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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
38/201

空対空

新世界暦1年2月17日 アメリカ合衆国バージニア州アーリントン郡 国防総省


わずか1時間ちょっとの戦闘で10名を超える戦死者が出たことについて、連邦議会は紛糾していた。

根本的には大統領への全権委任を拒み、米軍の動きを制約した議会のせい、というのが現場(制服)の感想だったが、議会は責任逃れに余念が無い。


とはいえ、ここぞとばかりに強硬派は全権委任を拒んでいた議員たちを攻撃していたし、攻撃された議員たちは現場の米軍が敵を刺激したせいではないかと反論し、世論と現場の不興を買っていた。


「先日の戦闘は残念だったが、我々の仕事は敵に勝つことだ。同じ過ちを二度は繰り返さない。そのことを肝に銘じてくれ」


参謀長の言葉に部屋にいる全員が頷く。

そんな議会や世論の喧騒はともかくとして、彼らは勝つ段取りをするのが仕事である。


「間もなくGPS衛星の打ち上げが始まります。通信衛星の数が足りていないので、常時は無理ですが、間もなく時間帯によっては無人機の無制限運用も可能になります」


ようやくか、といった空気が室内に流れ、俄かに騒がしくなる。


「GPS衛星を稼働させる、ということは経度0度をどこにするか決まったのか?」


素朴な疑問を誰かが口にする。


「中国が北京でごり押ししていたが、中国が支持を当て込んでいた国にまで反発されていろいろ大揉めらしいが、”従来通り旧グリニッジ天文台を0度でいいじゃないか”というイギリスの主張に我が国は乗っかることにしたらしい」


異世界になっても子午線の基準はかわらねぇんだよ、という実にイギリスらしい主張だが、明石の線を主張しようとした日本も旧グリニッジ天文台を子午線にしてもさして差が無いことに気付いて乗っかったので、多島海の国々は旧グリニッジ天文台基準を支持に回った国が多かった。

で、とにかく早く決めたいアメリカも(傲慢だとは思っても)反論が特に思いつかないので乗っかることにしたのである。

いずれにしても気に食わないが、北京よりはマシだとロシアも旧グリニッジ天文台支持にまわるとの話が囁かれていたので、このまま決まりそうである。


「歴史的経緯なんて世界が変わったのだから存在しない、と中国は主張しているようですが、GPSを稼働させてしまえばこっちのものです」


なんだかんだいってもロケットの打ち上げ能力はアメリカがぶっちぎりで大きい。

スピードでは勝負にならない。


「とはいえ、無人機が使えるようになっただけで勝てるわけではない」

「大統領への全権委任の成立は時間の問題だ。大統領からは全権委任が成立するまでは積極的行動は控えるように、との指示があった」


溜息が部屋に満ちる。


「メキシコシティまで完全に下がりますか」

「機甲旅団戦闘団を後詰に、大統領権限だけで海兵隊戦車大隊を先鋒にして押し出せば」

「どのみち全権委任は成立するんだ。今無理をする必要は無い」


先日の偵察騎兵中隊の遭遇戦以降は戦闘は発生していない。

地上偵察のラインを下げたのも原因だが、救援に駆け付けた機動砲中隊が奮戦した結果、敵も一時的に戦線を下げたためである。

その後、敵の航空戦力が来なかったため、航空戦は発生せず、救援に駆け付けたF/A-18FがLJDAMをばら撒いたのも効いたと思われる。


議会を大統領に全権委任するまではメキシコシティを絶対防衛線とし、それより前の地上偵察はSOCOMのみにする、ということでまとまりかけた時、部屋に飛び込んできた者がいた。


「敵航空部隊が侵攻を開始しました!アラート待機中の空軍、海軍機は全てスクランブルします!」





新世界暦1年2月17日 メキシコ合衆国エスカルセガ上空


地上に撃破された双方の戦闘機械の残骸が散乱するのを尻目に、上空を4隻の大型飛行艇が進む。


神聖タスマン教国第2航空艦隊第1突撃隊


その名を聞いただけで周辺国は震えあがる、神聖タスマン教国の先鋒部隊である。


「ふむ、我らが栄光ある戦車大隊が無残な敗北などとは、どこのバカ(不信心者)の戯言かと思っていましたが」

「残念ながら事実のようですね」


艦隊司令の司教と艦長の司祭は無感動に地上を見下ろしている。


「敵も撤退したのか?」

「こちらのほうが数が多かったようですから、敵は最初から逃げ腰だったようです」

「逃げ腰の相手にこちらも逃げ出したのか。指揮官はよほどの間抜けだったのか?」

「第24戦車大隊です」

「ああ、たしか保身しか考えないバカか」


逃げ腰で数も少ない敵に18輌も歩行戦車を撃破され、逃げ出した大隊指揮官を酷評する2人。


「まあ、再教育キャンプ行が決まりましたから、帰ってこられればまともな指揮官になっているでしょう」

「帰ってこられた奴を知らんな」

「そういうものですから」


くくくと声を殺して嗤う2人をブリッジの他の乗員は見て見ぬ振りをしていた。

聖女の信頼も篤い2人であり、指揮官としても優秀である。

なぜか教国の暗部にも精通している2人、というのがブリッジ要員の共通認識であり、触らぬ神に祟りなし、というのはどこの国でも同じである。


と、突然、先頭を進んでいた1隻の魔力障壁(バリア)が作動し、多数の爆発が起こった。


「何事だ!」


全長300m近い大型飛行艇の魔導炉は巨大であり、それだけ魔力障壁は強力だし、1度の展開時間も(充填が終わっていれば)長い。


「わかりませんが、先頭のウーノが攻撃を受けたようです。魔力障壁で本体への被害はないとのこと」

「ウーノの魔力障壁展開可能時間経過しました、魔力障壁消失します」


魔力障壁の欠点は、一度展開すると充填された魔力を消費しきるまで解除できないことである。

つまり、満充填の状態で1発だけ攻撃を受けても、10秒間障壁は展開しっ放しで、11秒後に攻撃を受ければ充填も間に合わないので被弾するということである。


「ウーノへの攻撃止みません!」


障壁を展開できなくなったウーノに次々と飛んできた何かが刺さり爆発している。


「ええい!どこから攻撃を受けているのだ!」

「わかりません!敵の姿は全く見えないとのことです!」


威力自体は大したことないらしく、損害は受けているものの作戦続行に支障は無さそうである。


「とはいえ、攻撃を受け続ければいつか致命的な損害を受けかねん!戦闘艇を発進させろ!」


小型飛行艇を発進させて索敵と攻撃を行わせるべく、指示を出す。

艦首に当たる部分の発進口が開き、艦内が慌ただしくなるのを横目に、敵のほうが射程が長いという点に司教は一抹の不安を感じた。





新世界暦1年2月17日 メキシコ合衆国 テルミノス湖上空


「あれだけ当てても飛んでるのか。ほんとに当たってるんだよな?」

『中継してるんだから映像はそっちでも見られるだろうが』

「生憎と複座(F)じゃなくて単座(E)なんでね。そんな暇ねぇよ」


敵の大型飛行母艦の上空からEOTSの映像を飛ばしているF-35Bに悪態をつく。


『編隊長が攻撃効果を判断するために映像を中継する必要がある、って俺は聞いたがね』

「自分も空対空戦闘(AMRAAM攻撃)しながら編隊とウイングマンに指示出して、あげくに映像見て効果判定するってスーパーマンかなんかか」


F/A-18Eを8機も率いて空対空戦闘を行っているのである。

機械が進歩しても人間ができることには限界がある。


『あー、そっすねー、大変すねー』

「ぶっ殺すぞクソ野郎」


一方のF-35は莫大な予算の大半がソフトウェア開発に消えただけのことはあり、ありとあらゆることを1人でこなせるよう、ミッションコンピューターが多彩に補佐してくれる。

F/A-18E/Fもブロック3でF-35のような大型カラーディスプレイに換装されてはいたものの、所詮は後付け、F-35ほどに高度なセンサーフュージョンや戦闘AIが実現できているわけではない。


バンシー(E-3)より各機、お喋りの時間は終わりだ。敵が小型機を出してきた。敵の上昇限界高度は低いと見られているが油断するな』

『『『『「了解」』』』』


とはいえ、AIM-120はデカブツに向けて撃ちきったので2発だけ翼端に残ったAIM-9Xと20mmバルカンが武装の全てである。


「というか空軍は何してる?なんで海軍と海兵隊だけなんだよ!」


デカブツにAIM-120をご馳走したのはここのF/A-18E以外には、4機のF/A-18Fと6機の海兵隊F-35B。

それは勿論、空母や強襲揚陸艦から飛んできたから到着が早かったためである。


『待たせたな!』

「うるせーよ!」


空軍のF-15CとF-16Cが合流してきたので数も十分。


AMRAAM(AIM-120)ないし帰ってもいい?」

『ふざけんな』


基本的に圧倒的空軍力(エアパワー)で敵機は飛ぶ前に叩くという戦闘を実戦では徹底してきたので、空対空戦闘の実戦経験は誰も無い。

それでもどこか演習中のような雰囲気が漂うのは、必殺野郎(SLAMMER)の愛称を持つAIM-120が有視界外の距離からでも確実に命中するせいである。


『敵はより取り見取り、全部落として帰ればみんなエースだ!』

『タリホー!』


ミサイル満載の空軍機は一斉にAIM-120を斉射したのだった。

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