カリブの海賊・都合の良いウソと都合の良い思い違い
新世界暦1年4月15日 旧ベリーズ ベリーズシティ ベリーズシティ市立空港
「やっと終わりが見えてきた・・・」
とにかくLCACに詰め込んで送り出す、という作業に従事していた海兵隊員達は疲労の色が濃い。
「そういや、あのデカブツのほうはどうなったんだろうな?」
「さあ、動き出す気配がないが・・・というかあの係留索?みたいなのも繋がったまんまだしな」
そう言って、2人が眺めていると、突入部隊が入っていった発進口からCV-22が慌てたように飛び出してきた。
「何事だ?」
「失敗したのか?案外SEALsもなさけねぇな」
などといっていると、最後のCV-22が飛び出した直後、大型飛行艇は炎を噴き上げて爆発した。
「うおお!?」
「なんだ!?」
次々に爆発を起こして、徐々に高度を落とし、地面に叩きつけられて一際大きな炎を上げた。
「「うわぁ・・・」」
ドン引きである。
ベリーズシティ市街は炎に包まれていた。
「炎がこっちに来ないうちに撤収したいな」
「マジでな」
火災を眺めることしかできない2人だった。
新世界暦1年4月16日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
「一部想定外の事態はありましたが、ベリーズシティ強襲上陸市民救出作戦は無事に終了しました」
「想定外すぎるけどな!?なんでベリーズシティが火の海になってんだよ!?」
「て、敵が卑劣にも自爆しました故・・・」
参謀総長は苦し紛れの言い訳をするが、ちゃんと報告を受けている大統領は胡散臭いものを見る目で参謀総長を見る。
「とはいえ、SEALsのせいだなんて公表できるわけないからな。敵が自爆したことにしとくか」
「それが良いかと。当事者に口止めを徹底します。まぁ、自分たちが不利になることをわざわざ言い触らさないでしょうが」
「1年でバレると問題だが10年バレなきゃ問題ないからな」
やれやれと大統領は肩をすくめた。
「今回の救出作戦によって、中米諸国の市民約20万人を救出することに成功しました」
「とはいえ、そう何度もできんぞ。費用もバカにならんし、そもそも収容所が海沿いだったから出来た作戦だろ?」
「ええ、そうですね。しかし、これで敵が前線以外にも兵力を割いてくれれば、少し楽になります。あとは少しずつ前線を押し上げていければいいわけです」
「ふざけた物量の相手だろ?出来るのか?」
大統領は懐疑的な視線を向ける。
「もう少し敵の情報が欲しいところですが、敵が後方の警備にも兵力を割いてくれるようになれば、まぁ、なんとか」
そこで参謀総長は一旦言葉を区切る。
「それに我々は市民を救う努力は”しました”」
「以後、多少の犠牲は止むを得ないと?」
「前線を押し上げるのなら必ず発生する問題でしょう」
やだなぁ、と大統領は溜息を吐く。
「それはそうと、鹵獲は失敗したにせよ、情報は入手できたのか?」
「大量の何らかの文書、乗員の私物と思われる本、日記と思われる手記等は入手できました。あと、歩行戦車を1輌鹵獲して運んでますね」
「え、初耳なんだけど」
歩行戦車鹵獲なんて話は作戦にもなかったはずである。
「現地で勝手にやったみたいですね。装甲回収車で吊り上げて無理矢理引っ張ったとか」
「わーお」
執念の勝利である。
「現在、DARPA主導で多方面から研究プロジェクトを募っています」
「弾薬費がバカにならんからバリアは早いとこ無効化したいな」
一部想定外もあったが、概ね良い結果に終わった作戦に、大統領は久々に安堵の溜息を吐くことができたのだった。
新世界暦1年4月16日 神聖タスマン教国教都 聖タスマン大聖堂
見た目や雰囲気で言うなら、地球のどこの宗教施設を張り合っても遜色ないどころか、むしろ写真が映えること間違い無しな建物は、その静謐な雰囲気とは裏腹に、いろんな欲望渦巻くろくでもない国の中心である。
「派手にしてやられたな」
「申し訳ございません。離れている間に旗艦聖アドラーを失うことになってしまうとは・・・。乗員たちが殉教したのがせめてもの救いでしょうか」
普段はベリーズシティに留め置いている旗艦「聖アドラー」にいる聖女だが、昨日はたまたま教都に報告と、増援戦力の確認のために向かっていたのである。
教皇に会えることでテンションMAXだった聖女を教都で待っていたのは、聖アドラー自爆の報告だった。
まさか鹵獲しようとしたアメリカがやらかしたとは思ってないので、乗員たちが敵に渡すくらいならと殉教したことになっている。
「少し敵を甘く見過ぎたか」
「どうやら敵は海を越える手段を持っている様子。防衛計画を練り直す必要があります」
「とはいえ、海岸全てに兵力を配置していては生産が滞る。どうしたものか」
普通なら例え離れている間であっても、乗艦を失うことになった指揮官は粛清されるのが教国式だが、聖女を呼び出したのが教皇だったことと、元々別の艦を聖女に与えるために呼び出していたこともあり、不問になっていた。
「ひとつ案がございます」
「ほう」
この聖女が夜以外も有能だと最近気づいた教皇は先を促す。
「沿岸部は小規模な監視部隊を要所に配置し、一定範囲ごとに航空機動梯団を配置しておけばそれほど兵力は必要ないかと」
「ふむ。それが良さそうだな」
文字通りの国民皆兵国家なので、なんでも物量で解決しようとする悪癖がこの国にはあった。
教育も型に嵌めて逸脱しないようにすることに重点が置かれているので、事態の変化に対応できる人材が少ないのである。
前線司令官にしておくと、ミスや負け戦があると粛清せざるを得なくなるので、近いうちに聖女を教都で自分のそばの役職につけるか、と心の中で教皇は思った。
「それはそうと、前線のほうも進展がないな」
「はい、もう少しで押し切れるとは思うのですが、敵もおそらく首都ではないかと思われる大都市を背後において、全く引こうとしません。これまでの抵抗の無さが嘘のようです」
「ふむ、案外、敵の本体は海の向こうなのかもしれんな。それ故にこれまで抵抗が碌になかったのではないか?」
「かもしれませんが、言葉も理解せぬ蛮族どもが我々も持たぬ技術を持っているなどとは・・・」
「全く異なる言葉を使っているだけであろう?なら連中には連中の何かがあろう」
そんなことを言いながらも、相手の言葉を理解しようとか、解析しよう、という気がこれっぽっちもないのが教国の教国たる所以である。
「とはいえ、これ以上の動員をかけると生産にも影響が出る」
「必ずや教国に勝利をもたらして見せます!」
力強く宣言する聖女を見ながら、教皇はニヤリと笑う。
「ならばそれを後押しするのも余の責務であろう」
「そんな!恐れ多いです!」
あれだけ夜はよがらせて甘えさせているのに、それで普段の態度を一切態度を変えることが無い聖女を、教皇は好ましく思う。
教国の教育の賜物である。
「神の秘跡の使用を許可する」
それまで黙って聞いていた枢機卿達にも動揺が広がる。
「そんな、教皇陛下、恐れ多いです」
「良い。あれは聖者タスマンが神より賜った叡智。ならば神の教えも理解せぬ蛮族共に使用するのが相応しかろう」
枢機卿達はまだ動揺していたが、異を唱える者はいない。
教皇が使用する、と決めたのならば、それに反対するなど、誰にもできないのである。
「神の秘跡を使用する作戦指揮をとれるなど、光栄の至り。必ずや蛮族共を神と教国の威光の前に跪かせてご覧にいれましょう」
歓喜に震える聖女は、声も震えており、その目はまさしく狂信者の目だった。
聖者タスマンも教えは絶対。
そのことを疑わぬ聖女を、教皇はこの作戦の成功を持ってその功績で教都の役職に就ければいいか、と考えるのだった。
次は・・・金曜日にできるといいな・・・。




