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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
7/201

動き出す世界

新世界暦1年1月4日 パナマ パナマ・コロンビア元国境地帯


南米大陸がなくなり、パナマが未知の大陸と繋がってしまった結果、よく分からない国とつながっているのだが、当のパナマに危機感は無い。

なぜなら、コロンビアとの国境地帯はジャングルが広がるばかりで、「陸路はない」と言われるほど未開の地だからである。

普通に国境沿いにも街があり陸路が通っているコスタリカとの国境とは対照的である。


そんなジャングル地帯を、地球では創作の中でしか見かけないような六足歩行の機械が行く。

砲塔が載っているので、どうやら軍用のようである。


やがて道なき道を、邪魔になる木をへし折りながら進んでいた歩行機械は、川に出て移動を止めた。

砲塔のハッチが開き、人が降りてきた。


「しかし、何もありませんね」

「どこまで行ってもジャングルか」


順番降りてきたのは4人。

どうやら車長、操縦手、砲手、装填手という構成は戦車と同じようである。


「しかし、背教者のスレイン王国が消失し、突如として未知の大地が現れるなど、無知蒙昧な原住民に神の教えを広めよという聖者タスマン様のお導きに違いない」


彼らは神聖タスマン教国の斥候である。

500年前に神託を受けたという聖者タスマンによって建国された宗教国家であり、魔法を主体とした発展を遂げた国である。

この六足歩行機械も、魔法によって動いているゴーレムであり、魔法生物の一種と言える。


「とはいえ、これだけ深いジャングルでは、地上からの捜索は限界がありますよ。もう3日、そろそろ戻らないと食料も尽きますし、報告も必要でしょう」


積んできた食料の残量をチェックしていた装填手が言う。


「ううむ、ここまで何も無いと確かに地上からの捜索は限界があるな。戻ったら飛行艇による捜索を具申しよう」

「食事の用意ができましたよ」


川から水を汲んで、湯を沸かしていた砲手が声をかける。

魔法効果で時間経過を遅らせた保存食のおかげで、行軍中でも温めるだけでまともな食事にありつけるのがこの国の強みだった。





新世界暦1年1月4日 アメリカ ワシントン ホワイトハウス


モニターには現在までに判明したこの世界の地図が映し出されていた。


「北米大陸には南北がひっくり返った以外の異常はなく、中米もパナマまでちゃんとあるが、南米大陸がなくなって未知の大陸が広がっているというわけか」

「水平線の見通し距離で見る限り、この惑星が球体だとすれば直径は地球の2倍、つまり表面積では4倍あることになります。その割に重力に変化は認められませんので、この惑星の中は空洞なのか、質量の軽い物質で構成されているのか。いずれにせよ、大気圏の高度も変わらないようなので、従来の第二宇宙速度に探査機を投入できるロケットであれば、衛星の打ち上げは可能と思われます」


大統領に現在まで判明した情報を説明しているのは国家偵察局長官である。

とにかく情報を集めるという点において、アメリカが持つリソースは衛星が無くなったとしても膨大である。


「衛星の打ち上げを急ぐか。偵察衛星とGPSだな」

「GPSのほうは、緯度はともかく、経度の基準を決めないと現在地をどのように表示すればいいのかと国防総省が嘆いてましたが」


もともとGPSは衛星から電波が発信された時刻と、それを受信した受信機の時刻の差から衛星までの距離を計算し、現在地を経度と緯度で表示するシステムである。

つまり、信号さえ従来通りにしておけば、地球で使っていた機器でも、座標データを得ることは可能である。

もっとも、地図が全く異なるのでカーナビや地図アプリは使えないし、自機位置からの相対位置で目標の座標を計算して誘導するGPS誘導爆弾も、天体の大きさが異なるせいで相対位置の座標計算が異なるので改修が必要と、何かしら応用を利かせているような機材は全て作り直しである。


「まぁ、とはいえ、国防総省としてはせっかくゼロからやり直すなら対妨害性も高めた新しいものにしたいとも言っていましたが」

「だが、無いのも不便だろ」

「難しいところですね。とにかく、偵察衛星は急がせましょう」


この後、アメリカは冷戦時代にもやらなかったような凄まじいペースで偵察衛星を打ち上げることになる。

民間ロケット打ち上げ会社を持つ国の本気である。


「それはそうと、南米大陸の代わりに出現した未知の大陸はどんななんだ?石油ありそう?」

「とりあえずU-2による偵察を行っておりますが、少なくとも高度20000メートルを飛行する航空機を探知して邀撃機や対空ミサイル(SAM)をあげてくるような技術力はないようです」


そう言って、U-2Sが撮影した写真を並べる。


「いくつかの都市を見つけていますが、その様相は独特で、我々とは全く異なる技術体系によるものと推測されています」


大統領は都市が映っている写真を手に取る。


「これは・・・なんだかファンタジーチックな建物だな」

「道を拡大したのがこちらです」

「・・・なにこれ?」


そこに写っているのは、六足や八足の機械らしきもの。


「どうやらこれが自動車のようなものみたいですね。どうしてわざわざこんな複雑な機構をしているのか謎ですが」

「車輪がないのか?」

「その多脚機械が引っ張る牽引車はあるようなので、無いわけではなさそうです」

「乗り心地も悪そうだし、なんでなのかさっぱりわからん」

「車輪やキャタピラより地形対応能力は高いですから、軍用だと運用の仕方や戦場によっては脅威でしょう。都市内部はともかく、都市間道路はそれほど整地されている様子がないので、地形が悪いからこういう機械が発達したのか、こういう機械が発達しているから道がいい加減なのかは判断できませんね」


地球の常識からは理解できない謎だらけの世界だと大統領は理解した。


「しかし、全くわからんということは得るものも大きそうだな」

「とはいえ、兵力もそれなりに大きそうですが」


そう言って、別の写真を大統領の前に出した。


「これは・・・大きさと形からして飛行船か?」

「形は似ていますが、全く異なるようです。どうやって浮いているのかも不明です」


飛行船のような紡錘形ではあるが、どうやら飛行船ならガスが入っているエンベロープにあたる部分が本体らしく、上側に銃座のようなものが多数ついているし、窓も見えるので中に入れるのだろう。

何よりも目を引くのは、前後についている大型のハッチである。


「大きさに見合わず、意外と速度が出るようで、E-3による偵察では時速500キロほどで飛行しているのを確認しています。これが巡航速度と見て良いでしょう」

「下手なレシプロ機より速いな」

「この前後のハッチより発進する小型の機体も確認しています。複数機で格闘戦のようなことをしているのも確認できましたので、戦闘機のようなものでしょう」

「つまり、このデカブツは空母だと?」

「推測ですが」


時速500キロで飛び回る空母とか厄介極まりない。


「その小型の戦闘機みたいなのの性能は?」

「空軍の見解では格闘戦はやりたくないが、速度差とBVR(視界外戦闘)能力を活かせば敵ではないだろう、と」

「あとは攻撃の威力が足りるかどうかか?これの材質もわからんしな」

「空軍は飛んでるんだから装甲があっても限界はあるだろう、と随分強気でしたが」

「映画みたいにバリアがあったらどうするんだよ」


とりあえず、地球と違いすぎてよく分からない。というのが結論だった。





新世界暦1年1月4日 ジブチ ジブチ国際空港 ジブチ共和国における自衛隊拠点


「寒いっす」


ずずずと鼻を啜りながら、隣に立っている三曹が言った。


「しゃーねーだろ。冬装備なんか持ってきてるわけねぇんだから」


中央即応連隊から警備要員として派遣されている以上、仕事はせなばならない。

その結果が地面が白くなっている基地正面入り口の警備である。


日本との連絡が途絶したのが現地時間で大晦日の午後3時。

同じジブチ国際空港内に駐留する米軍、仏軍も本国との通信が途絶したと言う。


そして、始まったのが気温の低下。

涼しいとされる12月でも平均最低気温が23℃というジブチなのに、外に干した洗濯物が凍ったのである。

情報収集も兼ねて市街地に防寒着を買いに行った連中曰く、アフリカ大陸以外との連絡が途絶したことよりも、経験のない寒さによる混乱のほうが大きかったという。

ちなみに、防寒着の買い出しのほうも芳しくなかった。

なんせそもそも防寒着なんて必要ない国なので、ろくに売っていなかったのである。


結局、持ってきている服を着こんで、一番上にはかろうじて持ってきていた戦闘雨具を着ている。

雨がほとんど降らないジブチでまさか使う日が来るとは、というのが正直な感想だが、それすら持ってきていない海の人達はジブチのマーケットで調達してきた布を巻いて震えているので、傍から見ていて気の毒である。


本国との通信途絶に関して、米軍も打つ手なしと言った感じで、一度有視界飛行で偵察に出てみた海自のP-3Cも、アラビア半島が未知の陸地に代わっているのを見てあわてて戻ってきたらしい。

その後、フランスもアメリカも偵察機を飛ばしていないので、どうやら海自の指揮官が3ヶ国で行われたくじ引きに負けたから偵察飛行を行ったというのは事実らしい。


「先が見えねーよなぁ」


隣の三曹には聞こえないようにぼそっと呟く。

と、その時、三曹が突然叫んだ。


「車両が接近してきます!」


見ると緑色のオフロード車が近付いてきている。

というかあれは・・・


「中国軍だ。いつものやつだろ」


駐留している兵力でいうなら、ジブチ防衛を担うフランス軍すら凌ぐかもしれない規模がいる人民解放軍である。

やがて、ゲートの前の道路で車は止まり、迷彩服を着た男が降り立った。

砂漠なのに緑色のピクセル迷彩なのは、イラク派遣時の自衛隊を思わせるが、拘りでもあるのだろうか。

ちなみに、ジブチ派遣の陸上自衛隊は砂漠迷彩である。


「やあ、今日も来ましたよ」


ぎこちない英語で挨拶してくる人民解放軍の士官。

英語がぎこちないのはお互い様なので気にしない。


「変化はないよ。相変わらずどこも繋がらない。そして寒くて凍死しそうだ」


各国との通信が途絶えてから、毎日欠かさずこちらの様子を聞きに来る。

非公式な現地の情報交換というやつである。


「砂漠で夜に凍死はあり得ない話じゃないけど、ジブチで昼間に凍死はきっと誰も信じてくれないね」

「まったくだ」


くだらないことで笑い合う。


「市街地を抜けてきたけど、だいぶ剣呑な雰囲気だったね」

「食料か・・・」


もともとアフリカという大陸自体、食料供給を他に依存していたので、それが途絶したとなると問題が発生するのは火を見るよりも明らかである。


「早いところどこかと連絡がつけばいいのだが」

「ほんとにね」


情報から隔離された中で、国も立場も違う2人だが、同じ溜息を吐くのだった。





新世界暦1年1月4日 日本国 鹿児島県種子島 種子島宇宙センター


「いやいや、無茶言わんでください。元々1月末打ち上げの予定でやってたんですよ。まだ組み立てだって済んでないのに打ち上げられるわけないじゃないですか」

『そんなのこっちだってわかってるよ。だけど今の状況わかってるでしょ?世界の状況を知るために、少しでも早く打ち上げたいんだよ』


ただ1月末に打ち上げの予定でH-3ロケットを組み立てていた。というだけならここまで矢のような催促にはならなかっただろう。

たまたま、その搭載する衛星が合成開口レーダーを搭載する情報収集衛星だったことに、霞が関か永田町の誰かが気付いたらしく、大して休めなかった三が日が開けた瞬間、電話が鳴りっぱなしだった。


「そりゃ地球で打ち上げるってんなら1週間くらいの短縮はできたかもしれませんよ?けどなんですかここ。まったく未知の惑星なんですよ!?本来なら打ち上げを遅らせたいくらいですよ!」

『万全を期したい気持ちもわかるよ?わかるけどね、一体何人の日本人が海外旅行してたと思う?70万人だよ。70万人。これに留学や仕事で行ってる人たちまで足したらどうなる?彼らを見捨てるの?日本にいなかったお前らが悪い、自己責任だ!って』


そんなことを持ち出されると反論のしようがなくなる。


「なるだけ急ぎはしますが、地球のときのままの計算ってわけにはいかないんですから、そっちでもいろんなところに働きかけてもらいますよ!それに、単純な準備も元々の打ち上げ予定も、内之浦のイプシロンの方が早いんですから、そっちを優先して、こっちはそのフィードバックも受けて万全を期す方がいいと私は思いますがね!」


ロケットと衛星の値段的にも!という言葉を飲み込む。


『頼むよ!メーカーと大学にはもうこっちで片っ端から協力依頼してるから!』


とはいえ、予定通りに打ち上げられたら御の字だろう。

急ぎはするが、万全を期したい。というのが組み立て、打ち上げ両チームの共通の思いだったのだが・・・


「あれ?けど可能な限り早く打ち上げたら、この衛星がこの星のスプートニク(最初の人工衛星)になれるんじゃ?」


何の気なしにJAXA職員が呟いたこの一言により、それまで以上の急ピッチで打ち上げ準備は進められることになる。





新世界暦1年1月4日 ロシア連邦 極東ロシア ボストチヌイ宇宙基地


本来なら極寒のシベリアの冬のはずが、転移してから急速に熱くなったせいで皆半袖で働いている基地の中を1人の技術者が歩いている。


「打ち上げが失敗したって?」


まるで今日のランチはなんだろう。くらいの軽いノリで同僚に声をかける。


「そりゃそうだろ。なんの修正もせずに、元のデータのままで発射してるんだから」


声を掛けられた技術者も、昨日のサッカーの試合の結果を言うような気軽さである。

失敗したのがこの基地とは無関係だから、いわば他人事だからである。


「しっかし、衛星の打ち上げより大陸間弾道弾(ICBM)の正常化を急ぐとは」


そして、彼らが「失敗した」と言っているのは、この基地で組み立てられているような衛星を打ち上げるロケットの話ではなく、ICBMの話である。

もっとも、彼らが「失敗」と言っているのは、弾頭が地球で想定されていたところまで上がらず、地球と同じ計算では衛星軌道への投入は無理っぽいというある種当たり前の事実が判明したことを指している。

弾頭自体は、当初の予定より飛ばなかったものの、ちゃんと再突入したので戦略ミサイル軍の考えでは及第点といったところだった。


「アメリカがなくなったのにICBMなんているのかね?」

「そのせいで中国が不穏な動きしてるんだろ。東部軍管区に非常招集がかかってるよ」

「ああ、そのせいでそこら中戦車だらけなのか」

「呑気な奴だなお前は・・・ここだって中国との国境まで100キロ無いんだから他人事じゃないんだぞ」


呑気な同僚を窘めるように言う。


「大丈夫だって、中国もバカじゃねぇんだ。わざわざこっちに来るくらいなら、もっと潰しやすい相手を選ぶって。それより、早く打ち上げたいもんだなぁ。こっちで初めての人工衛星だぜ!」

「スプートニク1号ほどの浪漫も栄誉も感じられないけどなぁ」


どちらかと突貫作業に辟易としている技術者は、うんざりしたように言った。


「なーに、成功させたらきっと偉大なるソビエト英雄としてレーニン勲章がいただけるだろ」

「いらねー」


その後の彼らの話題は、安い給料や何もない人工的な街の愚痴に移っていくのだった。





新世界暦1年1月4日 ユーラシア大陸南方 未知の大陸


何もない広大な大地の上を人民解放空軍のH-6爆撃機が飛行している。


「何もないな」

「ほんとにな」


現在地を知る手段は慣性航法装置の情報だけ、という状態にもかかわらず、空中給油までして足を伸ばして偵察飛行させるのはさすがの中国軍と言わざるを得ない。


「完全に未知の大陸だろう」

「見つけたもの勝ちなんだから、ここは中国ってことだな!俺たちの名前がつくぞ!」

「んなわけないだろ、あれだ、プーさんランドと名付けよう」

「ああ、なんということでしょう、帰還後に別れた機長の姿をその後見た者は誰もいないのでした」


最高権力者を揶揄したりして冗談を言いつつ、飛行を続ける。


「そろそろ戻らないと、燃料が危ないですよ」

「そうだな、戻ろう。慣性航法装置のズレも考えたら給油機とのランデブーは余裕を見る必要がある」


ゆっくりと旋回して、着た時とは違うルートを飛行しつつ、給油機との合流を目指す。


「しかし、やたらとこの大陸に偵察飛行させてますけど、何がしたいんでしょうね」

「さあな。だがどっちにしても近いうちに上陸部隊が送られるのは確かだろ」


彼らの言葉通り、翌日に中華人民共和国は、時計回りに90度回転したユーラシア大陸の南方2000キロに出現した未知の大陸は中国固有の領土であると宣言し、上陸部隊を派遣した。

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