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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
69/201

双方の停滞

新世界暦1年5月6日 アメリカ合衆国 国防総省


世界最大のオフィスビルと言われるペンタゴンだが、今はその機能の中心を地下のシェルターに移していた。

所謂、戦時体制というやつである。


現在、米国の中枢は3つに別れている。

大統領を乗せて国内を飛び回っているE-4Bナイトウォッチ、副大統領がいる北米防空司令部(NORAD)、そして国防長官がいるここ、国防総省(ペンタゴン)である。


E-4Bは主に政治判断と最高意思決定、NORADは北米全般の防空、防衛、そして国防総省はメキシコ戦線と攻勢計画の策定を担っていた。

とはいえ、今のペンタゴンの主な仕事はメキシコシティの被害集計と、メキシコ国境への緊急戦力配置計画の立案と実行が主眼である。


「メキシコシティ正面、及び後方に配置していた地上戦力と防衛戦司令部は文字通り壊滅、か」


メキシコシティ上空、高度1万8千メートルを飛行するRQ-4(グローバルホーク)から送られてくる映像を見ながら誰かが呟くようにいった。


「救援部隊を送り込むにも線量が高く、正直装備が足りません。観測されている線量からして、敵が使用したのは未知の破壊兵器、ということは無かったようです。残念ながら」

「とにかく、被害の少ない爆発外縁部の風上に救助は限定しています」

「一般市民には退避勧告が出ていたとはいえ、どれほどの数が残っていたのかは不明です。各国の公館はある程度の人員は退避させていたようですが、情報収集のために残っていたところも多いので、概ね巻き込まれたと見て良いでしょう」


とりあえず今わかっているのは、どれだけ楽観的に過剰なほど少なく見積もっても数十万の人名が失われたということだけである。

そして、後に残るのは立ち入り禁止(放射能汚染)区域。


「そもそも、なぜ敵が核兵器を持っていることがわからなかった?有望な鉱物資源がないということは、ウラン鉱山もない、ということだろう?」


根本的な疑問である。

衛星や各種偵察機による調査では、有望な鉱物資源は無く、占領する価値はない、と結論が出ていた。

アメリカの初動が鈍かった根本的な理由だが、敵が核兵器を持っているということは、敵の世界では一般的に売買されている兵器でない限り、国内にウラン鉱山を有しているということである。

そして、敵がこれまで使用しなかった点や、他の地域での使用報告がないことから、核兵器が一般的に流通して使われている世界、ということは考えられない。


「それなのですが、こちらの2枚の画像をご覧ください」


そう言って、会議室の大型スクリーンに、2枚の色分けされた地図が表示された。


「これは敵国のとある都市の航空機モニタリングの結果で、左は以前観測したもの、右は現在、我が軍の飽和核攻撃で都市を破壊した後のものです」


左の画像は青、つまり低線量のエリアしかないが、右の画像は全体的に緑や黄色、さらには赤といった致命的な放射能汚染がある可能性を示している。


「核攻撃したんだから、線量が上昇するのは当たり前では?」


国防長官の言葉に、居合わせた者達も頷く。


「計算があいません」

「は?」

「我が軍が攻撃に使用した核弾頭に入っていたウラン全てが撒き散らされたと考えても、この線量は異常です」


全員が互いに顔を見合わせる。


「もともとこの都市は鉱山都市らしく、何かを採掘し精錬しているらしい、というのは画像偵察で判明していましたが、それが何なのかは衛星探査でも判明しませんでした」

「それがウランだと?だが線量はどう説明する」

「この都市にも防護障壁が張られていましたが、ひょっとするとあの障壁は放射線を遮蔽する効果もあるのではないでしょうか?」


一気に室内が喧騒で満ちる。


「実際、障壁内にいるメキシコシティの敵戦力は線量の影響を受けている様子がありません。まぁ、鉱山や精錬工場自体を都市から隔離している様子がありませんでしたので、そもそも放射線を分かっているのかは不明ですが」

「鹵獲した敵戦車で調べることが増えたな」


実際に障壁で放射線が完全に遮蔽できるのなら、割と方々でとんでもないことになるのだが、実務に追われる室内でそのことに思い至る人間はまだいなかった。


「それはともかく、緊急防衛計画はどうなっている」

「現在、州軍も全てかき集めてメキシコ国境に配置しています」

「デポで保管されているM1戦車も可能な限り現役復帰させて、順次配備するように手配しています。予備役のM1が2000輌ほどありますので、計画が完了すればとりあえずの機甲戦力は持ち直します」

「とはいえ、今日明日で完了するわけではあるまい?」

「欧州から引き剥がすのとどっこいくらいの期間では完了します」


うーん、と国防長官は唸り声をあげる。


「正直、本国が焦土になった敵侵攻戦力がどう出るかわからん。破れかぶれの突撃を敢行されるとメキシコ国境までまともな防衛戦力はないぞ」

「航空攻撃で遅滞させるしかないですね。核を撃ち込めれば手っ取り早いですが」

「それはダメだ。これ以上中米は汚染できん。今アメリカ国内に流れ込んでいる難民には、戦後それぞれの国にお引き取り願わねばならんからな」


一時的に受け入れるのは構わないが、移住は認めず、戦後は帰国させる、というのが低所得層を中心とした世論との妥協点だった。

主にリベラルや高所得層エスタブリッシュメントを中心に、移住を受け入れるべきという論調もあるにはあったが、例によってすでに国内にいる低所得層のケアには無関心かつ、受け入れろというだけで、自分達の近くに来るのはノーサンキューという、可哀想な人たちを助ける自分に酔っているのが大多数だったので、メキシコ国境近辺の州から猛反発を浴びていた。


となれば、勿論、南部(今は北部になっているのがややこしいが)選出の議員たちは、戦後送り返すよう主張するし、ニューヨーク等の大都市圏を除けば、どっちを主張しても批判されるなら玉虫色の主張をしておこう、というのが主流だった。

結果、政府方針としても、戦後に送り返す方向で固まっていた。

というか、中米諸国の亡命政府も、送り返してもらわないといつまでたっても復興できないと、強引に送り返すことには賛成していた。


第二次大戦中の日系人収容に見られるように、いざとなったら強権を発動するのがアメリカという国である。

多少強引にでも送り返す段取りは密かに進められていた。


「英国、シンガポール、ブラジル、台湾、日本の機甲部隊が直に到着しますので、これもメキシコ国境に配置します」

「戦線を一気に国境まで下げることにメキシコ政府とメキシコ軍が反発しているんだが、もうちょっと前に出せないのか?」


政治的な話を国防長官は持ち出す。

一応、建前として安保理決議に基づく多国籍軍になっているので、あまりアメリカの都合だけで作戦を決めてしまうのは体面が良くないのである。

ちなみに、台湾と日本は「政治的な問題」でアメリカで「実戦的な演習」を行うために派遣されることになっているので、一応今のところ正面戦力にはカウントされていない。

ちなみに、台湾は「安保理決議の多国籍軍に台湾がいるのはいろいろまずい」というアメリカ側の都合、日本は「法整備は後回しでとりあえず立法したらすぐ動けるように派遣だけしとこう」という海賊対処の時と同じ日本側の都合である。


「一応、ある程度前進させていく予定は立てていますが、敵の核戦力を殲滅した確証がありません。戦力は広く薄く、集合地点は出来るだけ後方に、ということでわかりやすく国境にしています」

「つまり、戦闘地域はあくまでメキシコだと」

「アメリカ国内を戦場にしたくはないでしょう?」


その言葉に国防長官は頷く。

どこの国も、自国を戦場にしたくないから外に出て行くのである。

1940年代から変わらず本土決戦思考のどっかの島国がおかしいのだ。


もっとも、外に出て行くのも際限が無いので、どこかで線引きをしなければ、引っ込みがつかなくなる。

日本における満州は引っ込みがつかなくなった典型である。

(経済的な話は抜きで)日本本土の防衛を考えるなら、朝鮮半島があればいい。満州はあくまで朝鮮半島の防衛に必要な土地なのである。

とはいえ、朝鮮半島にはかなり投資した。それを防衛するため、満州にも投資した。

結局、キリがなくなった。


アメリカの場合はもっと極端で、敵が本土に来る前に叩いてしまおう、と世界各地に仲間をつくって基地を作ったのである。

本来は持ちつ持たれつのはずだったのだが、アメリカの力は強すぎた。

皆、アメリカに寄り掛かるようになってしまい、中国の強大化と共に、やがてアメリカはそれを支えられなくなった。


自ら守る意思を持たない国は支えない。

そうしないとアメリカが持たない。

そうはっきりと宣言し、転換を迫る必要がある中での今回の事態である。

そもそも、欧州の事情を差し引いても、NATO加盟国からの派兵はカナダとイギリスだけ、というのがアメリカと欧州諸国の溝を表していた。


もっとも、欧州大陸のNATO加盟国全てが派兵を拒否したわけではなく、例えば、歴史的にドイツもロシアも信用していないポーランドはアメリカとの関係を重視しているので、派遣を打診したものの、輸送手段の確保に手間取って目処が立っていなかった。

ただ、現状を鑑みるに、米海軍を使ってでも輸送したほうがいいんじゃないか?という意見はアメリカ側から出ていたが。


「とにかく、航空攻撃を主軸に、敵戦力の漸減を計れ。アメリカには絶対に入れるわけにはいかん」


国防長官の言葉に、全員が頷いた。





新世界暦1年5月7日 神聖ダスマン教国 侵攻軍旗艦「マルティリス」


「教都との通信が回復しないとは、一体どうなっているのですか!」


もう何度目かもわからない聖女のヒステリーな金切り声が室内に響き渡っていた。


「わかりません。全ての機器は正常なはずですが・・・」


そのヒステリーの矛先を向けられている通信士官は、うんざりしたように何度目か覚えていない返答をする。

ちなみに、触らぬ神に祟りなしということで、誰も助けてはくれない。


神の秘跡を使用し、敵抵抗戦力と重要都市と思われる都市を吹き飛ばしたところまでは良かったのだが、1日かけて戦果確認を行い、いざ教都の教皇に報告、という段でどうしたわけか本国と通信が一切つながらないのである。

恍惚の表情で教皇に報告するのを心待ちにしていた聖女は豹変し、今に至る。というわけである。


ちなみに、すでに24時間怒り狂い続けているので、そのヴァイタリティは驚愕に値するが、それに付き合わされている通信士官も大概だな、と周囲の人間は思っていた。

もっとも、通信士官は時々「機器の確認をしてくる」などと理由をつけて部屋に戻って寝たり、食事をとったりしているので、いうほどでも無かったりする。


「ここまでして魔導通信が回復しないのなら、もういっそ教都に連絡艇でも出した方が早いんじゃないでしょうか」


正直、もう付き合いきれないと通信士官は何度目かわからない提案をする。

ちなみに、これまでは教皇の指示があり次第、直ちに進軍しなければならない、という理由で聖女はそれを拒否していた。


「くっ、最早それも止む無しですか」


丸一日喚き散らして疲れたのか、さすがにこれ以上時間を無駄にはできないと思ったのか、聖女は忌々し気に連絡艇を準備するよう指示を出したのだった。

次は火曜日か水曜日に。

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