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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
64/201

歴史は繰り返す

新世界暦1年4月20日 中華人民共和国达斯男人(ダスマン)自治区ザラーン州


旧王城前の広場で軍楽隊が演奏する義勇軍行進曲(中華人民共和国国歌)に合わせて、装甲車部隊と歩兵部隊が行進している。

その沿道では、住民たちが貼り付けた笑顔で一心不乱に中国国旗(五星紅旗)を振っているが、その目に浮かぶのは怯えと恐れである。


「うむうむ、実に喜ばしい日ですな」

「全くです」


それを旧王城のバルコニーから満面の笑みで見下ろすのは、自治区主席と行政官たちである。


「領民の掌握は無事に完了しました。平穏無事にこの日を迎えられたことを行政官の1人として誇りに思います」


ニコニコの笑顔でそう言っている彼は武装警察出身の中将である。


「諸外国にここが中華人民共和国だと正式に認められためでたい日だ。これからこの地は中国共産党の指導の元、飛躍を遂げるであろう」


まるでセリフを読むようにそんなことを言っている自治区首脳の言葉を、人民日報のお抱え記者が熱心にメモしている。・・・ように見えて、原稿はすでにタブレットに入っているのである。

ちゃんと取材してますよ、というアピールのためにここに呼ばれているだけで、他のメディアはシャットアウト、記事が欲しけりゃ人民日報から買え、それがここでの自由で公正な取材だ、というわけである。


人民日報しか呼ばれていないのは、万一にも反動分子の活動があった場合でも、その情報を一切シャットアウトするためである。

まぁ、要するにウイグルやチベットと同じで、都合が悪ければメディアは入れないのである。


なお、どこも情報がないのをいいことに「原住民は圧政からの解放に歓喜の涙を流して中国共産党を歓迎した」と国連には報告していた。

安保理に出ていた全ての国が胡散臭い物を見る目を中国に向けはしたものの、反論する材料もないうえ、別にどこの国連加盟国の利害も絡まないので、適当に絡んで他のところで自分達の権益を認めさせよう。というところに落ち着いた。


ロシアとインドだけは反論する気配を見せたものの、結局のところそれぞれが実効支配している(予定も含む)地域の権益を認めさせることで落ち着いた。

要するに、かつての植民地分割と同じことを他世界の国にやっているだけなのだが、元々やられる立場だった国が一番えげつなく取りにいっているのは皮肉である。


立地と気候変動の問題で完全に出遅れた英国を除く欧州諸国や南米諸国、いつも通り大陸内でゴタゴタしているアフリカ諸国はブーブー文句を言っていたものの、日英米中露印を向こうに回して戦える国は無い、ということである。

ちなみに、日本は世界樹島の国土編入とアズガルド関係の利権や既に接触のある多島海等の他世界国家との外交優先権、英国も同じく傘下に入れた多島海内の他世界の島々の国土編入や接触のある他世界国家との外交優先権、アメリカは現在交戦中の敵国家の全ての権利を認めさせていた。


歴史は繰り返す。

その格言通りに、世界は再び植民地獲得競争の狂乱へと向かいつつあった。





新世界暦1年4月21日 中華人民共和国北京 中南海


「台湾が独立宣言だと!?」


国家主席は声を荒げてはみたものの、そこに驚きはない。


「とはいえ、何もできんな」

「遠くなり過ぎました。手を出すにはグアムも邪魔です」


面倒な話だ、と国家主席は息を深く吐いて椅子に深く腰掛けたものの、すでに台湾の実効支配については諦める、と政治局で結論が出ていた。

元々実効支配できていない上に、遠くなって間にアメリカの島があっては、そんなものを取りにいく労力を割くのは割に合わないという結論だった。

適当に将来の可能性を残すために、独立を認めない姿勢は鮮明にしつつ、とりあえず何もしない、ということである。


「まぁ、今はあそこに労力を割いている暇はないからな。もっと楽にとれる場所があるんだ。目一杯取ろうじゃないか」

「仰る通りです」


面子も重視するが、それを上回る実利があればそれを取る。

その辺りの切り替えの早さと容赦の無さが中国共産党の強さである。


「ロシアとインドの動きは?」

「ロシアは現地の連中が不毛の大地と呼ぶ一帯の大半、最初に我々が上陸した辺りを除いて支配下に置いたようです。とはいえ、名前の通りシベリアより何もない台地ですから、えー、なんとか(ダスマン)連合首長国のいくつかの首長国を狙っているようです」

「国連で一応その辺りは全て我が国のもの、ということになっているが、そもそも境界も曖昧だしな。早く全域を実効支配する必要があるな」


特に中露印の関わっているエリアに関しては、最早言ったもん勝の様相を呈しているので、早めに実効支配地域を広げてしまわないと、適当に理由をつけて他の国に持って行かれてしまう恐れがあるのである。


「今我が国が実効支配できているエリアは?」

「連合首長国は大きさの差はあれど17の首長国があるということがわかっています。現在、我が国の达斯男人自治区に組み込めたのは9。ここまでは電撃的に急襲することで容易に制圧できましたが、残りはさすがに気付いて防御を固めています。ある程度の交戦は覚悟する必要があるでしょう」


半ば乗っ取りに近い形で橋頭堡としたザラーン首長国を基点に、情報が流れる前に一気に周辺に人民解放軍が雪崩れ込んだのだが、それでも1日2日で全てを制圧するのは不可能であり、敵が防御戦力を固めだしたところで一端止まって睨みあいになっていた。


「まぁ、正面から押すだけが戦争ではない。統一戦線工作部も上手く使ってロシアの影響は極力排除しろ」

「心得ております」


そうして部屋で1人になった国家主席は、きつい日差しの降り注ぐ外を見遣る。


「しかし、この暑さだけはどうにかならんものか」


罰金刑で撲滅したはずの北京ビキニが再び増えたり、故宮の周囲の堀で泳いだバカがでたりと、12億人もいたらそれだけバカなことをするやつもいるんやで、という見本市のようになっている世相を憂いて国家主席は溜息を吐いたのだった。





新世界暦1年4月21日 ロシア連邦モスクワ クレムリン


「ていうかさぁ、中国と持つべき土地逆じゃね?」


大統領は地図を見て溜息を吐きながら言った。

実効支配がそのまま領土として認められたのはいいものの、シベリアが倍に広がったようなものである。


「まぁ、結果的にそうかもしれませんが、こればっかりは運でしょう」


何も情報がない段階でスピード勝負だったのである。

たまたま取った土地がシベリア以上に何もない土地だったのも仕方がない。


「とはいえ、地下資源はありそうなんだろ?」

「海沿いで石油と天然ガス、内陸でウランと鉄鉱石が確認されています。それをゼロから開発する体力が我が国にあるかは微妙ですが」


やれやれと大統領は肩を竦めた。


「港湾施設に採掘施設、輸送用の船舶や各種インフラも全てゼロから必要とは」

「海外資本との合弁を認めますか?」

「中国に買い叩かれてたらそれこそ目も当てられんよ。とはいえ、あれだけ離れたら日本も乗ってこないだろ。そうなると欧州か?それこそ冗談だろ」


初期投資に莫大な金が必要なのが資源開発である。


「少しずつでも自国だけでやるしかあるまい」

「ヒトもカネも足りませんな」

「時間はあるさ」


やれやれ、と経済局長は地図に視線を落とす。


「中国はまだ全ての国を実効支配できていないようですが」

「2、3個でも掠め取れればいいんだがな。とにかく人手が欲しい」


シベリアに匹敵する面積を得ているのに、ロシアの人口は変わっていないのである。

農業に使うにせよ、インフラ整備するにせよ、人手がまるで足りない。


「インドに頼むしかないでしょう」

「それもどうだかな。空爆で手を貸してやってるとはいえ、連中も自分たちのほうで精一杯だろ」

「中国より人は多いんです。借りられるでしょう」


ソ連崩壊とその後の停滞で失われた多くのリソースも未だ戻ってきたとは言い難いのが現状である。

その状態で新しい土地をゼロから開発しようというのだから、フロンティアで飛躍するか、莫大な予算に食い潰されて破産するかの瀬戸際だと言える。





新世界暦1年4月21日 インド ニューデリー 連邦政府庁舎


首都機能を持たせるために造られた人工都市なのだが、100年という時間はエネルギッシュで雑多(カオス)なインドという空間にそれを取り込むのに十分すぎる時間だっただろう。

行き交う人並みに、独特の色彩の建造物。

古くからのインドの伝統と、イギリス統治時代に持ち込まれた様式が融合した景観は、まさに発展途上国というダイナミズムに溢れている。


中央官庁街がかろうじてそのカオス空間から免れているのは、庭園が整備されて緑が多いことと、宮殿様式の建物の間隔が広いことによるものだろう。


「間もなく上陸作戦が始まります」


海軍参謀長の顔には緊張の色が浮かんでいた。


「ロシア軍の空爆もあるし、海軍の巡航ミサイル攻撃もあるんだ。橋頭堡は確保できるだろう」


対して陸軍参謀長は楽観的である。


「そうはいうが、第一波で上陸させられる兵力はたかだか2500名と2個中隊の主力戦車と1個中隊の装甲車。これだけで民間船をかき集めた第二波の陸揚げまで持たせねばならないんだぞ」


強襲揚陸艦4隻の調達計画は(いつも通り)遅れに遅れており、ようやく1隻目が起工という状態である。

米海軍を除籍された艦齢50年を超えるドック型揚陸艦と、艦齢40年近い老朽艦が数隻、比較的新しいシャダール級揚陸艦も、性能としては老朽艦の改良型でしかない。


「空爆と巡航ミサイル攻撃で敵の抵抗は押さえられるさ。空母もいってるんだろ?なんとでもなるさ」


あくまでも陸軍参謀長は楽観的である。


「それよりも問題は不穏な動きを見せるパキスタンだよ」

「まぁ、実際に仕掛けてくるほど馬鹿ではないと思うがね」


水陸両用戦の能力は貧弱なインド軍だが、陸軍は現役兵力100万を超える世界最大の陸軍国である。

第三世代MBTだけで5000輌近いのだから、そのバカげた物量は往時のソ連軍並である。

パキスタンと中国を同時に相手にしなければならない可能性を考慮するが故の物量なので、これでも安心できないのだが。


「中国に後れを取るわけにはいかん。とにかく今は上陸作戦の成功を祈ろう」


待つしか出来ない彼らは、再び沈黙し、情報の表示されたコンソールに目を遣るのだった。

次は・・・月曜日か火曜日の予定です

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