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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
39/201

不気味な死神

新世界暦1年2月17日 メキシコ合衆国 テルミノス湖上空


空軍のF-15CとF-16Cから発射された大量のAIM-120が、ほとんど煙を引かずに飛翔していく。

空対空ミサイル(AAM)が大量の白い煙を残して飛翔していく、などというのはゲームの中だけの話である。

今も昔も「見つからない方が圧倒的に有利」というのは変わっていないし、それ故にステルスだのなんだのと処置しているのに、発射するミサイルが盛大に煙を吐き出していては本末転倒である。


故に多少の推力低下や射程短縮には目を瞑ってでも無煙ロケットモーターが採用されているのである。


「当たってはいるのか」

『直撃なら障壁に関係なく落ちるみたいだな』


F-35B(海兵隊)から中継された映像を見たF-15C(空軍)パイロットの独り言に、目ざとく反応するF-35Bパイロット。


「事前情報だと短時間でのマルチヒットでないと障壁に阻まれると言う話だったが・・・」

『まぁ、それも旧式のソ連製ミサイルでのデータだしな。直撃弾が無かったんじゃないか?』

「そうは言うが、全弾命中の割には結構残ってるぞ」


映像で見る限り、外れたものは無いようだ。

相手はレーダー警戒警報装置も何も持たないのだから、七面鳥撃ち(ターキーハント)みたいなものである。


「結局格闘戦か」

F-15C(ロートル)には荷が重いか?』

「ほざけ」


確かに一部に残るアナログ計器やFBW(フライバイワイア)でもない正面操縦桿など、古さを感じさせる部分は多々あるが、度重なる改修によって、大型の多機能ディスプレイ(MFD)、セントラルコンピューターやミッションコンピューターの換装、ヘッド(H)マウント(M)ディスプレイ(D)への対応など、一線級と言える能力は維持している。

一線級でないのは残りの飛行時間とステルス性程度である。


『ま、無理しない程度に頑張んな』


その言葉で通信は途切れた。

この機体で一線級でない、と言えるものはもう1つ。

パイロットである。


F-15Cは全てが州軍に移管されており、徐々に退役しつつある。

F-22は数が足りず、F-35の調達も間に合わないので、F-15CXを調達して穴を埋めてはいたが、ロシアに対するスクランブルが日常的に発生するアラスカ空軍州兵ならともかく、訓練以外はすることが無い、というのも確かである。

それ以前に、普段はエアライン(民間)で定期便を飛ばしている、というパートタイムみたいなのもいる予備部隊、というのが本来の姿である。いつの間にか海外派遣までされるようになってしまってはいたが。


世界が不安定化している中で、海外展開している部隊を呼び戻すというのは一部の国(ロシアや中国)に誤ったメッセージを与える、ということで(本土防衛が本来任務なのもあり)引っ張り出されたのである。


「ブリーフィングの通り、高度を取って一撃離脱で仕掛けるぞ!」


特に示し合わせたわけではないのだが、速度と上昇能力に劣る相手への対処、ということで空自がアズガルド神聖帝国にとったのと全く同じ戦術を米空軍も選択したのだった。





新世界暦1年2月17日 メキシコ合衆国エスカルセガ上空 神聖タスマン教国第2航空艦隊第1突撃隊旗艦「クアトロ」


「今度はなんだ!」


発進した小型艇が次々と爆発し、魔力障壁に関係なく撃墜されていた。


「ウーノ飛行隊6機、ドゥーエ飛行隊7機、トゥアー飛行隊5機、クアトロ飛行隊9機、被撃墜」


相変わらず敵の姿は影も形もない。


「司教、ここは一度後退するべきでは?」

「バカを言うな。敵の姿も確認できていないのだぞ!」


ここでその決断が出来ていれば、彼らの運命はまた違ったものになっただろう。

だが、聖女に敵状偵察を求められて出撃してきた、という制約が彼らの判断を曇らせた。


「撃墜された飛行艇の位置と、ウーノが集中攻撃を受けたことからして、敵が正面にいることは確かなんだ!戦闘艇を突撃させろ!」


司教がそう叫んだのと、ヴヴヴヴヴ、という独特の音が響いたのは同時であった。

目の前を飛行していた戦闘艇が、展開した障壁の意味も無く爆発し、墜ちていく。


続いて、爆音と炎を引きながら通過する飛行物体。


それをブリッジにいる全員が茫然と見送る。

周囲を見遣れば、同じように次々と戦闘艇が餌食になり、撃墜されていた。


「敵だ!敵がいたぞ!何をしている!対空銃座!射撃しろ!」


司教のその言葉で、司祭は慌てて艦内連絡用の魔信に対空戦闘を下令する。

飛行艇母艦の対空銃座が射撃を始めたものの、レーダー照準はおろか、射撃管制すらされていない各銃座の個別照準では当たるはずも無く、ただの威嚇にしかなっていない。


「戦闘艇、全滅!」


無慈悲な報告がブリッジに響き渡る。


「まだだ!確かに敵は速いし強いが、敵の攻撃は火力が低い!我が国が誇る飛行艇母艦はこの程度では沈ま(墜ち)ん!慌てずに落ち着いて転進!補給に戻る!」


撤退という言葉は使わなかったが、実質的な敗走である。

もっとも、戦闘艇とその乗員について、司教も司祭も、砲弾程度にしか思っていないことも事実だったが。


とはいえ、空対空装備の米軍機部隊は、全長300メートルに迫る飛行艇母艦に対し、AIM-120ではなんら有効打を与えられておらず、接近戦に移行したあとも飛行艇母艦には攻撃を加えていなかった。

彼らが、敵には飛行艇母艦を墜とす火力は無い、と判断したのも無理からぬことであった。


しかし、米軍が何の策も講じていないはずがなく、彼らが後退を拒んだその時間の間に、足の遅い死神は上空へと到達したのである。





新世界暦1年2月17日 メキシコ合衆国エスカルセガ上空 神聖タスマン教国第2航空艦隊第1突撃隊の更に上


空対空戦闘が行われている空域には不釣り合いな丸っこいプロペラ4発機が飛行していた。


AC-130U スプーキー


文字通り、地上に恐怖をばら撒く、ガンシップである。


その機体左側に設けられたセンサーターレットの赤外線カメラは、下を飛行する飛行船のような大型飛行物体を捉えていた。

周囲を飛んでいたF-15やF-16に盛んに対空機銃を撃っていたようだが、連射性能も低く、全く当たっていなかったうえに、その射程も短いようで、AC-130の脅威にはならなかった。


そもそも、敵はこちらに気付いていないようである。


バンシー(E-3)よりワイルドファイア(AC-130)、味方機の退避を確認。攻撃開始(Open fire)繰り返す(say again)攻撃開始(Open fire)


攻撃開始の合図とともに、機体左側に装備された全ての火器、GAU-12 25mmガトリング砲、ボフォース40mm機関砲、M102 105mm榴弾砲が一斉に火を吹く。

上空から下に向けて撃ち下ろされるそれらの砲は、凄まじい勢いで連射され、その全てが飛行艇母艦に吸い込まれていく。


誘導装置のない単純な火砲を使用する関係上、撃ち下ろしだからほぼ狙った通りに飛ぶとはいえ攻撃精度は精密誘導兵器に劣る。

だが、それは比べる相手が悪いのであって、通常の火砲では有り得ない精度で砲爆撃を喰らわせることができる。


いくら相手が動いているとは言っても、目標が全長300メートルもあれば、どこかには当たるのである。

射撃開始から10秒とかからずに1隻目が炎に包まれ、地面に叩きつけられて大きな火柱を上げた。


よくやった(Nice Kill)!』


このまま攻撃すれば、あっという間に4隻とも沈められそうだが、残念なことにAC-130の受け持ちは1隻だけだった。

今後のために、多彩な攻撃手段を試す必要があるためである。


とりあえず、確実に有効であることがわかったAC-130は、殺り損ねがでないように観測しながら上空待機に移行するのだった。





新世界暦1年2月17日 メキシコ合衆国エスカルセガ上空 神聖タスマン教国第2航空艦隊第1突撃隊旗艦「クアトロ」


「な、なにが・・・!?」

「あ、ああぁ」


神聖タスマン教国の力の象徴である飛行艇母艦が、一瞬のうちに炎に包まれて地面に叩きつけらる様を目撃したブリッジは、恐慌状態を通り越して、茫然自失となっていた。


「飛行艇母艦ドゥーエ、轟沈・・・」


見張り員は絞り出すようにそれだけ口にした。


飛行艇母艦の戦闘での喪失は初めての事態である。

それはつまるところ、指揮官のキャリアはここで終わったということだったが、それよりも大きな問題が発生していることに司教は体の震えが止まらない。


「敵は偶然でもなんでもなく、魔力障壁を突破できるのか」


歩行戦車に甚大な被害が出た時点でわかっていたことではあったが、どのような貫通術式の魔導砲をも無力化可能な魔力障壁を、敵は易々と貫通できる。

そのことがもたらす意味は、深刻であった。


車体の装甲もかなり分厚くされている歩行戦車と異なり、空を飛ぶ飛行艇母艦は軽くする必要から本体の装甲は大したことはない。というよりも、装甲と言えるようなものはない。

その分、出力の大きな魔力障壁を積むことで、敵の攻撃を防いでいたのである。

その魔力障壁が無意味、となれば大きい飛行艇母艦はただの目立つ的でしかない。


「撤退!撤退だ!なんとしても情報を本国に持ち帰るのだ!」


司教は帰れば間違いなく再教育キャンプ行だとわかっていたが、それでも情報を持ち帰る方を選んだ。

コネと持っている情報を使えば、返り咲きは無理でも再教育キャンプ行は免れられるという打算が無かったわけではないが、聖者タスマンの教え、などと愚民を使うための方便としか思っていない彼は、一方で愛国者でもあった。


「飛行物体接近!」


しかし、そんな彼の決意は、飛来した1発のAGM-84K SLAM-ERによって炎の中に消えたのだった。

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