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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
62/201

変わらない戦場と変化の気配

台風で日程を切り上げて日曜日に帰宅したので時間が空きました。

とりあえずUS-2とT-5をいずれ出したいと思いました(小並感

新世界暦1年4月15日 アズガルド神聖帝国海外領土ドラスト大陸国境地帯


3つの世界が入り乱れたことで、方々で異世界間の戦争が勃発していたが、ここは元と変わらぬ構図の戦争が継続されていた。

眼下に広がるのはジャングルに近い大河も流れる密林地帯。

この密林地帯のおかげで地上戦力は進めずに、もっぱら航空戦が戦争の全てだったが、撃墜されて脱出しても救助が望めない、というのが双方にとって制約になっているのも事実だった。


結果、どうなるか?

双方の暗黙のルールとして、被弾したら即撤退、追撃は無し。という状況が出来上がった。

もっとも、実弾を使っているのだから、コクピットに被弾すれば死ぬし、エンジンに被弾すれば飛行不能になる。

死者が出ないということはないし、撃墜されないというわけでもないので、後方からはわからず、あくまでも現場の微妙な均衡で成り立つ暗黙のルール(紳士協定)だった。


『正面敵機、数12』

『数は五分、高度も五分。どうする隊長』

「正面からぶつかってすれ違ったら上昇反転、後は流れでどうにかする」


元々は密林に道を通そうとするホリアセ側を妨害するためにアズガルド側が爆撃機を出していて、それを巡って空戦に、と言う流れだったのだが、別に妨害してもしなくても道の開削がちっとも進まないことに気付いたアズガルド側が爆撃機を出すのをやめていた。

よって、現状では単純にアズガルド側の空域に入ってきたホリアセ機との迎撃戦という状態である。


『つまりいつも通りの行き当たりばったり』

『ヘッドオンで墜とされんなよ』

「星が一番多かった奴の今日の飲み代は俺が奢ってやる!気合入れていけ!」

『『『『了解!』』』』


見る見る間に敵機の機影が大きく迫ってくる。

ビビッて遠すぎれば当たらないし、引っ張りすぎれば弾を貰う。

敵が撃ってくる寸前に発砲してすぐさまバレルロール。これが理想だが、敵が撃ってくるタイミングなんて結局のところ勘である。


結果、互いに似たようなタイミングで発砲して、同じように回避行動をとることになる。

すれ違い、振り向くと敵機はエンジンから黒煙を吐いていた。

こちらは異常なし。どうやら勝ったようである。


「各機、損傷を報告せよ」

『5番機、主翼に被弾。左翼燃料タンクが漏れてます』

『8番機、エンジン被弾。オイルが漏れてる』

『12番機、損傷はありませんが、11番機は墜とされました』


1機被撃墜で2機離脱。

見ていると敵編隊で離脱したのは1機だが、墜ちていくのが2機。

戦力としては痛み分けである。


敵味方で3人は確実に助からないというのに、そこに双方の感情は無い。

そして、離脱していく双方の3機を追う機影もない。


生死をかけていながら、どこかまるでゲームのような均衡すら感じさせるのは、100年以上続いた戦争で感覚が麻痺しているせいである。

とはいえ、そんな均衡も終わる時が少しずつ近付いてきているのも事実だった。





新世界暦1年4月15日 日本国 三重県 陸上自衛隊明野駐屯地


陸上自衛隊航空学校が所在する明野駐屯地は、開設以来となる賑わいを見せていた。

ヘリコプターの操縦資格取得のためにアズガルドから大量の留学生が来たためである。


アズガルド神聖帝国の世界には、初歩的なオートジャイロがかろうじて存在していたものの、メジャーなものではなく、完全に未知の航空機であるヘリコプターの操縦を最初に習得するようアズガルドから派遣されたのだから、もちろん彼らは帰国後に教官になることを期待されていた。


アズガルドがこれだけヘリコプター導入に力を入れたのは、捜索救難(SAR)任務に最適だという自衛隊の説明を受けたためである。

兵力の輸送用と考えると大量に必要だし、輸送ヘリ(CH)を使用しても運べる兵力は知れているが、捜索救難用と考えれば、たとえ1機でも有るか無いかで大きな差が出るのがヘリコプターである。


アズガルドがとりあえず採用したのは、陸自がUH-1Jの後継として開発したUH-2である。

ベースはアメリカ製の412EPIだが、陸自UH-X獲得のため、機体製造を日本に集約していたので輸出への障壁が無かったのがその理由である。

エンジンのほうもアメリカ企業の子会社とはいえ、カナダの会社なので、輸出できるのならばとあっさりOKがでた。

もともと基礎設計(UH-1)が古いので民間市場は厳しいと言われていたのに、陸自の150機に加えて、アズガルド向けの30機を受注できたメーカーは大喜びであった。


市場になるなら噛ませろよ、という米企業も多数いたが、そもそも米軍が総力戦態勢に移行しようかという状況で、他国向けのF-35を一時的に全部米軍に振り替えるなんて話も出ていては、米軍相手の商売に注力せざるを得なかった。


話はアズガルドのヘリコプター要員育成に戻るが、パイロットは明野、整備は霞ヶ浦と陸自の通常の養成課程に放り込まれていたが、なんせ言語問題があるので、双方の最初の仕事は出来たばかりの日ア辞典片手に専門用語の説明文を翻訳するところからだった。

ちなみに、救難員は空自に研修にいったのに、陸自の第一空挺団でレンジャー訓練に放り込まれたので???と思う間もなく肉体言語でしごかれていた。


話は明野に戻るが、辞典片手に分厚いマニュアルばかり見ていても(教官も)気が滅入るので、実技と半々といった感じのイレギュラーな課程が組まれていたが。


「教官、あの機体は何ですか?」


駐機場(エプロン)で実機を見ながら構造の解説をしていたのだが、休憩中に離着陸している機体を眺めていたアズガルド側の生徒が教官に質問した。


「ああ、あれはUH-60JA、我が陸上自衛隊が採用している多用途ヘリのハイ・ローのハイのほうだ」


もっとも、厳密にはそれは語弊がある。

UH-60JAを「多用途(汎用)ヘリ」だと言い張るのは世界で陸自くらいだからである。


UH-60JAのベースになっている航空自衛隊のUH-60Jは、米空軍で言うところのHH-60G相当の機体である。

つまり、FLIRや航法レーダー、ミサイル警報装置にチャフ・フレアなど、装備マシマシの高級品。

大量のUH-60を使用している米陸軍で、これに相当するのはMH-60LやMであり、それを配備しているのは、第160特殊作戦航空連隊、通称ナイトストカーズだけ、という機体なのだから、そんなものを汎用ヘリとしてUH-1の後継に充てようと考えていた当時の防衛庁は気が狂っていたとしか言えない。


防衛省には、そのマシマシの装備(オプション)を外したUH-60を配備しようという頭はなかったらしく、純国産計画も談合でおじゃんになり、UH-1の延長上にあるUH-2が造られることになったのは皮肉である。

ちなみに、UH-60Jは三自衛隊全てが採用した珍しい装備だが、その運用は三者三様で、海自では救難ヘリ部隊の空自への統合で早々と姿を消した。のだが、F-35Bの艦載運用に合わせて、艦載用の救難ヘリが必要になったので、似ているが最早別物のSH-60Kを改修して配備している。


「夜間の捜索救難や特殊作戦任務に対応している陸自には40機しかない高級品だ」


ちなみに、空自もUH-60JIIを40機持っているので、計80機が現役ということになる。

高級品という言葉に、アズガルドから来た生徒たちはほう、と色めき立つ。

雰囲気としては高級車に興味を示す若葉マークのそれである。


「まあ、あれは日本で造っているとはいえ、アメリカからライセンスを買ってるだけだから、すぐに輸入はできないんじゃないかね。あと、高い」


まずヘリコプター部隊を発足させようとしているアズガルドの現状を考えれば、UH-60JAを1機買うくらいなら、UH-2を3機買う方が良い。

そこでノウハウを積んでからでないと、宝の持ち腐れになる可能性が高い。


「では、あっちのは何ですか?人や物を載せるようにはなっていないようですが」

「OH-1とAH-64Dだな。偵察ヘリと攻撃ヘリだ。まあ、あれも高級品だが、OH-1のほうは純国産だから日本政府が認めれば買えるんじゃないか?」


必要かどうかは知らんが、と教官は心の中でボソッと呟いた。

ぶっちゃけ、偵察ヘリとか専用機を作る必要が全くないので、(飛行停止期間が長かったこともあり)陸自でも持て余し気味である。


「まあ、まずはこの機体を運用できるようになってから必要な物を考えていくことになるんじゃないか?」


教官はぽんぽん、とUH-2を叩きながら言った。

ここで学んだ彼らの一部が、ドラスト大陸で航空救難隊として撃墜されたパイロットの捜索救難に従事するようになるのは、もう少し先の話である。





新世界暦1年4月16日 日本国 東京 内閣総理大臣官邸


新たな外交関係や、急に組み替えることになった予算編成などもようやく一息ついて、落ち着きを取り戻しつつある、永田町、霞が関界隈ではあったが、官邸の主は頭を抱えていた。

いつもちゃらんぽらんな首相が真剣に悩んでいるのだから、よっぽどのことだと判断すべきなのか、どうせまた碌でもないことだと判断すべきなのか、官房長官は判断に困りながらそんな首相を眺めていた。


「アメリカが兵力出せって言ってきたんだけどどうしよう!?」


どうやら前者だったらしいと官房長官は険しい顔をしながら思案する。


「安保理決議に基づく多国籍軍が組織されそうな気配ですし、出さないというのはいろいろマズいんじゃないですか」

「だからって正面兵力出すのはもっとマズいよ」


解釈改憲で集団安全保障をオッケーにしちゃったとは言え、9条が無くなったわけではない上、現状では法整備もまだである。

というか多島海条約機構(APTO)もまだ発足していないのである。法整備のしようがない。


「日米安保は元のままだし、アメリカを防衛する義務はないんだけどなぁ」

「さすがにそれは恩知らずすぎると思いますが」


だよね、と首相はぐてーっと机に突っ伏す。


「先ほどからこのことで悩まれてたんですね」

「うんにゃ、日本が熱帯から亜熱帯に突入しちゃったせいで桜の時期が無茶苦茶になっちゃったし、来年は花見できるのかどうか心配で心配で」


この野郎、ぶん殴ってやろうかと思った官房長官は真剣に自分の自制心を褒め称えた。


「まぁ、国連の特別総会も安保理も始まりますし、しばらく外交ウィークでしょう」

「国会もあるんだけど・・・」


情けないことを言う首相に、官房長官は呆れた表情を見せる。


「国会はどうにかなるでしょう。予算案はどうにか形になりましたし。あとは国連での動きとアメリカやAPTOの動向次第ですから、気楽に行きましょう」

「そうだな。なるようにしかならないもんな」


それはダメだお前がどうにかするんだよ、と官房長官は内心思ったが、首相のやる気が出たようなので黙っておく。


「そういえば、国連にアズガルド連れて行くんだっけ?」

「日本が面倒見るならOKってアメリカの許可がありましたので、連れて行くことになってますね。加盟まで持っていけるかどうかは中露の動向が微妙ですけど」

「というか、ユーラシアの連中が良くわからんなぁ。何を考えてどうしたいのやら」

「まぁ、領土拡大政策をとってることは確かでしょう。いずれにせよ来週には見えてくるんじゃないですか?」


相変わらず通信がか細い通信衛星頼りなので、ユーラシア大陸の状況は断片的にしか各大使館から報告が来ない。

北米(南半球にいってしまったが)との海底ケーブルは急ピッチで日米双方が敷設しているが、開通はまだ先の話である。


とりあえず国連総会で収集した情報を帰国してから報告で受けるしかない、ということでその場はお開きになった。

次は木曜日かな・・・?

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ちなみに、救難員は空自に研修にいったのに、陸自の第一空挺団でレンジャー訓練に放り込まれたので???と思う間もなく肉体言語でしごかれていた。 ここのエピソード好きです。
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