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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
8/201

救出作戦

新世界暦1年1月4日 日本国 北海道枝幸町 三笠山展望閣


送電が遮断されている枝幸市街は、すでに日は落ち、暗闇に包まれている。

雲が出ており、星も隠れている、潜入作戦にはおあつらえ向きの夜である。

そんな市街地を見下ろす山の上にある展望台に、高橋曹長は現地で合流した2人と共に立っていた。


こんな観測に最適な場所を押さえていないなんて、敵は何を考えているのかと思うが、敵が間違いを侵したら邪魔するなという言葉もあることだし、ありがたく利用させてもらう。

現在、高橋ら3人は高高度降下低開傘(HALO)降下してくる予定の特殊作戦群を待っていた。


訓練で何度か一緒になった、というか冬季レンジャーで訓練をつけてやったこともある特殊作戦群長の吉柳一佐に連絡を取った後、自身はそのまま残って敵状を報告し続けたのである。


で、そんな高橋に昨日合流したのが、自称枝幸町在住のマタギの田中 佐藤さんと、同じくマタギの鈴木 山本さん。

田中さんは、筋肉ムキムキの白人でプレートキャリアにチェストリグをつけて、猟銃だと言い張るM110A1にはサイレンサーがついている。

鈴木さんは、筋肉ムキムキなのは同じだが東洋系で、やはりプレートキャリアにチェストリグをつけて、同じく猟銃だと言い張るHK416にはサイレンサーとグレネードランチャーがついている。


本国と連絡取れなくて公式にはいないことにしないといけないのはわかるけど、お前ら、もうちょっと誤魔化す努力はしろ!?あと(Stars)(and)赤白(Stripes)の国籍マーク微妙に隠しきれてないからな!?という2人組である。

ちなみに、電話で吉柳からは「よく隊員が訓練つけてもらってるから信用していい」というお言葉を頂戴している。

マタギの設定どこいった。


「来たな」


視野角の広い四眼式の暗視ゴーグルをつけている鈴木(自称)が、降下してくるパラシュートを見つけたらしい。


「行こう」


ここは合流地点ではなく、撤収地点である。

下見と収容されている逃げ遅れた住民が移送されないか見張るために陣取っていたのである。


鈴木(自称)を先頭に走り出す。

構えているHK416がブレないのはさすがと言うほかない。

ちなみに、高橋は田中(自称)から借りたサブマシンガン(SIG MPX)を装備している。

高橋自身は「MP5じゃねぇのこれ?」と9ミリを使うサブマシンガンとしかわかっていなかったりするが、銃なんて撃てて弾が出れば敵を倒せるのである。


合流地点である山に入った中にある墓地に向かう。

奥に牧場があり、敵が宿営地に選ぶ可能性もあったが、どうやら市街から森と起伏で視界が通らないので、使用されなかったらしい。

まぁ、土地なんていくらでもあるし、わざわざ山には入る必要がないというだけだが。


敵の歩哨とも遭遇することなく、集合地点についたのだが


「お前がくんのかよ」

「悪いか」


そこにいたのは特殊作戦群長の吉柳一佐だった。

少数での潜入救出だから一個分隊くらいの派遣なので、というか、そもそも群長がこんな前線に出てる時点でおかしい。


「とりあえず状況を確認」

「逃げ遅れた住民は全員高校の体育館に収容されているようだ。ただ、まぁなんだ。ご高齢な方が多いから脱出地点まで歩くのは無理だろうな」

「えぇ・・・それ聞いてないんだけど」


予想はできたと思うけどなぁと思う高橋だったが、口には出さない。


「そこで車両が必要になるわけですが」

「敵のを奪うか?性能に不安があるが」

「いえ、枝幸事務所のマイクロバスが無事なのを確認しています」


正直、敵のトラックを奪っても操作が同じなのか不安だし、何より1940年代の技術水準では性能に不安がある。


「だが枝幸事務所に車両を取りに行くとなると、部隊を分けねばなるまい」

「別に取りに行くだけなら俺と、べ・・・マタギの2人でいけるかと」


枝幸事務所に車両を取りに行くのは、すでにマタギ(自称)の2人と話し合って了承済みである。


「大丈夫なのか?」

「市街地は高校、中学の周囲以外はほとんど敵はいません。主力は市街南側の牧場に野営しています」

「だがいないわけじゃないだろ。合流前に見つかるとやっかいだろ」


吉柳は車両が合流前に見つかることを懸念している。


「正直、敵の車両を奪って動かせないっていうリスクとどっこいかなと」


それに対して、高橋はその懸念は想定済みだと言う。

いずれにせよ、高齢の住民が多い中で、脱出地点まで歩けというのは難しいだろう。


「ならそっちは任せる。住民はこっちで確保しよう」


ついでに可能なら敵の上位指揮官も連れてこいという命令を受けているが、見つけられるかどうかわからないので、あくまでオマケである。


こうして、特殊作戦群初の実戦はスタートした。





新世界暦1年1月4日 日本国 北海道枝幸町 枝幸市街


「ふあ~」


上官に見られたらぶっ飛ばされそうな大きな欠伸をした同僚を呆れたように見遣る。


「いくらなんでも気を抜きすぎじゃないか」

「そうはいってもなぁ。歩哨つっても敵はどこにいるんだよ」

「一昨日、偵察に出た戦車部隊が6輌もやられたの知ってるだろ」

「だけどその後、全く何もないじゃないか。あれも上が事故で潰しちまったの誤魔化すために言ってるんじゃねぇのか」


士気の低下を防ぐため、末端には第二陣が海上で艦隊ごと消滅したことは伏せられており、現場は明らかに緊張感が欠如していた。


「というか、上はいつまでここでうだうだしてるつもりだろうな」


が、それに返事が返ってくることはなかった。

おいおい、まさか居眠りか?と思い、振り向こうとしたところで、突如口を塞がれ、背中から熱いものが差し込まれた感覚に襲われる。

なんだか、眠い、という意識を最後に、彼が二度と目覚めることは無かった。





新世界暦1年1月4日 日本国 北海道枝幸町 アズガルド神聖帝国第一軍団司令部


「おっと」


ペンを床に落とした音でうつらうつらとしていた意識が覚醒する。

見ると副官も意識が落ちていた。

一昨日からこの国の言語を翻訳できるようにするために解析を続けて、ろくに休んでいない。


「少し休むか」


飲み物を貰おうと、外にいる当番兵に声をかける。


「む?」


本来なら間髪入れずに扉が開き、敬礼してくるはずである。

それがない。

さては当番兵も気が緩んでいるな、と廊下に顔を出そうとしたところで、扉が開いた。


「な、しまっ」


雪崩れ込んできたのは武装した自軍ではない兵士。

咄嗟に机に戻り拳銃を取ろうとしたが、銃を突き付けられ、組み伏せられてしまう。


異変に気付いた副官が、慌てて拳銃を抜こうとしているのが視界に入るが。


「よせ!」


アルノルド中将が叫ぶのと、副官の額に風穴があくのは同時であった。

中将は悔しさにぐっと拳を握り込むと同時に、冷静な部分は射撃音がかなり抑えられていることに気付く。

銃の先にサプレッサーが装着されているが、中将の知るサプレッサーにそこまでの静音効果はないので、何か他にも仕掛けがあるのではないかと疑う。


そして、サプレッサーが装着されていることにより、彼らが潜入工作を専門にする特殊作戦コマンドであろうことも推測できた。

そうであれば、おそらく任務は現地最高指揮官である自分の暗殺か拉致。

すぐに殺されなかったことからして拉致のほうだと推測できる。抵抗しなければ殺されることはないだろうと踏んで、大人しく体の力を抜く。


両手を後ろで縛られ、引き起こされると頭に布袋を被せられた。

かろうじて足元は見えるが、それ以外は見えないという、拉致する人間に被せるためにつくられたような袋だった。

袋を被せられる最後にちらっと見えた感じでは、この部屋にあった文書も全て回収していたようである。


拉致するということは、自分に用があるということだろう。

ならあの文書を持って行ってくれるのは助かるなぁと運命を流れに委ねることにするのだった。




ランヴァルド少将は、軍団長であるアルノルド中将の部屋に向かっていた。

別に進軍や周辺偵察を進言するためではなく、補給線が途絶えたことによる今後の問題、特に糧食について相談するためである。


タカ派とされるランヴァルド少将だが、別に猪武者ではない。

海軍と空軍がコテンパンにやられた事実は把握しているし、自軍の戦車が一方的に撃破された事実と合わせて、どうも敵のほうが技術的に進んでいるというか、太刀打ちできないほどの差があるらしいという事実には気付いていた。


それは認めたくない事実ではあったが、旅団を預かる身として、自身の政治信条や感情よりも現実を優先する判断はできる男であった。


「ん?」


中将の部屋の前の廊下に出たところで、不審な集団が見えた。

独特のまだら模様の服と装具に身を包み、我が軍のものとは異なるライフルと思われる武器を装備した集団だったが、何よりも問題は頭に袋を被せられている男だろう。


「貴様ら何をしておるか!?」


叫ぶと同時、無駄に鍛えた早撃ちで一発撃ちこむも、相手の反応も早く発砲は同時だった。


「ぐう!?」


左肩が焼けたように熱くなる。

発砲と同時に柱の陰に飛び込んだが、左肩に弾を受けたようである。

隠れる直前に見えたのは、発砲した相手が吹っ飛んでいる様子だった。

早撃ち対決は引き分けといったところだろうか。


ゆっくりと柱から顔を覗かせるが、すでに集団はいなくなっていた。

遅れて、銃声を聞きつけた警備兵が駆け付けてくる。


「敵の特殊コマンドが侵入しているぞ!アルノルド中将が拉致された!直ちに全軍に非常呼集をかけろ!」


潜入がバレたことで枝幸市街が一気に騒がしくなるが、それは同時に自衛隊側もバレないようにする必要がなくなったということでもあった。





新世界暦1年1月4日 日本国 北海道枝幸町上空


高度8000mを飛行しているのは2機のF-2である。

武装は500ポンドのLJDAMが4発ずつ。

住民救出作戦の火力支援が任務だが、見つからずに終われば出番はないことになっている。


が、そんな都合よくいくはずも無く、攻撃命令が来たので、市街南方の敵部隊が野営している牧場に全弾投下し、百里基地への帰路に就くのだった。





新世界暦1年1月4日 日本国 北海道枝幸町市街


市街地南方から爆音が連続して響き渡る。

F-2による航空支援だろう。


「はい、おじいちゃん足元気を付けて乗ってね」


まるで介護職員だな。と口に出せないことを吉柳一佐は思う。

逃げ遅れて高校の体育館に収容されていた住民をマイクロバスに乗せているのだが、見事に高齢者ばかりである。

もともと過疎化の進む地方で、高齢者率が高いとはいえ、この国の闇をみたような気分だった。


「群長、間もなくアパッチが直掩態勢に入ります」

「そうしたら一息つけるだろうが、乗車を急がせろ」


敵が軍団司令部にしているらしい高校内で、かなり高位の指揮官らしき男を確保できたのは良かったが、潜入がバレてしまった。

とにかく今は一刻も早く離脱する必要がある。


「おー、いてぇ」


廊下で遭遇した男に撃たれた隊員が自分の胸のあたりを見ている。


「プレートキャリアが無ければ即死だったな」

「なんですか、あいつ!西部劇のガンマン並の早撃ちでしたよ!」

「ここは荒野のウェスタンだ」

「やかましいわ」


というか、そのセリフ(荒野のウェスタン)おまえ(自称マタギ)がいうのか。


「一佐、もう一杯で乗れませんよ!」


運転席に座る高橋が声をあげる。


「高齢者はみんな乗せたのか?」

「あっちと合わせてなんとか」


枝幸事務所にあったマイクロバスと10人乗りのワンボックスワゴンを持ってきていたが、マイクロバスの補助席まで使ってもいっぱいだった。


「じゃあ残りは走るか」

「いや、そのへんの車使いましょうよ」


車が無いなら走ればいいという筋肉回答の吉柳に部下から抗議の声が上がる。


「回収地点でも人手がいりますし、走るのは現実的じゃないですね」

「群長!車両持ってきました!」


見ると隊員が何人か軽トラに乗って嬉しそうに手を振っていた。

運転席のサイドウインドウは割れているし、ハンドル下の配線が剥き出しになっている。


「おまえ、後で始末書な」

「うえぇぇ」

「出発するぞ!」


文句を言う隊員を無視して、出発を指示する。

マタギ(自称)の2人はいつのまにかバイクを調達していた。というか、それ敵のでは?という疑問が頭に浮かんだが吉柳は無視することにした。


敵が慌ただしく動いている気配はするが、こちらにくる様子はない。

空爆が効いて混乱しているのだろう。


「敵襲!」


マイクロバスが出発したところで、軽トラの荷台に乗っている隊員が叫ぶ。

見ると、高校の校舎の方からワラワラと何人か走り出てきている。


「制圧射撃」


一斉に走り出てきた敵に射撃が開始されるが、ほんの数秒で動くものがいなくなる。


「増援来ます!」


トラックが校庭に入ってくるのが見える。


「相手をしていられるか!出発するぞ!」

『援護は任せな!』


ローターの爆音を響かせ、AH-64Dが侵入してくる。

トラックから降りて展開しようとした敵兵が戸惑っているのが伝わってくる。ヘリコプターを見たことが無いのだろう。

もっとも、それ(AH-64D)は彼らにとっての死神だったが。


2発発射されたハイドラ70(ロケット弾)によりトラックは炎上し、部隊も無力化される。

携帯SAM(MANPADS)の普及と高性能化により、時代遅れと見なす向きもある攻撃ヘリだが、それを持たない陸上兵力に対しては従来通りの圧倒的制圧力を持っているのは紛れもない事実である。


住民と特戦群を乗せた車列は急発進し、急いで回収ポイントとされる三笠山展望台の駐車場を目指す。

ライトはつけず、暗視装置頼みの視界である。ちなみに、ブレーキランプで位置がバレないようにするために割ってある。

最初はヒューズを外すつもりだったのだが、「どれだ?」という話なり、最も安易かつ確実な方法がとられた。

この辺りの雑さは車両の回収にいった高橋曹長のものではなく、アメリ・・・マタギ(自称)の2人の性格ゆえである。


ブレーキランプがないせいで減速タイミングがわからないため、十分な車間距離をあけた車列が猛スピードで直線道路をかっとんでいく。

山に登る道なのに直線なのは北海道ゆえだが、さすがに展望台手前あたりはカーブしている。


とはいえ、別に道が狭いわけでもなく、高速のまま走り抜ける。

先頭のマイクロバスが駐車場に飛び込むのと同じタイミングで、回収用のCH-47JA(チヌーク)も進入してくる。

問題は、住民をみんな車から降ろして、チヌークに乗せなければならないと言う点である。


高校で車に乗せる際は侵入がバレたのは住民はほぼ乗せ終わってからだったので、ゆっくりやれたが、今回はあまりゆっくりしていられない。


チヌークを誘導して、着陸させる。

後ろのカーゴドアを開け、順番に搭乗を開始するが、なかなか進まない。というか、まず車から降ろすのが一苦労である。

かなりとばしてきたせいで、気分が悪いだの、足を打っただの、ぶっちゃけ引き摺ってでもさっさとチヌークにのせたいのだが、そういうわけにもいかず、捕虜にしたなんか偉そうな士官だけさっさとチヌークに乗せる。


「追手が来るぞ!」


その言葉と同時に、駐車場の入口に軽トラを横転させて道を塞いでしまう。


『敵は輸送車両4、装甲車3、まだまだ来そうだがどうする』

「装甲車両を中心に叩いてくれ、歩兵はこっちでどうにかする」

『了解、対戦車ミサイル(ヘルファイア)ロック』


やがて、連続する飛翔音と爆発音が聞こえてくる。


『ヘルファイア、残弾無し。以後30ミリで支援を続行する』


ローター音が遠く聞こえるので、まだ坂を登り始めたばかりくらいの装甲車を攻撃したのだろう。


『トラックが2輌、間を抜けてそちらに向かっている。車両を失った歩兵も徒歩で向かうようだ。正直散りすぎて全てに対処できない。登り口を押さえておくから、あとはそっちで対処してくれ』

「了解、支援に感謝する」


吉柳はアパッチとの交信を終える。


「歩兵が来るぞ!チヌークに近付けるな!」


暗視ゴーグルを装着した特戦群12名とマタギ(自称)2名が道路を射線に収めるように展開する。

高橋曹長はヘリの乗員と住民の移動を手伝っている。


コーナーを抜けてくるトラックが見える。


「パンツァーファウスト、撃てー!」


ドンという発射音とともに弾頭が撃ちだされ、トラックに命中し爆発した。

後続のトラックからは慌てて歩兵が飛び降りている。

暗闇の中、道路脇に伏せて、隠れたつもりなのだろう。暗視装置で丸見えである。


「各員、任意に射撃せよ」


サプレッサーが装着された籠ったような射撃音が、ボッ、ボッと響きだす。


「とはいえ、数が多いな」


パンツァーファウストで吹っ飛ばしたトラックも、乗っていたのが全滅したわけではなく、後続は全員無事なのだから、一個小隊以上はいるだろう。

一方的に射撃できているのは事実だが、あてずっぽうではなく、こちらの発砲炎めがけて反撃してきているのも少ないとはいえいる。

超人めいた視力と射撃スキルをもった敵がいないとも限らない。

そもそも交戦距離が近すぎる。駐車場から視界の通るコーナーまで60mほどしかない。

これではまぐれ当たりだって有り得る。


「チヌークへの搭乗を急がせろ!」


車両からの乗せ換えは遅々として進んでいない。

どうせ助けても直にお迎えがくるって、という悪魔の囁きが聞こえるが、立場上そういうわけにもいかない。


遠くからはアパッチの30mm機関砲の射撃音が響いている。

車両はほぼ麓で止めてくれるだろうが、徒歩で抜けてくる奴もいるはずだ。

徒歩でここまで登ってくるのはかなり時間を要するだろうが、距離で1キロちょっと、高低差100mといったところである。

彼らがたどり着くまでに全員チヌークに乗せれているかは微妙かもしれない。


『あー、そろそろ残弾が心許ないんだが、そっちはまだかかりそうか?』


アパッチからの交信である。当初の想定より時間がかかっている。

はっきり言って、今回の作戦で戦略上もっとも重要なのは敵上位指揮官の拉致のほうだろう。

住民救出は、政治上重要な作戦であって、それ自体は戦況には何も寄与しない。

それでも、住民救出を切り上げて、敵上級指揮官を連れ帰ることを優先する、という判断をくだせないのは、自分が自衛官である故だろうと吉柳は思う。


「アパッチ、こちらは乗せ換えに想定以上に時間がかかっている。そちらの様子は」

『ワラワラとやってきてるが、先に撃破した装甲車の残骸が邪魔で、車両は進めないみたいだな』


つまり、いまのところいきなり車両で大量の敵が乗り付けてくる、という可能性は低そうと。


「もうちょっと・・・」

「撃たれた!」

「1名負傷!戦闘不能!」


アパッチと吉柳が交信している最中に誰かが撃たれたとの報告が入る。

一瞬で血の気が引くのがわかる。


「後退させろ!」


叫びながら、引きずられてチヌークに向かう隊員を見る。

左目にあたって、左耳の前から弾が抜けたようだ。重傷である。

と、突然、バスから降りていた爺さんがこっちに走ってきた。

100歳になるとかいう、半ばボケていた爺さんだが、先ほどまでのよぼよぼはどこへやら、しゃんと姿勢を正し、一緒になって負傷した隊員を引っ張りだした。


「爺さん」

「しっかりせぇ!もうすぐ、もうすぐ大泊の港じゃ!赤軍なんぞに捕まってたまるか!日本に、日本に帰るんじゃあ」


銃声と硝煙と血の匂いで何かスイッチが入ってしまったらしい。

さっきより動きも早いのでそっとしておこう。


「群長!住民の搭乗が完了しました!」

「全員、乗り込め!」


チヌークがエンジン出力を高めだし、ローター音が変化する。

順番に後退を開始し、最後に後退する隊員が、トラックを撃破した辺りにグレネードを撃ちこむ。


麓を抑えることを止めてこっちに来たアパッチが、ダメ押しに残った機関砲弾も叩き込んで、全員がチヌークに乗り込む。

すぐにチヌークは高度を上げ、離脱するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不謹慎だけど、おじいちゃんのやる気スイッチ入ったのは笑ってしまったw
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