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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
50/201

下種たちの準備

新世界暦1年3月15日 ベリーズ ベリーズシティ上空 飛行艇母艦「聖アドラー」


「バカなのですか貴方達は!?」


室内にヒステリックな絶叫のような声が響き渡る。

一段高くなり、玉座のような椅子が置かれた場所で、椅子から立ち上がって絶叫しているのは勿論、侵攻部隊総司令官である聖女である。


対して、部屋に集められたのは前線部隊の各指揮官である司教や司祭たち。

普通ならこういう場合、皆内心では控えめに言って「後方で喚くだけ喚きやがってクソが」と思っているわけだが、この部屋においては二重の意味でそう思っている人間はいなかった。


1つはここが神聖ダスマン教国であるため、怒られている理由が聖者ダスマンに申し訳が立たないと本気で信じているのが半分いるため。

もう1つは、そういうことを考える頭を持っている”上に行くことが約束されている”もう半分が、やらかした結果集められているので粛清に怯えてびくびくしているため。


「一斉攻撃を行うので、その準備のため物資と部隊が揃うまで待て、という命令も守れないとは、犬にも劣る無能ですね!」


キーキーと聖女はがなり立てるが、誰も反論できない。

聖女の言葉は絶対と思って(洗脳されて)いる半分はともかく、残りの半分は功績を独占しようと配下部隊を勝手に前進させて各個撃破され、戦力をすり減らしたためである。

元の世界で強大な国力を持ちながらも、周辺国に勝ちきれなかったのはこの辺りが原因なのだが、周囲を出し抜いて突出し、功を上げれば出世できてしまう国家体制と前例のせいで一向に改まらない悪癖であった。


「決戦兵力として集めていたのに、今残っているのはどれだけですか!」


一際大きな金切り声に、兵力を失った指揮官達は俯いて目を付けられないよう小さくなっていた。

その実、戦線全体で見るなら兵力は半壊しており、総攻撃どころか攻められれば潰走するしかない状態に陥っていた。


「貴方達の無能ぶりには最早期待しません。私はこれから教都に戻って教皇陛下に現状を報告してまいります」


その言葉に、俯いていた指揮官たちの顔は凍り付く。

つまるところは現時点で兵力を失っている指揮官たちは粛清されるということである。

もっとも、そこでそのまま終わるような奴はそこまでだったということである。

上手いこと立ち回る奴は、無傷の部隊の指揮官と入れ替わってしまい、何食わぬ顔で別の奴を生贄に出すのである。


「私が戻るまでの間に勝手なことをした者は、その結果に関わらず、問答無用で教化院送りとします。これは教皇陛下のお言葉です!」


それだけ言い終えると聖女は部屋から出て行った。

あれだけ怒鳴り散らしていたのに、なんとなく神々しい姿勢を保ったままなのはさすがというか、教国の教育(洗脳)の賜物というか、なんというか。


「最後のあの言葉、事実でしょうか?」


聖女が出て行ったのを見計らって、小さな声で1人が隣の司祭に声をかけた。

2人とも、タイミングが計れずに攻勢に出ることが出来ず、兵力が丸々残っている「上に行く」人間であった。


「さて、陛下がわざわざ一戦線のことまで気に掛けるとは思えませんが・・・」


要するに、ライバルたちが失敗したこの機会に我々が、というのが2人の考えなのだが、先ほどの聖女の言葉が本当だった場合、今動くのは悪手以外の何物でもない。


「聖女の性格からして、ブラフで陛下の名前を出すとは考え難いですね」

「今回は様子見ですかね」


迷ったら日和るのが教国で生き残るコツだとわきまえている2人は、とりあえず聖女が戻るまで大人しくしておくことにするのだった。





新世界暦1年3月15日 神聖タスマン教国教都 聖タスマン大聖堂


「前線部隊の独断専行に聖女も手を焼いておるようだな」


言っている内容とは裏腹に、機嫌良さそうに教皇は言う。


「はい、各部隊が独断で攻勢を繰り返しては戦力をすり減らしているようです」

「やれやれ、特定の人間を引き上げるために独断専行を許していた弊害か。こういう大規模攻勢をかけたい場合は弊害が目立つな」


やれやれといった感じに教皇は言った。


「それであのようなお言葉を聖女に与えられたのですか?」

「ん、まぁ、それもあるな」


枢機卿の言葉に、教皇は言葉を濁す。

報告のために聖女を教都に戻らせるため、その間に勝手な行動をした者は~という言葉を聖女に与え、それを広く喧伝することを認めていた。

実際には、以前に聖女が教都に戻ってきた際、夜に味わってみたところ思いのほか具合が良かったので、それ以後いろいろ贔屓していて、再び味わいたくなったので教都に呼び戻すためにほいほいと言質を与えた。というのが真相だった。


本来は教皇からの直接の言葉など、滅多に下に伝えられるものではない。

希少性を高めて、なんかありがたい感じを出すためだが、わりと教皇個人の欲望を満たすためにも利用されているのが実情だった。


「まぁ、とはいえ、勝っていれば問題ないとはいえ、前から前線部隊が勝手に動くのは問題だと思っていたしな」


前線部隊の独断が連戦連敗になった今回の件は引き締めにはちょうど良い機会だろうと、教皇は個人的に考えていた。


「とはいえ、すり減った前線をどうするか」

「増援は送らねばならないでしょうが、予備兵力もそれほど余裕がありません。別の前線から引き抜くしかないでしょうか」

「他の前線が石みたいに動かないのではそれも仕方ないか?とはいえ、大規模な戦力移動はいらん動きを誘発しかねんしな」


周辺国が全て神の教えを受け入れない不倶戴天の敵である神聖ダスマン教国は、莫大な正面兵力を有しているものの、それを常時多方面に展開しておかなければならないので、それほど余裕があるわけではない。


「仕方ない、直轄艦隊を貸し出すか」

「しかし、陛下、あの艦隊は・・・」

「なに、後詰として戦線に派遣するだけでも前線を鼓舞する効果はあろうし、万が一の予備部隊としても使えよう?」


聖女に死なれるのは教皇個人としても、教国としても損害が大きいので、万一の場合は回収する必要がある。


「それに、直轄艦隊もたまには実戦を経験させねば、ただのお飾りというのは勿体無かろう」

「わかりました、それでは教皇直轄艦隊の準備をさせますが、白色騎士団でよろしいでしょうか?」


教国には教皇直轄艦隊、いわば近衛師団として、白色、黒色、青色、赤色の騎士団が存在しており、この4つの騎士団がそれぞれ10万というの軍団規模も兵力を有していた。


「せっかくだ、青と赤も出したまえ」

「しかし、それは・・・」

「ここで出し惜しみしても仕方あるまい?せっかくここまで押せたのだから、通常兵力も出し惜しみなしで投入し給え。それと、新たに動員をかけて新たに5個軍団を編成し後詰としたまえ。どのみち入植させるにはそれでも少ないくらいだろう?」


基本的に全ての国民が信徒、というか生まれた時から国によって信徒として育てられているので、文字通りの国民皆兵である。

ただ、決められた割り振りによって、各々が仕事についているだけなので、成人人口=動員可能人口である。


「ああ、それと使うことは無いと思うが、秘跡の守護者たちも予備としてつけておこう」


教皇のその言葉に、枢機卿は顔を歪める。


「陛下、お言葉ながら神の秘跡は魔導の才ある人間を大量に使い潰して年間1つ造れるかどうか。あまり軽々しく持ち出すのはどうかと」

「そんなことはわかっている。だからといって使わないでは、造っている意味がなかろう?あくまで後詰だ。あれが後ろにあれば退却は許されまい?」


にやりと教皇は笑ったが、枢機卿はその言葉の裏にある、退却は絶対に許さない、という言葉に薄ら寒いものを感じた。

退却を許さない軍隊は、確かに死に物狂いで戦い、短期的には敵により多くの損害を与えることができるので勝っている時は良いが、負け戦が続くと戦訓の引継ぎがないうえ、どんどんベテランを損耗するので結果的に弱くなる。


「直に聖女も戻る。二週間ほど引き留めるから、その間に動員も完了し給え。ついでだしもう10個軍団ほど動員準備ははじめておけ」


話は終わりだ、とばかりに教皇はさっさと行けと手を振った。


「あ、廃棄するのも面倒だし、動員は」

「心得ております。生産しない穀潰しを優先します」


この国には一部の例外を除いて高齢者が存在しない。

表向きには務めを終えた信者は、聖者タスマンに導かれて楽園に行くことになっている。

まぁ、端的に言ってしまえば働けなくなれば国によって強制的に天国に送られてしまうのである。

もっとも、実際にはそうなる前に前線に送られて戦死することのほうが圧倒的に多いのだが。


今度こそ用は済んだと、教皇は聖女が教都に戻ってくるまでの間、禁欲するかタイプの異なる信徒を楽しむかというどうでもいいことに頭を使うのだった。

次は・・・土曜日かなぁ・・・。

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