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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
37/201

ダメ人間量産

いつも読んでいただきありがとうございます。

密かに目標にしていた総合評価2000ptを突破しました。

皆様の応援に感謝しつつ、今の更新ペースを守れるよう前向きに頑張りたいと思います(弱気

そして、米軍の戦闘を期待した皆さま、申し訳ございません。今回は戦闘なしでございます。次回にご期待ください。

新世界暦1年2月16日 日本国東京都小笠原支庁ユグドラシル村世界樹島 独立行政法人世界樹島管理機構本部


「うーん、うちらの世界はねー、なんでかしらないけど航海術っていうのがないんだよねー」


人をダメにするソファでぐでーっとしながら漫画を読んでいるウルズは、声までぐでーっとして言った。

どうやらエルフでもあのソファはダメにするようである。もともとダメな奴だった気もするが些細なことである。


「だから陸地が見えなくなるような海を挟んでる大陸間とか島嶼間では交流が全くないんだよねー」


うちらは誰も来ないから助かってたけど、と付け足すとそれまで以上にウルズはぐでーっとソファに突っ伏した。


「つまり、中米で連中が海に出ないのは」

「陸地が見えなくなると遭難しちゃうからだねー」


羅針盤はともかく、天測くらいはどこの世界でも考えそうな気がするけどなぁ、と北条は考えたが、ウルズがないと言っているのだからないのだろう。


「まあ、大陸がデカくてその中で延々殺し合いしてる連中がほとんどだから、外に出る余裕がないんだろうねー」


昔は冒険心持って海にでる人もいたんだけどねー、そういう人がいたからこの島のエルフは人間との混血なんだけど、と付け足した。

大陸の覇者が海に憧れる、なんて話は地球ではいくらでもあったが、ウルズたちの世界ではないのかなぁと思った北条だが、そもそも覇者と言えるほどのものが大陸にいなかったということだろうか、と思い直した。


「あのバリアみたいなのってなんなんです?」

「バリアだよー」


どういう条件で発動して、どの程度の攻撃を防げるのか知りたいんだよ!と北条はキレかけたが、最近、ウルズは子供だと思うことにして接していればそうそうキレないということに気付き、実践していた。


「発動条件とか強度を知りたいんですが」

「発動条件は設定された距離に、自分の”ほう”に飛んでくる攻撃が来れば発動するよ」


随分とふわっとした条件だな、と北条は思ったがそれよりも問題が


「それって、本体をかすめるような攻撃でも」

「発動するよー」

「どんな攻撃でも?」

「発動するよー」

「例えば投石でも?」

「発動するよー」


思ったよりいい加減だな。というのが感想だった。


「あと、感知してから発動まで短いけどラグがあるから、弾速が速いと」

「障壁発動前に本体に命中する」


そうそう、とダメになっているエルフは続ける。


「基本的には溜めた魔力を全方位に一気に放出してるから、連続発動はできないよ」

「2秒程度で再発動している映像もありますが」

「フルチャージでなければ発動できないわけじゃないから、やろうと思えば1秒ごとでも発動は出来るよー。下手したら投石も防げないだろうけど」


なるほど、充放電と似たようなものか、と北条は理解した。


「それで防げるのは?」

「フルチャージ基準で言うとあのクモみたいなやつ(歩行戦車)だと・・・うーん、厚さ50ミリの鉄板くらい?」

「思ったより薄いですね」

「まぁ魔導弾相手だと貫通力が鉄板500ミリの貫通弾でも相殺しちゃうんだけどねー」


なんでうちの世界の連中は魔法とか魔力に拘るんだろうね?とウルズは首を傾げていた。

それに関しては石油に拘るうちの世界も大概かなぁ、と言う気がしないでもないので北条は黙って面白いようにダメになっているエルフを眺めるのだった。





新世界暦1年2月16日 日本国東京都小笠原支庁ユグドラシル村世界樹島 市街地


旧王城、現独立行政法人世界樹島管理機構本部の周囲に広がる市街地が、この島で唯一の一般人が住む市街地である。

もっとも、一般人といっても、従来から住んでいたハーフエルフたち以外の居住は認められていないので、美男美女しかおらず、そこを散歩していた武田は嫉妬で悶えることになったのだが。


ちなみに、一般人以外が住んでいる(?)区画として、島の南端に空自がレーダーサイトを、西端に陸自が沿岸監視部隊の駐屯地を建設中である。


「しかし、こいつら・・・」


この島は雨が降らない、と言えば語弊があるが、島全部が巨大な世界樹の木陰なので、雨は全て世界樹の葉が集めてしまい、それが流れ落ちているのが幹から流れ落ちている滝らしい。

あんなに枝が高かったらその下に雲ができるだろ?とか思ったが、ウルズ曰く


「できないんだから降らない」


とのことで、日中は結構皆屋外に出ている。

もっとも、仕事をしているわけでもなく、元々は皆だらだらとくっちゃべったり酒を飲んだり、カードで遊んだり。

要するにニート率100%である。


そして、そこにウルズが持ち込んだのが人をダメにするソファである。

元々ダメな奴らがそこでますますダメになって、ゲームをしたり本を読んでいた。


「別にこいつらを養うのにコストがほぼかからないからいいのか・・・?」


この島の特性を思い出し、別にこいつらがここで生活している限り大した費用は必要ないか、と容認することにした。

その大したことない費用も、年数日働いて農産物を日本に出荷すれば賄えるのである。


そもそも日本政府は、ウルズを維持するための必要経費、くらいにしか思っていないので、ハーフエルフたちのニートっぷりには見て見ぬ振りであった。

映像を見せればそれだけで敵の詳細な情報を教えてくれるし、対処法までわかるのである。

政敵のスキャンダルまで思いのまま、となれば本人も望んでいるし維持コストも安いのだから、この島ごと世界から隔離してしまおう、と為政者は思うだろう。


武田は旧王城のほうに目を遣る。

今は北条が、アメリカから送られてきた映像をウルズに見せているはずである。

そんな映像をアメリカが送ってきたのも驚きだったが、その目的が見えずに外務省内は混乱した。

ウルズによると、将来的な国連軍組織のために参戦する(させる)国に事前情報として配っているらしいので、別にアメリカにウルズの便利さが漏れたわけではないようだ。


というか、そんな便利な偵察装置があると分かれば、アメリカは間違いなく自分の手中に収めようとしていただろう。

情報を官房長官と外務次官、それに北条と武田だけで止めた首相の作戦勝ちである。


「後から揉めなきゃいいけど」


ぼそっと呟いて武田は散歩を再開したのだった。





新世界暦1年2月16日 インド ニューデリー


高級ホテルを会場にした印露首脳会談は、表向きは転移後の二国間の軍事協力や経済協力を再確認する、という名目で開かれていたが、実際に話し合われた内容は異なっていた。

新大陸での影響力を急速に拡大する中国に対抗するための二国間協議。


2か月たたずに一気にことを進められるのは独裁国家の特権であり、曲がりなりにも民主主義を標榜するロシアと世界最大の民主主義国家であるインドは、国内手続きの点で後手後手に回らざるを得ない。

そこで二国で挟んで中国に圧力をかけようと言うのが目的であるが、やはり後手である感は否めない。

そもそも海上では、バカげた予算を海軍に突っ込んでいる中国には二国足して勝負になるかどうか、という状態。


であれば陸で圧力をかけるしかないが、そうなると最早全面戦争の危険が出てくるので、それはそれで非常にまずい。

というか、良識の有る為政者なら、よほどのことが無い限り普通は避ける。

どう考えても独ソ戦よりもひどい結果になる未来しか見えない。


「結局、決まったのは海軍による合同演習と戦闘機の共同開発の推進だけ。目新しさに欠けるな」


やれやれと、会談結果の報告を見た参謀長は紅茶を口に運んだ。


「とはいえ、新大陸とユーラシア大陸の間、中国船が行き来する海域での大規模な海軍演習となると、中国も黙って見ているとは思えません」

「パキスタンが中国に更に接近する危険もあります。諸刃の剣でしょう」

「とはいえ、このまま中国の力が増すのを黙って見ているわけにはいくまい。今回に関してはアメリカは自国のほうで手いっぱいであてにならない」


インド軍というのは変わった軍隊で、宗主国だったイギリスとの関係も勿論あり、その伝手で一部西側の武器を導入している一方、近年はロシアからも大量の武器を買い込んでおり、調達計画の混乱もあり、さながら武器の見本市のようになっている。

とはいえ、人口に後押しされて数の上では地球上でアメリカと並び数少ない中国と張り合える国である。

問題は、装備の質で年々中国に差をつけられていることだが、こればかりは予算や経済規模の問題もあるので、どうしようもない。


「アメリカが押されている、というのも信じ難いがな」

「陸路が交通渋滞に巻き込まれて兵站に問題が出ているせいで、メキシコシティから先に大規模には戦線を押し出せないと聞いたが」

「というか、こっちも多国籍軍を組織できんものかね」

「新大陸が国連加盟国だったらな」

「言語も通じないでは、国連に入れてしまうこともできん」


中米に侵攻した不明国への対応は、安保理で多国籍軍が組織される流れになっていたが、新大陸については「被害国がない」状態なので、安保理では議題に上っていなかった。


「というか、不思議なんだが」


素朴な疑問が浮かんだ1人が発言する。


「中国はどうやって向こうの国と交渉したんだ?」


労働力が欲しいというから労働者を送ったら、向こうの国で弾圧されたので”仕方なく”反撃した、というのが中国の発表だったが、これが全てウソでないなら、中国は向こうの国と意思疎通ができたことになる。

そういえばどうやったんだ?という空気が室内に満ちる。


「早急にあらゆる手を使って調べろ!」


ロシアも同じことに気付くのはほぼ同時であった。





新世界暦1年2月17日 旧ダスマン連合首長国ザラーン首長国 現中華人民共和国达斯男人(ダスマン)自治区


「しかし、これ、便利ですねぇ」


元々ザラーン首長の玉座だった椅子に座り、交信の宝玉に触っているのは駐ザラーン首長国中国大使改め、中国共産党から自治区主席として派遣された男。

部屋にいるのは人民解放軍から派遣された「行政官」たちである。


「市街地での叛乱は全て鎮圧しました」

「首謀者たちは略式裁判で死刑、参加した反動分子は収容所に送り、労働教化を行います」


早い話が最終的には全員殺すということである。


「農業が発達していた土地のようですし、早いところ農業生産を軌道に乗せたいですね。12億の胃袋をアメリカに頼っていては本末転倒ですから」


主席の言葉に、皆黙って頷くのだった。

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