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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
60/201

無慈悲な爆撃機

新世界暦1年4月8日 ロシア空軍戦略爆撃機(Tu-95)編隊


「ははは、あいつらようやくこっちに気付いたみたいだぞ」

「今更昇っても追い付けるわけねぇだろうに。ご苦労なこったねぇ」


太平洋戦争時の爆撃側(B-29)迎撃側(四式や紫電)以上の性能差が開いているのである。

敵が見えてから慌てて昇りだしても追い付けるはずがない。


「さて、侵入コースを再確認」

「了解。オブソール(レーダーFCS)機能チェック、異常なし」


最早気にする必要もないと、敵の迎撃機のことは無視して爆撃目標の確認に入る。


「先行するTu-160編隊が爆撃を開始したようです」


データリンクの情報を見ていた航法士が告げる。


「俺達が爆撃する標的が残ってるといいが」

「そんなこと言い出したら、すでに海軍がぶちかました後だろ」


兵装担当士官(爆撃手)も含めてそんなどうでもいい話をする。


『第一部隊は任務を完遂した。空域は完全にクリア。第二部隊は攻撃侵入を開始せよ』


空域管制を行っているA-50Uから無機質な無線が入る。


「了解。これより攻撃侵入を開始する。高度4000まで降下」


搭載している爆弾は無誘導爆弾なので、あまり高い高度から落とすと着弾が散らばってしまい、有効な打撃を与え辛くなるので、高度をある程度落とした方が良い、というのは太平洋戦争のころと変わっていない。

当初は高高度からの爆撃に徹していたB-29も、あまりの爆弾の命中率の低さに爆撃時は高度を下げるようになり、結果被害が増えたので、損傷した機体の避難先、かつ護衛戦闘機の発進基地が必要になり、本来は予定に無かった硫黄島の戦いが発生することになった。


もっとも、敵の迎撃機をすでに振り切っているTu-95は悠々と敵拠点上空に侵入したのだが。


ザルツスタン側としては、地上の被害を減らすために洋上で迎撃しようと戦闘機を向かわせたことで、結果として迎撃するチャンスを失うことになったわけである。

敵が向かってくるのがわかっていれば、その目的地で待ち構えるのが一番確実なのだが、その敵の目的地が市街地となれば、その前に迎撃したいのが人情だろう。


「攻撃目標へのコースに乗った」

「爆弾倉ハッチ開放」


ウイーンという機械動作音が機内に響く。


「ハッチ開放確認」


兵装担当士官は爆撃照準器を凝視する。

光学的なものに関しては、第二次大戦時の爆撃照準器から大して進歩していない。

自由落下する爆弾の弾道なんて、物理法則が変わらない限り変わらないので、機体速度と高度、爆弾の形状に応じて、投下後の弾道計算ができればいいのである。

進歩した点があるとすれば、目標までの距離計測が正確になったとか、レーダーと連動して指定した目標を通過する際に自動投弾できるようになったとか、そんな程度である。


「投下開始」

「どこの誰だか知らんが、パンのお届けだよ」


パンにしては随分と重い上に物騒だが、それを届けた返礼(カクテル)はノーサンキューというのが乗員の総意である。


「全弾投下完了」

「じゃあ、帰って(ウォッカ)でも飲むか」

「むしろここにボトルがある」

「やめとけ、バレたらまた隊長にどやされる」


彼らにとって重要なのは、投下した爆弾がちゃんと想定地域内に落ちたかどうかであって、投下地点の惨状は与り知らぬことであった。





新世界暦1年4月8日 ザルツスタン連邦国ザリーニングラード市街地


「おい!こっちだ!手を貸してくれ!」

「担架は無いのか!?」

「病院だって無くなってるんだ!一体どこに運んだらいいんだ!?」


瓦礫と化した建物の前で大勢の人間が大声を張り上げながら行き交っていた。

この区画には海軍陸戦隊の駐屯地があり、その流れ弾が周辺の一般住宅も大量に破壊していた。


この国の不幸は、相手が世論とか人道とかを大して気にしない国だったことと、全く共通性のない技術体系の神聖タスマン教国と異なり、あくまでも地球と同じ技術系統、つまり軍事施設を航空写真や衛星写真だけで特定されてしまったことだった。

特定できる以上は、軍事施設を「狙った」と言えるからである。


「クソっ!航空隊の連中は何をしてたんだ!」


誰かがそう叫んで空を見たが、そこには青い空が広がるだけだった。





新世界暦1年4月8日 ロシア空軍戦略爆撃機(Tu-95)編隊


「現在高度5500、速度400、エンジン推力70%」


のんびりした、とても任務飛行中とは思えないゆっくりの上昇である。

敵の対空ミサイル(SAM)も迎撃機も気にする必要が無いのだから、燃料を浪費する必要もないというわけである。


「なぁ、さっさと推力あげて全速で帰ろうぜ」

「そうだそうだ」


完全に帰って飲むことしか考えていない機内で、機長はこいつらうぜぇと思いながら機体を上昇させていた。


「こんなとこから全開で帰ったら途中で燃料使い切って泳ぐ羽目になるわ!」

「いいじゃん、暖かくなったんだから全然泳げるって」


ゲラゲラと笑っているが、泳いで帰るほうが時間がかかるとかいう頭は無いらしい。


『警報、後方から敵機接近』

「「「はあ!?」」」


A-50Uからの警報に思わず変な声がハモった。





新世界暦1年4月8日 ザルツスタン連邦国陸軍暫定ザリーニングラード航空隊


「見つけたぞぉ!!!!」


それは執念と偶然が生んだ奇跡であった。


洋上での迎撃に失敗した航空隊は、他の航空隊が必死になって追いすがろうとするのを尻目に、そのまま上昇を続け、敵爆撃隊の帰路に一矢報いる作戦をとったのである。

もっとも、爆撃隊が往路と復路でルートを変えたので、完璧な待ち伏せとはならなかったが、上昇中で速度の落ちているところに、上から降下しつつ速度を乗せて一撃いれるチャンスが巡ってきたのである。


「チャンスはこの1回きりだ!市街地を爆撃したクズ共を絶対に生かして返すな!」

『『『『了解』』』』


降下制限速度ギリギリの800Km/hで爆撃機の後方上空から急接近する。


『デカい!』

『なんだあのエンジンは!?』


二重反転プロペラのターボプロップ4発機であるTu-95は誰が見たって、一見すると普通の飛行機なのにどこか変という、異様な見た目である。

そんなものが編隊を組んで飛んでいるのだから、驚いても当たり前である。


「怖気づくな!あれは悪魔の編隊だ!ここで逃がせばまた俺達の国を破壊しに戻ってくるぞ!」


編隊長のその言葉で全員気合を入れ直し、なお敵爆撃機に接近する。


「よおし、そのまま、そのまま」


光像式の照準器を覗きながら徐々に、視界の中で敵爆撃機の姿が大きくなってくる。

自分たちの知る4発重爆より大きいので、距離感がおかしくなりそうだが、じっくりと狙いをつけて、この一撃で全てを決めるつもりで接近する。


もう少しで攻撃圏内に入るはず。

そう思ったところで、編隊長の意識は消失した。


レシプロ機が世界最速のプロペラ機に追い付いたことが奇跡なら、レシプロ機が世界最速のプロペラ機を撃墜することもまた奇跡。

奇跡は起こり得ないからこそ奇跡であり、それが二度続くことなどありえない。

ただそれだけの話である。





新世界暦1年4月8日 ロシア空軍戦略爆撃機(Tu-95)編隊


コクピットから最も離れた機体後部。

そこは現在、機内で最も騒々しい場所になっていた。


「ヒャッハー!逃げる奴は敵だ!逃げない奴はよく訓練された敵だ!今日も後部銃座は地獄だぜ!」


テンションが振り切れてしまっている後部銃座手は叫びながら23mm機関砲を撃ちまくっていた。

とはいえ、後部銃座用のレーダーFCSまで装備している高級品なので、第二次大戦時の爆撃機の防御銃座などとは比べ物にならないほど当たるのだが。


『なあ、あいつあんなだったっけ?』

『さぁ?いろいろたまってたんじゃないか?』


機内通話が何かいっているが、最高にハイになっている彼には聞こえない。


『あれだ、いつも向けるだけで実戦では使うこともないと思ってたからちょっとハイなんだろ』

『・・・ちょっと?』


NATOや日本にスクランブルを受けた際に、後方につく機体に威嚇で機関砲を向けることはあっても、いざ実戦となれば目視圏内に戦闘機が接近してくるとは考え難いので、完全に無用の長物だったのだが、思いがけず使う機会に恵まれたのである。


「はっ!これで5機だ!どうだ!これでエースだぞ!」

『防御銃座でエースってなれんのか?』

『さあ?』


敵を後部銃座で追い払ったTu-95編隊は、今度こそ悠々と帰路についたのだった。

次は・・・ちょっと不明です。水曜日にやりたいなぁとは思ってます。

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