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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
5/201

防衛出動

新世界暦1年1月2日 日本国 東京 防衛省中央指揮所


「総理から防衛出動命令の下命を確認。持てる全ての能力を持って事態に対処すること、と武器の無制限使用が許可された」


各自衛隊のいわゆる「制服組」トップが集まっている会議室で、官邸とのホットラインの受話器を置いた統合幕僚長が宣言する。


「緊急事態のため国会承認を爾後に回すとはいえ、いざ国会が始まれば動きに制限がかけられる可能性があります。早期決着を図るべきです」

「とはいえ、スピードを重視すれば投入できる兵力は限られているし、市街地を占領された以上、国民保護を考えると無制限の火力投射は困難だ」


これまでの想定と異なり、いきなりの地上戦である。

海上、航空戦力で遅滞をはかりつつ、着上陸に備えるという根本戦略が崩壊してしまっている。


「地上は基本的に包囲による敵の現占領地への釘付けを基本方針にし、敵補給線を叩くことで継戦能力を奪い、降伏を促すことを基本にしたいと考えます。外務省より非公式に、交渉チャンネルを開くためにも敵上級指揮官を捕虜にしてもらいたいとの要請がきています」

「その方針は良いとしても、包囲の状況は?」

「第二師団の警備担任区域ですので、第二師団を主力として編成しています。現在、最寄りとなる名寄駐屯地を進発した第3普通科連隊が枝幸から延びる主要道路、国道238号線と道道12号線を封鎖しています。ただ、展開速度を重視したため、高機動車、軽装甲機動車を主力としており、機甲戦力として上富良野駐屯地の第2戦車連隊が進発準備をしていますが、交通規制の問題で進発が遅れております」


枝幸市街地から延びる主要道路は3本。

海沿いを走り市街中心地を迂回して南北に抜ける国道238号線と、そこから分岐して内陸に向かう道道12号線。

基本的にこの3つを押さえてしまえば、大部隊の行軍は困難と思われるものの、海沿いを走る国道は海上から丸見えで、機甲戦力を展開すると艦砲射撃の的である。


「戦車連隊の展開は時間がかかることが予想されるため、第11旅団より、第10即応機動連隊を進発させ、戦車到着まで直接火力の主力とします」

「包囲はそれで良いとして、敵状偵察はどうする。可能ならば残された国民の救助も必要だろう」

「それについて提案がありますが、よろしいですか?」


それまで黙っていた一等陸佐の階級をつけた男が手をあげて発言を求める。


「何かね」

「枝幸町の地域事務所にいる広報官が顔見知りでして、市街地の状況を携帯で連絡してくれています。彼と合流して市民の救出を行うというのは如何でしょうか」

「その広報官はあてになるのかね?」

「定年が近づいて広報官に転出したとはいえ、冬戦教で鬼教官と恐れられた男です。我々と合流しても足手まといにはならないでしょう」


冬季戦技教育隊の鬼教官を「足手まといにはならない」と言ってのける一佐に一同は思わずうなり声をあげる。


「市街地偵察は君に一任する」

「ありがとうございます。直ちに準備にかかります」


そう言うと一佐は直ちに退室していった。


「特戦初の実戦か・・・」

「特戦に限らんがな」


退室する背中を見送った一同は再度、作戦の確認に移る。


「敵補給線遮断のため、海空自衛隊共同による船団攻撃を行います。参加するのは海自から八戸の第2航空群よりP-3Cが6機、厚木の第3航空群よりP-1が4機、空自から百里の第3飛行隊よりF-2が12機です」

「全て対艦ミサイル装備だろ?多すぎないか?全機フルロードなら単純計算で104発のハープーン級だろ」

「敵に超ド級戦艦と見られる艦が確認されています。対艦ミサイルによる攻撃で重要区画(バイタルパート)にダメージを与えられるか不明なため、今後のために試験も兼ねて多重攻撃を行います」

「それでも沈められなかったら?」

「太平洋戦争において、艦上火災で戦艦が戦闘能力を喪失した例もあります。戦闘能力を奪うことは可能と考えますが、従来の海図が使えず、潜水艦の運用が困難な現状では、確実な撃沈は困難です」


だいたいネットで定期的に話題になる「戦艦は対艦ミサイルで沈むのか問題」を真剣に検討する羽目になった彼らの結論は、「重要区画(バイタルパート)の貫通は無理でも、艦上火災で戦闘能力は奪える」というものだった。


自衛隊の装備で最も確実に戦艦を撃沈可能なのは、潜水艦が装備する長魚雷である。

なんせ、太平洋戦争のころから基本コンセプトは変わらず、それでいて誘導装置がついたり、間違いなく威力があがっているからである。

が、潜水艦の問題点は、運用に海図が必須になることと、戦略機動力に欠けることだった。

特に、わけのわからない世界に転移したせいで、海の水深が全く不明なのである。

危険すぎて潜水艦はしばらく運用できないというのが、海自の結論だった。


「枝幸南方で国道238号線を封鎖中の第3普通科連隊より緊急!大隊規模の敵が侵攻を開始しようとして交戦状態に突入!」


会議室に一気に緊張が走った。





新世界暦1年1月2日 日本国 北海道枝幸町南方 国道238号線


「まったく、中将殿にも困ったものだ!あそこまでいくと慎重というよりも臆病だな!」


誰にも憚ることなく上官批判を行う男を止めるものは誰もいない。


「その通りです。あの場所を固守し、本国の指示を待つなどと。それにしても、周辺偵察の許可を得るとは、さすが旅団長、お見事です」

「おう!防衛陣地構築のため周辺偵察を行いたい、と言って許可されたが、偵察部隊の規模は制限されなかったからな!」


指揮車の後席でガハハと笑う旅団長と呼ばれた男、ランヴァルト少将はいわゆるタカ派の指揮官で、上陸軍団軍団長のアルノルド中将を腰抜け呼ばわりして忌み嫌っていた。

本国参謀本部のタカ派からは、中将が弱腰になるようなら上手くやれと極秘裏に自由裁量の命令書を貰っていたのである。

もっとも、今回は現地人とコミュニケーションをとろうと四苦八苦している中将の隙をついて、偵察部隊派遣の言質を取ったので使う必要はないが。


ランヴァルト少将がのる指揮車の前を、グルトップ歩兵戦車32輌で道路上に2列縦隊で進んでいる。

そして、指揮車の後ろには歩兵を乗せたハーフトラックが続いている。

ここまで、敵の反攻は一切なく、街にはそもそも軍隊らしきものが全くいなかった。


海岸線に街を作って一切防衛設備がないなど、一体何を考えているのか理解に苦しむが、こちらが楽をできるのはいいことだと思うことにしたランヴァルト少将は、考えることをやめた。


「しかし、よくわからんな」

「なにがです?」

「この妙に広い道だよ。中央に白い線が引かれていることを見るに、二車線ということだろうが、我がグルトップ歩兵戦車が2輌並んで走ってもまだ余裕がある」


アズガルド帝国陸軍には歩兵戦車と騎兵戦車という2種類の戦車がある。

まぁ手っ取り早く言うと歩兵支援に特化した重戦車と対戦車戦闘に特化した軽・中戦車なのだが、中でもグルトップ歩兵戦車は、その重装甲と大火力で敵国から恐れられていた。

正面・側面装甲は車体、砲塔共に100mm、背面70mm、主砲は100ミリ榴弾砲を装備している。

さらに砲塔正面には砲盾があり、実質200mmの装甲厚を誇る、世界に敵なしの重装甲戦車である。


もっとも、地球基準で見るならば、第二次世界大戦初期に廃れた車種をまだ装備してんのかよ。という感想になるのだが、これは彼らの世界が地球のような大規模な戦車戦を経験していないことによるものである。

よって、主砲も対戦車戦闘を考慮しない、歩兵支援用の短砲身榴弾砲である。


「大した軍事施設もないのにこんな道が必要なのか?」


先進国とされるアズガルド帝国でも、市街地を外れた道は幹線道路以外は未舗装であることが多いし、幹線道路でもこんな何もない原野のような場所に立派な道路を造る必要性がわからなかった。

指揮車にのる人間が誰も答えを持たない中、上陸地点の市街地南の砂浜から2キロほど走ったところで、ランヴァルト少将の乗る指揮車は停止した。


「なんだ」

「どうやらこの先に橋があるようです」

「敵がいないんなら進めばよかろう」

「橋が戦車の重量に耐えられるのか確認中です。しばしお待ちを」


イケイケのランヴァルト少将に辟易しながら無線手は無線に耳を傾けるのだった。





新世界暦1年1月2日 日本国 北海道枝幸町南方 北見幌別川右岸堤防


雪は溶けたものの、まだ乾ききらない堤防の上で、1人の男が伏せていた。

その眼には双眼鏡があてられており、太陽光の反射で位置がバレないよう、両手で庇をつくっている。


「来た」


その双眼鏡の先、国道238号線が通る幌別橋の左岸側に、敵の戦車が現れた。

戦闘の戦車から兵士が降りて、橋を調べているので、戦車が渡れるかどうか調べているのだろう。


「射撃準備」


堤防上に伏せている男、対戦車小隊の小隊長は、橋からは堤防の陰になって見えない位置に待機する車両に命令を出す。

もっとも、小隊には本来指揮車をいれて5輌の車両がいるはずだが、ここにいるのは指揮車を入れた3輌だけである。

残りの2輌は道道12号のほうに展開中である。

ちなみに、北側の包囲部隊には対戦車部隊がいないことになるが、見通しが悪いので長射程の対戦車兵器は必要ないということで、普通科小隊の無反動砲か航空支援でどうにかすることになる。


高機動車に載せられた誘導弾発射機がせり上がり、誘導用のミリ波レーダーと赤外線カメラが堤防の上に顔を出す。

車体を隠して、ちょうど誘導装置と発射機だけ堤防上に出せる位置に陣取れたのは幸運だった。


「先頭6輌が橋に入ったらその6輌に射撃する」

「即応弾は2輌で12発ありますが?」


小隊長の命令に、きっつい性格で知られる女性自衛官の三曹が暗に12輌攻撃しないのかと問う。

顔はいいんだがなぁ、と小隊長は思うが、口には出さない。


「予備弾の装填もできない状況で全弾撃ち尽くすわけにはいかんし、あくまでも橋の封鎖が目的だ。6輌も擱座させれば十分だろう。この方面を押さえる対戦車火力は、我々以外は84mm無反動砲しかないんだ」


そう言うと三曹は納得したようで、それ以上喰いついてこなかった。


「曹長、発射タイミング任せる」

「任されました。目標、先頭の敵戦車6輌、橋を封鎖できるタイミングで発射します」





新世界暦1年1月2日 日本国 北海道枝幸町南方 国道238号線幌別橋


「しかし、道は立派なのに何もないな」


先頭から4輌目を走るグルトップ歩兵戦車の車長は車長用のハッチから頭を出して、周囲を警戒していた。

進行方向左側は海のはずだが、防風林らしき森で海は見えない。

右手は先ほどまで開けていたが、今は左手と同じく森になっている。


少し先に橋が見えており、その少し手前から左右に視界が開けている。

待ち伏せするには絶好のポイントに思われ、車長は気を引き締める。


先頭車両の乗員が橋の強度を確認しにいったようだが、密集して一斉に載ったりしない限りは大丈夫そうだという。

並んでいる2輌ずつ、順番に進んでいく。


最初の2輌は渡りきったので、続いて進み始める。


「しかし、ホリアセ共和国ではないと言う話だったが、この国の防衛体制はどうなっているんだ」


ここまで敵の兵力を思わせるものが何もなかった。

会敵したという話も全くない。

そのせいで、意識は完全に橋が戦車の重量に耐えられるかのほうに取られていた。

見る限り鉄骨のアーチ橋のようなので、特に問題はなさそうだがこの国のインフラが何を基準に作られているか不明なので不安ではある。


その時、突然爆発音とシュゴオオという飛翔音のような轟音が立て続けに2つ響いた。


「なんだ!?」


慌てて周囲を見渡すと、橋を渡った堤防上の地点で停車していた先頭車両2輌から煙が上がっていた。


「ゲリ1、ゲリ2、どうした、報告せよ」


無線に呼びかけるが応答がない。

と、再び先ほどの同じ轟音が響き渡る。


「今度は何だ!?」


再び周囲を見渡すと、後続で次に自分たちが渡りきるのを待っていた2輌が、先頭2輌と同じように煙を上げていた。


「な!?敵襲!!!」


無線機に叫ぶと同時に操縦手に全速後退を指示する。

が、並んで進んでいた僚車は前進を選択したようだった。


「バカ!戻れ!」


進んでも先に味方はいない。

仮に今を凌げても、孤立するだけである。

僚車が先頭車両2輌が擱座している間を抜けようとしたとき、再び轟音が響き、僚車から煙が上がった。


「クソがあああ!」


そう叫ぶのと、彼の車両に中距離多目的誘導弾が着弾するのは同時だった。





新世界暦1年1月2日 日本国 北海道枝幸町南方 国道238号線幌別橋北側


「ゲリ1、ゲリ2、ゲリ3、ゲリ4、ゲリ5、ゲリ6!誰でもいいので応答してください!」


指揮車の無線機に向かって通信手が焦ったように呼びかけ続けている。


『こちらゲリ7、先頭6輌全て何らかの攻撃を受け撃破された模様!敵の位置は不明!指示を請う!』

『後退!後退だ!開けた場所にいれば攻撃を受けるぞ!』

『無茶を言うな!後ろには兵員輸送車もいるんだぞ!』


これまで無敵を誇ってきたグルトップ歩兵戦車が立て続けに6輌も撃破されたことで、部隊は混乱に陥っていた。


「狼狽えるな!部隊をそのまま後退させろ!いったん両側が森林になっている場所まで引く!通信手は海軍に支援を要請!艦砲射撃で向こう岸一帯を焼け野原にしろ!」


ランヴァルト少将の一喝で通信手は落ち着きを取り戻し、部隊は統率を取り戻す。


「クソっ!あの腰抜け(アルノルド)がさっさと空軍を呼んで航空偵察をしないからだ!」


無敵と謳われた自らの機甲部隊で出た初めての損害らしい損害に、ランヴァルト少将は苛立ちを隠せない。


「それにしても、グルトップ歩兵戦車の装甲を抜いてくるとは、敵は優秀な対戦車砲を持っているようだな」


攻撃してきた敵の位置がわからなかったということで、ランヴァルト少将は隠蔽された対戦車砲の攻撃を受けたと判断した。

実際、時代と共に対戦車砲は対戦車ミサイルによって代替されたと言えるので、その判断自体はそう間違っていない。

彼の判断で間違っていたのは、空軍と海軍が支援可能だという認識だった。

現状、書き溜めは以上です。

週2回くらい更新できたらいいなぁ、というペースで続けたいと思いますのでお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三……いや四周目です。カジュアルさと情報量の両立がなされている文章・ストーリーだと思います。大変面白いです
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