兵器輸出の縛りはどんな国でも面倒
新世界暦1年4月10日 日本国 東富士演習場
総合火力演習でおなじみの演習場を、2025年では珍しくなった74式戦車が疾走している。
しかし、よく見ると、見慣れた74式戦車とは微妙に異なっている。
まず、G型で試作だけされたと言われるサイドスカートが装着されている。
では、完全状態のG型なのかというと、砲塔正面左側には赤外線フィルターのついた巨大な投光器が鎮座している。
要するに、微妙にG型っぽい普通の74式戦車E型である。
もっとも、見えないところでは油気圧による姿勢制御機構も外されているが、結局スペースの問題でトーションバーに変更する解決策がなかったので、油気圧は油気圧のままである。
ただし、姿勢制御は必要ないということで、ポンプも外されて、各転輪のシリンダーは密閉され独立している。
これについてはとりあえず時間が無かったので応急処置である。
結果、停車時の動揺のおさまりが悪い上に、主砲の俯仰角が残念なことになっているが、それでもソ連戦車より俯角はとれるので、まぁいっかという結論に(作った方は)なっていた。
「うおおおおお、変速楽すぎ」
「目標までの距離を計測して弾道計算までしてくれるとか、やばくない?」
そんな製作者たちの残念な思いなど露知らず、車内ではしゃいでいるのは、いつぞやのアズガルドのサボり戦車兵達である。
捕虜収容所から帰国してもどうせホリアセとの戦線に送られるからと、上手いこと帰国を遅らせつつ、日本からの兵器輸入のための事前訓練に手を上げてさらに帰国を先延ばしにしたのである。
ちなみに、アズガルドが主力として輸入する兵器に慣熟してるなんて、すぐに戦線に送り出されるのでは?ということに気付き、やっちまったと彼らのテンションが駄々下がりになるのは、もう少し先の話である。
ちなみに、アズガルド神聖帝国陸軍では、民生用に輸入されたものを横取りする形で日本製トラックの導入が始まっている。
とはいえ、仕様が入り乱れる上に、不整地走行が考慮されていないのは都合が悪いので、自衛隊で導入している1 1/2tトラックや3 1/2tトラックの大量導入を希望していた。
基本的に民生品に手を入れただけのものなので、輸出許可はあっさりでて、メーカーもアズガルドの市場における大きな足掛かりだと喜んでいた。
防衛関連産業は突如出現したアズガルド神聖帝国という特需に沸いていたが、例外もあった。
防衛最大手企業の重工である。
日本政府の方針として、一線級兵器は輸出しないことになっていたので、ラインがあるものを全く輸出できないのである。
かろうじて、74式戦車の改修に噛んではいたが、基本的に自衛隊の中古車両のメンテという扱いである。
二番手や三番手が、やれ練習機だの、輸送機だのと景気のいい話をしていれば、蚊帳の外だと地団駄も踏むだろう。
もっとも、日本の防衛予算そのものが倍増したうえで、米軍関連予算の減少が予想されているので、自衛隊向けも従来に比べれば遥かに商売として見られる規模になりそうなのだが。
「停車」
車長の号令で疾走していた74式戦車が急停車する。
殺人ブレーキと言われる制動力は健在だが、足回りのせいか治まりが悪く、そのせいで微妙に制動距離も伸びている。
「射撃用意」
車長は砲塔上に立てていた緑色の旗を、赤色の旗に差し替える。
ここは東富士演習場なので、自衛隊ルールである。
「目標、正面黒い射撃目標、装填、弾種HEAT-MP」
「装填良し」
「照準良し、射撃準備良し」
「撃て!」
轟音と共に、105mm戦車砲が発射される。
西側で広く採用されたロイヤル・オードナンスL7戦車砲は、使用砲弾の改良によって現在では初期のラインメタル120mmL44と同等か上回る貫通能力を有している。
自衛隊で言うところの93式装弾筒付翼安定徹甲弾を使用した場合がそうである。
これを輸出するかどうかは、現状日本側も決めていなかった。
アズガルドが想定する相手には明らかに過貫通だし、必要なかろうという意見もあるものの、16式機動戦闘車でも使用する砲弾なので調達数が増えれば値段も下がるという葛藤である。
ただ、有望なタングステン鉱山を確保したので、必然的に値段も下がるのでは?という話もあり、とりあえず棚上げになっている。
「命中!」
「やっぱこいつすごいわ。これで50年前の戦車とか嘘だろ」
様々な思いを受けながら、アズガルド輸出仕様74式戦車は再び演習場を疾走するのだった。
新世界暦1年4月10日 日本国 岐阜県 航空自衛隊岐阜基地
航空自衛隊岐阜基地は、3000m級滑走路に平行誘導路まで持つわりと大きな基地なのだが、戦闘機部隊も輸送機部隊も所在していない珍しい基地である。
では、何のための基地なのか、という話だが、隣接する輸送機や哨戒機を手掛ける大手重工の工場は別にして、航空自衛隊で使用する装備品の開発や試験を行う飛行開発実験団が所在している重要な基地である。
そのような目的の飛行隊がいるので、この基地には新しい装備品の試験のために、航空自衛隊が保有する大抵の航空機が所属している。
なので、ここの航空祭名物は所属機をフルに活用した異機種大編隊である。
様々な試験に従事する関係上、いろいろな試作品にも触れることが多いそんな飛行隊でも、今彼らの目の前に置かれている機体にはドン引きだった。
「T-4だな」
「T-4ですね」
一見すると普通のT-4である。
ただ、翼下パイロンに装着されているものがおかしい。
「・・・これ考えた奴頭おかしくね?」
「というか、なんでこれを試そうと思った」
アズガルド輸出用にガンポッドで武装させることになったのはいいが、その口径が問題になった。
開発時に実際に試験されたのは、7.62mmのミニガンのポッドだけなのである。
毎分3000発の発射速度は文句なしとはいえ、時速800キロで飛行する航空機で使用するには1000m以下の有効射程は短すぎるし、威力も過少である。
よって、アズガルド側が最低12.7mm、できれば20mmという希望を出していた。
ここで問題になるのはT-4のパイロンである。
T-4のパイロンは3ヶ所あるが、胴体下はトラベルポッドや曳航標的用なので強度がない。
主翼下の2ヶ所が増槽用なので、概ね500キロ程度まで搭載できるが、装着していれば当然機動は制限される。
とはいえ、20mm機関砲となれば砲弾込みの重量は結構なものである。
胴体下部の設計を見直すくらいなら主翼下を使う方が手っ取り早い。
次に問題になったのが、肝心のガンポッドである。
増槽と同じ形状のポッドの中に入れるのが空力とか気にしなくていいからベストなのだが、ゼロから作らねばならない。
そこで、誰かが思いついたのである。
「F-35Bってガンポッド使ってるよね」
空軍仕様で最初からスクランブル任務での使用が考慮されていたA型以外のF-35は機関砲をオプションとしているのである。
あるんだから使えばいいじゃん。ということでアメリカに許可を取って主翼下両側にF-35B用のガンポッドを(無理矢理)取り付けたのである。
「これだと機内燃料しか使えないから重量増も考えると航続1000キロくらいじゃないのか?」
「「「いや、問題なのはそこじゃねぇよ」」」
懸念してることがおかしいだろ、と居合わせた全員に総突っ込みをくらったが、当の本人は何が問題なのかわかっていないようだ。
「本来胴体下に装着するものを違う機種の主翼に直付けしてるんですよ。絶対やばいですって」
「けど一応パイロンとポッドっぽい形状にはなってるじゃん」
その楽観的な観測がどこからくるのか謎だったが、恐ろしいことに誰かがこれを飛ばしてみなければならないのである。
「重量的には増槽と大差ないんだし、いけるいける」
えぇ、という空気に包まれた駐機場では、しかし、更なる別の狂気の計画が検討されていることをこの時の彼らは知る由も無かった。
ちなみに、完全に余談だが、この試作T-4を見た米空軍はクレイジーだと大笑いし、イギリス空軍はどうせなら40mmにしたら?と斜め上のことを言った。鋼管帆布張りに40mm2門積んで戦車狩りしてた国だから仕方ないね。
新世界暦1年4月10日 日本国 東京都 防衛省防衛装備庁
「F-1を作りましょう」
唐突なその発言に、徹夜続きで判断力が低下している面々も、何言ってんだこいつ?という顔をして発言者を見た。
「T-4に武装させて輸出しようとするから無理が出るんです。だったら最初から武装できるのを輸出しましょう!F-1ならエンジンと機関砲以外は国産ですし、ハードルも低いでしょう」
「いやいやいや、今更あのエンジンまた使うとか、狂気の沙汰だろう」
F-1退役時にもうあのエンジンに関わらなくて済むと万歳三唱した人間がいるくらいに曰く付きのエンジンである。
空自が欧州機を避けるようになったのも、あのエンジンの整備と部品供給の問題で懲りたから、と言われているくらいである。
「国産でほとんど同じ寸法で出力の大きなエンジンが今はあるんですよ!」
「「「「え゛」」」」
その後、資料室で埋もれていたF-1の図面を引っ張り出してきて、XF-5-1の図面と合わせてあれやこれやとやり始めたが、連絡業務で来たメーカーの人間に
「いいからお前ら寝ろ」
と一蹴されるのはもう少し先の話である。
ちょっと出張やら旅行やらが重なってますので次回更新は来週の水曜日まで見といてください。
早められれば頑張ります。




