未知との遭遇
新世界暦1年3月20日 多島海南方海域
様々の世界の島国や離島が転移した地点のさらに南方、日本の地理で言うなら沖ノ鳥島からさらに南西方向に、随分とくたびれた8隻からなる艦隊がいた。
2隻の重巡洋艦に、4隻の駆逐艦、そして2隻の艦隊型タンカーで構成される艦隊である。
彼らに課せられた任務は、世界の状況を確認すること。
最初は自国周辺の海域を捜索していたのだが、何も得られなかったので、補給艦もつけて足を伸ばしてみよう、という話になったのである。
現在地がわからなくなって遭難する可能性もあったものの、周辺の情報が何もないというのは非常にまずいということで、探索の艦隊を出すことになった。
選ばれたのは、戦闘能力よりも長期の活動を前提に設計された巡洋艦と駆逐艦、そして飛行甲板を設置し、限定的ながら航空機運用能力を持つ艦隊給油艦。
とにかく長期にわたる航海、国土から離れることは勿論だが、自らの位置を見失ってある程度彷徨うことも前提にした4ヶ月超の(友好的な勢力と出会わない限り)無寄港航海を想定していた。
とはいえ、出港からすでに2か月が経過し、生鮮食品はとっくに尽きていた。
そのこと以上に艦隊を疲弊させているのは、最初にみつけた未知の大陸での出来事だった。
それほど大きくないとはいえ、海沿いにあるのに港がない街を見つけたので接触してみることにしたのだが、刺激しないようカッターで近づいた上陸班の呼びかけに返ってきたのは矢の雨だった。
幸い死者はでなかったとはいえ、排他的な民族が住んでいる大陸だということ以上に、生鮮食品の補給が出来なかったことが、乗員たちを落ち込ませていた。
そこで一端引き返す、という選択もあったのだが、やはりこれだけの準備をして出てきたのだから、何かしら成果は持って帰りたいという思いが、航海の続行を決断させた。
「航空参謀、今日の航空偵察の結果はどうだった?」
この航海中、もう何回目になるかわからない質問を提督は航空参謀に行った。
「ダメですね。海が広がるばかりで、新たな陸地を見つけたとの報告はありません」
「そうか・・・」
船室に余裕がある、という理由で艦隊旗艦は艦隊給油艦に置かれていた。
広い飛行甲板が船体全体を覆っており、アイランドと呼ぶにも貧相な操舵艦橋が右舷に突き出ている。
一見すると空母のように見えなくもないが、満載1万6千トン、速力25ノットでは、一線級の戦闘機や爆装した爆撃機の運用は困難である。
搭載機自体も10機程度と控えめで、あくまでも「偵察機を載せられる補給艦」といった位置付けである。
それでも、収容するのにいちいち船足を止める必要がある水上機に比べれば偵察機の運用は容易であり、今回のような任務にはぴったりだった。
「そろそろ戻ることも考えないとまずいか・・・」
来るときは偵察のためここまでまっすぐ来たわけではないので、ただ帰るだけならまだ余裕はあるように思えるが、そもそも未知の世界で天体の動きも公転周期が不明な現状ではあまりあてにできない。
慣性航法はどうやっても風や海流によって誤差がでるので、ある程度余裕を見て帰らないと、母国がどこにあるのか見つからない、という事態にもなりかねない。
「提督、この世界はどうなってしまったのでしょうか・・・」
不安げな顔をしながら若い参謀の1人が言った。
「わからん。この航海で何かわかるかと思ったのだがな」
「せめてどこかに無人島でもあれば、何か果物でも補給したいところです」
「言うなよ、余計に欲しくなってくるだろ」
ははは、と僅かながら笑いが室内に広がる。
「ここまで来て何も無かった以上は、一度戻るしかあるまい」
「提督、以前見つけた街を占領してみてはどうでしょう。見たところ大した防衛設備も無さそうでしたし、銃弾も1発も飛んでこなかったことを考えると、制圧は容易でしょう」
物騒なことを参謀の1人が言い出すが、発言はしないものの、何人かも同じ考えを持っていることが窺えた。
「それを決めるのは我々ではない。一旦帰国して政府の判断を仰ぐ。我々は海賊ではないのだぞ」
提督のその言葉で、参謀もあっさり引き下がった。
と、そのとき、通信参謀が何やら通信員と小声でこそこそと話しているのが提督の目に入った。
「どうした?」
「はぁ・・・どうにも要領を得ない報告でして」
要約すると逆探に一瞬だけ強い反応があった、というのである。
「4隻ともか?」
艦隊で電波探知機を装備しているのは重巡2隻と給油艦2隻だけである。
給油艦になんでそんなもんつけてるんだ、という話だが、単純にスペースの都合で載せやすかったというだけである。
「いえ、探知を報告したのは重巡1隻だけです。それもごく一瞬だけだったので、誤作動を疑っているようです」
彼らがその電波照射に気付けたのは、はっきり言って幸運以外の何物でもなかったのだが、もっとも、電波発信源はその一瞬の照射で艦隊を発見していたので、彼らの運命に大した違いは生まなかったのだが。
強いていうなら、接触したときの艦隊の向きが違った程度の差でしかない。
「どうせもう帰るしかないんだ、せっかくだしその逆探が反応した方角に向かってみよう」
そう言って提督は艦隊を転針させたのだった。
新世界暦1年3月20日 海上自衛隊航空集団第4航空群第3飛行隊硫黄島分遣隊 P-1
世界樹島が日本領土に編入された関係で、硫黄島は文字通りの基地の島として大拡張工事が始まろうとしていた。
その都合で、硫黄島航空基地も厚木の付属品、というわけにはいかなくなるので、将来的には飛行隊が増設されて硫黄島に配置されることが決まってはいたが、今はまだ従来通り厚木から出張で数機のP-1がいるだけである。
火山活動が停止したことに伴い、大型船が着岸できる岸壁の整備や航空基地設備の大幅な拡張が予定されていた。
さらに、硫黄島飛行場には空自の新設飛行隊も置かれることになっているので、騒音制限がないし、訓練空域が取れるから訓練にちょうどいい、なんて使われ方をしていた時期からすれば随分な変わりようである。
とはいえ、哨戒エリアは広いものの、日本は基本的に多島海エリアの南東の淵に存在している、という立地なので、これまでのところ硫黄島の哨戒圏に入ってきた艦船は日米のもののみで、民間航路もようやく日米間で再開の目処が立ったという状況では、碌にすることがないのも事実だった。
とはいえ、海上保安庁の能力が限定的である以上、航空哨戒に関しては実質的に海自に一任されている状況であり、不審船舶は迅速に見つけて海保に通報する必要がある。
「SS-3からTACCO、これよりレーダー捜索を一度行います」
『TACCOからSS-3、了解』
SS-3はHPS-106の電源を入れ、一度だけ360度探査を行う。
機首と機体後部に2面の計3面のアクティブフェーズドアレイレーダーで360度カバーするHPS-106の全周捜索は一瞬で完了する。
基本的に船がいないので追尾し続ける必要性がなく、定期的にほんとにいないか探査するだけでいいので消費電力を、ひいては消費燃料を節約しようという貧乏性の結果である。
ちなみに、電子機器の名称には米軍に細かな規則があり、HPS-106の場合、Hは海自のみの記号で飛行機のHだと言われており(それでいいのか)、Pはレーダー、Sは捜索用であることを示している。
護衛艦が搭載する捜索用レーダーはOPS-24のような名称がつけられているが、Oは艦載用のOともお船のOとも言われている。・・・昔から妙なところで茶目っ気をだす自衛隊である。
それはともかく、動きが速い弾道ミサイルや超音速ミサイルを探知、迎撃する必要がある護衛艦の対空レーダーならともかく、なんで哨戒機の対水上レーダーに常時360度全周警戒可能なレーダーが必要なのか、という話である。
それは探知可能時間が下手をすると弾道ミサイルなどよりも短い、下手すれば一瞬しか海面にでないものを確実に捉えるためである。
潜望鏡である。
特に近年は自衛隊の潜水艦も含めて、デジタル式の非貫通式潜望鏡が普及しており、潜望鏡の小型化、露頂時間の短時間化が著しい。
従来であれば、潜望鏡を上げて接眼レンズを覗きこんで目標を確認、写真を撮る場合はその上で撮影、攻撃する場合はそのまま距離測定といったことを行っていたのだが、デジタル式であれば露頂した一瞬で全周の写真を撮ってしまえば、あとは潜望鏡を降ろして撮影データを分析すれば済むのである。
その一瞬を逃さないためにはどうするか。
常時見張っとけばいいじゃない、という実に当たり前の結論に至った結果、P-1とHPS-106は誕生したのである。
ちなみに、これを艦載化したOPS-48をあさひ型護衛艦は対水上レーダーとして装備している。
「ん?なんだこれ?SS-3からTACCO、輪形陣をとる艦隊と思われる目標を探知、距離50マイル、方位226」
『TACCO了解、行動予定を確認する』
P-1はリンク16端末も搭載しているので、作戦行動中の友軍艦艇は一目瞭然なのだが、念のため哨戒エリア内で行動予定のある護衛艦や判明している米軍艦艇を確認する。
『TACCOから全クルー、探知した艦隊に該当する友軍艦隊なし。これより確認を行う、戦闘配置!』
もっとも、護衛艦と違って、哨戒機では基本的に飛行中は皆、自分の席にいるので、機器の電源を入れるとか、ソノブイの準備をするとか、その程度なのだが。
数分後、P-1は国籍不明の艦隊に接触したが、無線の呼びかけに応答はないものの、武器を準備する様子は無く、大勢が甲板に出てきて手を振っていることから、敵対する意思は無いものとみて、護衛艦隊と海上保安庁に通報したのだった。
意外といけた。
次は・・・日曜日?
来週はまた出かけるので不定期になると思います。




