかった。
「鹵獲した飛行艇に乗ってた連中は核について何も知らんようだしなぁ」
「そこのところは残念でしたが、言語解析は完了しましたし、敵の兵器についての情報は得られました」
「詳しい障壁の作動条件がわかっただけで、突破方法は前と変わらんじゃないか」
「それはそれです」
とはいえ、飛行艇を押さえたことでいろいろまとめて鹵獲できたので、解析と対抗手段の開発は進められていた。
この戦いには間に合いそうにないが。
「とにかく航空攻撃を徹底して時間を稼ぐしかないか・・・」
国防長官は祈るような気持ちで各地の航空基地から出撃した友軍のシンボルマークを見つめるのだった。
新世界暦1年8月15日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸
「ちんたらやってる間に始まってしまいましたが」
責めるような目で外務大臣が首相を見つめる。
グダグダやってまだ法案は委員会でしっかり検討したんですよと言うためのプロレス中である。
「てへっ」
なんとなくかわい子ぶってみた首相だったが、責めるような視線が殺意の波動に変わっただけであった。
「アメリカからは矢の催促です。地上部隊はまぁ、アメリカ軍の部隊教育に協力しているのでそれはそれでいいのですが、意外と航空部隊に対する期待が大です」
防衛大臣がげんなりしたように言う。
「航空部隊って、派遣したの1個飛行隊だけって話じゃなかった?」
「そうなんですが、敵大型飛行機械対応用に試作大型対空ミサイルを持たせましたので・・・」
空自が派遣したのはF-35でもF-15Jでもなく、F-2を装備した飛行隊である。
XASM-3改めASM-3Aとして戦艦対策に急遽採用されたミサイルをベースに、誘導装置にAAM-4Bのものを移植してXAAM-6Aとして持たせているのである。
とりあえず形状はASM-3と同じで、誘導装置はAAM-4のものなので、その両方に対応している機体はF-2だけなのである。
ちなみに、ASM-3Aの飛翔速度・射程向上型であるXASM-3BはXAAM-6Bとの同時開発になっており、マッハ5以上で射程300キロを目標に開発されている。
「どんなに急いでもここから法案成立させるのに1ヶ月くらいはいるしなぁ」
「いや、ぱぱっとやればそんなにいらんでしょうが」
「そんなことしたらまた俺が叩かれるんじゃん」
「「今までさぼってたからだろ」」
内閣で孤立無援になった首相は、多島海条約機構加盟とそれに関係する法案審議に全力で取り組むことになるのだった。
新世界暦1年8月15日 アメリカ・メキシコ国境 大英帝国陸軍アメリカ派遣軍団
アメリカ国内に設けられたイギリス陸軍の駐屯地は、100輌を超えるチャレンジャー2主力戦車で溢れかえっていた。
敵が進軍を開始したという報告は入ってきていたものの、基本的に地上兵力は数でこちらが圧倒的に不利なので、とにかく航空攻撃と曲射火力で削って、直接戦闘は国境で、ということになっていた。
勿論、メキシコはその作戦に抵抗を示したものの、地上兵力を派遣したイギリス、ブラジル、シンガポール、台湾、オーストラリア、ポーランド、日本は全てアメリカがかき集めた国であり、どこもわざわざ危険を冒して前線を上げようとはしなかったので、結局そのようになった。
そもそも、日本はまだ国内法で揉めていて、後詰で米軍の部隊訓練に協力しているような状態なので戦力にカウントできない。
日本を除くと、戦車戦力はイギリスがチャレンジャー2 220輌、ブラジルがレオパルド1A5 100輌、シンガポールがレオパルド2 80輌、台湾がM1A2 80輌、オーストラリアがM1A1 30輌、ポーランドがレオパルド2 100輌。
米軍の消し飛んだ戦車戦力を考えると、穴埋めには程遠い数である。
ちなみに、現状戦力にカウントされない陸自は第7師団がほぼ全て来ているので90式戦車170輌である。
現状地上戦力で忙しいのは、自走砲と弾薬給弾車、あとそれに付随する少数の護衛戦力程度である。
もっとも、これについては陸自が99式自走榴弾砲とMLRS、さらに臨時編成で編入して19式装輪自走榴弾砲まで持ってきているのに、現状テキサスの演習場で遊んでいるので白い目で見られていたが。
「敵が動き出したのはいいが、ほんとにこんな戦力で止められるのかね」
出撃していくAS-90の車列を見ながら、師団長はぽつりと言った。
「航空攻撃と間接火力で全部殲滅するくらいの勢いでやってもらわないと、どう考えても地上兵力は過少でしょうね」
「アメリカ軍は戦車もない新兵ばかりだしな」
大量に促成された新兵であるにもかかわらず、制服と個人装備が完璧に行き渡っているのはさすがアメリカと言わざるを得ないが、HEATを利用した対戦車兵器が敵戦車に対して不利であると言う点を考慮すると、やはり戦車が必要である。
「どのみち、敵が核を使用する可能性があることを考えると戦力は密集させられません」
「受け持ち地域の戦車壕構築の状況は?」
「予定より早く進捗しています。日本がアメリカで土木作業するのは演習の一環だから、とか強弁して各国のエリアを手伝ってますので」
「あ、そう」
そんなことよりさっさと受け持ち戦区を持ってもらう方がありがたいんだがなぁ、と思う師団長だった。
次回は・・・週末に出来たらいいなぁ・・・。
一応1週間見といてください。




