混沌の世界、いろんな思惑
新世界暦1年5月6日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸
「邦人の被害はどうなっとる?」
首相官邸地下に設けられている危機管理センターで首相は外務大臣に声をかけた。
「転移後に日本との連絡がついた段階で、大方の駐在員は引き上げていますから、それほどの数はいなかったと思いますが、大使館との連絡が途絶していますので・・・」
外務大臣は俯いて言葉を濁した。
そもそも大使館もメキシコシティにあるのだから、無事だと思う方が難しかった。
部屋に備え付けられたテレビでは公共放送の臨時番組が流れていたが、映像はたまたまメキシコシティからアメリカに帰る途中だったアメリカのケーブテレビニュースのクルーが撮影したものである。
背後の爆発に気付いて、慌ててカメラを取り出して撮影したものらしく、映像も揺れが酷いし、爆発の瞬間も映っていなかったが、映像の中で上空に昇っていく巨大すぎるきのこ雲は、メキシコシティで何が起こったのかを如実に示していた。
「防衛省のほうでは何か情報は入っているのか」
防衛大臣は首長官邸ではなく、市ヶ谷の防衛省地下になる中央指揮所に詰めていた。
なので、テレビ電話が常時つながった状態になっている。
『アメリカ軍も混乱していて被害集計は出来ていないようです。防衛戦司令部を置いていたサンタ・ルシア空軍基地も致命的な影響を受けたようです。1名、ワシントンの防衛駐在官が出張と言う形で行っていたのですが、こちらも安否不明です』
現地で情報を統括する場所が壊滅したせいで、どこもまともな情報が全く入ってこないのである。
『アメリカ軍からの連絡で、アメリカは報復として敵主要都市に対して無差別核攻撃を行うようです。我が国としても何らかのメッセージを出す必要があるかと』
「つっても核攻撃の支持なんざ内閣が吹っ飛びかねんぞ」
頭を抱えて蹲る首相。
『しかし敵が核兵器でメキシコシティを米軍ごと吹き飛ばしたのは事実です。十万人単位、下手すれば百万人単位で米軍とメキシコ軍、それに一般市民に死者が出るでしょう』
「遺憾の意と追悼の意、あとは必要ならば支援てあたりを言っとくのが無難か」
『反撃での核兵器使用についてはぼかしましょう。世論を考えれば支持は危険ですし、核の傘にいる我が国が非難する選択肢はあり得ません』
「他の異世界国家も核兵器を保有している可能性がある、か。ますます世界は荒れそうだな」
持っていることに意味があった兵器が、実際に使われてしまったのである。
「最終戦争が始まらないことを祈ろう」
そう言って首相はその話題を打ち切った。
「もっと明るい話をしよう!暗いときに暗い話をしてたらどんどん暗くなる!」
『米軍から戦力の派遣要請がきてます。割と切実な』
「明るい話じゃねぇ!?」
首相がそう絶叫したところで、仕事しろ、と官房長官が突っ込みのチョップをいれた。
『被害集計がまだとはいえ、メキシコシティで米軍の地上兵力は半壊しているでしょう。地上兵力に関しては元々、予備役まで招集して突っ込んでいた状況です』
「その穴を埋めるために派兵しろってか?自衛隊じゃ全部突っ込んでも足りんだろ。そもそも全部派遣するわけにもいかんし」
『1個師団だけでも必要なくらい切羽詰まってるってことでしょう』
はあ、と首相は溜息を吐く。
『とりあえず例年の遣米訓練の体で準備させます』
「法案通せる自信がねぇよ・・・」
この時ばかりはこのタイミングで総理大臣だったことを天に恨んだ首相だった。
新世界暦1年5月6日 ロシア連邦モスクワ クレムリン
「文明レベルに劣る連中ばかりかと思っていたが、まさか核とはな」
「しかも、我が国が過去に実験したツァーリボンバの威力制限なしに匹敵する100メガトン級とのことです」
半ば呆れたようにSVR長官は大統領に言った。
「その攻撃が我が国に向けられた場合防げるのか?」
「さすがに弾道ミサイルは持っていないようですし、アメリカが甚大な被害を受けたのは完全に油断でしょう」
「私もそう思います。そもそも敵はこれまで曲射兵器を使用していなかったようですし、備えていないモノは防げません」
SVR長官の発言に参謀総長も同意した。
「それで、アメリカの被害は?我が国へのメリットは?」
それこそが最も重要だと言わんばかりに大統領は問う。
「詳細はアメリカもまだ把握できていないようで不明ですが、地上兵力を過度に密集させていたのは事実です。過少に見ても地上兵力20万は吹き飛んだと見るべきでしょう。戦線の大幅な後退は避けられない状況です」
「とはいえ、空軍は全て本土からのリモートでしたので被害はほぼ無く、海軍は言わずもがなですので、あくまでも地上兵力、陸軍と海兵隊のみの被害に止まります」
ふむ、と大統領は頷くと言葉を続けた。
「とはいえ、地上兵力は甚大な損害を被った。しばらくは防衛と戦力回復に必死で、よそにお節介する余裕はあるまい?」
「そうですかね?むしろタガが外れたほうだと思いますがね」
「中米諸国が反対しなければ、敵兵力に対しても無制限の核攻撃を加えようとした話が漏れ聞こえています」
「それこそ敵が国境線に到達したら自国内だろうが核兵器を撃ち込みかねませんよ」
「触らぬ神に祟りなしか・・・」
ブチ切れモードに入ってるアメリカは何をするかわからない、というかなにしてもオッケーと思ってる節があるので、敵対すべきではないと肝に命じるのだった。
「とりあえずアメリカを刺激するような文言は避けて、適当にお見舞い文でも考えるか」
「それが良いかと。あ、ですが偵察飛行は従来通り・・・」
「いや、転移してからやってねぇだろ!?インドから空中給油機つけて飛ぶ気か!?それこそ喧嘩売りに行くようなもんだろ!?」
東日本大震災の際にも東京急行や日本海での偵察飛行を止めるどころか、活発化させていたド畜生なので、どんな時でも情報収集は怠らないのである。
そもそも、ベーリング海を挟んで対峙していた従来ならともかく、転移後はアメリカに行くには中国の空域を通るか、内陸を通ってインドに出るしかない。
よって偵察飛行は(多島海の西端にあって割と近いグアムを除いて)行われていなかったのである。
それを米軍が核攻撃を受けた直後に、わざわざ空中給油機までつけて再開とか、喧嘩を売りすぎである。
「核戦争前提の状態のアメリカを挑発とか、お前は第三次世界大戦でも起こしたいのか・・・」
呆れたように大統領は参謀総長を見る。
「あはは、冗談ですよ、冗談」
SVR長官の冷たい視線も受けて、参謀総長は笑って誤魔化したが、2人はこいつマジで言ってやがったなと思ったのだった。
新世界暦1年5月6日 中華人民共和国北京 中南海
「表向きはアメリカに弔意の表明でもしておけ」
「そうですね。わざわざ刺激するのはバカのやることです」
国家主席以下政治局常務委員が集まってアメリカへの対応を話し合っていた。
「とはいえ、これでアメリカが地上戦力を海外に展開する余裕は無くなるだろう」
「しかし、海空戦力は無傷のままです。正面からぶつかるのは得策ではありません」
「何も正面から艦隊をぶつけようというわけではないんだ。だが、こっちの大陸まで構ってる余裕はあるまい?」
国家主席の言葉に、まだ手を広げるのかよ、という顔を何人かがした。
「お言葉ですが、今は新大陸の併合に全力を注ぐべきかと思いますが」
「時間をかければそれだけロシアに掠め取られる危険性が高まります」
今はすでに進んでいる拡張政策を推し進めるべき、と反対意見を述べるのが2人。
「とはいえ、アメリカがこっちを見ている余裕がない間に影響力を拡大すべきではないかね?」
「左様、新大陸の利権はすでに国連で認めさせている。焦る必要はないさ」
対して、ユーラシア大陸での影響力拡大を進めるべき、というのも2人。
他は沈黙と言う名の中立である。
「だが、ユーラシアでの勢力拡大は間違いなくロシアやアメリカとの衝突を招くぞ」
「その2ヶ国が他を向いている今だからチャンスなのではないか。新大陸の併合はこれまで通り続けてロシアの目を逸らし、一帯一路を中心にさらなる勢力拡大を目指す。なんなら欧州だって取り込んでしまえばいい」
「白人どもが我々に形の上以外で跪くとは思えないがね」
議論は白熱するが、根底に共通しているのは、中華人民共和国がアメリカ合衆国を超える超大国になる、という強い意志だった。
次は・・・土曜日か日曜日、もしくは遅れるかも・・・。
9月を乗り切れば時間は取れるはず(続きを書くのに割くとは言っていない




