表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
81/201

帝国主義者達の宴

新世界暦1年8月16日 ダスマン連合首長国ドーラン首長国 王都 ロシア空挺軍 B任務部隊王城担当班


王城の中庭に降下したB任務部隊は、あまりのあっけなさに拍子抜けしていた。

もうちょっと何かあるかと思っていたら、何も無かったのである。


都市に魔導障壁を常時張る、なんていうことが出来るのは神聖タスマン教国だけなので、ダスマン連合首長国のどの都市も空からの攻撃には基本的に対空魔導砲か、一時的に展開可能な魔導障壁で対処するしかない。

とはいえ、臨戦態勢を取っていたわけでも無く、「戦場とは戦線で戦われるもの」という彼らの世界の常識が、戦線を飛び越して奇襲してくる存在を考慮させなかったのである。


あっさり集合できたB任務部隊は、すぐさま行動を開始した。

目的は王城の制圧と王族の捕縛、もしくは射殺である。


侵入者に気付いて警備兵がわらわらと出てきたが、戦闘態勢をとっている様子はなく、よくわからない言語で誰何したり、警察官が取るような威圧的な態度を取ったりといった感じで、臨戦態勢のスペツナズに一瞬で制圧されてしまった。


「事前の作戦通り、西棟と東棟をそれぞれ捜索、敵を全て制圧せよ」


装備する銃にサプレッサーを着け、目出し帽も被った完全武装のスペツナズが建物内へと散っていった。





新世界暦1年8月16日 ダスマン連合首長国ドーラン首長国 王都 王城正面広場


「リロード!」


方々で怒声と銃声が響き渡る広場はすでに戦場だった。


すでに王城警備の近衛兵は全て死体となってそこらに転がっていた。


それでも銃声が収まらないのは、王城に突入しようとする武装集団と、広場を確保しようとする武装集団がかち合ったせいである。

むろん、互いに互いの正体はなんとなくわかっているのだが、どちらも国籍マークを着けておらず、目出し帽を被っているので、相手は「正体不明の武装集団」ということで自分の任務を優先したためである。


後続の降下のために広場とそこから続く目抜き通りを押さえようとするロシア軍と、王城に突入して王族を押さえようとする人民解放軍の間の戦闘なので、人民解放軍が門の中に入ってしまえばそれで終わるのだが、直接広場に降下したロシア軍が正門を押さえてしまっていたので、結果的に王城に入ろうとする人民解放軍と、通らせないロシア軍での戦闘になっている。


全体としては数も多く装備も良いロシア軍が優勢である。

市街地に潜入し情報収集しつつ、機を見て王族を押さえる、という任務で潜入に重点を置いていた人民解放軍の特務部隊は、自己判断の権限は大きいものの、重火器を持ち込んでいない上に、数も市街地に散って潜伏しているのを全て集めて中隊規模である。


対して、王都制圧の先鋒として派遣されたロシア空挺軍第45独立親衛特殊任務連隊は、武力制圧を前提に編成されており、装備も対戦車ミサイルなど、歩兵携行兵器として望めるものは全て持ち込んでいた。

しかも、彼らはあくまでも「先鋒」であって、後続の空挺軍は普通に装甲車も降下させる準備をしていたのである。

火力では最初から勝負にならない。


上校(大佐)!このままでは全滅です!」


次々と倒れる部下を建物の影から窺いながら、小隊長が部隊の責任者に声をかける。


「クソっ!最初から撤退すべきだったか」


なまじ王族を押さえるという目的に固執した結果が今の惨状だった。

とはいえ、今となっては退路も無い。


「上校、空を!」

「まだ来るのか・・・」


目抜き通りに沿って進入してくるIL-76の後部ランプから次々にパラシュートのついた大きな物体が投下され、後続のIL-76のサイドドアから次々に人間が飛び出し、パラシュートが開いていく。


「連中、王都(ここ)を完全に制圧する気か」

「市街の外に通じる門を押さえられると脱出も出来なくなります」


すでに部隊でまともに動けるものは30人ほどしか残っていない。


「投降するか?」

なかったこと(全員処刑)にされるのがオチでは?」


どのみち、双方の政府はここでの衝突は無かったことにするだろう。


ロシア側は事態の拡大を望まないし、王都を完全に制圧して証拠(死体)を処分してしまえば無かったことにできる。ロシアは原住民に攻撃を受けたので自衛権を行使しただけ、と言い張るわけである。

対して中国側は、事件を迂闊に認めれば、国連に「実効支配している」と申請している地域が、実はまだ何にも出来てないどころか原住民に抵抗されてます、と認めるようなモノである。

根本的に、ロシアの介入を許した時点で、中国の負けなのである。


「王都を脱出したとして、国に帰れると思うか?」

「帰れたとして、良くて辺境警備、悪くて炭鉱か目隠しで壁の前(銃殺)って辺りじゃないですか」

「だよな。とりあえず逃げる(全部放り出す)か」


上校はそう言うと、残った無事な部下に合図を出し、ロシア軍より先に門に着くために走り出した。





新世界暦1年8月18日 元ダスマン連合首長国ドーラン首長国 王都 元王城


王城の一番高いところにある旗竿にはスラブ三色旗(ロシア国旗)が翻っていた。

現在は空挺軍の現地作戦司令部として使われている王城だが、近いうちにロシア連邦に新しく加わるドーラン共和国の政府庁舎になる予定である。


そんな元王城の一室に入った師団長は、壁に盛大に広がった血痕に顔を顰めた。

さすがに死体は無かったが、室内には壊れた机や椅子などがそのままになっており、碌に掃除も済んでいなかった。


「申し訳ありません師団長、さすがにモスクワから清掃業者も呼べないもので。近いうちに綺麗にさせますので、ご容赦を」


そう言って、連隊長は師団長にやたらと華美な装飾の施された椅子をすすめた。

一部、血をふき取ったような跡があるのはご愛嬌である。


「現在、我が軍は敵首都を完全に掌握し、このラインまで勢力圏に収めました。敵司令部を落としたことで敵前線は混乱し、友軍は簡単に突破出来ました」


そう言って、連隊長はこれまた過度に華美な装飾の机の上に広げられた地図を指し示した。


「ただ、状況は人民解放軍も同じで、連中も一気に進軍したせいで思ったよりもラインがこちらに入り込んでいます」

「それは仕方ないだろう。問題は」

「連中が我々と正面からやり合う気があるのか」


師団長は黙って頷く。

王城前広場での人民解放軍秘密工作部隊との交戦は無かったことになっている。

1個小隊ほどが逃げたとの報告は上がっていたが、中国がそれをピックアップしたことを示す情報は無かったので、どこかで野垂れ死ぬだろう。


負傷して置いて行かれたのも何人かいた。


そして、彼らは国籍を示すものを何も身に着けていなかったので「国に所属する兵士ではない」=「捕虜ではない」

テロリストとして扱い、少し高度な尋問(拷問)を行い、情報を貰って最終的に喋らなくなったので燃やして埋められた。

分かったのは連中もロシアと似たようなことを考えていたが、ロシアほど大胆にやらなかったということである。

公式記録には国籍不明の武装勢力と交戦して殲滅、とのみ記されている。


「今のところは従来通り睨みあっているだけで、手を出してくる気配はありません」

「とりあえず、こちらからは手を出させるなよ。あとは政治の仕事だ」

「タス通信を入れさせています。何かあっても中国が仕掛けてきたことに出来るでしょう」


師団長はふむ、と頷いた。


「そういえば、俺もこの後タス通信のインタビューだったな。原稿をチェックしておくか」


適当にいちゃもんをつけて国境線を勝手に動かして居座り、実質統治下に置く。

2000年代になってもジョージアやウクライナでやったロシアの十八番である。





新世界暦1年8月18日 中華人民共和国北京 中南海


「やられたな」


忌々し気な声に人民解放軍の制服に身を包んだ数名が身を固くした。


「こうなったらロシアから取り返すには戦争しかないでしょう」

「だがそれは間違いなく全面戦争になる」


勝てるのか?と聞かれると、負けはしないだろうが、後に残るのは何なのか?という答えが浮かんでくる。


「だが、ロシアは現状新大陸の他に、インド軍の支援にも行っている。やるなら連中が戦力を分散させている今では?」

「それでロシアとインドを敵に回して戦争すると?」

「パキスタンを巻き込めばインドは抑えられるだろう」


それはどう考えても第三次世界大戦の引き金を引くことになると思われるのだが、これ以上ロシアに虚仮にされるのは(国内向けに)良くない、というの考えが彼らの頭を占めている。


「いずれにせよ、連中にはこのツケを必ず払わせる。準備は怠るな」

「「「わかりました」」」


領土獲得の狂乱の中、開戦の敷居は下げられていく。

次に各国の牙が向かう先はどこなのか、神のみぞ知ることである。

次も一週間以内に・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ