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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
44/201

二国間演習+1+1

新世界歴1年3月5日 ユーラシア大陸と新大陸の間の公海海域


ハワイ南方で多国間海軍演習が行われているのと同じころ、こちらの海域でもロシアとインドの合同海軍演習が始まろうとしていた。

さすがにハワイ沖と違って、適当な退役艦をさっさと用意することもできず、そもそも引っ張ってくるにも遠すぎたので、標的艦までは用意されていなかったが、発射手順や目標情報の入力などの訓練は行うために、(必要ないのに)わざわざ実弾を積んできているという気合の入れ様である。


まぁ、発射演習はないのに実弾を積んできているのは、気合云々よりも国際情勢がきな臭い、ということのほうが大きいが。

印露合同演習が、ユーラシア大陸と新大陸の間の海域で行われる、と発表されるとその海域を頻繁に往来している国、まあこれは中国しかないのだが、が激しく反発したのである。


曰く、わが国固有の領土である二大陸間の自由な航行を危険に晒す暴挙であり、容認できない。ということらしい。

どの口が言うのか、という話だが、厚顔無恥で力を持つ奴が得をするのが政治である。


インド海軍の航空母艦「ヴィクラント」を中心に輪形陣を組んだ印露海軍艦隊が、共同艦隊運動の演習を行っているとき、そこから100キロほど離れた海域には別の空母艦隊がいた。

001A型航空母艦「山東」を旗艦とする中国人民解放海軍艦隊である。


結果的に、双方が艦隊運動を行う上空では、演習にちょっかいを出す中国海軍のJ-15と、それを追い払おうとするインド海軍のMig-29Kの間で熾烈な空中戦が行われていた。

ちなみに、搭載数はトントンなので、互いに数的有利は無く、互いに後ろを取ろうと互角の争いを続けていた。


両艦隊の中間よりは印露艦隊側の場所、別にMig-29KがJ-15に押されている、というわけではなく、ちょっかいかけるためにあがったJ-15に対応するためにMig-29Kがあがった、という発進の時間差の問題でこの位置になっていた。


そしてそんな位置で格闘戦をしている双方の戦闘機と、印露艦隊の外周艦がそれに気づいたのはほぼ同時であった。


「艦長、方位130、距離20マイルに不明艦隊」


艦隊外縁でピケット艦を務めているインド海軍フリゲート「テグ」の艦橋で、水上レーダーを見つめていたレーダー員が声を上げる。


「中国艦隊ではないのか?」

「哨戒ヘリからの連絡では、彼我の距離60マイルで変わっていませんし、艦隊を分けたという報告も来ていません」

「別働艦隊か、面倒な。あくまでも演習を邪魔するつもりか」


艦隊運動演習ということで、艦橋にいた艦長は、戦闘指揮所(CIC)に移動する。


CICというのが誕生したのは第二次世界大戦中である。

これは、従来の戦闘艦の指揮は通信を除けば、目視範囲内だけで完結していたため、外が見える艦橋で指揮を執るのが最も効率が良かったためである。

戦艦等においては特に分厚い装甲に包まれた司令塔などが存在したが、戦闘指揮のため、というよりは戦闘中に安全に操艦できる艦橋といったものである。

やがて、レーダーの出現により、その情報を統括し、把握することが重要になってくると、すでに多数の航海機器が設置されている艦橋ではスペースが足りなくなってくる。

結果、操艦と戦闘指揮を完全に分離することで、戦闘指揮に特化した部屋、レーダー、通信、ソナーの情報を統括するCICが誕生したのである。


そして、元々、艦橋に設置しきれない機器を設置した部屋、であるので設置場所も、艦橋横や直下が多かった。

艦長が迅速に2つの間を行き来できるように、という考えも多分に影響していたが。

しかし、近年においては設置場所に国ごとの差が出ている。


意外なことにその走りになったのは、海上自衛隊の「はつゆき」型護衛艦である。

小型の船体に主砲、次弾装填装置付アスロック発射機、ヘリコプター格納庫にヘリコプター甲板、SAM発射機と対艦ミサイルとてんこ盛りした結果、艦橋にCICの設置スペースがとれなくなったのである。

艦長室や士官室を艦橋に設置しなければ場所はとれたが、通常航海時に艦長がすぐに艦橋に上がれないというのはまずいので、CICが押し出された格好である。


結果、別の場所に設置せざるを得なくなったのだが、戦闘中に艦長が艦橋とCICを行ったり来たりすることは無くなっており、対艦ミサイルへの抗堪性も考慮すれば、艦橋直下の船体内への設置が合理的、としてそのように配置し、以後の護衛艦は全てそうなっている。

これに対し、当初は渋い顔をしていたアメリカ海軍も、アーレイ・バーク級駆逐艦からは同じ配置を採用している。


艦橋にSPY-1レーダーを配置する関係で場所がとれなかったため、という理由もあったが、建造開始1年前に発生したスタークのエグゾセ対艦ミサイル被弾において、一時的とはいえ艦橋直下のCICに火災の煙が充満し高温になり、戦闘能力に影響が出たことも影響していると思われる。


結局、ズムウォルトとFFMでまたぶっ飛んだCICを作っているので、この二ヶ国はCICで普通と違うことをしないと気が済まないのかもしれない。


閑話休題。


で、このタルワー級フリゲートは基本的にロシア艦であり、CICは艦橋と隣接している。

艦長に階段を上り下りさせるなんてけしからん!というわけである。


「不明艦隊の動きは?」

「まっすぐこちらに突っ込んでくるようです」

「合同演習司令部に報告。不明艦隊には無線で呼びかけろ」


CICは俄かに騒がしくなる。


「対空レーダー、不明艦隊から発進する航空機を探知」

「Mig-29より報告。不明艦隊は中国艦隊にあらず、国籍不明。レシプロ機と思われる航空機が多数発進中」

「艦隊司令部より連絡、艦隊に触接する不明航空機をアドミラル・ゴロフコが探知、全艦演習を中止し、警戒態勢に入れ、とのこと」

「対空、対水上戦闘!」


艦内には警報が鳴り響き、乗員たちが一斉に走り出したのを艦長は感じたのだった。





新世界暦1年3月5日 ユーラシア大陸と新大陸の間の公海海域「テグ」の南東20マイル


「提督、良かったのでしょうか?本国に確認もとらずに」


参謀の1人が不安げに提督の顔を見る。


「もう1ヶ月半だぞ!?ようやく見つけたら船団だったんだ!適当に脅かして停船させるしかないだろ!」


相手が商船の船団ではなく、軍艦の艦隊だという発想が致命的に抜け落ちているが、相手が艦隊なら索敵の水上機を飛ばしているはずだ、という固定観念(自分の世界の常識)があった。

そして、運の悪いことに雲が出ており、遥か上空で遊んでいる(空中戦をしている)Mig-29KとJ-15は見えなかった。


それに、母港を出港後1ヶ月半もうろうろしていて、全く船に会わなかったのである。

我慢の限界であった。

なんとしてでも、船団を拿捕して情報を得る、ということで提督の頭はいっぱいになっていた。


「攻撃を開始しろ!」


ザルツスタン連邦国大洋艦隊の命運を分けた一言であった。





新世界歴1年3月5日 ユーラシア大陸と新大陸の間の公海海域 タルワー級フリゲート「テグ」


「不明航空機接近、レシプロ単発機と思われる!」


デッキに備え付けられた双眼鏡に齧りついていた見張り員が叫ぶ。


その状況はCICの対空レーダーも把握していた。


「何をする気でしょうか」

「低空でのフライパスってところじゃないか」

MR-90(SAM用FCS)待機中」


もっとも、タルワー級が装備するSAMは艦隊防空用の大型のものであり、個艦防御には主砲(100mm)CIWS(カシュタン)のほうがいいのだが。


「主砲とCIWSを起動しますか?」

「相手が分からん以上刺激する行動は控えよう」


艦長はそれだけ言ってCICを出た。


「不明機の動きは」


艦橋に戻り、見張り員に確認する。


「編隊を組んでまっすぐこちらに向かってきます」

「無線での呼びかけには応答しません」


慌ただしく報告が飛び交う艦橋で誰かが呟いた。


「いきなり攻撃されたりしませんよね」


それほど大きくない声だったにも関わらず、一瞬の静まった瞬間に発せられた声は、艦橋内で不気味に響いた。


「まさか・・・」


艦長はそう言ったが、日本や中米の状況はニュースとして入ってきていた。

未知の存在からいきなり攻撃されるかもしれない。

その恐怖が艦橋を支配する。


「不明機の動きは」


その空気を払しょくするように、艦長は大声で見張り員に状況を確認する。


「高度を保ったままですが、間もなく針路が交差します」


双眼鏡から目を離さずに見張り員が報告したが、次の瞬間、見張り員は双眼鏡から目を離し呟いた。


「クソ!」


そして、次に自らがすべきことをする。


「何か投下した!各機1つずつ、数は4!」

「取舵一杯!最大戦速!」


加速用のDT-59ガスタービンエンジンも起動し、轟音を響かせる。

それはまさに、乗員全員の「躱せ!」という祈りの音であった。

先日お知らせしたとおり、今週は更新が不定期となります。

次回は木曜日か金曜日になると思いますので、ご了承ください。

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