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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
66/201

メギドの火

新世界暦1年5月5日 アメリカ合衆国バージニア州レストン アメリカ地質研究所


「鬱だ・・・これからどうしよう」

「うるせぇよ。クビなのはここ(地震・火山)の職員全員一緒だよ」


全ての火山活動が停止し、世界から地震も消えたせいで、研究所の大幅な縮小が決まっていた。


「地質学者なんてさぁ、潰し効かないじゃん。レストランで皿洗いでもするしかないじゃん」

「そんなもん中米から流れてきた奴らで足りてるよ」


ただでさえ低賃金労働者と言えばヒスパニック系不法移民、みたいな状態だったところに、中米諸国が丸ごと流れ込んできたような状況である。

どこも人手は足りている。

働けない奴らをそのままにしといても碌なことにならないので、訓練して兵士にしてメキシコの戦線に送り出そうと、アメリカ政府も中米諸国亡命政府も躍起になっていた。


はぁ、と溜息を吐きながら資料を整理する仕事に戻る。

彼らの最後の仕事は、(あるのかどうかわからないが)将来必要になった時のためにこれまでの観測データをまとめることだった。


「やれやれ、生涯かけた研究の結果がこれか」

「報われないな」


ちなみに、ここを閉めて浮いた予算が宇宙望遠鏡に流用されると知れば、彼らはさらに落ち込んだだろう。


皆、やる気なくダラダラと資料を整理していると、各地の火山観測データを送ってきているコンソールが、一斉に異常を観測した警報を鳴らし始めた。


「なんだこれ・・・」


その異常な状況に、全員が釘付けになり、各モニターを茫然と眺めた。





新世界暦1年5月2日 メキシコ湾 アメリカ海軍CVN-78「ジェラルド・R・フォード」


暗く、照明の抑えられたブリーフィングルームに、パイロットが集められている。

飛行隊のほぼ全員が集められていることからして、いつもの任務(輸送船狩り)でないことは明白だった。


傾注(attention)!」


その言葉に、全員一斉に立ち上がり敬礼する。


「休め、敵の大規模な輸送船団が首都を出港したのが確認された。これまでに無い規模の船団で、メキシコシティに直行するものと思われる。勿論、彼らが目的地に到着することは無い!お前たちが叩き落すからな!」


うおおおと室内に雄叫びが響く。


「我が艦は全力出撃だ!派手に(Rock ’n’)行くぞ(Roll )!」


全員が一斉に飛行甲板に向かう。

飛行甲板は4本のカタパルトをフルに使って出撃の準備中である。


機体によってAIM-120だったりAGM-84Hだったりといった違いはあるが、そのどれもがフルロード(完全武装)だという点は共通していた。


轟音とともにカタパルトに撃ち出されたF/A-18が次々と出撃していく。

久々の大規模作戦に艦内は大いに盛り上がっていた。





新世界暦1年5月3日 メキシコ合衆国メキシコシティ近郊サンタ・ルシア空軍基地


メキシコシティ防衛線の司令部は相変わらず昼夜を問わず喧騒に包まれている。

ここ最近で変わったことがあるとすれば、多国籍軍の現地司令部も設置されて、参加国の連絡将校はそちらに移動したことくらいだろうか。


とはいえ、未だ戦力としては到着していないので、正面戦力はアメリカとメキシコ、カナダ、あとは中米諸国の残存戦力というのは変わっていない。

そんな米軍司令部では戦況報告が行われていた。


「昨日、海軍による大規模な敵輸送船団攻撃が行われましたが、どうやら部隊防御で使用しているのと同じ障壁を船団のどれかの船が積んでいるようで、大した損害は与えられませんでした」

「輸送用と見られる飛行艇が35隻、戦闘用と見られるのが15隻、詳細不明で情報が無いのが2隻、障壁の中で密集して航行しています。この輸送船団の到着を持って、敵は大規模な攻勢に出るでしょう」


望む結果の得られなかった輸送船団攻撃に、落胆が室内を包み込む。


「しかし、あの障壁が動くとすると少々厄介だな」

「今戦線に設置されているのはどう考えても動かないでしょう。飛行艇に移されると厄介ですが、あの大きさですし専用の船が必要と思われます。輸送船団の詳細不明の2隻のうち1隻がその専用船でしょう」


その情報に何人かは安堵の息を吐く。


「とはいえ、船団の到着と補給は阻めません。防衛線の戦力を厚くする必要があるでしょう」

「従来通りメキシコシティ正面に敵が兵力を集中させてくるとも限らん、後方の予備を厚くするべきでは?」

「戦力を薄くして、予備の到着前に抜かれれば収拾出来なくなるぞ」

「ですが敵の航空攻撃も有り得る状況で、戦力を密集させ過ぎでは?」


喧々諤々の討論になっているものの、とりあえずメキシコシティに敵主力は入れない。ということに重点を置いた配置に落ち着いた。


「しばらく敵の侵攻が無かったおかげで、地雷原の敷設は完了しています。基本的に対戦車地雷ですが、対人地雷も混ぜています」


対戦車地雷を除去しようとしたら対人地雷がコンニチハという質の悪いアレである。

もっとも、敵が対戦車地雷を除去しようとしてくるかは不明だったが。


「物量で地雷原突破しそうだけどなぁ」


地雷原はその性質上、一度突破されると以後防御施設としては限定的な効果しかない上、敷設する密度にも限界がある。

そして、戦争が終わっても残る厄介者である。

とにかく少しでも数を減らせればいいという苦肉の策だった。


「敵があの大型防御障壁から出てこない限りは航空攻撃も火砲も有効打にならない。進撃を開始して地雷原で足が止まったところを一気に叩く」

「前衛は従来通りM1戦車を前面にだして、ストライカーMGSとメキシコ陸軍のERC90は予備として後方の各戦区に向かいやすい場所で待機」


次々に戦況図に配置が記入されていく。

連戦続きで次々再編、再配置される部隊を完全に把握して必要な補給を供給し続けられるのは、民間でも利用されている物流システムの賜物だった。

QRコードに非接触式ICタグ、そしてタブレット。

さすがに野戦補給処で全自動倉庫は(設置が面倒なので)使われていないが、基本的に民間のネット通販会社とさして変わらないシステムが構築されている。


結果、オンデマンドに必要な補給が届けられるので、従来のとにかく大量の物資を集積して進軍し、補給処から侵攻限界に達したら止まって、再び補給処をつくって大量の物資を集積する、という非効率なことをする必要が無くなった。

前線に近い補給処にあればトラックで届け、なければあるところからヘリや輸送機を使って運ぶ。

もっとも、イラク戦争では序盤は良かったものの、途中から砂嵐で配送が思うように出来ずに、結局従来通りの山のように物資を積み上げた補給処が各地に出現することになったのだが。


「この攻勢を粉砕出来れば、次はいよいよ我々の番(Pay back)だ。気合を入れろ!」


おお!という号令とともに各自が持ち場へと散っていった。





新世界暦1年5月5日 メキシコ合衆国メキシコシティ正面防衛線


敵の輸送船団が大した損害もなく、メキシコシティの戦線に到着してから2日が過ぎていたが、敵地上部隊が動き出す気配は無かった。

ちょくちょくと航空攻撃によるちょっかいは出していたが、敵は特に反応を示すことなく、少数による浸透もなく、戦線は不気味な沈黙を保っていた。


「どうなってんだ敵さん?これまでの統一感のないグダグダっぷりがウソみたいじゃないか」


戦線上空を飛ぶF-15Eは敵部隊にちょっかいを出すためにGBU-28を胴体下に下げているが、たかだか1発では出来ることは限られているので、ほとんど偵察飛行みたいなものである。


「まぁ、あんだけボコボコにやられてたら敵も少しは真剣になるだろ。おかげで碌に空爆も出来やしないしな」


WSOは忌々し気に眼下の障壁に包まれた敵部隊を見遣る。


「言ってもなぁ、”重要そうな目標があれば攻撃してもかまわない”ってなんだよ。どれが重要そうな目標だよ!こんだけいたらわかんねぇよ!」


相変わらず敵は8000メートル以上を飛ぶ目標への有効な対策は無いようなので、飛行自体は安全なのだが、同じような飛行艇が並んでいるし、地上兵力もどこが司令部なのかさっぱりである。

明確に重要なのがわかっている障壁の発生源と思われる装置は攻撃が無効だとわかっている。

一体、何を攻撃すればいいんだという話である。


「おい、あれ」

「ん?」


見れば他とは形状の異なる超大型飛行艇がゆっくりと前進を開始していた。


「報告のあった船団にいた用途不明の飛行艇だな」

「あれだけ前にでるみたいだぞ」

「ちょうどいい、あいつを攻撃するのはどうよ?」

「当たるかね?ヘリコプターよりは速いぞ」

「だがタンカーよりデカい」


そりゃそうだ、とパイロットはグイっと機体を旋回させて飛行艇と針路を合わせる。


「ん、なんだこれ!?」


見れば、飛行艇が2つに割れて、中から出てきたのは、根元に巨大なバリスタのような物が着いたムカデ砲、というのが一番しっくりくる表現だろうか。

まぁ、実際、魔力で強化したバリスタで砲身内に撃ち出したモノを、多薬室砲の要領で魔法で圧縮空気を送り込んで投射する、というためだけに造られた飛行艇である。


「構うな、攻撃してやれ!」

「合点承知!」




新世界暦1年5月5日 アメリカ合衆国バージニア州レストン アメリカ地質研究所


一斉に異常を知らせた計器は空振計、つまり空気の振動を捉える計器である。

基本的には地震計と合わせて、火山で爆発が起こったことを観測するために設置されているものであり、本来の用途では、これが反応した場合、どこかで爆発的な噴火が発生したことになる。

地震計と合わせて、反応の大きさや時間で、観測所の映像をいちいち全て確認しなくても、どこが噴火したのか割り出すことができるわけである。


爆発的な噴火の場合、地中での活動が伴うので、必ず両方が反応するはずなのだが、今回反応したのは空振計だけである。

つまり、地中や地表ではなく、空中で大規模な爆発が発生した、ということを意味する。


そのため完全に閉鎖のお通夜ムードだった室内は慌ただしい喧騒に包まれていた。

勿論、その爆発の位置を割り出すのは、彼らの本職ではないし、多分、どこで起こったことか詳しく把握している官庁があるはずだが、それでも割り出して通報せねばならない事態であることは確かだった。


「どこだ!?早く割り出せ!」

「ちょっと待て、いまやってる」


各地のデータからコンピューターが爆発の発生地点を自動計算で導き出す。


「ここだ・・・」

「おい、ここって・・・」


その場所を指差した職員も、それを見た職員も固まってしまう。


核緊急支援隊(NEST)に緊急連絡!メキシコシティを爆心地とする100メガトン級の爆発を観測、詳細は不明!」

次は・・・日曜日か月曜日に。

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