メキシコシティの戦い・後方の戦い
HJネット大賞2019の一次選考を通過してました。
これを励みにこれからも頑張りますので、よろしくお願いします。
新世界暦1年4月1日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
メキシコシティで始まった大規模戦闘の影響を受けて、マスコミも含めて出入りが激しく、慌ただしい雰囲気のホワイトハウスだが、国家の安全が脅かされている、とかそんな切迫感はなく、中東で大規模軍事行動をとったときと大きな差が無い感じである。
アメリカ本土に近いといっても、キューバ危機のときのように本土が直接危険にさらされているわけではないというのも理由だろうが、負けてはいないが勝ってもいないという戦況ゆえ、そのことを懸念する声があるのも事実だった。
「それではこれまでの戦況を説明させていただきます」
大統領執務室には大統領の他、国防長官、統合参謀本部長、陸軍参謀総長、海兵隊総司令官、海軍長官、国務長官が集まっていた。
「敵の攻勢開始は3月28日午前10時、これをゼロアワーとして以後40時間、大規模な陸戦が継続しました」
統合参謀本部長は淡々と戦況を説明する。
「参加兵力は敵側が地上兵力推定32個軍団320万人、歩行戦車約6000輌、うち15個軍団150万人、歩行戦車3000輌がメキシコシティのある中央戦区に投入されています。航空戦力は飛行空母が計120隻、うち40隻が中央戦区です」
あまりにバカげた物量に、呆れたような声が出る。
「続いて我が軍は、陸軍が第1機甲師団、第1、第3、第4、第7歩兵師団、第1騎兵師団と本土にいる現役の師団は全て投入しています。他に現役の旅団、州兵も動員していはいますが、約30万人で、数の上では圧倒的劣勢です」
そもそも海外にいるのも全て呼び戻して、予備役まで招集してもアメリカ陸軍は100万人にしかいないのである。
現役は40万人なので、現状でほぼ全力投入である。
「その他の地上戦力として、海兵隊4万人、メキシコ陸軍約10万人、カナダ陸軍約2万人、中米各国の残存兵力や志願兵約4万人といったところですが、中米諸国は寄せ集めな上に装備不足、メキシコ陸軍は統率は取れていますが、戦車を持たない対ゲリラを重視した編成なので正直微妙、海兵隊は置いておくとして、他国で当てに出来るのは一番数の少ないカナダ軍くらいと言う状況です」
お先真っ暗である。
なんせ予備兵力がないのである。
「陸軍は予備役の召集を始めました。とにかく数がいります。集められるだけ集めて、最低でも10万は予備としてメキシコシティ後方に配置したいと考えています」
「他の国からの増援は望めないのか?」
「英国と豪州が派遣準備をしてはいますが、まだ時間がかかるでしょう。日本は周辺地域で重石として機能していますので、グダグダと調整して派遣させるくらいなら、周辺情勢の安定は日本に任せて、在日米軍から戦力を抽出するほうが早いでしょう。欧州は・・・」
何やらまたきな臭い政権が誕生しつつある欧州についてはあてにならなさそうということで、国務長官は言葉を濁す。
「続いて航空戦力ですが、アメリカ空軍が戦闘機1050機、戦略爆撃機100機、ガンシップ20機を展開、海軍は戦闘機200機、海兵隊は戦闘機100機を投入しており、航空戦力に関してもほぼ余力はありません」
「他国ではカナダが戦闘機30機を展開していますが、まぁ、焼石に水ですな」
圧倒的に数で劣る戦線をなんとか支えられたのはこの膨大な航空支援の賜物である。
「とはいえ、例のバリアは厄介ですね。撃墜できないわけではないですが、ミサイルや爆弾の消費量がすごいことになってます」
命中させても撃破が100%ではないとなると、ミサイルの信頼性が低かった時代のように、2発ワンセットで撃つしかない。
結果、消費量は2倍になるという単純な話である。
「宇宙船にコンピューターウイルス流し込んでバリア無効化する映画あったよね」
「あんなセントラルコンピューターが存在するんなら出来るでしょうけどね」
宇宙人がなんで地球のコンピューター言語でかかれたウイルスにやられてんの?という話は無視する。
「中米諸国で捕らえられている一般市民のせいで、敵兵站基地への攻撃が困難なのも正面戦闘での消耗が増えている要因ですね。現状、敵兵站への攻撃は輸送中と思われる大型飛行艇への攻撃のみに限定されています。世論が中米の市民よりも米軍兵士のほうが重要と判断してくれれば、いつでも兵站基地を壊滅させられるんですが」
「というか、捕まってる市民はどんな扱いなんだ?」
「ここのところは労働力として働かされているようですね。栄養状況や衛生環境は最悪みたいなので、どのみち近いうちにどうにかしないと、攻撃に巻き込む巻き込まない関わらず全滅するでしょうが」
頭が痛いな、と大統領は呟く。
「どうせ死体に爆撃したってマスコミや反戦団体は我々がやったと言うんだ。やっちまえばいいんじゃないか」
「それ、誰が命令出すんですか?」
一斉に全員目を逸らしてあらぬ方向を向いたのだった。
新世界暦1年4月1日 旧ニカラグア ニカラグア湖上空
『スカイアイよりグール、レーダーコンタクト、ボギーの数は1。敵大型飛行艇と推測される。方位025、距離80マイル』
『グール了解。目標の確認に向かう』
『その必要はない、空域は飛行禁止空域でIFFの応答もない。交戦許可は出ている。全兵装使用自由』
『了解、スカイアイ。各機聞いていたな、マスターアームオン、グール3、グール4はAMRAAMによる陽動攻撃、グール2は本機と共に障壁の消滅を確認した上でSLAM-ERによる本命を叩きこむ』
『グール2了解』
『グール3了解』
『グール4了解』
敵占領エリアまで入り込んでの補給飛行艇攻撃任務は連日行われてはいたものの、空中給油機とAWACSを出した上で4機一組の飛行隊が見つけた飛行艇を攻撃する、という大掛かりなもので、ぶっちゃけ近接航空支援が足りない状況なので、そっちに回したいという思いもないわけではない。
『スカイアイから空域内の全ての友軍機に警告、新たなボギー探知、エリア10-7、数は4、大型飛行艇と思われる』
『おいおい、今日は敵さん大盤振る舞いだな』
『せっかくのご馳走だ、全部いただこうぜ!』
『警報!敵大型飛行艇から小型戦闘艇が発進中!気をつけろ!これまでのより速いぞ!』
神聖タスマン教国の人間は概ねバカだが、全てがバカではない、ということである。
補給物資を運ぶ飛行艇ばかり狙われるとなれば対策を立てる頭のある奴くらいは何人かいる、というわけである。
『おい、敵さんの小型飛行兵器はせいぜい高度3000メートルって話じゃなかったか?こいつら6000メートルまで昇ってるぞ?』
『敵さんも隠し玉くらい持ってるって話だろ?俺達がやることは変わらん、ロックンロール!』
しれっと最初の大型飛行艇に向かってAMRAAMとSLAM-ERを叩きこんで沈めた飛行隊は、アフターバーナーを焚いて上昇し、8000メートルの高度に退避する。
『さすがに4機じゃ厳しいな』
『じゃあ、ケツ捲って逃げますか』
『というか、連中、あの発進タイミングはこっちが攻撃する前に気付いたってことだろ。なーんか面倒なことになりそうだなぁ』
ちなみに、普通の部隊より高性能な武器が配備されているのは、教皇直轄の4つの騎士団だけである。
勿論、一般の信者よりも高い忠誠心を持つ騎士団には万一の際、叛乱を実力で鎮圧する役目もあるわけだが。
『スカイアイからグール各機、仕事は果たした。くだらないこと言ってないでさっさと帰投しろ』
『へーい』
こうして補給線を攻撃した米軍部隊はさっさと撤退し、なんの被害もないのだった。
新世界暦1年4月2日 旧ベリーズ ベリーズシティ上空 飛行艇母艦「聖アドラー」
「そうですか、また一方的にやられて逃げられましたか」
興味ないと言った感じで、青色騎士団の団長に聖女は言った。
「どうやら飛行艇は敵の方が性能が良いようです」
「しかし、陸は物量で押し切れそうです。問題はないでしょう」
制空権を失っても物量で押せば良い、という暴論であるが、果たしてそれが成功するのかどうかは前例が無いのでわからない。
「しかし、このままでは補給が・・・」
「別に今と同じ輸送方法を続ける必要はないでしょう?なぜ輸送用飛行艇で艦隊を組んで、それを護衛する方式にしないのです?」
聖女の言葉に、青色騎士団長は目を剥いた。
これまでの教国の物資輸送は、積み込みが終わった輸送用飛行艇を順次送り出していたのである。
基本的に国内輸送で、敵が前線を飛び越して攻撃しに来ることはない、という前提だが、特に問題が起こらなかったためである。
そもそも、海上にはでないので、基本的に敵の飛行艇が前線を飛び越しても、必ず見つかっていた、という元の世界の事情のせいだが、勿論地球国家相手にそんな甘い話は通用しないので、これまで米軍は、太平洋戦争中の潜水艦よろしく、無防備な輸送用飛行艇を攻撃し放題だったわけである。
それに対応するため、聖女は輸送船団を組織して護衛をつけろ、と言ったわけだが、教国ではこれまでなかった発想であり、基本的に洗脳教育に重点の置かれた教国では、この手の「新しい発想」というのは致命的に出てこないことが多い。
自由な発想、なんていうのは、されると面倒なのである。
「早速、輸送部隊と調整して実施を検討します」
「検討の必要はありません。今のままでは被害がでているのです。やりなさい」
独裁の良い面は、トップが有能だと、その指示がトップダウンで素早く行き渡り、実行されることである。
今回に関しては、その良い面が如何なく発揮され、米軍は輸送船攻撃の作戦転換を迫られることになるのだった。
次回更新は水曜日になると思います。
早められるようなら早めますが・・・。




