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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
79/201

暢気な人々

新世界暦1年8月1日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸


「平和だね」

「どの口が言いますか」


椅子に座ってのほほんと言う首相に、いつも通り官房長官は呆れたように返す。

いつもの変わらぬ首相官邸である。


「中国は新大陸の占領地域をメディア完全シャットアウトで何してるのか全く不明。偵察衛星の映像では国連での報告と裏腹に未だ侵略中でやりたい放題。一方のロシアはインドを支援してザルツスタン連邦国を侵略中」


ちなみに、ザルツスタン連邦国の名前が分かったのはアズガルドの情報である。

もっとも、アズガルド曰く


「蝙蝠みたいにホリアセとの間を利益を求めて飛び回るだけの国だから、一言で言うと、”ざまぁ”」


とのことで、見て見ぬ振りをされていた。


「さらに、メキシコシティを吹き飛ばした敵も、動きはないですが、居座ったままもう3ヶ月になろうとしています」

「急いで派遣した陸自も無駄になっちゃったね」


とにかく地上戦力が欲しい米軍が、建前上遣米訓練だというのに、C-5やC-17を大量投入して陸自第7師団を空輸したのである。

ちなみに、法案の審議は遅々として進んでいないので、状況は全く変化がない。

追い込まれないと話が進まない国日本。


「まぁ、世界が平和じゃないのはいつものこと(転移前と同じ)じゃない。考えてもしょうがないよ」

「そりゃそうですがね」

「別に俺は世界を救いたくて政治家になったわけじゃないからね」


ぼそっと呟いた首相の言葉に、官房長官は黙るしかなかった。


「けど、また戦後0年になっちまったな」


感情の読めない声で首相は蝉の季節になった東京を眺めながら言った。





新世界暦1年8月3日 日本国愛知県 小牧飛行場


「「「・・・まじか」」」


一同ドン引きであった。


岐阜や市ヶ谷から出張してきた防衛装備庁の人間に、メーカーからアズガルドに輸出する戦闘機の試作機が出来たから見に来てほしいという連絡があったのはつい先日のことである。

彼らの目の前にあったのは、F-1CCVと言って差し支えの無い機体である。


「え、造れって言いましたよね?」

「「「え?言ったっけ?」」」


この野郎、ぶっ殺してやろうかと徹夜作業続きでテンションがおかしくなっているメーカー側は暴れそうになったが、防衛装備庁の1人が、そういえば言ったかもしれない、という言葉を発して落ち着いた。

睡眠不足は碌な結果を招かないのでちゃんと寝ましょう。という話である。


「F-1をベースにT-2CCVの操縦系と前尾翼(カナード)を移植しました。あとエンジンをXF-5に換装していますので出力は大幅に向上し、燃費も良くなっています。他は特に触っていませんが、J/AWG-12を始めとした兵装システムは生産が終了して久しい上に、代替品もありませんので未搭載です。飛行試験機という位置付けなので当面は問題ないでしょう」


メーカーの人間は胸を張る。


「この機体ならT-7Aを推す声も黙らせられますよ!値段以外」


最後の方が小さくて碌に聞き取れなかったが、防衛装備庁一同はおおーと声を上げる。


やはりT-4にF-35用の25ミリガンポッド2つは無茶だったのである。

飛行性能が劣悪で、対地攻撃にしか使えない、というのが自衛隊、アズガルド双方の評価だった。

もっとも、アズガルドで一部そのバカ火力を絶賛し、対戦車飛行隊への配備を熱望する声があったらしいが、牛乳飲んで出撃して、帰ってきてまた牛乳飲んで出撃して、スコアを他人に着ける人とは関係はないはずである。多分。


そして、T-4を改修して空自の次期練習機に、という話も、勿論アメリカが横やりを入れてきて、ライセンス生産でT-7Aを買えの大合唱である。

そして、アズガルドに販売する戦闘機もT-7Aにしろと来たわけである。


T-7A最大の強みは値段と運用負荷の少なさである。

なんせ米軍が大量(351機)購入するから値段は安い上に、維持・運用経費削減に定評のあるスウェーデンとの共同開発。

実戦運用は、レーダーも何もないCOIN機程度しか想定されていないが、それはT-4転用も同じだし、T-4よりは積載能力も高いし、何より武装を前提に設計されているというわけである。


もっとも、日本としては旨味がないので、どうにかしてT-4をアズガルドに採用させようと必死だった。

とはいえ、アズガルドとしても、戦闘機として使えないものを次期戦闘機とするわけにはいかないので、T-4は次期戦闘機としては不採用の方向に流れつつあった。

まぁ、練習機と攻撃機としてはとりあえず採用にはなったのだが。


だが、日本としては航空産業、ひいては防衛産業も、産業として勃興させる最後のチャンスであった。

アズガルドが現役運用していた戦闘機は開戦前で約3400機である。

ジェット機になれば値段が上がるし、経済格差も考えると1対1の置き換えは不可能とはいえ、巨大マーケットである。


それを(多分自社が噛むとは言え)ライセンス生産機に持っていかれるわけにはいかないというメーカーの意地が、防衛装備庁職員の戯言を形にしたのである。


「これならアズガルドに供与するにはちょうどいい性能になるんじゃないですか?向こうが求める対艦ミサイル運用能力もありますし」


ドヤァという音が聞こえてきそうな顔でメーカーに人間は胸を張ったのだった。





新世界暦1年8月4日 大英帝国ロンドン ダウニング街10番地


「聞いて首相閣下、ちょっと言いにくいんだけど」

「おう、その前にその変なリズムに乗せて話すの止めろや」


首相に泣きついた(?)のはビジネス・エネルギー・産業戦略大臣である。長いので以後BEIS大臣とする。


「アズガルドへの兵器輸出に日本がちっとも噛ませてくれないの」

「なに?意図的に排除されてるのか?」


それは由々しき事態だと首相は色めき立つ。

とはいえ、アズガルドでのビジネスについては基本的に(日英米が進出する分には)自由にさせてもらっているとの話を聞いていたし、実際、アズガルドから大型船の受注を国内の造船所がとった(日本の造船所に空きが無くなったせいだが)とか、アズガルドの銀行を買収しただのと紙面を賑わせたのも覚えている。


「いえ、航空機エンジンの売り込みを日本経由で行おうをしたところ、日本にもアズガルドにも笑顔で中指を立てられたとのことです」

「・・・そう」


なんとなく事情を察した首相は白眼を剥いた。

売り込もうとしたエンジンは勿論アレ(アドーア)

アズガルドにも中指を立てられたのは、兵器調達の責任者であるランヴァルドとその周囲に対し、アドーアエンジンに如何に苦しめられたかを怨念を乗せて入念に防衛省がレクチャーした成果である。


「それはともかく、アズガルドのおかげで製造業が息を吹き返しそうだな」

「まぁ、そうなんですが、国内資本がどれだけあるかと言われると・・・」


英国には製造業の工場自体はかなり存在しているが、国内資本の自動車メーカーが存在しない、という状況が示すように、そのほとんどが昔からあるものが海外資本に買収されたか、かつて所属していたEU内での流通を見込んで建てられたものである。

メーカーを全て国有化して労組とのプロレスに明け暮れた非効率経営の末路なので、自業自得とは言え悲惨である。


「まぁ、金融や情報だけでは労働者は養えんからな。工場が残っているだけ儲け物だよ」


アズガルド関連とアメリカ関連で日英米の製造業は未曽有の好景気に沸いていた。

アメリカへの派兵が長期化しそうな気配があるものの、所詮は対岸の火事。

儲けられるところで儲けよう、という空気が国内に蔓延しているのだった。





新世界暦1年8月4日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス


メキシコシティを吹き飛ばした敵は、そこから動きを見せなくなっていた。

敵の本国は消し飛ばしたので、そのうち物資が尽きるはずなのだが、いまのところその兆候は無かった。

もっとも、そのおかげで戦時体制に入ったアメリカは順調に陸軍を再建中である。

とはいえ、兵器は数年で元通りでも、人はそういうわけにはいかないので、気の長い話だが。


「中米であれだけ死んだのに景気は良いんだよなぁ」

「陸軍再建のための緊急予算だけでも莫大な額ですから、そりゃ一時的には上向くでしょう」


各種統計を見ながら頭を掻く大統領と、後が心配ですけどね、と呟く大統領補佐官。


「戦車の生産ラインを復活させたのはいいですが、如何せん旧式車両の焼き直しですからね。生産ライン以外への波及は限定的ですよ」

「かといって、新しい戦車なんて国内のどこにもないんだから、結局国外から買ってくるなら一緒だろ」


結局のところ、M1A2の新規生産に落ち着きはしたものの、どうせならもっと革新的な新戦車を・・・という意見が燻っていたが、無い物は仕方がない。

何より、「今有効な兵器」が必要なのである。

どっかの国(英国面)みたいに砂浜で遊んでる(パンジャンドラム)わけにはいかないのである。

M1A3?そんなものは無い。


「まぁ、西側主要国で既存車両の焼き直しじゃない戦車開発なんてやったのは日本が最後ですし、それですら2010年の話ですからね」


そもそも日本が完全な新戦車を作ったのも「重量」という問題をどうにかするにはそれしか無かったという理由が大きい。

日本の政府予算の問題として、新規事業のほうが予算が取りやすいというのもあったが、極端な話、重量問題が無ければ90式戦車の改修で問題なかったはずである。

それくらい、戦車は「進歩が無い」


「戦車の製造ラインなんて他に用途無いしな」

「輸出ですかね。アズガルドとかいうところに売りますか。航空関係は珍しく日本が頑強に抵抗しているようですし、それと引き換えに戦車をこっちに開放させれば、結構な市場でしょう」

「だが航空機のほうを諦めるのもなぁ・・・」

「現状、日本はこちらで一線級と呼べる機体を持たせる気はないようですし、市場としては微妙でしょう。陸なら直接の脅威にならないから一線級を持たせても日本もイギリスも文句は言わんでしょう」


もはやアズガルドがただの景気調整弁みたいになっているが、大きな市場になると見られてしまえばどこでもそんなもんである。

戦争中だというのに、経済のほうが支持率に影響するあたり、人間、とりあえずの安全があると自分の給料のほうが心配だということだろう。

次は・・・1週間以内に・・・

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