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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
76/201

海の勇者

新世界暦1年7月16日 ドラスト大陸西方海域 アズガルド神聖帝国海軍 第18水雷艇隊


突撃を掛けた4隻の魚雷艇は、一見すると攪乱のためにバラバラの目標に向かったようにホリアセ側からは見えた。


事実、見つかった彼らが突撃を敢行したのは友軍を逃がすためだと考えれば、それは正解である。

艦隊内に魚雷艇が入ってしまえば、ホリアセ側は同士討ちの危険性を強く意識せねばならず、かといって放置すれば至近距離から魚雷を撃ち込まれかねず、で対応にてんやわんやになるからである。


しかし、4隻が考えていたことはそんなことでは無かった。

4隻が全く同じことを考えていたという点では、統率はとれていたが、「友軍を逃がすために攪乱する」という手段としては最右翼、「刺し違えてでも旗艦を沈める」ということである。


「艇長、後は任せる!派手にやれ!」

「了解です!一世一代の大博打、派手に決めてやりますよ!」


4隻が一斉にバラバラになったせいで、探照灯の照射は外れていた。

とはいえ、海域は飛び交う曳光弾やら、敵の探照灯やらでかなり明るくなっており、隠れられているわけではない。

その証拠に、ちょくちょく、機関砲弾が船体を叩く音が聞こえる。


「わははは、こりゃ帰ったら工廠長に大目玉でしょうなぁ!」


艇長は楽しそうに大声で笑う。


「水雷員生きてるか!」

「信じられねぇ!俺、まだ生きてる、生きてるよおおおお」


ハイテンションで振り切れてる司令と艇長に対し、右舷魚雷発射管に齧りついている水雷員は、なぜ自分が生きているのか不思議でならない、といったように顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたが、司令にため口で返事をしていることからして、やはりどこかテンションが振り切れているのだろう。


「左舷魚雷発射管、いつでも撃てます」


一方の左舷魚雷発射管の水雷員は恐ろしいほど冷静である。

その返事を聞いた艇長が、「あれ?こんな奴だっけ?」と思ったくらい冷静である。


まぁ、要するに乗員みんなテンションが振り切れておかしなことになっているのである。

100トン程度の小船で100隻以上の艦隊に、弾幕の中突っ込んでいるのだから、それで平常通りなんてやつはそうそういないということである。


「左舷25度、敵巡洋艦、距離800!右舷15度、敵駆逐艦、距離1400!」

「針路を塞ぐ気だな」


魚雷の直撃を受ければ轟沈の可能性がある駆逐艦が、船体を盾に針路を塞ごうというのだから、敵も中々のクソ度胸である。

ならば、こちらもそれに敬意を示して。


「左舷魚雷発射管、発射用意!合図したら直ちに撃て!」

「了解」


一応、アズガルドの魚雷艇には水雷方位盤があるので、射撃諸元を入力して魚雷を発射することは可能である。

つまり、魚雷発射管の向き=魚雷が走る向き、とは限らないわけだが、こんな接近戦でいちいち距離と彼我の速力と方位から偏差を取って、なんてやってられない。

そもそも、そんなことができるのはこちらが止まっているか、低速で転舵せずに進んでいる場合である。


アズガルドの魚雷艇は、艇首に船体と平行に、右舷と左舷に1本ずつ魚雷発射管を装備している。

つまり、魚雷を発射後直進するようにセットした場合、発射時の船の針路=魚雷の針路となるわけである。

ただ、この方式は発射管の数を増やせないので、潜水艦のように予備弾を積んで、次弾装填が可能なようになっている。


「対空銃手!駆逐艦との距離を報告し続けろ!」


対空機銃の射程内であり、それを避けるために小刻みに転舵する40ノット以上出している艇の上で、中々の無茶振りであるが、まぁ、ぶっちゃけ目分量である。


小回りの利く小柄な船体と速力を活かして軽巡を躱した艇長は、船体を駆逐艦の方に向ける。

その意図に気付いたらしい駆逐艦が転舵し、狂ったように機銃が発砲を始めた。


「距離1000!」

「まだまだぁ!」


駆逐艦の探照灯がこちらを照らし、20ミリ前後の砲弾がいくつも船体を叩き、乗員の何人かが血飛沫となる。

それでも小さな船体は止まらない。


「距離800!」

「左舷撃てぇ!」


艇長が「さ」と言った時点で、水雷員は発射ボタンを押していた。


魚雷が発射管から飛び出すのと同時に、探照灯が魚雷艇を外れ、駆逐艦との間の海面を照らす。

船体を叩いていた砲弾は、その全てが探照灯と同じく駆逐艦との間の海面を叩き出す。


しかし、そんな努力もむなしく、こういった場合に備えて事前に安全装置がカットされていた魚雷はきっちり仕事をこなした。

駆逐艦はその爆発に船体を裂かれ、戦闘能力を喪失した。


残り魚雷は3発。ただし、発射管に装填済みなのは残り1発。

パーティー会場より騒がしいこの海域では最早次弾装填は望めない。

なけなしの1発である。


一瞬、艇長の頭に予備魚雷を投棄するか?という考えがよぎる。

というか、被弾に一番弱い剥き出しの予備魚雷が被弾していないのは奇跡である。

ちなみに、予備魚雷に被弾すると、艇ごとお空のお星様になることになる。


「左舷35度、距離2500!敵戦艦!敵大将旗を確認!」

「左舷60度、距離1000!敵駆逐艦!間に強引に割り込む気です!」


針路から行くと、駆逐艦はこちらにぶつけるつもりで突っ込んできている上、下手すると戦艦に押し潰されかねない針路である。

当然、2000トン級の艦とぶつかれば、4万トン超えの戦艦でも無傷ではすまないが、魚雷の直撃よりは遥かに損害は小さくなる。


「・・・」

「考えとることはわかるぞ」


それまで黙って周囲の監視だけを行っていた司令が艇長に声を掛ける。


「指揮官としては無能な考えです」

「そうでもないさ、俺もそれしか思いつかん」


司令のその言葉を聞いた艇長は、覚悟を固め、艇首を駆逐艦に向けた。


「右舷発射管、発射用意!」


一瞬、右舷水雷員はえっという感じで、艇長の方を見たがすぐに準備を終える。


「用意良し!」

「発射!」


まさか自分が標的になるとは思ってもいなかった駆逐艦は、回避する間もなく艦首に魚雷を受け、見る見る間に速力を失った。

これで発射管は空である。


敵旗艦を前にして、撃てる魚雷はゼロ。

そして、敵旗艦の目の前ということは、敵艦隊のど真ん中である。


「総員離艇準備!水雷員は予備魚雷弾頭の安全装置を解除せよ!」


その命令に水雷員は再び目を剥いて艇長を見た。


「急げ!」

「了解!」


水雷員はすぐに作業を完了する。それを艇長に報告すると、艇長は


「総員離艇!」


と叫んだ。

が、一向に速度を落とす様子はない。


速度は40ノット以上出ているのである。

そこから飛び込めなど、普通なら正気ではない。


「何している!さっさと飛び込め!」


が、艇長はいたって真面目である。

艇を止めれば、間違いなく間違いなく蜂の巣になるからである。

まぁ、別の理由のほうが大きいが。

とはいえ、艇長にきつく促されても誰も飛び込まない。


「艇長!前部機銃座、射撃準備良し、であります!」

『こちら機関室!主機は3機ともまだまだ絶好調であります!』

「右舷予備魚雷、固縛よし!」

「左舷予備魚雷、固縛よし!」

『後部対空機関砲、射撃用意良し!』


総員離艇を宣告されたにも関わらず、誰1人として持ち場を離れようとしない。

今、飛び込めば、死なない確率はゼロではない。大けがはするだろうが。

しかし、これから艇長と司令がやろうとしていることは、間違いなく死ぬ。


「お前ら・・・」

「司令と艇長だけにイイかっこはさせませんよ!」


艇が笑いに包まれる。

覚悟を決めた艇長は最期の命令を下す。


「機関室!これが最後だ!ぶっ壊すつもりで限界まで回せ!」

『了解!』


更に速度をあげた艇は、被弾してボロボロの艇体がバラバラになるのではないかと思われたが、()()()が魚雷となって敵旗艦に激突した。





新世界暦1年7月16日 ドラスト大陸西方海域 ホリアセ共和国海軍 ドラスト大陸上陸艦隊旗艦


「ぬおおぉおお」


敵の魚雷艇が激突すると同時に、大爆発を起こし、艦橋も大きく揺れた。


「被害報告!」


艦長は伝声管にしがみつきながら叫ぶ。


『機関室、異常なし!』

『第4主砲塔、異常なし』

『第3主砲塔、異常なし』

『左舷高角砲、異常なし』


次々と異常なしの報告が入るのに、艦長は安堵を覚える。


『艦首、第2、第3甲板で大規模な浸水!』

「区画閉鎖急げ!」


艦の重要区画(バイタルパート)は無傷で済んだらしく、多少全速での船足は落ちるだろうが、巡航には支障無さそうである。


「やれやれ、敵ながら度胸だけは見習わんとな」

「艦隊の損害集計を急がせないと」


魚雷艇の撃退で、すっかり一心地と言った感のある艦隊幕僚達だったが、本当の脅威はその隙に忍び寄っていたのである。





新世界暦1年7月16日 ドラスト大陸西方海域 アズガルド神聖帝国海軍 増援艦隊旗艦 重巡洋艦「フギン」


「水雷艇隊は義務を果たした。次は我々の番だ」


多数の爆発によって明るくなった敵艦隊を双眼鏡で眺めながら提督は小さく呟いた。

次回は・・・いつだろ?

ちょっと予定が未定なので。とりあえず遅くても水曜日までには更新します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃかっこいい戦いでした。黙祷。
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