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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
77/201

夜戦

新世界暦1年7月16日 ドラスト大陸西方海域 ホリアセ共和国海軍 ドラスト大陸上陸艦隊旗艦


「艦隊の損害集計は済んだのか?」


未だダメージコントロールで慌ただしい艦内の喧騒はさて置き、提督は艦隊全体の情報を求めた。


「敵魚雷艇は全て撃退、もしくは撃沈しました。詳細は不明ですが、襲撃してきたのは20隻以内で、発見した4隻は全て撃沈。残りはすでに撤退したものと思われます」

「我が艦隊の被害は、輸送艦5隻、駆逐艦3隻、軽巡洋艦1隻が轟沈。駆逐艦6隻、重巡洋艦1隻大破。戦艦2隻、空母2隻が中破。となっています」

「艦隊の戦闘能力に支障はありません」


一体、何人死んだのか、という被害だが、3桁の数がいる艦隊にとっては戦力の低下は微々たるものである。

そもそも、艦隊戦力として主力の戦艦、巡洋艦の損害が軽微であり、輸送艦の方も、沈んだ数は1割はおろか、5分にも程遠い状況である。


「とはいえ、たかだかその程度の魚雷艇に被害を出し過ぎだ。たるんどるんじゃないのか」


提督はそういって幕僚をじろりと睨んだが、新月で灯火管制中の艦隊が、大海の中でエンジンを止めた小船である魚雷艇を見つけるのは難しい。

レーダーも、ホリアセが装備するような初歩的なものでは、大型艦ならともかく、魚雷艇を確実に発見するのは波が全く出ていないべた凪の内海でもない限り困難である。

もっとも、その大型艦もすでに見落としているのだが。


「とにかく、上陸地点には予定通りに着けそうです」

「敵が指を咥えて見ていてくれるならな」


敵の海上戦力は大したことないとはいえ、日が昇れば航空攻撃は再開されるだろうし、上陸してしまえば歩兵にとっては敵戦闘機の機銃掃射も十分脅威である。

それに対し、すでにこの艦隊は日中の防空戦で戦闘機をほぼ失っているのである。


提督は、血と屍で築く橋頭堡になりそうだと一人げんなりしていたが、作戦を中止し帰港しようものなら待っているのは良くて目隠しで壁際(銃殺刑)、悪ければ鴨居のある高台(絞首刑)である。

まぁ、結果は同じでも軍人として殺されるか、犯罪者として殺されるかの差だが、提督としてはどちらもいや(ノーサンキュー)である。

結局のところ、上の人間をそういう風に扱うと、無駄な血が流れることになるのである。


いやな考えを提督が振り払ったとき、再び海域に大きな爆発音が響き渡った。


「何事だ!?」

「後方、空母が被雷しました!」

「雷撃だ!」


少し落ち着き始めていた艦内が再び騒がしくなる。

もっとも、魚雷艇18隻が奇襲で斉射した魚雷は36発だったが、そんなものとは比べものにならない数の魚雷がこの海域を走っていることに彼らが気付くには、もう少し時間が必要だった。





新世界暦1年7月16日 ドラスト大陸西方海域 アズガルド神聖帝国海軍 増援艦隊旗艦 重巡洋艦「フギン」


「提督、時間です」


手元のアナログ式のストップウォッチを見ていた艦長が、提督に声をかける。


艦長のその言葉と若干のズレがあって、敵艦隊で爆発の炎がまず1つあがった。

ついでまた1つ、1つと異なる場所で爆発が起こる。


敵艦隊が魚雷艇の襲撃で混乱している隙に、全速で魚雷の射程ギリギリのところで針路を横切りながら魚雷をばら撒いたのである。

どこかの海軍が恋焦がれてろくに出来なかった理想的な夜間水雷戦である。


重巡洋艦2隻が片舷4連装2基で8発ずつの計16発、軽巡洋艦も片舷4連装2基で8発、駆逐艦は5連装2基が2隻、5連装3基が2隻、4連装3基が4隻で計98発。

艦隊合計122発の魚雷が、敵艦隊の針路と並行、もしくは少しずらした形で雷速50ノットで突っ走ったのである。


数が多くて隊列が細長く伸びている上に、魚雷艇が隊列に躍り込んで暴れたせいで混乱している艦隊が、それを避けるなどというのは不可能である。

この雷撃によってホリアセ艦隊は致命的な損害を受けることになるのだが、アズガルド側にしてみれば、まだパーティー開始の合図にクラッカーを鳴らした、程度のものである。


「さて、せっかく来ていただいたお客様だ。歓迎しようじゃないか。盛大にな」


提督のその言葉に艦長以下、幕僚も含め艦橋にいた人間がニヤリと笑ったのが照明の落とされた中でも伝わった。


「対水上戦闘、砲撃戦、目標敵艦隊先頭の駆逐艦」


艦橋に艦長の声が響く


魚雷は全て撃ちきっている。

次弾装填装置なんていう変態的なものはついていないのである。

魚雷艇についていたのは、魚雷艇の魚雷発射管が艦首から真正面に撃つという性質上、艦首に銃座も設けたりする都合で門数を増やせないがための苦肉の策である。

船体上に旋回式の魚雷発射管を装備する駆逐艦以上の艦なら、積める魚雷の数=魚雷発射管の数で問題ないというわけである。


「対水上戦闘、砲撃戦、目標敵艦隊先頭の駆逐艦、主砲全砲塔、交互射撃(斉射)


砲術長の復唱が響く。


『目標敵艦隊先頭の駆逐艦、方位角094、距離9000、全主砲、交互射撃(斉射)


射撃指揮所からの復唱がスピーカーを通して流れる。

20センチ三連装主砲塔を4基装備する「フギン」の交互射撃は、1つの砲塔だけを見れば、中央の主砲と両側の主砲を交互に撃つことになる。

そして、1番主砲塔で中央、2番主砲塔で両側、という風にすることで、6門ずつ斉射し、発射頻度を上げて照準修正を容易にするわけである。

まぁ、三連装主砲の欠点として、3門斉射した場合に互いの砲弾が近すぎてそれぞれの起こす風圧が弾道に影響し、散布界が広くなりすぎる、ということへの対処の意味もあるのだが。


アズガルドの技術者は発砲遅延装置という単純な解決策に行きつかなかったらしく、どうすれば全門斉射の散布界を小さく出来るか、様々な珍妙な方法を試しており、その試行錯誤の試作品の数々が知れ渡ることで、パンジャンドラム(英国面)などと同じ扱いを受けることになるが、それはまた別のお話。


「後続艦、発光信号来ました!全艦、砲撃準備良し!」

「砲撃開始!」

「砲撃開始!」

『撃てー!』


6門の20センチ砲が一斉に火を吹く。

それを合図に、後続する重巡「ムニン」も6門の20センチ砲を、その後ろの軽巡は15センチ砲、駆逐は10センチだったり、12センチだったり、はたまた15センチだったり、そして、最後尾の巡洋戦艦は3門の30センチ砲を、僅かに遅れたタイミングで、発砲した。


発射しただけではバレない魚雷と異なり、夜間であれば主砲は発砲した瞬間、位置が露呈する。

昼間はただの煙にしか見えなくとも、夜間であれば発砲炎が盛大に海域を照らし出すことになるからである。


そして、その通りに、盛大に上がった発砲炎は敵にこちらの位置を盛大に知らせることになった。


「撃ち続けろ!的には困らんぞ!」

「ま、ほどほどにな」


一方的に撃ちまくる状態で興奮気味の艦長に対し、提督は冷静なままである。

敵は大量の魚雷の混乱状態のところに砲弾が降ってきたのだから、収拾がつかない状態になっている。

それでもなんとか、輸送艦や空母と護衛部隊を切り離して、戦艦、巡洋艦を主力とする艦隊でこちらを追撃しようとしていた。


「艦長、そろそろ」

「わかりました」


艦長は少し名残惜しそうに、転舵と砲撃の速度を落とすように伝えた。

普通ならまだまだ戦果拡大!といきたいところだが、戦艦相手に20センチや30センチでは、ろくにダメージを与えられない。

反転して、巡洋艦3隻が残している魚雷24発を使わない限り、戦艦への有効打は望めないのである。

とはいえ、相手も警戒している状況では接近しない限り当たってくれるお人好し(バカ)はいないが。


「じゃあ、帰るか」


提督は気楽にそう言ったが、ここからが大変である。

幕僚達や艦長は苦笑いである。


「じゃあ、ちょくちょくちょっかいかけつつ引っ張っていこうか」


気楽に言うよなぁ、というのが艦長や幕僚達の共通の感想だったが、いずれにせよやるしかないので、皆、覚悟を決めた、というより諦めに近い表情をしていた。





新世界暦1年7月16日 ドラスト大陸西方海域 ホリアセ共和国海軍 ドラスト大陸上陸艦隊旗艦


「ああ、もう鬱陶しい!」


提督は頭をぐしゃぐしゃと掻いて声を上げた。

敵の奇襲雷撃で艦隊は無視できない損害を受けたが、敵が砲撃したおかげで位置がわかり、追撃が可能になったのである。

輸送艦や空母と、最低限の護衛を切り離し、戦艦、巡洋艦を主力とする艦隊で追撃をかけたところまでは良かったが、問題は相手の方が優速だということである。


こちらが押せば逃げ、逃げたと思い戻ろうとすると戻ってきて砲撃してくる。

まぁ、要するにアズガルドはいわゆる引き撃ちをしているわけである。


「連中、我々をどこかにおびき出しているのでは?」


幕僚の1人が意見具申する。


「とはいえ、連中の戦力では魚雷艇の連中と同じ(自殺志願者)でない限り、これしか方法はないでしょう」

「そもそもおびき出したところで、どうやって我々を叩く?連中の戦力は魚雷艇も含めてあれだけだろう?」


アズガルドとホリアセはずっと戦争を続けているだけあり、互いにそれなりの情報網を持っている。

戦力を秘匿するにはかなりの困難が伴うので、この海域にいる戦力はほぼ把握できているとホリアセは考えていたし、実際、その通りだった。


「いずれにせよ、上陸地点から連中を引き剥がす、という目的を考えれば、このまま追いかけて行けば勝手に離れて行ってくれるだろう」


エアカバーがないだけでも問題なのに、その上上陸地点に艦砲射撃が降り注ぐなど、作戦を成功させる気が無いとしか思えない状態にするわけにはいかないのである。


「提督、海図がまともに無い状況で敵についていくのは危険では?まもなく日も出てきます。航空攻撃の危険もありますし、そろそろ」


世界が転移したせいで、従来の海図は役に立たないのである。

とはいえ、ドラスト大陸周辺の海図は使えるだろう、という読みで実行された上陸作戦だし、航空偵察で「だいたいの」位置関係は把握していた。

敵地上空で呑気に航空測量を行うわけにはいかず、非常にいい加減な位置関係が記入されているだけだったが。


「ふむ・・・」


提督が考えを巡らせようとした時、激しい衝撃とともに、艦が何かに乗り上げた感覚と艦庭をひっかくような嫌な音が響いてきた。


「なんだ!?」

「暗礁に乗り上げたようです!」


普通なら焦るところだが、全員にさしたる危機感は無かった。

それならもう追撃は停止して、アズガルドのちょっかいは無視し、満潮を待って曳航し脱出すればいい。と思っていたのである。


そこがどういう場所だか気付くまでは。

次は水曜日!

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